「日系大企業がSDGsへ取り組む余裕を生み出す」元DeepMindの機械学習エンジニアが日本で起業するワケ

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Google DeepMindで機械学習のシニアリサーチエンジニアとして勤務し、その後日本でAI-OCRなどを提供するCogent Labsでもリードリサーチサイエンティストを務めた人材が、日本で独立起業した。

Google DeepMindは、人間のプロ囲碁棋士をハンディキャップなしで破った初のコンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo」を生み出したことでも有名だ。そんな企業出身の人材が、日本で起業する理由は何なのか。

起業の経緯や新会社のビジョンを、株式会社Recursive 代表取締役CEOのティアゴ・ラマルさんと、共同創業者兼COOの山田勝俊さんに聞いた。


ティアゴ・ラマル Co-founder CEO
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンにて、理論/数理物理学修士号、生物物理学博士号を取得。卒業後、Google DeepMindに入社。シニアリサーチエンジニアとして、強化学習、予測モデル、自己管理型学習など、最先端プロジェクトに従事しNatureなどの国際雑誌に多数の論文を発表。その後、多国籍AIスタートアップ、コージェ ントラボにリードリサーチサイエンティストとして入社し、来日。情報検索&質問回答、デザイン生成モデル、OCR、NLP等、様々なプロジェクトを推進。2020年8月、株式会社Recursiveを共同創業し代表取締役に就任。


山田勝俊 Co-founder COO
ディーキン大学経営大学院卒業後、日系、外資のIT業界での勤務経験を経てエシカルファッションの日本市場立ち上げと2社の起業を経験。その後、多国籍AIスタートアップ、コージェントラボでセールスディレクターとしてAI-OCR「Tegaki」の営業と、アライアンスを担当。2018年度からAI活用コンサルティング及びに新規事業開発支援を行う株式会社コルノバムを創業し、主に大企業向けにAIプロジェクトを推進。 2020年8月、株式会社Recursiveを共同創業。

大企業が変われば、より大きな問題を解決できる

共同創業者のひとりでありCEOのラマルさんは来日前、Google DeepMindで機械学習のシニアリサーチエンジニアとして勤務し、来日後はAI企業のCogent Labsでリードリサーチサイエンティストとして勤務してきた人物。

そんな人物が日本で起業する理由とは。

――ラマル
「Recursiveでは、社会をよりよくするためにAIを使います。そのために、まずは日本の大企業との協業R&D、AIコンサルティングからAI開発までをワンストップで行う、カスタムAI開発を提供します。

私が社会がこうあるべき、と語るのはおこがましいですが(笑)、少なくとも、社会がより良くなるには、限られた人だけはなく一人ひとりが変化を起こせるように、個人がよりエンパワーされるべきだと考えています。個人が自律的に目の前の課題を解決していける力を持てば、社会はよりサステナブルになるでしょう」

社会をよくするために、個人をエンパワーする。しかし、そのために日本の大企業にフォーカスを当てるのはなぜなのか?

――ラマル
「来日するまで日系企業に関しては漠然としたイメージしかありませんでしたが、来日後、日本の大企業は非常に野心的で可能性に満ち溢れていると感じました。

しかしながら、日本の典型的な大企業は、人材や技術を保持しているにも関わらず、業務の自動化や生産性の向上といった点で大きく遅れていると感じます。一方で、日本としてSDGs(Sustainable Development Goals……持続可能な開発目標)で設定されているような社会問題の解決に取り組むには、大企業が持つリソースは不可欠です」

大企業と一緒に共同プロジェクトを行うことで、ラマルさんのような人材が持つノウハウや最先端技術の知見をシェアし、大企業が生産性を向上させれば、SDGsなどの大きな問題に取り組む余裕が生まれる。

だからこそ、「日本の大企業」をまずはサポートする、とラマルさんはいう。一方で日本だけでなく、元DeepMindのネットワークを活かし、海外も見据えるという。

小さな課題解決を積み重ねてSDGsの達成を目指す

Recursiveでは、最先端技術の協業R&D、企業が新規事業を行う際のビジネスのアイディエーションからAI開発までを行うカスタムAI開発、将来的にはサービスの開発も行っていくという。

