AI本書評:『いまこそ知りたいAIビジネス』(石角友愛著)

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概要:AIビジネスの基本と、海外からみた日本のAI現在地がわかる

AIは自分と無関係と思っている人や企業も多いが、今AI導入を進めなければ手遅れになるという状態にある、というのが世界的な共通認識だ。AIを活用すれば業績が伸びる業種は7割*とも言われており、企業規模に関わらず導入を検討する必要がある。

*Sizing the potential value of AI and advanced analytics | McKinsey (外部リンク)

それなのに、日本はAIに対する認識不足がしばしばみられる。特に非専門家と専門家の間には、AIの認識について大きな隔たりがある。このままでは、日本はAIビジネスにおいて競争力を失うだろう。

この本は、非専門家と専門家の隔たりを埋めるビジネス書だ。

著者の石角友愛氏は、ハーバード大でMBA取得、米グーグル本社勤務を経て、AIビジネスデザインカンパニー「パロアルトインサイト」を起業し、シリコンバレーを拠点に活動している。

海外に拠点を置く著者だからこそ語れる日本のAIビジネスの現状や、事例、AIビジネスの推進・導入に必要なステップなどがわかりやすい言葉で説明されている。

>>書誌情報

読者ターゲットは?

  • AIビジネスにこれから携わりたい人
  • 世界と日本のAIビジネスの違いについて興味がある人
  • これから何か変えなくちゃいけないと思っている経営者

AIの大枠をわかりやすく理解できる、初学者におすすめの一冊

本書は2018年の12月に出版されている。2020年現在からおよそ1年前の本とはなっているが、内容に古さは感じない。

本書では、

AIビジネスとは「AI技術を使って企業の課題を解決する方法を提案し、実装すること」
AIビジネスデザインとは「経営者や事業担当者とデータサイエンティストの間に立ち、AIビジネスを創造する仕事」

と定義されている。この定義にしたがってAI技術を使い、どういった課題を解決できるのか? またそのプロジェクトの進め方はどうするべきなのか? ということが紹介されている。難しい単語が出てこないので、非常にライトに読める。

内容としては以下の6章立てとなっている。

  • 第一章:ここがヘンだよ、日本のAIビジネス
  • 第二章:AIビジネスの最先端を見てみよう
  • 第三章:AIを導入したい企業がすべきこと
  • 第四章:AIビジネスの課題とは
  • 第五章:AI人材とこれからの日本
  • 第六章:AI時代における私たちの働き方

この本で特徴的なのは、他のAI入門本でよくあるような、細かい用語の説明などは全く出てこないことだ。だからこそ、細かい部分を気にせずにAIの大枠などが理解できるという意味で、初学者には向いていると感じた。

ところどころで重要な部分がPOINTとしてまとめられているので、POINTの部分を先にペラペラと読んで、気になったところは戻って深掘りするという読み方もできるかもしれない。

石角氏だからこそ語れる海外と日本の違い

もうひとつの特徴は、シリコンバレーに在住している石角さんの視点で日本のAIビジネスの現状を語っていること。あまり日本では馴染みがないような、日本国外のAIビジネスや最新のAI活用事例などが紹介されており、日本と世界の差を実感する内容となっている。

従業員や顧客など、人の変化も含めたAI導入ストーリーが見える

特に、海外の人気ファッションECサイト「スティッチフィックス」のAI活用についての紹介はおもしろい。「商品レコメンド」「配送ルートの最適化」「トレンド予測」「商品ピックアップの最適化」などさまざまな業務領域で、顧客中心主義を達成するためにどうAIが活躍しているのか具体的にイメージできる。

他の本であるような、自然言語・画像・音声・予測などという技術カテゴリで事例が紹介されているのではなく、ひとつの企業の中でいかにAIが人のオペレーションを変えたのか、どう顧客にメリットを生んだのかという流れで書いてあるので、頭を切り替えることなくストーリーとして読めるところはすごく工夫されていると感じた。

