人とテクノロジーを結びつけるSociety 5.0の実現により、私たちの生活の質は一層高まることでしょう。この記事では、今注目のSociety 5.0の仕組みや、超スマート社会が解決する課題、インパクトを与える分野について解説していきます。
Society 5.0とは
Society 5.0は「超スマート社会」と表現されることもあります。Society 5.0はその定義にもある通り、サイバー空間とフィジカル空間を隔たりなく結びつけることを目標ととしています。例えば、これまで私たちは必要な情報を自らの手で一から見つけ出し、分析する必要がありました。Society 5.0が目指す社会では、サイバー空間に存在するAIが状況に応じて必要な情報を瞬時に見つけ出し、その分析結果をフィジカル空間にいる私たちに提供してくれます。
スマートシティとの関係
近年の ICT・IoT・データ利活用型スマートシティは、「環境」「経済活動」「交通」「通信」「教育」「医療・健康」など、複数の分野に幅広く取り組む「分野横断型」のスマートシティをうたうものが増えてきています。Society 5.0は、このような都市や地域の抱える諸課題の解決し、新たな価値を創出し続ける「スマートシティ」を推進しています。
Society 5.0までの軌跡
では、Society 5.0の「5.0」とは一体何を表しているのでしょうか。
Society 5.0は、これまでの狩猟社会(Society 1.0) 農耕社会(Society 2.0) 工業社会(Society 3.0) 情報社会(Society 4.0)を土台とした、人類史の中で5番目の新しい社会を指します。
これまでの情報社会(Society 4.0)では、フィジカル空間にいる私たちが、情報を得るために、インターネットというサイバー空間にアクセスすることは可能でした。しかし、人の労働や活動能力には限界があるため、あふれる情報から有効な情報を見つけて分析する作業は時間がかかり、かなり非効率的でした。もっとマクロな視点で見ると、Society 4.0までの社会では、経済や組織といったシステムが優先され、個々の能力などに応じて個人が受けるモノやサービスに格差が生じている面がありました。
内閣府によると、Society 5.0という未来社会では、健康・医療、農業・食料、環境・気候変動、エネルギー、安全・防災、人やジェンダーの平等などのさまざまな社会的課題の解決とともに、国や人種、年齢、性別を越えて必要な人に、必要なモノ・サービスが必要なだけ届く快適な暮らしが実現します。
Society 5.0の仕組み
Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーや、スマートフォンなどのIoTデバイスなどからの膨大な情報がサイバー空間に蓄積されます。サイバー空間では、このビッグデータを人工知能(AI)が解析することで、個人のニーズに合った有効な情報が、より迅速にフィジカル空間にいる私たちのもとに届きます。
Society 5.0を支える技術
Society 5.0の根幹を支える主なテクノロジーはAI、IoT、ICTです。
学術的な視点では「AI」という言葉は多義的であり、人によってその捉え方は異なります。AIの定義は、専門家の間でも明確に定まっていないのが現状です。
ここ数年で、IoTは、21世紀の最も重要なテクノロジーの1つになりました。現在、内蔵されたデバイスを介して、日常のあらゆるモノをインターネットに接続できるようになりました。これにより、「人」と「モノ」の間での通信が可能になりました。
Society 5.0が解決する社会問題
国連の「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)のガイドラインに沿った持続可能な産業化の促進Society5.0の中でも大きなテーマです。Society 5.0は地球温暖化、健康や福祉、少子高齢化などの課題を解決し、持続可能な社会を実現することが期待されています。
地球温暖化に原因には温室効果ガスの排出が挙げられます。現在、日本を含む世界各国で「脱炭素社会」を目指すさまざまな取り組みが実施されています。例えば、千葉県の柏の葉では、脱炭素社会に向けた環境に優しい暮らしを目指し、太陽光発電パネルの劣化状況自動検知システムの導入や、域内施設のエネルギー関連データプラットフォームの構築などを実施しています。イギリスのマンチェスターシティ市では、街灯や道路上の各種設備などにIoTタグを設置し、異なる場所や高度で大気質を把握しています。
Society 5.0では、あらゆる世代が健康で生き生きと暮らせるまちを目指し、多様なデータを活用した健康サービス・アドバイスの提供や、来院者の人流データを活用した患者の待ち時間軽減を実現されます。会津若松市ではスマートフォンなどで母子健康手帳の情報が見られたり、AIが簡易な質問に回答するサービス、自宅にいながら医師の診察を受けられるオンライン診療の取り組みなどを、ICTを活用することで実現しています。
日本では少子高齢化が進行することで、労働力不足が深刻な問題になりつつあります。Society 5.0では、自動運転やドローン飛行などの技術導入により、物流における運転者不足の解決や、都市部での清掃、警備員のサポートなどにつながり、人手不足を解消できます。また、医療・介護の分野での人手不足は、現場へのAIやロボットを利用した自動診療などの導入で解決を目指しています。
Society 5.0が提供する新たな価値
内閣府によると、Society 5.0は農業、交通、エネルギーなどの分野で新たな価値を生み出す可能性があるとしています。
農業
Society 5.0では、気象情報、農作物の生育情報、市場情報、食のトレンド・ニーズといったさまざまな情報を含むビッグデータをAIで解析することで、ニーズに合わせた収穫量の設定や、天候予測などに沿った最適な作業計画、消費者が欲しい農作物を欲しい時に入手ができる環境などが実現します。社会全体としても、食料の増産や安定供給、農産地での人手不足問題の解決、食料不足などの解消が可能となります。
交通
Society 5.0では、各自動車からのセンサー情報、天気、交通、宿泊、飲食といったリアルタイムの情報、過去の履歴などのデータベースといったさまざまな情報を含むビッグデータをAIで解析することで、好みに合わせた観光ルートの提供や天気や混雑を考慮した最適な計画が提案され、旅行や観光がしやすくなります。また、自動走行で渋滞や事故がなく、快適に移動することなどが可能になります。社会全体としても、交通機関からのCO2排出が削減され、地方の活性化や消費の拡大にもつながります。
エネルギー
Society 5.0では、気象情報、発電所の稼働状況、EVの充放電、各家庭での使用状況といったさまざまな情報を含むビッグデータをAIで解析することで、的確な需要予測や気象予測を踏まえた多様なエネルギーによって、安定的にエネルギーを供給することや、供給予測による使用の最適提案などによる各家庭での省エネを図ることなどが可能になります。社会全体としても、エネルギーの安定供給や温室効果ガス排出の削減などの環境負荷の軽減を図れます。
Society 5.0の今後
Society 5.0ではこれからも最先端のテクノロジーを駆使することで、個人の能力差に関係なく、誰もが平等にモノ、情報、サービスにアクセスできる仕組みを構築します。一方で、私たちは決してAIやロボットに使われる側になるのではなく、このような最先端のテクノロジーをうまく使いこなし、生活の水準を高めることが求められるでしょう。