コミュニケーションの個人最適を求めて。ReproがAI研究所を設立した理由

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記事サマリー

「2018年7月、AI研究所『Repro AI Labs』を立ち上げたRepro株式会社。すでに年内サービスイン予定の研究もあり、一定の成果を出している同研究所。その立ち上がった経緯や、企業内研究所における成果の定義、成果を生み出す方法とは?」

最近、IT業界の企業内研究所が増えてきており、企業内研究所の研究発表に特化したカンファレンスも開催されたりと、その動きが活発です。

今回は、3年前からAIの研究に取り組み、7月に研究開発チーム「Repro AI Labs」を立ち上げたRepro株式会社 代表取締役の平田さんと、エンジニアの今井さんにお話を伺ってきました。

平田祐介(ひらたゆうすけ)
1980年、東京都生まれ。戦略コンサルタント出身のシリアルアントレプレナー。大手コンサルティングファームに入社後、経営戦略立案支援や成長支援業務に従事。2011年から複数の事業の立ち上げに関与したのち、2014年にReproを創業、代表取締役CEOを務める。


今井太宗(いまいたいそう)
2016年1月にRepro株式会社に入社。WEBエンジニアとしてマーケティング機能や分散処理基盤を利用した機能の開発に従事。2018年7月、よりデータ分析・機械学習にフォーカスしたチーム「Repro AI Labs」を立ち上げ、さらなる付加価値を提供するべく奮闘中。

個人最適の手段として3年前からAIへ先行投資

――Reproでは、どのような事業をおこなっているのでしょうか?

――平田
「弊社ではスマホアプリ事業者向けの分析・マーケティング支援や、5000以上のアプリで利用されているSaasツールの販売をおこなっています。 Repro AI Labs では、そこから得られる3000万デバイスのアプリデータを利用し、マーケティング支援になるようなAI技術の研究をしている形ですね。」

――AI研究所を設立されたきっかけは何だったのでしょうか?

――平田
「Reproでは取得したアプリ内データを活用し、プッシュ型のコミュニケーション施策のコンサルティング提案をおこなってきました。

もともと、プッシュ型のコミュニケーションは個々人に最適化されているべきという思いがありました。しかし、アプリ事業者の運用工数等を考えるとプッシュ通知なども一斉配信が前提になり、その中での最適解を提案することしかできなかったんです。」

たとえばプッシュ通知を配信する際も、多くのアプリが昼どきにプッシュ通知を送っているので、自分たちも12時6分に送ろうという結論になってしまう場合もあるそう。もちろん、それはそれで効果はありますが、理想的なコミュニケーションではなかったそうです。

――平田
「また、これからの時代、特にデジタル領域において、AIに投資しなかったら時代に置いてかれるだろうとも思っていて。そこでそういった課題を解決する技術として、3年前からAIに先行投資をはじめ、今回、満を持して Repro AI Labs として設立するに至りました。」

パーソナライズへの障壁という明確な課題感と、「今」AIをやらなければ時代に取り残されるという危機感。現場目線と経営目線の2つのニーズから設立された Repro AI Labs では、果たして具体的に何を研究しているのか、気になります。

研究の指標は予測精度ではなく、マーケティングゴールの達成

――具体的にどういったことを研究されているのでしょうか?

――今井
「基本的にはアプリデータを利用してマーケティングに生かす研究をしています。実証実験段階のものでは、

・レコメンドプッシュ通知機能
・チャーン予測オーディエンス機能
・プッシュ通知の配信時間最適化機能

などがあります。AI文脈ではありがちな機能ではあるのですが、すぐに効果が出る実用的な領域にまずは着手しています。」

――平田
「マーケティング分野のAI活用は、IT企業の巨人たちが収益の上がる広告分野に走っているので、私たちはCRM分野でやっていきたいと思っています。」

確かにCRMやマーケティングオートメーションの分野でのAI活用には可能性を感じます。実証実験では、実験結果の評価が大事になってくると思うのですが、何を指標としているのでしょうか?

