AI開発者向けGPUクラウドサービス「SOROBAN」 月額固定料金で安いのに高性能、なぜ実現できた?

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AI(人工知能)の開発においては、GPUを利用することが一般的だ。これは、「GPUを使ったほうが開発が快適!」というレベルの話ではなく、「AIの開発にGPUは必要不可欠」とまで言えてしまう。この背景にあるのは、複雑な(≒高度な)AIの開発が求められていたり、膨大なデータ量の学習をしたりするケースが増えているからだ。

ただ、自社内(もしくは研究機関や個人)でGPUを抱えられているケースは少ない。高額である点、保守運用が容易ではない点などがこの理由にある。では、多くのAI開発ベンダーはどのようにGPUを利用したAI開発に着手しているのだろうか。答えは簡単で、「GPUクラウドサービス」を利用しているのだ。

代表的なGPUクラウドサービスは、AWS、Azure、GCPなどが挙げられる。実際、Ledge.ai読者でもこれらのサービスを利用している人もいるだろう。だが、多くのGPUクラウドサービスは従量課金制であり「使っているうちに費用が高騰した」「さまざまなサービスやAPIを使った結果としてクラウドベンダーにロックインされてしまって抜けられなくなった」という問題点もよく耳にする。

AI開発に取り組むのであれば「高性能なGPU」を「明確な料金体系でかつお手頃な料金で」使いたいという2点はユーザーにとって実現してほしくてたまらない要素ではないだろうか。

そんなAI開発と切っては切り離せないGPUクラウドサービスにおいて、Ledge.ai読者の方々に紹介したいのが「SOROBAN(そろばん)」だ。株式会社ハイレゾが提供しているGPUクラウドサービスで、何よりの特徴は(想像のとおり)「料金は安く、運用費も明確。にもかかわらず、GPUは高性能」という、いわばAIの開発に携わるすべての人にとって理想的なサービスなのだ。

SOROBANで利用できるGPUと料金


高性能なGPUを安く提供するために専用のデータセンターを作った

GPUクラウドサービスの裏側にあるのは、データセンターだ。データセンターとは、サーバーやストレージ、そのほかの危機などを安全に保管し、運用するための施設のこと。セキュリティはもちろんだが、データセンターの運用には熱対策としての空調が必要になる。だが、ハイレゾのデータセンターではエアコンを一切使わずに運用しているという。エアコンの稼働をなくすことで、電気代を安く抑えることができ、結果的にGPUを安価に提供できている。これについてハイレゾの中野氏は次のように話す。

「ハイレゾは、データセンターを石川県志賀町に作りました。志賀町は、1年をとおして涼しく、地震があまり発生しづらい土地です。このデータセンターはGPUによる演算力の提供に特化しており、外気を最大限効率よく活用するためのエアフロー設計が施されています。また、都市部に比べてそもそもの電気料金が安く、ランニングコストを抑えられています。ですので、我々が提供するGPUクラウドサービスを安くご利用いただけるのです」(同氏)

SOROBANが他社のGPUクラウドサービスとは異なり“月額料金を固定”で使えるのにも、上述したランニングコストを抑えたことが寄与しているそうだ。SOROBANの取り組み当初からハイレゾではコンセプトに「さまざまなユーザー様が安心して使えるサービス」を掲げていたそうで、SOROBANはまさにこれを実現したサービスなのである。

また、本稿冒頭でも記載したように、他社のGPUクラウドサービスは従量課金が多く、利用している内容によっては料金が大きく膨れ上がる可能性もある。しかし、SOROBANでは月額料金固定という、明瞭な価格設定をしたことで、GPUクラウドサービスを初めて使う人にとっても安心して利用できるのだ。

ハイレゾのマーケティングパートナーとして関わるNTTPCコミュニケーションズの庄司氏も「SOROBANは月額固定という点で、メジャークラウドとの差別化インパクトが非常に大きいです。従来のクラウドサービスにおけるGPU利用は、従量課金制ゆえに予算計画が立てにくく、また特に学習ワークロードにおいては所要時間が読みにくい、かつ長時間に及ぶため、請求が高額になり開発部門の予算を圧迫します。当社のお客さまでも、某クラウドサービスで月額700万円もかかってしまい、利用を断念したほど。このような企業にとってSOROBANはすばらしい解決策になりえると思います。多くの企業や研究開発機関において喜ばしいことではないでしょうか」と話す。

