PR TIMESが「リリースAI受信」で狙うメディアの働き方改革──情報伝達を最適化すれば社会が変わる

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みなさんが普段メディアで目にする情報は、主に記者やライター、編集者といったメディアの中の人が執筆しています。記者・編集者が情報を得る方法のひとつとして、企業がメールやFAX、PR TIMESなどで発信するプレスリリースがあります。

プレスリリース
企業や団体からの、報道機関に向けた情報発信のこと。メールやFAX、PR TIMESなどの配信サービスで配信する事が多い。

しかし、このプレスリリース、発信される量が尋常ではありません。発信されるプレスリリースの量はPR TIMESだけでも月間1万本以上(2018年3月時点)もあるといいます。これだけ多いと情報の取捨選択だけでも大変ですよね。

2018年3月にPR TIMESから発表された「リリースAI受信」は、そんなメディアの“情報受信及び仕分け”の作業を根本からなくし、働き方を大きく変える可能性を秘めています。詳しい話を株式会社PR TIMESのお二人に聞いてきました。

三島 映拓氏

株式会社PR TIMES 取締役 経営企画本部長 

山田 和広氏

株式会社PR TIMES サービス開発本部 リードエンジニア

リリースAI受信の学習の仕組み

――さっそくですが「リリースAI受信」とはどんなサービスかお聞きしてもいいですか?

――三島
「リリースAI受信は、プレスリリースの受信をAIを使って最適化するサービスです。具体的には、AIで各記者のプレスリリース閲覧行動をディープラーニングで学習し、最適なプレスリリースを配信していきます。」

実際に使ってみたのですが、使い方(メディア向け)としては以下の通り。

  • メディア向け管理画面でリリースAI受信を選択
  • 興味があるトピックを設定
  • 受信するプレスリリースの量を設定
  • ボタンで「気になる」「スルー」で興味のある無しを示すアクションをおこなう

受信側の設定は、たったこれだけ。記事との「マッチ度」を%で表して表示してくれます。

――Ledge.aiでも数多くのリリースを受信しますが、すべてに目を通すのはやはり大変です。

――三島
「そうですよね。もともと『ハイライト』という形でレコメンド機能はありました。ただ、この会社のリリースを何回、何秒見たから、同じ会社のリリースには興味あるだろう、というような“事実”を組み合わせた手法だけだったんです。」

――山田
「ただ、それだと本当に興味のある情報を見逃してしまうんですよね。ディープラーニングを使えば、企業のデータ、プレスリリース自体のデータなど、さまざまなデータを組み合わせ未来の傾向を予測できます。」

山田さんによると、以下のような流れで学習をおこなっているそう。

①リリースの意味と企業形態を数値化

個別のプレスリリース及び配信企業データを行列化し、リリースの意味と企業形態を数値化。

■使用データ

  • 個別プレスリリースのデータ
    種類、ビジネスカテゴリ、キーワード、メイン画像

  • リリース配信企業のデータ
    業種、企業カテゴリ、ビジネスカテゴリ

②各メディアの閲覧データを行列化

過去6ヶ月分の閲覧履歴データ(閲覧時間・閲覧パーセンテージ)を、各メディア会員が閲覧したすべてのプレスリリースに対して割り振り、ポイントを10点満点で作成し行列化。

■使用データ

  • 閲覧履歴データ
    閲覧時間、読了率、「スルー」「気になる」などのアクション

③1と2をかけ合わせて学習データを作成

1と2を掛け合わせ、ディープラーニングで全メディア会員分の学習データを作成。かつデータは毎日4回(0時、6時、12時、18時)更新。

④各メディアへ最適化

3で作成した学習データを使い、各メディア会員の管理画面内でレコメンド。プレスリリースは速報性も重要視されるため、 配信日が古くなるほど得点は低くなるように調整。

加えて、画像解析ツールで添付画像の持つ意味を解析し、レコメンドデータに組み込んでいるそう。かつ毎日4回アップデートし、記者の本質的な興味を引き出すといいます。


画像解析により何が写っているか認識。「前髪」や「広告関係」なども認識しています。
――山田
「現在はβ版なので、いろいろな記者の方からフィードバックを受け、精度を上げている段階です。将来的には記者のパーソナルアシスタントとして活躍するくらいまでにしたいですね。」