共同創業者でありCOOを務める山田さんは以下のように話す。

――山田
「日本の大企業がSDGsなどの問題をいきなり解決しようとしなくても、まずは社内の業務効率化など小さなことから始めてもいいと感じています。

何をやれば良いのかな?との声もよく聞きますので、それならアイディエーションから一緒に組んでやりましょう、というのがRecursiveです。まずは大企業の中から意識を変えていき、最終的にSDGsに挙げられている課題の解決を目指します」

▲Recursiveが注力するSDGsの領域

同社の企業理念は「Build a fairer more sustainable society(公平で持続可能な社会を作る)。それを実現するために、SDGsの中でも特に注力するのが、上の6領域だ。

――山田
「世界のリーディングカンパニーがグリーンエコノミーを提唱し始めているように、世界は大きく変わり始めていると感じます。

注力する領域の中でも、短期間で取り掛かれるものと、長期間の意識改革や、研究開発が必要なものがあります。前者は一部のエネルギー最適化によるCO2削減などがあげられます。後者は、温室効果ガス削減のための人間の食習慣の変更や、完全に自然に戻るようなエコフレンドリーな素材の開発などです。

私たちとしては短期的、長期的のどちらの課題にも対応していき、地球環境、医療や食料といった必需品をサステナブルに供給できるよう、最先端技術のR&Dにも取り組んでいきます」

「Recursive=再帰的」社名の意味

会社名の「Recursive」にも意味がある。主にプログラミングで使われる用語で、日本語では「再帰的」という。山田さんは以下のように話す。

――山田
「『再帰的』とは、ある問題があったとして、それを小さな問題にブレイクダウンし、それらを解くことでより上位の問題を解くアプローチです。

個人が目の前の課題を解くことを繰り返すことで、より上位の社会課題を解決する。上位の課題が解決されることで、個々人の課題も解決に近づく。サーキュラーエコノミーのようなイメージで、その流れを循環させていきたいと考えています」

そのためには、日本のカルチャーを、より個人がサステナビリティに関して積極的なマインドを持てるように移行していく必要がある。その部分を、企業とのプロジェクトを通して啓発していきたい、と山田さんは話す。

加えて、個人がテクノロジーを活用し、自律的に問題を解決できるようにしていくためには、教育も欠かせない。ラマルさんは、何よりも課題を理解することが重要で、かつ難しい、と語る。

――ラマル
「Cogent Labsでコンサルティングに携わる中で気づいたのは、コードを書くのではなく課題を理解することが何より難しく、かつ重要ということです。

たとえば農業のケースにおいては、農家の方の話を私が聞いて、コーディングしてAIを作り、それを見せてフィードバックを受け、と、農業における課題を理解していない私がコードを書くとコミュニケーションコストが高い。現場のエキスパートである個人が、自らAIを使えるようになれば、発展のサイクルは飛躍的に早まります」

元DeepMindのネットワークを最大限に活かす

山田さんは、ラマルさんに起業に誘われたという。そのときの心境を以下のように語る。

――山田
「誘われたときは正直少し驚きましたが、ティアゴのような人材を日本で一人で放っておくのは、日本にとっての大きな損失だと思って。

そのときは別の会社をやっていたのですが、事業内容はAI導入・活用コンサルティングだったのでクライアントを新会社に移行できる。かつSDGsを中心とする社会課題解決事業を行いたい点が同じだったので、これは使命だなと思いました。妻とも相談して、『一緒にやろう』と返事をしました」

実際、元DeepMindのリサーチャーという肩書を持つラマルさんと働きたいという人材は、国内外問わず絶えないという。そのような人材を抱える日本企業は希少だ。

ラマルさんのような人材を日本で活性化させ、それを皮切りに日本にAI人材が集まるようになれば、日本経済は大きく前進するだろう。同社の今後の活躍に期待したい。

>>株式会社Recursive