ソフトバンク、孫正義氏「日本はAI後進国」発言を自ら変えられるか

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ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 技術戦略統括 AI戦略室 室長の松田慎一氏、ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 技術戦略統括 AI戦略室 企画室 室長の國枝良氏(左から順に)

ソフトバンク株式会社、ソフトバンクグループ株式会社、ヤフー株式会社、国立大学法人東京大学(東大)は7月30日から、世界最高レベルの人工知能(AI)研究機関として、「Beyond AI 研究推進機構」で共同研究を開始した。ソフトバンク、ソフトバンクグループおよびYahoo! JAPANから、10年間で最大200億円を拠出する。

ソフトバンクと言えば、2019年7月18日にソフトバンク主催の法人向けイベント「SoftBank World 2019」で、取締役会長の孫正義氏が「日本はAI後進国」と発言したことが大きく報じられたことも記憶に新しい。

今回はソフトバンクの担当者に、「Beyond AI 研究推進機構の設立は、孫正義氏による『日本はAI後進国』発言を踏まえたものなのか?」や「投資金額は10年間で最大200億円と膨大な金額だが、なぜこの金額をつぎ込むのか?」など、質問をぶつけてみた。

あらゆるAI研究の水準を世界レベルに引き上げる

まず、「昨年、ソフトバンクの孫正義氏が『日本はAI後進国』と発言したことが大きく報じられた。Beyond AI 研究推進機構の設立は、そのような現状認識を踏まえたものなのか?」と聞くと、ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 技術戦略統括 AI戦略室 室長の松田慎一氏は「それは背景にあると思います」と答えた。

松田慎一氏

──松田慎一氏

「日本のAI技術がグローバルのなかで『トップか』『後進国か』という認識については、必ずしもすべての分野において、日本がトップという認識は持っていないと思います。しかし同時に、東大をはじめ、日本で非常に優秀な研究や技術が数多くあることも知っており、その潜在可能性を伸ばしたいと考えていると思います。

今回の研究機関における取り組みのなかで、日本のAI研究をさらに伸ばしていく。あらゆるAI研究の水準を世界レベルに引き上げていく。そうしたことを目指しています」

東大にもリターンがあることが重要だと考えた

「ソフトバンクには、どのようなビジネス的にもメリットがあるのか?」と聞くと、國枝良氏は東大が持つ「『起業』というマインドが非常に高い」ことに加え、孫正義氏が「東大にもリターンがある取り組みであることが重要」と、強いこだわりを持っていたことにも言及している。

──國枝良氏

國枝良氏

「単純に頭脳だけではなく、大学の先生方のマインドも重要です。とくに、東大は『起業』というマインドが非常に高いです。東大発のスタートアップ企業は日本ナンバー1で360社以上、IPO(新規上場株式)も10社以上と聞いています。ソフトバンクにとって、このように研究成果を事業化するというマインドが高いことは非常にメリットがあります。

また、一般的には、我々のような企業だけが利益を得る共同研究は多いと思いますが、孫は『東大にもリターンがあることが重要』という考えを持っています。今回の研究機構に、普通の起業の考え方とは異なる『CIP制度』という制度を活用するのも、われわれが非常にこだわった部分です。

海外の大学では、起業し利益を得るというパターンが多いです。CIP制度を使うと、これに匹敵するような利益を東大が得られるため、次の研究費用や人材確保などに活用できます。東大は国立大学なので、国の税金で研究費用を賄っています。海外の大学は、非常に資金源があることも多いと思います。このような課題もこの取り組みで解決できればと思っています」

なぜ最大200億円と巨大な金額をつぎ込むのか

「Beyond AI 研究推進機構」の組織体制

「投資金額はYahoo! JAPANなどもあわせて、10年間で最大200億円と巨大な金額だが、なぜこの金額をつぎ込んだのか?」と聞くと、松田慎一氏は「ソフトバンクのグループ全体の、AIに対するコミットメントの表れ」と述べる。

──松田慎一氏

「ソフトバンクは、グループ全体のあらゆる事業戦略において、AIを中心に掲げています。(この投資金額は)AIを中心に事業を進めるソフトバンクのグループ全体の、AIに対するコミットメントの表れだと思います」

──國枝良氏

「Beyond AI 研究推進機構という名前のとおり、今回の取り組みでは『次のAI』で日本が主導権を握ることが1つのゴール設定です。それにあたって、今回は基礎になる中長期の研究と、いち早く事業化につなげるハイサイクルの応用研究という2つの領域を、同時に手がけていきます。この両輪を動かすためには、金額がそれ相応に必要です。

また、AIを手がける優秀な研究者は海外にも多くいらっしゃいます。そのような方々をお招きするためにも、ある程度の金額が必要です。そのような状況を踏まえると、10年間で最大200億円は必要な金額だと思います」

「共同研究ではなく、研究推進機構という形」に強みがある

「Beyond AI 研究推進機構の強みは何か?」と聞くと、國枝良氏は「共同研究ではなく、研究推進機構という形」にあると切り出した。

──松田慎一氏

「今回の目的は、東京大学とソフトバンクが研究から事業化、利益が東大に戻るというエコシステムの構築まで手がけることです。それにあたり、同研究機構には、東大の人材や知財に加え、ソフトバンクからもビジネスにつなげる事業推進や事業企画・開発の力、AIの開発能力を提供します。このようにAIをビジネスに直結させるさまざまな機能を持っていることがほかの研究機関とは異なると思います」

──國枝良氏

「今回は共同研究ではなく、研究推進機構という形で立ち上げました。通常の共同研究では『知財を生み出す』ところに主眼が置きますが、我々の取り組みは知財を事業に生かし、『日本はもちろん、世界を変えていく』という大きな目的があります。

事業化という明確なKGI(最終目標)を掲げるために、通常の共同研究ではなく、研究推進機構という運用体制にしたことが強みの1つだと思います。このような運用体制を導入したため、『東京大学の頭脳と、我々ソフトバンクの事業化の強みを最大限生かすことができるのではないか』と考えています」

「世界市場で戦うには『スピード感と実行力』が非常に重要」

2019年12月6日に実施した共同記者会見の様子

最後に「世界市場のなかで、Beyond AI 研究推進機構はどう戦っていくのか?」と聞くと、國枝良氏は「世界市場のなかで戦うためには『スピード感と実行力』が非常に重要」と述べる。

──松田慎一氏

「Beyond AI 研究推進機構のなかには、グローバルな視点でAI研究に関する提言を行うアドバイザリーボードを設置しています。彼らから、AI研究が『グローバルなレベルであるか』『グローバルで戦っていけるか』『グローバルで連携できるか』といったあらゆる視点で見ていただき、ご意見をいただきます」

──國枝良氏

「世界市場のなかで戦うためには『スピード感と実行力』が非常に重要だと思います。昨年12月に東大でBeyond AI 研究推進機構に関するプレスイベントを開催し、それから約半年で同研究機構を本格始動しました。かなりスピード感を持ち、実行できていると我々は思っています。このようなスピード感を継続していく。それがないと、ゲームチェンジにならないと思います。

スピード感を高めるためにBeyond AI 研究推進機構の公式サイトも開設しました。公式サイトで研究状況や研究成果を発表する予定です。このように情報をオープンにしながら、常に注目され、研究や取り組みに共感を持っていただける方を増やしていくことも、世界市場のなかで戦っていく1つの方法だと思います」

今後、ソフトバンクは東大との研究機関の発足により、「AI後進国」発言を自ら覆せるのか。今後の動向に注目したい。