「河野大臣の『縦割り110番』に寄せられた4000件の意見を5分でまとめてレポート作成しました」:スタートアップ社長に聞く!

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「寄せられた意見をまとめるレポートのイメージは、河野太郎行政改革担当大臣による縦割り110番の例があります。国民の意見として寄せられた4,000件超の意見を、河野大臣がすべてに目を通すことに難儀していたところを弊社がお手伝いさせていただきました。『YOSHINA』で分析し、キーワードの繋がりがわかるレポートを作成しました」

変化の激しいIT業界において、スタートアップと呼ばれる新興企業はどのような戦略を考えているのだろうか。

株式会社レトリバは、PFI(Preferred Infrastructure)からスピンアウトして2016年に設立したスタートアップ企業だ。自然言語処理の技術を活用し「YOSHINA」や「TSUNADE」などさまざまなプロダクトを産み出している。AIブームも落ち着き、コロナ禍によるテレワーク推進やDX(デジタルトランスフォーメーション)に沸くなかで、どんな変化があったのか。レトリバの代表取締役社長である河原一哉氏に話を聞いた。

聞き手:マスクド・アナライズ (Twitter:@maskedanl

AIを使っているかどうかは重要ではありません

―― マスクド
「コロナ禍において、どのような変化がありましたか?」
―― 河原氏
「弊社は元々テレワークの仕組みがあったので、コロナ禍でも大きなインパクトはありませんでした。しかし、顧客とのやり取りではアポが取れなかったり、データの受け渡しに苦労したり……正直、とまどいもありました。ただ、こうした“とまどい”は最初の緊急事態宣言までで、その後はお互いにオンラインでやり取りできるようになり、利便性が向上しました。

大きなメリットは、商圏が広がったことです。弊社はコールセンター向けの製品を扱っており、東京はもちろん大阪や名古屋だけでなく、コールセンター拠点の多い北海道と沖縄、通信販売の本社が多い九州からの引き合いもあります。従来の対面営業では、遠方への訪問においては入念に準備を重ねて、『何としても契約を取って来い』という雰囲気でした。それがオンライン商談により気軽に営業ができるようになり、ビジネスチャンスが広がりました」

―― マスクド
「ここ数年におけるAIを取り巻く環境はどうなっていますか?」
―― 河原氏
「以前のAIは大手とベンチャーによる共同研究が盛んでしたが、現在では研究よりもどうやって業務に活かすかという視点に変わっています。技術による差別化から、技術を使いこなす段階に移り変わったという認識です。DXブームにおいては、業務で役に立つような地に足の着いた提案を出来るスタートアップが生き残りそうです。

顧客の変化では、製品や機能を理解してもらながら、良いと思ったものを導入する点でしょうか。我々としても、お客様が自分で考えるのは大変ですし、準備やコンサルティングにかかる費用を下げていきたいと考えています。弊社の『YOSHINA』はコールセンター向けのプロダクトとして、課題のレポートというシンプルな機能に落とし込んでおり、お客様にとって選びやすく活用方法をイメージしやすくしています。こうしたわかりやすい機能に特化したプロダクトが増えてくるのは、産業として成熟している証拠だと思います。

画像は『YOSHINA』公式サイトから

問い合わせされる顧客も、2年ほど前は業界トップの大手企業ばかりでしたが、今では数千人規模の中堅企業も増えてきました。これはAIの導入活用に必要な価格が下がった事が要因です。以前は最低でも数千万円かかるったものが、現在は数百万円から導入できるようになっています。そもそも利用者にとっては、AIを使っているかどうかは重要ではありません。あくまで問題解決の手段であり、必ずAIを使えばいいわけではありません。AIを使わずに解決できれば、それに越したことはありません」

河野大臣の縦割り110番で活躍する『YOSHINA』

―― マスクド
「DXブームによる変化はいかがでしょう」
―― 河原氏
「コールセンター向けプロダクトの『YOSHINA』のニーズが増えており、従来はデータ入力止まりだったのが、VoC(Voice of customer)と呼ばれる顧客の意見に耳を傾けるようになりました。ソーシャルメディアで意見は可視化されていますが、データ量が多く匿名なので信頼性に難があります。対してコールセンターに電話するお客様は、企業に対する興味の度合いが高く、きちんとしたフィードバックをもらえます。既存のコールセンターでは寄せられた意見を反映しようにも、コスト削減を重視するため手が回っていませんでした。しかし、巣ごもり需要などでコールセンターの重要性が高まり、付加価値としてお客様の意見を分析する企業も増えてきました。

