マイクロソフトの黄金時代を築いたとされるOS「Windows 95」。その開発チームでチーフアーキテクトを務めていた日本人、中島聡。彼はWindows95のプロトタイプをはりぼてのコードで作り、5分間のデモでビル・ゲイツの承認を得たといいます。
我々の生活にAIが浸透し、あらゆることが効率化すると、人間の仕事がなくなり、働かなくても良くなるのではないかと言われます。この「超AI時代」に向けて、テクノロジーを使う側と使われる側に分断される社会でどう生きていくか? インターネット黎明期からテクノロジーを追い続ける中島氏に聞きました。
テクノロジーを理解する若い人たちが勝つ時代
――作る人が増え、さらにテクノロジーが発展する。するとあらゆるものが効率化され、社会が使う側と使われる側に分断されると思うのですが、どうでしょう?
「そうですね。間違いなく、テクノロジーで生産性は上がっていきます。そしてAIを作る人、AIに限らずテクノロジーを使う企業の価値は、さらに伸びていきます。
労働人口の20%は働いていて、あとは働かないという世界が確実に来ると思っています。それが幸せかどうか、望むか望まないかとは別に、そうなります」
――20%が働き、80%が働かない世界、どちらが良いかどうかは別として、中島さんはその状況をどう捉えているのでしょうか?
「個々を見たときには、20%に入りましょうよ、とはみんなには言っているのと、自分は入りたいと思っています。
全体でいうと、20%の人たちが、残りの80%の人たちに「遊んでていいんだ」という意識を作ってあげることが大事になると思います」
テクノロジーを知り、作れる人が20%になる。20%に食い込むためには何が必要なのか、どんなアクションをするべきなのかが、気になるところ。
「答えはシンプルで、勉強することですね。ものづくり、エンジニアリングを勉強する必要があります。AIがどれだけ技術的に進化しようと、最終的にそれを設計するのは人なので。
『設計する』という仕事はずっと残ります。具体的には、課題に対して技術をどう結びつけていくか、という部分です」
ものづくり、エンジニアリングを勉強するといえば、中島氏が立ち上げたNPO法人「Singularity Society」とオンラインサロン。この2つに「テクノロジーを使う側」になるためのカギが多く詰まっていそうです。
作る人が集まる実験場としてのNPO法人「Singularity Society」を設立した理由
――“作る人”を作る場「Singularity Society」を設立されていますが、その背景には、日本が抱えている課題や世界に置いていかれている現状、中島さんの原体験からの思いがあるのでしょうか?
「日本国内の課題は多くありますが、別に私はそれを解決しようとはしていません。そういった課題の中に、優秀な人材が埋もれてしまっているのが、非常に勿体無いと思っています。
アスキー時代を振り返ると、西(和彦、元アスキー社長)さんが夢を語りをお金を集めてくる、古川(享、元アスキー社員で日本マイクロソフト初代社長)さんが新しいモノや情報を持ってくる、そうしておもしろいことができ、生まれていました。
当時の西さんや古川さんの役割を私が担い、Singularity Societyに作りたい人が集まり、ビジネスの種が生まれていく。Singularity Societyはいわば、実験場ですね」
オンラインサロンでは、得意でないことを続けても大変なので、できることをやり、いつもの仕事の風景を見せていると、中島氏はいいます。
実際、Slack上でリモート開発している様子も、リアルタイムで見られるそう。
「Singularity SocietyはNPO法人です。なので、副業禁止の企業に所属する優秀な人材も集まれる、新しい場でもあります。そして、Singularity Societyに集まる人には、とりあえず作ってもらうことを意識してもらいます。
ただコードを書くだけではなく、書いているコードがどうビジネスに結びついているかいるかを理解しているかが重要です。一行一行が経営判断で、アメリカはそれができる人とできない人で年収に大きな差がありますし、できなければただの歯車になってしまいます」
「最後に改めて言いたいのは『とにかく動くものを作ること』が重要だということ。テクノロジーが社会に浸透し、テクノロジーを扱ううえで、それを意識するのは必須ですね」