AI本書評:『シン・ニホン』(安宅和人著)

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概要:沈みゆく?現代日本に向けた処方箋

もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。
そしてどんな社会を僕らが作り、残すのか、考えて仕掛けていこう。
『シン・ニホン』(安宅和人、NewsPicksパブリッシング)p.006

データとAI技術の組み合わせによる未来図を考えたことがあるだろうか。データ×AIのもたらすものを見ていくと「AIが仕事を奪う」という次元で語るのがばかばかしい、と思えるほど、私たちの暮らしに与える影響は大きい。

本記事で紹介する『シン・ニホン』は、著者の安宅和人氏が各所で公演した内容などをまとめたもの。副題「AI×データ時代における日本の再生と人材資源」にもあるとおり、日本人ひいては日本という国が、データ×AI時代を迎えるにあたっていかに変化すべきかを綴った一冊だ。

安宅氏はベストセラーのビジネス書『イシューからはじめよ』で知られるほか、ヤフー株式会社CSO(チーフストラテジーオフィサー)、慶應義塾大学環境情報学部教授、データサイエンティスト協会理事など、多岐に渡り活躍している。

>>書誌情報

読者ターゲットは?

日本の未来を創りたい人

  • AIがより浸透する時代に向けて、自分のキャリアを考えたい人
  • AI技術の入門知識や、ビジネス導入事例などの話はない

データ×AI時代といかに向き合うか

この本は全6章構成だが、内容は大きく3つに分類できる。

1、2章:大量のデータ×AI技術がもたらす変化と日本の現状
3、4章:データ×AI人材、人材育成のためのロードマップ
5、6章:調査から国のリソース配分や地球環境を考え、未来への提言

著者自ら「専門とは言い難いことにもかなり首を突っ込んで書いた」と述べているとおり、内容の濃さと相まって、通しで読むとなかなかのボリュームだ。この記事では、AI技術の現在地やAI人材育成がメインテーマの2〜4章を中心に紹介していきたい。

日本の勝ち筋は技術の活用・応用分野にある

2章のテーマは日本の現状。データ量や研究人材、投稿論文の数で、「AI先進国」アメリカや中国から遅れをとっていると言われ、このまま負け続けるのか……という悲観論もあるが、勝ち筋はまだあるという。

日本の過去の栄光として、明治時代の文明開化や世界大戦後の高度経済成長が語られることがある。しかしその発展を支えたのは、過去に培った技術やていねいなモノづくりの延長ではない。他国の技術を取り入れ、どこよりも早く応用して昇華させる力だった。

かつて、「家が一軒立つ」ともいわれる高価格で、好事家向けのものだったレンジファインダー式のカメラと一線を画し、手に入りやすい価格でより高画質の一眼レフカメラを普及させたり、ドイツ車とアメリカ車のはざまで低公害・高耐久・コンパクトな日本車を開発したように「参入は遅いが、始めるとすぐにキャッチアップして世界のトップレベルまで上り詰める」(p.132)ところに、日本の強さがある。


『シン・ニホン』p.116の図をもとに作成

いま、世界のAI技術は黎明期から一般活用フェーズに差し掛かった段階であり、これから来るフェーズ2、フェーズ3でゲームチェンジを仕掛けられるという。

AI-readyな「リテラシー層」を増やす

今後は、データやAIを使い倒せる人とそうでない人とで大きく差が開く。3章ではAIを議論する、活用できる(本書では「AI-ready」と呼ばれる)社会を目指すことが急務だとし、AI-readyな社会をつくる「データ×AI人材」はどんなスキルセットを持つのかに触れる。

データ×AI人材に必要なのは、ビジネス力、データサインエス力、データエンジニアリング力の3つで、どれも欠かすことができない。

  • ビジネス力:課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決する力
  • データサイエンス力:統計数値、情報科学の知識を持ち使う力
  • データエンジニアリング力:データサイエンスを意味ある形に使えるようにし、実装・運用できるようにする力


出典: 2014年12月20日 一般社団法人データサイエンティスト協会 プレスリリース

加えて、機械にできない、人間ならではの知覚(課題を見極め解決する力、物事を俯瞰して意味を見出す力など)を伸ばす「知的訓練」が必要になる。

続く4章では、国を挙げた人材増強策として、リテラシー層・専門家層・リーダー層の3層に分けた人材育成と、ミドルマネジメント層のスキル再生を主張する。リテラシー層とは、課題設定・解決能力やデータ×AIの基礎的な素養を持ち、データ×AIを活用する人々のこと。このリテラシー層こそ、昨今注目を浴びつつある「ビジネスとAI開発をつなぐ人材(文系AI人材、と呼ばれることもある)」なのではないだろうか。

文系AI人材については、以下の本も詳しい。

ここでは割愛するが、文理・専攻を問わず数学やサイエンスに親しむ必要性など、具体的なスキルの育成方法にも触れている。4章後半からは5〜10年の長期スパンでの話なので、個人レベルで何をすればいいのか、についてはあまり触れられていないので、この本から得た気づきをどう行動に結びつけるかは自分次第だろう。

データ×AI人材は本当に増やせるのか?

今回紹介した内容はこの本の一部にすぎない。5章以降の「AI人材を増やすことで、どういう未来を創るのか?」というテーマも、非常に興味深い。未来を担う高等教育機関への支援、産学連携のエコシステム構築や尊厳死、ひいては地球環境……と、解くべき問題は多いのだと改めて感じた。

以下は、本書の内容をざっくり理解するときの助けになるだろう。

“シン・ニホン” AI×データ時代における ⽇本の再⽣と⼈材育成(外部リンク)

個人的には、今のままでリテラシー層を8割にまで引き上げるのは難しいのでは、と思っている。ビジネス力×データサイエンス力×データエンジニアリング力を持つ人材は、現在の「データサイエンティスト像」と一致する。そんなスーパーマンが多数派になるのを、自分が想像できないだけだろうか。いや、ハードルを下げるツールや新たな技術で解決されていくのだろうか。

また、女性や高齢者にポテンシャルがあるとのことだが、変化したくない、もしくはできないマインドが強い人々(属性問わずいるだろう)をどうやってAI-ready化するのか、は疑問が残る。しかし、現在よりデータ×AIが身近なものになり、私たちの日常に浸透していくならそうは言ってられない。多くの人たちがデータ×AIを身近に感じれるよう、Ledge.aiも機能していければと思う。

……などと考えている中、未来が明るくなりそうなコンテンツが公開された。

高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材(本編):文部科学省(外部リンク)

リンク先は「教員研修用教材」だが、中等教育で情報システムやデータサイエンス、機械学習の概要が掲載されていた。自分が思っていた以上に、国はAI-readyに向けて進み出しているのかもしれない。

書誌情報

著者安宅和人
発売日2020年2月18日
出版社NewsPicksパブリッシング
ISBN9784910063041
価格2,400円(税抜)

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