AI本書評:『決定版AI 人工知能』(樋口晋也/城塚音也著)

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概要:実社会でのAI活用事例を紹介

AIをビジネスに適用して効果をあげるため、AI活用について様々な角度から説明を行う
(出典:『決定版AI 人工知能』p.6 はじめに)

という一文にあるように、AIや関連技術そのものの理解より、AIをビジネスで活用する方法に重きをおく一冊。AIの活用事例紹介を中心に、AIによる社会の変化、AI人材の獲得、AI活用によって起こりうる法的・倫理問題まで触れている。

著者の樋口晋也氏、城塚音也氏はともにNTTデータ 技術開発本部所属。本書で紹介されている導入事例も、同社の実績が多い。

>>書誌情報

ターゲット読者層は?

AI導入を考えている企業の担当者または意思決定者

  • 「AIをビジネスで活用する」という点では入門書といえそう
  • AI開発ベンダーとしての「NTTデータの取り組みを知りたい」人にも強くおすすめできる
  • AIの歴史やディープラーニングの仕組みなど技術的な話は細かく書かれていない

ビジネス現場でのAI活用例を知れる

まず抱いた感想が、「本のタイトルイメージに反してさくっと読める」ということ。決定版、という文言から感じるハードルの高さはなく、全編読みやすい言葉で解説がなされている。

とはいえ「AIの活用」については充実しており、AI導入を考えるときに知っておきたいポイントもカバーしている。2章・AIの基礎知識の後半にある「AIが得意な分野・苦手な分野」の項は、AIに明るくない非技術者こそおさえておきたい。

  • 得意な分野:記憶力がよく膨大な情報を扱うことができる、24時間365日働けるなど
  • 苦手な分野:自ら問いを生み出せない、人の気持ちや感情を一定上理解できないなど

続く3章ではAI導入事例が紹介され、金融、自動車、製造業、農業、医療、セキュリティの各業界が取り上げられている。

すべての事例を読み込まず、興味あるテーマにだけ目を通しても問題ないだろう。遺伝子ゲノムの解析・編集や犯罪予測システムなど、「好き」な人にとって刺さりそうなトピックもある。

ビジネスでのAI活用というと、業務効率化やRPAの文脈と同時に語られることが少なくない。しかし、AIの合理的な「判断」機能を生かした事例も紹介しているのは良いな、と思った。たとえばスマートファクトリー化で「工作機械をネットワークに繋ぎ、AIにメンテナンスの適切なタイミングを通知してもらう」(コンディション・ベースト・メンテナンス、CBM)というような。

ただ本書の発売日(2017年3月)から時間が経っているので、最新の事例はLegde.aiや他の書籍でキャッチアップするとさらに良さそう。

4、5章、7章で扱うテーマは、AIの浸透で変わる仕事の仕方、ビジネスのためのAI戦略、AIブームはもう終わるの3つ。それぞれざっくりと理解でき、AIによって世界はどう変わっていくか、を深堀りするきっかけづくりになりそうだ。

6章の「AIの活用ポイントと法的課題」で触れているAI活用を成功に導く考え方は、AI導入担当者なら必ず理解しておきたい。

ある程度AIを知ったあとにこそ、真価を発揮しそうな本

個人的には画像処理、自然言語処理といった基本的なAI技術の紹介がないまま、事例解説に入るのが気になった。事例紹介でいきなり「画像認識」という語が出てきたら、さすがに面食らってしまうだろう。

同時に、抽象的な語が多いのにも少しもやっとした。たとえば2章では「5つに分類できるAIの適応領域」が挙げられているが、

  • 知識探索・俯瞰
  • 知識発見・意思決定
  • コンテンツ生成
  • コミュニケーション
  • 知覚・制御

AIについてまったくの初心者がこの分類で理解できるか?というとやや疑問だ。3章以降で多くの事例が紹介されているので、かえって「AIはなんでもできる」と勘違いしてしまうのではないか。

そのため、AIがどんなものかをなんとなくでも理解したうえで、「ビジネス活用という切り口からAIを知る」目的で読むのを個人的にはおすすめしたい。「AIそのものについて知りたい」「開発担当者とスムースに会話できるようになりたい」のであれば、『人工知能は人間を超えるか』などAI技術の解説がある本を先に読んだほうがいいだろう。

変わりつつある「AI人材」

この本の発売日は2017年。同書では繰り返し「AIを導入する目的を明らかにしよう」と主張しているが、いまだにAI導入そのものがゴールになっている事例が少なくない。AI導入プロジェクトが失敗する根深い原因なのだろう。

反面、第3次AIブームの先にある、AIの社会への浸透が進んでいる様子も感じられた。5章でAI人材の不足に触れているが、当時の「AI人材」は、2020年現在で語られるそれとはやや異なる。

本書ではデータサイエンスや機械学習の知見がある人材が少ないと指摘し、「情報システム担当者が機械学習にとりかかるのは難しい」と問題提起がなされている。しかし今日、AI導入プロジェクトを成功させるには、機械学習エンジニアやデータサイエンスに長けた人材だけでなく、「AI(を搭載した何か、サービスなど)が生み出す価値」を知る人や、企画と実装をつなぐディレクションが欠かせないだろう。

技術的にAIを導入できる・できないの次元を越え、いかにAIを活用し価値を生み出せるか、を考え抜く時代に移り変わっている。そんな「ポスト第3次AIブーム」のAIの現在地、を垣間見たような気がした。

書誌情報

著者樋口 晋也/城塚 音也 著
発売日2017年3月24日
出版社東洋経済新報社
ISBN978-4-4927-6233-2
価格1,760円(税込)

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