安価なのに「NVIDIA A100 Tensor コアGPU」を使える理由

料金形態が非常に魅力的なのはおわかりいただけたと思うが、SOROBANで使えるGPUにも注目したい。

SOROBANで提供するGPUは、NVIDIAが2020年に発表し提供を開始した「NVIDIA A100 Tensor コアGPU」だ。

NVIDIA A100は前世代の「NVIDIA V100」と比較すると、最大20倍のパフォーマンスを発揮できるGPUだ。NVIDIA公式サイトでは、ビッグデータ分析ベンチマークの結果が公開されており、CPU単体の処理能力を“1”だとすると、NVIDIA V100 32GBが“11”のところ、NVIDIA A100 40GBは“44”もある。ちなみにNVIDIA A100にはよりメモリーの大きな80GB版もあり、こちらのベンチマーク結果は“83”と驚異的な数値だ。
※SOROBANで利用できるGPUは「NVIDIA A100 40GB」

また、BERT(最先端のAI対話型モデル)での処理比較では、CPUのみでの処理と比べるとNVIDIA A100 40GBでは245倍、同80GBでは249倍で、こちらも驚異的なパフォーマンスを提供してくれるGPUなのだ。

そのほかNVIDIA A100に関する詳細はNVIDIAの公式サイトでチェックしてほしい。

本稿冒頭でも触れたとおり、いま、AI開発においてGPUの利用は必須とまで言われるほどになっている。事実、NVIDIAの佐々木氏は「CPUだけでAIの開発ができないわけではありません。ただ、昨今の膨大なデータ量を学習させるような高度なAI開発においては、GPU――それも高性能なGPUを使うことで処理速度が10倍以上といったレベルで高速化可能です。GPUは『あると便利なもの』ではなく、『高度なAI開発には必要不可欠』といえる製品です」と話す。

ハイレゾの小堀氏は、昨今のAI開発について次のように説明してくれた。

「企業内でのAIサービス開発はもちろん、学術研究においてAIの開発は多様化しています。開発の高度化と研究における多様化が進んだことで、非常に高性能なGPUが求められるようになりました。

しかし、高性能なGPUを自社内で抱えることは難しく、そういった背景から我々のようなGPUクラウドサービスに注目をいただいています」

では、なぜSOROBANは安価な料金形態にもかかわらず、A100という高性能なGPUを提供できるのだろうか。

「ハイレゾ様は、NVIDIAが展開するパートナープログラム『NVIDIA Partner Network Cloud Service Provider Compute 契約(CSP契約)』を国内企業として初めて締結いただいた企業様です。CSP契約は、NVIDIAのデータセンター向けのGPUのリソースをクラウドサービスとして提供可能とするための契約です。こうした取り組みがあることと、日本国内で最大級のデータセンターを保有していることもありNVIDIA A100を提供できるようになりました」(NVIDIA 佐々木氏)

ワンストップですべて提供可能 柔軟に要望に応えられる体制

安価かつ高性能なGPUを提供できるSOROBANだが、GPUの利用などにあたってユーザーニーズにあわせてフォローアップできる体制を敷いているのも特徴のひとつだ。

ハイレゾの中野氏は「できる範囲で柔軟に対応する意向がある」と話す。

「先にもお伝えしているとおり、SOROBANは『さまざまなユーザー様が安心して使えるサービス』をコンセプトにしています。

他社のGPUクラウドサービスを利用する際、別途外部のベンダー様に依頼し、設定してもらうケースもあるそうですが、我々の場合はワンストップですべて提供できます。また、ユーザー様の要望に応じられる範囲で応じる意向もあり、ユーザー様が求めるカスタマイズなどもできるだけ応えていけるようにしています。

価格についても、NTTPCコミュニケーションズの庄司さんからおっしゃっていただいたように、明瞭な価格設定にした理由がまさにこれに当たります。固定料金として提示することで、より使いやすいサービスにしました」(中野氏)

また、ハイレゾの小堀氏は続けて「弊社の代表の意向としても、GPUクラウドサービスの提供価格を適正な価格ですべての人に行き渡らせたいという思いがあります」という。

「GPUクラウドサービスの価格は高止まりしている印象を受けています。高価格になるにつれ、AIを開発するベンチャー企業には負担をかけてしまいます。これは企業様だけでなく、AIに関して研究を進める学術機関にも同じです。

いま我々が目指しているのは、適正な価格で高性能なGPUを提供することで、日本におけるAI市場をより活性化させていくことです」(小堀氏)

ちなみに、学術研究機関向けには、アカデミックプランとして特別価格を提供する予定があるそうで、ご相談いただきたいとのこと。また、SOROBANのサービス発展に一部協力するなどを条件に、別途料金を割り引く施策などもあるという。

さらに余談だが、本サービス名のSOROBANは、その名のとおり「そろばん」を由来としているそうだ。日本特有の“計算するもの”から着想したネーミングで、日本国内の方はもちろん海外の方からも受け入れてもらいやすくするために、SOROBANというサービス名にしたとのこと。

