AI本書評:『文系AI人材になる: 統計・プログラム知識は不要』(野口竜司著)

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概要:AIを「使う」ために必要なスキル・考え方がわかる一冊

AI技術がコモディティ化し、以前よりもカジュアルにAIを使えるようになった今、「AIをどう作るか?」よりも「AIをどう使いこなすのか?」の方が大きな意味を持つようになっている。

今後AIが浸透していくにつれ、よりそのスキルは重要性が高くなっていく。そのスキルを持っているのが「文系AI人材」である。ただそういった人材への教育や、キャリアフォローアップの環境などはまだ不十分だ。

本書は、業界で必要とされているテクノロジーとビジネスを繋ぐ文系AI人材になるために必要なスキルと、それを学ぶための方法論を著者の経験をもとに具体的かつ実用的にまとめた本である。

著者はZOZOテクノロジーズ VP of AI driven business、アラタナ取締役の野口竜司氏。自身も文系AI人材として、さまざまなAIをプロジェクトを推進した経験を持ち、AIを「作る」人ではなくAIを「使う」人向けに研修なども行っている。

>>書誌情報

ターゲット読者は?

  • 今後実務としてAIに取り組んでいきたい人
  • これからAIを学びたい初学者
  • AIに興味があったが、数式などで挫折した人

文系AI人材になるための4つのステップ

本書が特徴的なのは、タイトルで「AI文系人材」という言葉を使ってターゲットを明確にしていることである。

「AIによって仕事を奪われるのか?」「そうなったときに我々はどうするべきなのか?」「文系職はこれからどうなるのか?」

と不安に思っている人は、思わず手にとってしまうようなタイトルだ。
ちなみにAIでなくなる職業の考察については、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書) もオススメである。

他のAI基礎のような本と大きく違うのは、実際にAIを「使う」人材になるためのスキルをどのように身につけるべきかという方法論と具体例まで提示していることだ。

本書では、AIと働く力を身につけるステップとして、下記の4点をあげている。

STEP1:AIのキホンを丸暗記する
STEP2:AIの作り方をザックリ理解する
STEP3:AI企画力を磨く
STEP4:AI事例をトコトン知る

実際のAIプロジェクトの工程や注意点を具体的に紹介

3章はSTEP1について書かれており、機械学習とディープラーニングの違いなど、他の本でも説明されている内容が並んでいるので、人によってはこの部分は飛ばしてもいいかもしれない。

ただ、3章後半で著者が提案している「AIの活用8タイプの分類」は、この本の後半の理解にも役立つので読んだ方がいいだろう。著者は、機能別には識別系・予測系・会話系・実行系の4タイプ、役割別では代行型と拡張型の2タイプの掛け算で8タイプにAIの活用タイプは分けられるとしている。この分類が腹落ちしない人もいるだろうが、この8つで理解しておくと、本書の後半がよりわかりやすくなるのでオススメだ。

個人的には、この本の中で一番重要な部分はSTEP2だと考えている。STEP2では、上記の機能別4タイプごとのAIプロジェクトを進める場合に必要な工程や、注意するべきポイントなどが非常に具体的に書かれている。実際に多くのAIプロジェクトを推進してきた筆者だからこそ説得力があるし、個人的な納得感も高かった。

一方で、なんとなくAIについて知りたい人にとっては、具体的であるがゆえに少しとっつきにくい部分もあるかもしれない。

STEP4ではAI活用の45事例の紹介がされている。全ての事例においてSTEP3で紹介されるAI企画の5W1Hフレームワークの実践と、STEP1のAI活用8タイプによる分類が割り振られており、この本で提示されているフレームワークを実際の事例に即して学べるようになっている。
5W1Hフレームワークの例。本文をもとにLedge.ai編集部で作成

STEP1やSTEP3のページに戻りながら、復習しつつSTEP4を読むことで理解が深くなり、実際のAIプロジェクトのプランニングに再現性が高い形でスキルが身に付くだろう。

