膨大な車両映像を学習済みのAI車両センシング――安心できる3密回避の外出のために

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※画像はイメージです(出典:Pixabay

誰もが一度は見た経験がある「交通量/通行量調査」。調査員の方が数取器を使い、カチカチしながら特定の場所を通る人や自動車などを数える調査だ。なかでも交通量調査は、道路やその道路交通の実態把握のために実施されている。

現在、自治体の一部では新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的に、人流を把握するために交通量調査を実施し、混雑度の把握を目的に実施しているケースもある。

実はこの交通量調査、調査員が現地で数をカウントする必要がなくなりつつあるのだ。

コロナ禍で必要になった「リアルタイムな情報」

2021年3月に三重県から「AIカメラを活用した道路交通量計測を開始します~都道府県では全国初の常時計測!~」と発表があった。

発表によれば、「県内の主要道路の交通状況について、AIカメラを用いて計測し、車の流れがどの様に変化しているかを毎週お知らせすることにより、コロナ禍における県民の皆様の行動の参考にしていただくこと等を目的としています」と述べられている。背景にあるのは、コロナ禍の影響によって、道路交通状況は大きく変化していることが挙げられる。

三重県が発表したAIカメラは、沖電気工業株式会社(OKI)が提供する映像AIソリューション「AISION車両センシングシステム」を使っている。このAISION 車両センシングシステムについて、OKIのソリューションシステム事業本部 IoTプラットフォーム事業部IoTシステム部映像チーム チームマネージャー 高橋 佑輔氏に話を聞いた。

まず高橋氏は交通量調査について、「コロナ禍になり、『どこが渋滞している』『どこが空いている』などの情報が価値を持つようになった」と話す。

「交通量調査は、自治体が外部業者に委託し、その委託先で調査員を集めて実施する形式がほとんどです。交通量調査は、数年ごとの定期調査やスポット調査といった種類がありますが、ほとんどが人手による調査で、調査員を集めることが困難という話を前々から耳にしていました。

一方で、コロナ禍の影響で、3密を避けるため、外出時には、『どこが渋滞している』、『どこが空いている』など、リアルタイムな交通状況データが価値を持つようになっています。しかし、従来の交通量調査の方法では、リアルタイム性を求める常時監視の必要性と、先にお話した人手による調査の課題によるジレンマを抱えていました。

コロナ禍における三重県では、平日は、公共交通機関の利用を避けるため一般道の交通量が増加し、土日・祝日は、観光地の交通量は減少するという、大きな変化がありました。
これを受けて、三重県では、『コロナ禍における県民の行動変容を促すため、県内の主要道路の交通状況について、車の流れがどのように変化しているかを毎週公表することが必要』と判断されたのです」(同氏)

三重県の先の発表によれば、従来の交通量調査は人手によるもので、5年に1度のペースで実施していたようだ。

そこで、OKIの映像AIソリューション「AISION車両センシングシステム」を活用した交通量観測システム(=AIカメラ)を導入したことで、三重県では人手を介することなくリアルタイムで主要な道路の交通量を把握できるようになったそうだ。

三重県の道路に設置されている「AISION車両センシングシステム」を活用した交通量観測システム。交通量観測装置はOKIが提供するAIエッジコンピューター「AE2100」だ

現在、三重県では県内10箇所にAIカメラを設置し、AIカメラで取得した「交通量の推移情報」を同県サイト上で公開している。

>> 三重県 交通量の推移情報

三重県のサイトより(7月14日時点)

三重県のサイトより(7月14日時点)

また同県は、「AIカメラを導入したことで、大幅な効率化を実現し、交通ビッグデータの活用によってインフラサービスの向上を目指す」と述べている。

速度超過や逆走もリアルタイムで検知/通知可能

三重県が導入したAIカメラとはどういったものなのか。OKIの高橋氏は「AIカメラで使われているOKIの『AISION車両センシングシステム』は、監視カメラで撮影し、その映像はその場で解析。必要なことはすぐに通知でき、データの集計も可能にした、シンプルな機能群をもつ製品です」と説明してくれた。

交差点も1セットでカバーできる

カメラで捉えた映像を、AIエッジコンピューターによってリアルタイム解析し、車両の挙動を検出するのが「AISION車両センシングシステム」だ。スピーカーや表示板と連携可能で、逆走などを検知した場合は迅速な注意喚起を実現し安全を確保できるシステムだという。

「AISION車両センシングシステム」は、シンプルながらも必要とされる機能をひととおり取り揃えているのが最大の特徴。

撮影
– 監視カメラで走行中の車両を撮影
– 撮影した映像をAIエッジコンピューターに送信
解析
– スポットごとにエッジでAI解析し、車両を認識
– 速度や進行方向、停止など挙動を同時判定可能
通知
– 設定された車両の挙動を検出したら、スピーカーや表示板に通知し、迅速な注意喚起を実現
集計
– 通行量や速度超過、逆走の件数を、統計情報として画面表示/出力が可能

