「あらゆる現場で活用できる」データ分析で製造現場の課題を解決できる開発環境 担当者らが抱く展望

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コンテストのデモンストレーションの様子。AI連携で画像から文字認識し、エラーデータを判定する様子などをアピールした。動画はこちらから

沖電気工業株式会社(OKI)が2021年12月に開催した「AIエッジ・カンファレンス&ソリューションコンテスト2021」において、今回特別に用意したAI(人工知能)関連メディア「Ledge.ai賞」には、株式会社ソルティスターによる『エッジコンピューティング向けアプリケーションプラットホーム&組込み用ハイブリッドデータベース「SpeeDBee HIVE」』が輝いた。

同ソリューションは、AE2100を最大限に活用するエッジコンピューティング&開発環境だ。Linux/Windows環境下で稼働。多種多様なデータを取り込み、分析・制御・可視化できる。たとえば、センサー値の濃度判定(閾値)からバルブの開閉を制御することで、給水量を削減するなど、製造現場における課題・問題を解決可能だ。

なぜ、このソリューションは生まれたのか? 今後はどのような展望を考えているのか? この記事では、ソルティスターの担当者たち、Ledge.ai賞を選定した株式会社レッジ 代表取締役社長 小瀧健太に話を聞いた。

データを収集して可視化、その先の分析までできるのがSpeeDBee Hive

株式会社ソルティスター 柏谷氏

──まずは、ソルティスターさんについて簡単にご紹介をお願いします。

柏谷氏:ソルティスターは2008年設立で、長野のほかに沖縄と東京に拠点があります。設立以来、組み込み用の国産データベースの開発を中心に、Webアプリケーションなど、幅広く開発事業を展開してきました。

強みとしては、自社製品を中心にコストメリットを出しつつ、エッジコンピューティングからクラウド領域までのシステム開発をワンストップで、オーダーをお受けできるところにあります。自社製品でカバーできない領域は、フルスクラッチで開発も可能です。

株式会社ソルティスター 新川氏

──ソルティスターさんは今回のコンテストにおいて、AE2100を最大限に活用するエッジコンピューティング&開発環境のSpeeDBee HIVEでLedge.ai賞に輝いています。

新川氏:SpeeDBee Hiveは、データを収集する「コレクタ」機能、収集したデータをリアルタイムに分析する機能、実データと分析データを任意の条件式で判定してコマンド実行する機能など、本当に多くの機能があります。

コンテストのデモでは、SmartHop経由でデータを収集し、OpenVINOを活用してデータを分析、そしてデータを判定してLED電灯の点灯制御を実行する、一連の流れを提示。エッジコンピューティングがお手軽に構築できることをプレゼンしました。SpeeDBee HiveでIoTシステムを構築できるのがおわかりいただけるかと思います。

株式会社ソルティスター 岩井氏

──SpeeDBee Hiveを導入するメリットは主にどういったことが考えられますか?

岩井氏:結局はIoTで何を実現するのかが肝心ですが、お客様のなかには、デバイスなどからデータを収集してクラウドにアップして可視化する、で止まっている場合が多いです。ですが、目的はやはり可視化したデータを活かして、製造ラインの生産性を向上させるなどではないかと考えています。

その点、SpeeDBee Hiveはまず、データを収集して分析する環境が整います。さらに、分析した結果「こうしたらより良くなる」という処理を自動化できます。これまで人間が判断していたことを自動で制御できるようになるわけです。

顧客の声を聞くなかで、IoTエッジコンピューティングが世の中にないと気づいた

本ソリューションのシステム構成

──SpeeDBee Hiveはどのようなアイデアのもとで開発されたのですか?

岩井氏:まずはさまざまな業種のお客様の声を聞きました。すると、「自社で管理しているデータを活かして、IoTで製造ラインのコスト低減や障害回復をできないか」という声をたくさんいただき、そのなかで、実はエッジコンピューティングを利用したIoTシステムが世の中にないのではないかと気づいたんです。そこで、お客様の声を組み入れたソリューションを開発しようと企画しました。

──開発後、どういった現場で活用されているのでしょうか?

岩井氏:一例ですと、工作機械のメーカーさんですね。そこでは、ドリルで金属加工をしているのですが、ある程度の量を加工するとドリルの刃が折れてしまい、その破片が飛び散って、ドリルだけでなく加工中の製品もダメになってしまうことがあるそうです。理想なのは、ドリルの刃を定期的に交換することですが、その時期がわからないと。

そこで、ドリルの刃をデータ分析すると、ある傾向がわかったそうです。その傾向を考慮に入れて、ドリルの刃が折れる直前の状況をAI処理で導き出し、その結果を閾値にして、その状況にたどり着いたらドリルの刃を交換するようアラート出しするまでを実行。こうすることで、ドリルも長く使用できるし、加工製品への影響も減らせるそうです。

──ほかには、どういった分野の業種が多いですか?