文系AI人材をめざすうえでのハードル

業界でもテクノロジーとビジネスをつなげられる人材(≒文系AI人材と置き換えてもいいだろう)の需要は高まっている。

ただ私は、直近では再現性がある形で文系AI人材を育てるのも、そういった人材になりたいというモチベーションで動くのもなかなかにハードルが高いと思っている。そこには2つの理由がある。

  1. 求められるスキルセットの高さ
  2. 活躍できる機会の少なさ

1. AI人材の需要は高いが、求められるスキルセットも高い

まずは現状過渡期であるがゆえに、文系AI人材に求められるスキルセットが高いことについて述べる。
著者は、スクラッチでAIを開発する代わりの3つの選択肢として

  • コードベースのAI開発環境で作る
  • GUIベースのAI開発環境で作る
  • 構築済みAIサービスを使う

を挙げている。このうちどれをプロジェクトで使うべきなのか?を選ぶのも「文系AI人材」であるわけだが、それぞれの特徴は、実際にツールなどを使ってみないとわからない部分が多い。つまり、現状はコーディングやプログラミングにもアレルギーがない人間がそういった人材を目指すのが好ましいと考えている。

また、筆者も述べているように、今後はAIプロジェクトの人員もより細分化されるだろう。Web黎明期のプロジェクトでは、フロントエンド、バックエンド、ディレクター、デザイナーというような分け方はしなかったと聞く。今は分かれているこれらの職種を、複数に跨ってスキルを発揮できる人材が必要であった。

AIプロジェクトでも同様のことが起きると想定される。例えばAIプロジェクトの企画、プロジェクトマネジメント、AIの利用・管理などはそれぞれ別のスキルセットが必要であるが、現状はそういった職種もないため、ある程度全体的に知見がある人材が求められる。そして、それらのスキルを得ていくのはそんなに簡単ではない。つまり需要はあるのだが、求められるスキルセットはそれなりに高い。また、理系AI人材がビジネス側に寄ってくるパターンも考えられるので、文系AI人材は他の部分で大きな強みを持っている必要があるだろう。

2. AI人材として働けるチャンスは多くない

さらに難しいのは、そういったスキルを身につけても、直近のキャリアプランがないことだ。

多くのAIプロジェクト、データサイエンスのプロジェクトは、「とりあえずAIを作れる人に任せる」となりがちで、多くの場合ビジネスサイドのAI人材の重要性が伝わっていないことが多い。そのために転職市場でもAIエンジニアやデータサイエンティストの募集は多いが、AIディレクターやコンサルタントなどの募集はほとんど見かけない。

となると、文系AI人材のキャリアを目指したい場合は、社内でそういったポジションを自分で獲得していく必要があるが、それもそれでハードルが高いだろう。自社の中でAIプロジェクトを立ち上げ自分がビジネス側で入るとなると、社内政治も動かし、人事権もある程度は持っているエース級の人材であることがほとんどである。

文系AI人材が活躍できる時代は来る

以上2点の理由で、文系AI人材の直近の活躍は難しい部分もあると思う。しかし、ある瞬間に文系AI人材の需要は爆発的に伸びると考えられる。そのタイミングまで筋トレのように地道にスキルを伸ばしていくことが、活躍する文系AI人材になるためには必要だ。

これからAIのプロジェクトがどんどん増えていく中で、職種が細分化されることは間違いないし、その中で文系AI人材が活躍することも間違いない。むしろ、文系AI人材が活躍できるような体制にしていかないと、業界の発展が遅れるとも言えるかもしれない。

そうした未来を少しでも前倒しにするためには、AIを活用するポジションの重要性を業界でちゃんと啓蒙していく必要があると思う。Ledge.aiのようなメディアもその役割を担っていると考えている。

この本では座学としての文系AI人材のスキルは非常に広い範囲で、なおかつ実用的に再現性が高い形でまとまっていると感じた。ただ、著者も述べているように今は行動が重要な時代だ。この本を読むだけではなく、どんどん自分から行動して、文系AI人材が活躍する未来について備えて欲しいと思う。

書誌情報

著者野口 竜司
発売日2019年12月20日
出版社東洋経済新報社
ISBN9784492762516
価格1,760円(税込)

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