――今井
「弊社ではマーケティングツールとして大事な指標を、そのまま実証実験の指標に置いています。たとえばチャーン予測では離脱する人の予測精度ではなく、離脱予測からの施策効果を指標に置く、という具合です。」

AI研究の視点で見ると、離脱者予測の精度を高めることをゴールと考えがちです。しかし、Reproでは予測する本来の目的である離脱させないことを指標と考え、離脱率がいかに下がるかを指標に置いたそう。

――今井
「たとえば、プッシュ通知の配信時間最適化研究では、24時間すべての時間帯でプッシュ通知を送る実証実験もおこないました。

一般的にプッシュ通知は一斉配信で行うことが多く、ユーザー体験を損ねかねない深夜や早朝帯の配信は厳禁だと考えます。

ただ、実際にアプリのアクセス分析をしてみると、早朝の4時や5時に、アプリを利用しているユーザーも多いんですよね。そういったユーザーには朝4時に有用な情報を通知することはむしろ良い体験なはず、と考え、その判定をAIでおこない個人への最適化を図ったりしています。」

実証実験では、これまで16〜17時で一斉配信していたところを、AIでの時間帯最適化によって「期待行動をするユーザーが20%増」といった成果が出ており、年内にはサービスインする予定とのこと。

これまでパーソナライズ機能がついたマーケティングツールは数多くリリースされており、「個々人に最適化したコミュニケーション」をやろうとする潮流は今までもありました。

ただ、理想論としてはありつつも、現実的には個々人に最適化することは分析・設計・運用工数の面で、ほとんどの企業が諦めていたと思います。

しかし、その課題を解決するために、慣習的にはタブーな深夜・早朝帯でのプッシュ通知へも乗り出し、しかも成果まで出している。企業姿勢としても、研究姿勢としても素晴らしいですね……!

成果を出すには“三方よしの状態”を作るのがカギ

――企業内研究は投資である一方で、企業としての成果も求められると思います。研究で成果を出すためにはどんなことが必要だと考えていますか?

――今井
「”企業内”研究所ということを自覚し、エンドユーザー・クライアントに利益をもたらすことを優先して研究することが大事だと思います。

研究をしていて感じたのは、AIは飛び道具ではなく、ノウハウの地続きであるということでした。AIを使えば何でも解決すると思われがちですが、そうではなく、研究を繰り返し、ノウハウを積み上げて成果に繋げていくことが大事です。」

AIはあくまで今の技術の延長であると認識し、AI以外の技術やノウハウとつなげて、課題を解決していく研究をすることが大事なんですね。一方で、経営目線ではいかがでしょうか?

――平田
「エンジニア(研究者)・クライアント・自社が三方よしの状態を作ることです。
エンジニアは、トレンドの技術に触れたい、クライアントは事業で成果・利益を出したいと思っています。

その二つを満たしつつ、自社も利益を得られるようなことを研究テーマに設定し、三者がwin-win-win の状態を作り出すことが大事です。」

平田さんはあっさりと答えられていましたが、三方よしとなる研究テーマを見つけること自体、とても難しいことかと思います。

現場でもユーザーの価値になるものは何かを常に考える慣習があるからこそ、課題感をもって、研究テーマを見つけられるのではないかと思いました。

マーケティング分野の研究所として国内No.1を目指す

―― Repro AI Labs の今後の展望を教えていただけますか?

――今井
「AI分野は早くやらなきゃダメな世界だと思っているので、研究速度をあげていこうと思っています。今上がっている研究内容はすべてやっていく勢いです。

研究所をこの1年で4倍の規模にし、マーケティング分野の研究所として国内で一番になり、次の3年でグローバルでも一番を目指します。」

――平田
「今まで、マーケティングの理想論としてあった、必要としている人に必要なタイミングで必要な情報やモノを届けるという仕組みを本当の意味で作り上げたいですね。

そのためには、基礎研究領域の研究をしたり、アプリ以外のデータも必要になってくるため、1社だけでは実現できないと思っています。

私自身日本の国際競争力を高めていくという目標もあるので、研究所は中立的に活動を行い、営利目的以外でもいろいろな企業や大学と連携していきたいと考えています。」

「マーケティング分野の研究所として国内で一番になる」「日本の国際競争力を高めていく」など、壮大な目標を掲げるお二人。すでにサービスインする研究もあるなど、一定の成果を収めているところに覚悟と熱意を感じます。

今後の Repro AI Labs の研究もどうなっていくのか、今から楽しみでなりません。