ここで紹介されている事例は、AIと人との協働の部分にフォーカスを当てて説明されている。単純に人間の仕事をAIで代替するわけではなく、人だからできる部分にもっとフォーカスするような働き方だ。AIでこなせる領域が広くなってくることで、これから生まれる新しい職業も本書では紹介されているが、著者も引用しているように『HUMAN + MACHINE』の内容と被っていることが多いので、その部分が気になる方は、こちらの本を参照すると良い。

「5年遅れ」の日本に残されたチャンスとは

個人的に勉強になったのは、GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)が日本においてのチャンス、という筆者の主張だ。

GDPRはEUにおいて、2018年の5月に施行された。細かい説明は省くが、罰金が巨額であることや、EU域内だけに限らず幅広い企業が法律適用の対象になるため、データを扱う世界中の企業が大きな打撃を受けている。データベースの設計をし直したり、取得するデータを変更したりなど、ビジネスモデルの変更を余儀なくされている企業も多い。皮肉なことではあるが、5年海外から遅れをとっていると言われている日本のAIビジネスにおいては、GDPRを前提とした上で、ビジネスモデルの検討やデータベースの設計ができるという点でチャンスだとしている。

これらは海外在住の筆者だからこそ生まれる観点だ。GDPRについて言及している本はそこまで読んだことがなかったので、そういう考えもできるのだなと非常に刺激になった。

AIビジネスデザイナーの道は険しいが、言い訳はできない?

海外からの視点が多いので、少し未来感を感じながら読めることもおもしろい。「今後こういう流れがくる」と一方的に説明されてもピンとこない人が多いと思うが、「海外ではこうなっています!」と言われると、なんとなく危機感が出るのは不思議だ。読み進めていくうちに、AIに対しての関心が健全に高くなる本だと感じた。そういう意味では、ぜひ経営者に読んで欲しい。これからのAI動向に、今までより高い興味を払うことになると思う。

反面、この本で言われている「AIビジネスデザイナー」のキャリアを考えている人にはちょっと具体性に欠ける内容かもしれない。キャリアや必要な能力について深く知りたい人は、『文系AI人材になる』を読むと参考になる部分が多いはずだ。

本書では、AIビジネスデザイナーの条件として「AIを軸にビジネスの構想設計ができる人」「AIの話が分かって、かつ経営課題をAIに落とし込める」ことが挙げられている。そのためAIの知識に加え、MBAを取得していることが好ましいと本書では書かれているが、なかなかにスーパーマンという印象だ(著者がMBA保持者ということもあるのかもしれない)。

どの本でもそうだが、AIビジネスデザイナーやAIディレクター、文系AI人材といった「開発側ではない、AIプロジェクトに関わる職種」に求められる能力は非常に高い。AIのことは分かっている前提で、経営者と対等に会話も行い、他の部署を巻き込めるコミュニケーション能力も必要とされる。そんな超人いるのか?といつも思う。

一方で本書では、アメリカのデータサイエンティストの6割が独学でスキルを身につけた、というデータも紹介されている。生涯を通して新しいことを学び続けるスキルと、自身のキャリアアップのためにお金や時間を投資する決断が、ますます重要になってきているのは間違いない。

AIはあらゆる側面でおおきな転換点になっている

最後に「自分でなくてもできることをどんどんAIに任せる」「自分が一番幸せだと思う時間を見極める」価値観がAI時代には必要だと紹介されている。

上記をまとめると、これから必要になるのは、主観と客観の両側面から「自分を見つめるスキル」だと感じた。自分が何をしたいのか? どうなりたいのか? 自分はどういうバリューを出せるのか?を問い続けて、理想と現実のギャップを埋めるための行動(学習)も必要となる。

万人がそうした行動を起こせるわけでもないだろうし、今活躍している人とそうではない人の差が大きくなるような気もする。キャリアアップする人はどんどんするだろうし、学ぶ姿勢を持ち続けられれば、これから新しいテクノロジーが出てきても対応ができるだろう。一方でなんとなく毎日を暮らしてしまっている人には、酷な時代にもなってきていると感じた。

改めて、AIというものがあらゆる側面で「今」を大きな転換点にしている感覚を強くした。

 

書誌情報

著者石角友愛
発売日2018年12月15日
出版社ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN9784799323977
価格1,600円 (税抜)

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