岩井氏:大きいところですと、自動車関連メーカーさんの製造ラインですね。あとは食品関係や家電製品系などです。製造ラインであればどのような現場でも使用できますので、本当に幅広く使用いただいています。

「あらゆる現場で活用できる」を実現するのは非常に大変

コンテストの様子

──さまざまな業種で使用されるほどまで、機能を網羅しているとなると、やはり開発にあたっては苦労があったと想像します。

岩井氏:そうですね。最も苦労したのは、SpeeDBee Hiveが「あらゆる現場で活用できる」というコンセプトを当初から掲げていたのですが、実際にそれを実現するのが非常に大変だったことです。製造業ひとつとっても、製造ラインにいろいろなデバイスや機械があり、センサーなどもそれぞれで違います。また、サーバーもクラウドだけで多くのサービスがあり、さらにはイントラサーバーになるとお客様固有のシステムです。

しかも、お客様によっては「自分でSpeeDBee Hiveと自社の現場環境を接続したい」「Pythonを使用して開発したい」などの要望もあります。こうしたあらゆるデバイス、システム、データなどと接続できる汎用的なインターフェースを考えたり、収集したデータを管理する構造を検討したりしないといけません。

この大変な開発をコロナ禍で慣れないテレワークを導入しながら、分散拠点で進めました。これが相当な苦労だったと感じます。

──素晴らしい製品だとは思いますが、一方で技術的に改善したい点や、今後の展望などもあると思います。

岩井氏:そうですね。お客様の声を聞くなかで、要望として多く挙がるのは「収集したデータのグラフをダッシュボードのような画面で見たい」ということです。マクロ機能を利用して、たとえば温度/湿度/照度/圧力といったデータがあったときに、グラフを4画面に分けて自動的に表示するダッシュボードを作るというイメージです。

データ自体も、どの装置からどうデータを収集するか、そのデータを統計処理するかなど、ボタンひとつで選択して、結果をダッシュボードに表示できる機能のリリースを目指しています。

──最後に、コンテストに参加した感想をいただけますでしょうか。

新川氏:大きな舞台で何かしら発表する機会はなかなかないので、すごく良い経験をさせてもらったと思います。事前準備も含めて、自分のスキルアップにとっていい刺激になりましたし、学ぶところもたくさんありました。

柏谷氏:今回、同じようにコンテストに参加している会社様のデモや発表内容を拝見し、とても勉強になりました。反省点もありまして、弊社のデモの見せ方が少しマニアックだったという印象があります。もう少し社会問題にフォーカスするなどして、わかりやすいデモをお伝えできればもっと良かったなと。もし次回参加できるようでしたら、それを踏まえて優秀賞を目指したいと思っています。

岩井氏:今回のデモは、本来のAE2100の用途からすると、少しずれていたのかなと思っています。ただ、そのなかでもこれだけ開発したのだから、優秀賞は狙っていました。Ledge.ai賞をいただき、本当にうれしく思っています。イベントに参加して、こういう場にエントリーできるビジネスや製品はこれからもどんどん作っていきたいなと改めて感じました。

「今後多くの人々が活用するものになり得るのではないか」

株式会社レッジ 代表取締役社長 小瀧健太

最後に、株式会社レッジ 代表取締役社長 小瀧健太にも話を聞いた。ソルティスターのSpeeDBee HIVEをLedge.ai賞に選んだ理由とは。

──なぜソルティスターさんのソリューションをLedge.ai賞に選んだのですか?

小瀧:コンテストではほかの企業が特定のテーマにあわせたソリューションを発表していたのに対し、ソルティスター様はやや広義にデータ活用を捉えていた点に興味を持ち、プレゼンテーションを聞いていました。メディアを運営している立場としては、AIやデータ活用が幅広く世の中に浸透していってほしいと思うなかで、本ソリューションが今後多くの人々が活用するものになり得るのではないかと思い、選定させていただきました。

──本ソリューションのどこに魅力や強みがあると感じましたか?

小瀧:ノーコード(ローコード)での実装可能性や安価な価格設定など、世の中におけるデータ活用のハードルを下げる可能性があると思います。また、コンテストのプレゼンテーションではUIなど使いやすさへのこだわりを感じ、短い時間のなかで実際に使ってみたいと思わせてくれるようなソリューションだと感じました。

──今後、本ソリューションについて何か期待していることはありますか?

小瀧:本ソリューションを使ったさまざまなユースケースを創出することで、新たなナレッジやアセットをリリースすること、そしてそれらを発信していくことで、より多くの方によって身近なソリューションとなっていくことを楽しみにしております。