AIを使ったシステムだが、「AISION車両センシングシステム」は“手軽に使える”点も特徴のひとつだ。

「計測したい道路には、カメラと交通量観測装置である『AE2100』を設置するだけです。そして、カメラの視野内にある道路に設定ツール上で“計測線”を引くだけで、車両の通行量や速度超過といった機能を利用できます。

通行する車両に対しては、『AISION車両センシングシステム』の設定ツール上で引いた計測線を通過した際に、『速度がどうだったのか』『進行方向は正しいか』などを解析する仕組みです。

片道1車線の交差点であれば、カメラとAE2100の1セットだけで対応できます」(高橋氏)

GUIツールとして設定できるので、導入までのハードルは非常に低い

検出したい道路それぞれに計測線を引くだけだ

ちなみに、「AISION車両センシングシステム」では普通車、バス、トラックをカウントできるが、2021年度に自動二輪車も計測できるように開発を進めているそうだ。また、雪道スタックや故障車など、車線で停止している車両の検出も今後は可能になるとのこと。

さまざまな画角や環境で適用可能 その理由は「膨大な車両映像」による学習

OKIの高橋氏によれば、「AISION車両センシングシステム」の売りのひとつに、大量なデータを事前に学習させている点もあるという。

「『AISION車両センシングシステム』にはディープラーニング技術が使われています。ディープラーニング技術は、モデルの精度を上げたり、多岐にわたる環境に適用させたりするには、学習させるデータの取り揃えが非常に重要です。

我々OKIでは、長年、交通インフラ系の事業にも携わってきているため、高速道路や一般道路などのさまざまなデータを保有しているのです」(同氏)

さまざまな画角や環境でも使えるように、185万枚を超すとても膨大な量のデータを学習させている

また、高橋氏は「保有していた185万枚以上のデータだけでなく、バラエティに富んだ画像や映像も学習させています」と続ける。

「ディープラーニングの学習をする際、似通った映像や画像ばかりを学習させてしまうと、局所解に陥りますよね。そこでOKIでは、さまざまな背景映像も同時に学習させ、バラエティを増やす取り組みをしているのです。

自動車が写っている映像の背景は、『地面がグレーで、白い線が引いてある』などの限定的な状況になりがちです。このような映像データだけを使ってしまうと、未検出や誤検出につながってしまう事が、経験的に多かったです。

たとえば、“木の影”が偶然、自動車の形に似ている場合、この影を車両として判断し、誤検出につながるケースが、開発当初は起こっていました。そこで、自動車が映っていなくても、森林の映像を学習させることで、誤検出が少なくなるよう、工夫しています。

他にも、高層ビル、幾何学模様といった、自動車とは関係ない映像を学習させ、背景画像のバラエティを増やす工夫をしており、より精度の高い検出精度を実現しています」(同氏)

エッジ構成ではないと実現が難しい「AISION車両センシング」

「AISION車両センシングシステム」は、三重県の事例のように交通量を調査するだけでなく、通行規制や注意喚起を促す仕組みとしても活用できるそうだ。

たとえば、スクールゾーンや総合病院など、特定の時間帯だけ交通規制を敷く場所では、規制をかけているにもかかわらず間違い車両が発生するケースがある。そんな場所にも「AISION車両センシングシステム」を活用すれば、リアルタイムで検出し該当の車両に対して注意喚起を促せるという。

OKIとして想定している活用シーンのひとつ。特定の時間のみ一方通行規制がかかる場所などでは誤ってしまう車両も少なくないため、監視目的で使われそうだ

「OKIではエッジ領域のAIに注力していますが、そのなかでも『AISION車両センシング』に関してはエッジの構成ではないとそもそも実現が無理なのではないか、と思っているのです。

往来する車両のなかに、万が一進行方向を誤っていた自動車があった場合、その場ですぐさまに案内をかける必要があります。そのためには、カメラで捉えた映像を、その場にある機器(=『AE2100』)で迅速に解析し、注意喚起まで対応する必要があるのです」(高橋氏)

さらに高橋氏は「AISION車両センシング」は離れた場所での案内や警報の表示が可能なのもポイントだという。

「誤った自動車に対して、注意喚起するという点では、その場で案内を促すのは当然のこと、自動車は移動するものですので、その場での対応もしつつ、ある程度離れた場所でも案内や警報を表示する必要があります。

そのため、『AISION車両センシング』には920MHz帯マルチホップ無線 SmartHopを搭載していて、最大でおよそ1.5km離れた場所にも案内などが可能です」(同氏)

OKIの高橋氏は取材の最後に『AISION車両センシング』が目指す先を教えてくれた。

「交通量調査など交通インフラ領域においては、いままで人手で対応していた仕事にもかかわらず、人手が不足していたり、人が手を直接動かさなければ解決できなかったりする課題があります。こうした課題を『AISION車両センシング』に置き換えることで解決できる部分があるのです。

『AISION車両センシング』は、人手不足などの課題解決にももちろんですが、交通インフラをさらに改善したい、そんなことを考えられている方々の選択肢になればいいと思っています」(同氏)