「SOROBANには日本のAI業界を盛り上げる意味でも期待しています」

NVIDIA A100などのGPUの提供に協力するNVIDIAの佐々木氏は「国内最大級のデータセンターで提供してくれることに、非常に安心感がある」という。

「高性能なAI開発をすると、長時間GPUを稼働させることになります。そうしたとき、冷却機能が不十分だと、GPUの温度が上がりすぎて、GPU自体の演算能力が低下します。

ハイレゾ様のような国内最大級のデータセンターであり、しっかりした設備を用意されているのであれば、SOROBANを利用されるユーザー様にとっても安心感があるのではないでしょうか。そしてSOROBANによって、学術研究やAI開発企業をより支えられるのであれば、NVIDIAとしても非常にうれしい限りです。

また、GPUを提供するクラウドサービスでは、AWSさんやマイクロソフトさん、グーグルさんなどがいらっしゃいます。我々NVIDIAとしてもこれらの企業様は“お客様”なのでとても大切ですが、ハイレゾ様のように日本の会社からしっかりとしたデータセンターによってGPUが提供されることについて、日本のAI業界を盛り上げる意味でも期待しています」(佐々木氏)

また、NVIDIAの岩永氏は次のように話した。

「GPUの提供という面でいえば、クラウド以外にもオンプレの部分でAI開発向けのデータセンター向けGPUを搭載した製品も存在しています。NVIDIAとしては、AI開発をされるすべての方に向けて、従来のオンプレ環境でのGPUだけでなく、『ハイレゾ様のSOROBANによってクラウドGPUを使うという選択肢が増えた』こと自体にとてもうれしく思っています。

さらに、今回の取組みのようにハイレゾ様だけでなく、NTTPCコミュニケーションズ様の『Innovation LAB』というスタートアップ企業も含めたさまざまな企業とコラボレーションできるプログラムにも提携させていただいたことで、日本におけるAIの活性化に貢献できるのではないかと、いまから楽しみです」(岩永氏)

Innovation LABは、NTTPCコミュニケーションズが展開するAIコラボレーションプログラムのこと。先進的なAI技術を通して社会や産業にイノベーションを起こそうとしている企業・団体、それを支える多種多様な強みをもつ人々が集まり、「持続的なパートナーシップ」を形成することで、ひとつの企業によるそれを上回る、新たな価値を共創することをミッションに掲げている。ちなみに、レッジも参画している。

NVIDIAの佐々木氏および岩永氏の話を受け、NTTPCコミュニケーションズの庄司氏は「学術研究機関や一般企業が自由にGPUを使えるようにするためには、SOROBANはキラーコンテンツになるのではないか」という。

「私たちNTTPCコミュニケーションズは、キャリアビジネスの特性を活かして、GPUサーバーを中心にデータセンターや広帯域ネットワークなど、AI開発のインフラをワンストップで提供するプラットフォームビジネスに取り組んでいます。オンプレミスとクラウドはそれぞれ、AI開発のワークロードやレベル、データ量、システム要件などによって向き・不向きが異なります。

そのなかでも特に、AI開発の初期段階における『PoC(概念実証)』や『パフォーマンス検証』といった用途では、オンプレよりもクラウドが最適だと思っていますので、ぜひともSOROBANを活用していただきたいです」(庄司氏)

続けて、「Innovation LAB」のプロジェクトリーダーを務めている庄司氏は「SOROBANは、GPUを活用した地方創生にも貢献できる可能性がある」と語る。

「NTTPCコミュニケーションズでは、“共創ビジネス”をコンセプトにしたAIコラボレーションプログラム『Innovation LAB』を展開しています。さまざまなAIスタートアップや学術研究機関、メーカーなどがパートナーとして加盟しており、ハイレゾさまもそのうちの一社です。このプログラムでは、パートナー同士で技術検証や研究開発、マーケティング活動などさまざまな取組みを行っているのですが、注力している分野として『地方創生』があります。GPUを活用したAI/DX化の推進により、人出不足を中心に地方の地場産業が抱える課題解決に取り組む。すでに大分県などで取組みが始まっていますが、この際のGPUプラットフォームとしてSOROBANが利活用できるのではないかと考えています」(庄司氏)

最後にハイレゾの中野氏は「SOROBANは、AI開発に携わる方に向けたサービスです。そのため、ユーザー様に向けて、多くのサービスを拡充させていきたいと考えています。また、データセンターを志賀町に設立したことを事例のひとつにして、さまざまな地方自治体にも同様のケースを展開できればと考えています。

現状では、GPUのクラウドサービスを提供している主要な企業は海外のメガ企業です。ハイレゾは国内最大級のGPU専用データセンターを所有していることから、海外企業に対抗できるのが我々だと思います。そのためにも、NVIDIA様とNTT PCコミュニケーションズ様のお力を借りつつ、GPUクラウドサービスとして世界に対抗できるサービスの実現を目指してまいります」と話し、取材を締めくくった。