企業情報、プレスリリース情報、各記者の閲覧情報と、これだけの学習データが……!しかも1日4回のデータ更新ということで、AIで課題となる継続学習もおこない、精度の継続性もありそうですね。

AI活用の目的はパーソナライゼーションと潜在的な情報ニーズ

――リリースAI受信、メディアの働き方を大きく変革するポテンシャルのあるサービスだと思うのですが、どのような課題感から作られたサービスなんでしょうか?

――三島
「ひとつに、現代ではデータ流通量が爆発的に増えすぎて、人手で処理することが難しくなっていることです。プレスリリースだけでも1ヶ月に配信される本数は1万本以上あり、たとえばスタートアップが有益なサービスのリリースを配信してもすぐに見つけ難くなってしまいます。」

いいサービスも、拡散され、広く知られなければ使われません。スタートアップがPRに苦しんでいるという話もよく聞くので、情報伝達の部分をメディアの好みに合わせてパーソナライズしていくのは理にかなっています。toCのニュースアプリでも同様の流れはありますよね。

――三島
「記者が気づいていない、潜在的な情報ニーズもAIによって掘り起こせます。まったく予想もしなかった角度からのプレスリリースを見て、『これはおもしろい!』という気づきを誘発したいという理由もありますね。」

プレスリリースにざっと目を通していると、たまに「この企業がこんな取り組みやるの?!」というものを見つけたりして、そういう意外性のあるものがメディアには刺さったりします。

企業からすれば、ノーマークのメディアから問い合わせが来たりすると、いつもと違うターゲットにリーチできるためマーケットが広がります。間接的ではありますが、広報担当の動き方も変わるかもしれませんね。

情報が伝わる環境を作り「行動する人」を増やす

――リリースAI受信の今後の展開をお聞きしたいです。

――山田
「メールの開封率や、文章の形態素解析など、学習データをどんどん拡張していきたいですね。特定のリリースが多い時期などを予測する『リリース予報』のような機能も追加していきたいと思っています。」
――三島
「一方でプロダクトの課題は山積しています。AIが各記者の好みを学習するのに一定の時間が必要なのですが、ある程度自分たちのメディアの記事を学習させておいたAIを使いたい、という声もいただいたりしています。」

自分のメディアの傾向分析に沿ってレコメンドしてくれたら、それこそ専属のパーソナルアシスタントになるはず。そのほかにも、ユーザーの位置情報や身辺状況などのコンテクストも加味した配信も計画中だとか。施策の数がすごいです。

――三島
「PR TIMESは、2017年から『行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ』というミッションを策定しました。これは情報が人々に行き渡りやすくなることで、発信すれば伝わる環境を作る。そうすることで、伝わるのであれば行動してみよう、と思ってくれる人を増やすということです。

リリースAI受信は、そのミッションを達成するための一環としての位置づけですね。」

情報を発信してもすぐに埋もれてしまえば、発信する気持ちが萎えてしまいます。AIを使うことで、情報伝達を最適化できれば、社会はもっとよくなる。メディアの働き方を変えるということがゴールなのだと思っていましたが、はるかに壮大なスケールを目指しているんですね……!

長時間労働など、メディアの働き方が何かと話題になる昨今。情報を発信する側が効率的に働ければ、その分有益な情報を発信でき、その情報でより心を揺さぶられる人が増え、行動を誘発するという良い循環ができます。リリースAI受信がその起点になればいいなと思った取材でした。

三島さん山田さん、お忙しい中ありがとうございました!