「食」という日本の根幹を支える農業分野ではいま、就業人口の減少と高齢化が進んでおり、農地の大規模化や作業の省力化を進めることが急務となっています。
そんな中、茨城県のキャベツ農家で、ある実証実験が始まりました。ドローンで上空からキャベツを撮影し、膨大な量の画像をつなぎ合わせてAIで解析。将来的にはキャベツの育成状況から収量の予測を目指すプロジェクトです。
その様子を取材すべく、Ledge.aiは特急電車で茨城県へ。キャベツ収量予測の実証実験を進めるスカイマティクスのお二人と、実験に協力されているひらさわファームの平澤さんにお話を伺いました。
株式会社スカイマティクス セールスマネージャー
榎本 真貴
株式会社スカイマティクス システムエンジニア
平澤 協一
ひらさわファーム
上空をドローンが飛行。キャベツの状態が一目瞭然
はじめに、実際に圃場の上空をドローンが飛行している様子を見せていただきました。GPSであらかじめ飛行ルートが設定されているため、難しい操縦は必要ありません。
実際にドローンが飛び立つ様子がこちらです。
圃場上空を往復しながら、リズムよく写真を撮影していました。
「2週間に1度、圃場での撮影をおこなっています。今回の実証実験では1回の飛行で150~200枚ほど、全6回の飛行で1,000枚前後の写真を撮影し、キャベツのサイズ認識の精度向上に役立てます。
2週間に1度、圃場での撮影をおこなっていますが、キャベツは畑に苗を植えてから約60~90日で収穫するので、今日の撮影では2週間前と比べてかなり成長しています。
キャベツは品種や地域による違いだけでなく、成長度合いや天気によっても見え方が変わってくるため、膨大な量のデータを集める必要があります」
上空から見ると、キャベツが隙間なく植えられているのがよくわかります。特に圃場の中央部分は、わざわざキャベツの間を歩かなければ状態が見られませんが、空撮画像からは一目瞭然です。
画像提供:株式会社スカイマティクス
「数百枚の写真をつなぎ合わせることで、圃場全体を1枚の高解像画像にまとめることができます。その画像は、キャベツを1個ずつ分析できるほどの解像度があります。
画像では、
- ピンクの枠が大きなキャベツ
- 青の枠が小さいキャベツ
- 緑と黄色の枠は平均的なサイズのキャベツ
を示しています。現在はさらなる精度向上のため、全国のキャベツの画像データを集めています」
このような分析データがあれば、育成状態が悪いエリアにピンポイントで効果的な対策が打てます。日本中のキャベツの状態がドローンによる画像認識で把握できるようになる日も来るかもしれません。
葉物野菜は画像認識とベストマッチ。農家の勘より正確に育成状況を把握
――そもそも、なぜ収量を正確に予測することが重要なのでしょうか?
「ひらさわファームのキャベツはサラダなどに加工される業務用です。一般的な農家のように、農協に全量を買い取ってもらう訳ではないので、安定した出荷が求められます。
もし契約した量を出荷できなければ翌年の契約に響くため、取引先との出荷量契約をしっかりと守る必要があります。」
「現在はいわゆる『農家の勘』で収量を取引先に伝えていますが、勘も外れることはあり、契約する上では少々心もとない。
今回、上空から圃場を撮影し、分析した画像を見ました。
なんと、大量のキャベツの中から生育状態の悪いキャベツが一目で判別できている。畑を巡回するよりも正確に、効率よく育成状況を把握できると確信しました」
まだ実証実験の段階にも関わらず、実際にAIで分析したデータを元に肥料を追加をするなどして、効率のよい作業ができているそうです。
実際に見学もしましたが、圃場は広大なのに加え、今回見学した場所以外にも周辺に点在しており、キャベツの状態をこまめに人間の足で見て回るには相当な時間がかかります。育成状況を正確に把握するのも人手では難しいでしょう。
「特にキャベツや白菜などの葉物野菜は、上空から撮影すると収穫物が鮮明に確認できます。初期の段階から画像処理分析の精度が高く、これなら実用化できると確信しました」
根菜などは上空から収穫物を撮影できないため、上空から撮影された画像による分析には課題が残ります。収量予測にドローンが活用された背景には、ドローンによる画像認識とキャベツの意外な相性の良さがあったんですね。
AI導入の主役は農家。収量予測から見える農業の未来
――これらの技術を扱うにあたって、どのような姿勢で取り組まれているのでしょうか?
「圃場の管理をしている生産者でなければ、分析後の画像を見たところで、育成不良の理由は判別できません。生産者であれば、植え残しなのか、養分が足りていないのかなど、過去の作業経験から育成不良の原因を突き止めることができます。
私たちの仕事は、作業の判断を助ける『農業支援』。あくまで作業の主体は生産者自身だと考えています」
AIという先端技術を扱うからこそ、多くの人が活用するツールを作るのに必要なのは、課題の当事者を取り残さない姿勢。農業では生産者に寄り添う姿勢が不可欠です。
「こまめに圃場の様子を把握したくても、生産者の繁忙期は忙しく、ドローンを飛ばす時間はありません。その対策としてドローン飛行技術のトレーニングや技能認定をおこない、ドローン飛行技術者を増やす取り組みもしています。」
そうすることで、生産者は育成状況把握を外部に委託でき、繁忙期でも収量を適切に予測することが可能になります。生産者の経験やノウハウだけで作物を育成するよりも、外部の技術をうまく活用することが、効率の良い生産には重要となります。
「今後も契約した分のキャベツをしっかり出荷することで、自分たちのビジネスとして販路を確保していきたいです」
「農業は日本の『食』を支える重要な産業です。その農業に最新技術を投入することで、農業従事者の減少や高齢化といった社会問題の解決に寄与したいと考えています」
農業ではこれまでも農薬散布などにドローンが活用されていました。そこにAIが組み合わさることで、ドローンを活用できる領域はますます広がっています。今回の取材では、まさに現場で農業とAIのコラボレーションを目にすることができました。
農業へのAI導入はこれから本格的に始まるフェーズ。農家が培ってきたノウハウにAIが組み合わさり、新しいシナジーが生まれています。先端技術の積極的な導入が農業が進化するカギになるのは間違いありません。