寄せられた意見をまとめるレポートのイメージは、河野太郎行政改革担当大臣による縦割り110番の例があります。国民の意見として寄せられた4,000件超の意見を、河野大臣がすべてに目を通すことに難儀していたところを弊社がお手伝いさせていただきました。『YOSHINA』で分析し、キーワードの繋がりがわかるレポートを作成しました。

このレポートを人がまとめるのは大変ですし、クオリティにも差が出るでしょう。AIの長所は一定の品質で大量のデータを処理して、レポーティングを自動化出来る点です」

―― マスクド
「企業における意見の収集やレポーティングの重要性が高まっているのですか?」
―― 河原氏
「あくまで我々が提案するのは課題発見です。たとえばコールセンターでは、お客様の声をAIが分析したレポートを経営陣に提出して、日々の改善活動に使ってほしいです。会話の内容を手動で入力するのではなく、音声認識と連動して自動でテキスト化するなど、自動化させることが重要でなのです。

導入事例では、268時間の工数削減に寄与した実績がございます。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のお客様におけるコールセンター向け問い合わせのレポーティング作業において、合計でおよそ512時間かかっていた工数を半分近くの268時間相当に削減しています。通常、文書の目検チェックと深堀テーマの洗い出しに1ヵ月ほど、また、内容精査でさらに1ヵ月かかっていたところ、『YOSHINA』によって目検チェックとテーマの洗い出しを1.5時間に削減できたのです。作業者に依存する工程だったところが、深堀りした内容の精査のみに抑えられた事例です。

コールセンター以外でも、営業担当の携帯電話による会話内容を分析すれば、成績の良い人とそうでない人の違いを分析して、売上につながるトークスキルを展開することもできます。オンライン会議や打ち合わせなら、議事録の自動作成だけでなく、どんな話題が多いかなど内容も分析できます。業務効率化だけでなく、課題解決のハードルを下げる点も『YOSHINA』の強みです」

―― マスクド
「他の差別化要因や自社の強みはどんなものがありますか」
―― 河原氏
「導入いただく顧客の業務に耐えうるプロダクトを開発できるチームがあります。業務で使われるプロダクトと、PoC(Proof of Concept)と呼ばれる実証実験ではプログラムの品質はまるで違いますし、試作品では障害が起こる可能性も高くなります。こうしたコストやリスクを避けて安定して運用できる点は非常に重要ですし、弊社にはこうしたトラブルを起こさないようにするプロダクトがあります。

また、サポート体制はすべて自社で提供していますし、検討段階における評価を支援するサポートエンジニアもいます。

たとえば『YOSHINA』の導入を評価する場合、顧客からデータをいただきフィードバックしながら精度を上げていきます。AIの精度はデータに依存しますし、取り扱いにノウハウも必要なので導入活用における支援は重要です。ここで顧客はYOSHINAに読み込ませるデータについて、 『人が入力した綺麗なデータか?』『SNSの短い文章か?』という傾向を教えます。人間による適切な学習を行えば、新しいデータでもYOSHINAが自動的に学習してくれます。

顧客に寄り添いながら製品導入におけるデータの学習や、運用の準備作業まで支援できるエンジニアは貴重なので、弊社では採用にも力を入れています」

将来的にはマニュアルいらずのソリューションに

―― マスクド
「今後の展望について、いかがお考えでしょう」
―― 河原氏
「『YOSHINA』はレポート機能を強化して、分析軸を増やしたいです。あわせて画面の導線をわかりやすくするなど、 UI/UXの改善を重要視しています。これまで AIの活用には専門知識や技術が必要でしたが、今はそれらをライブラリで実行できるなど、簡素化されています。そこで次の段階では、AIをどう使いこなすかが重要になるので、不慣れな方でも使いやすいプロダクトを提供していきます。理想は、マニュアルを読まなくてもすぐに使えるぐらいにしたいですね。

長期的な展望は、リーガルテックやHRテックに挑戦したいです。すでにリーガルテックでは契約書レビューのサービスなどが出てきていますが、法律の解釈はまだまだ難しいです。どんな業界でもさまざまな法規制があるので、自然言語処理を活用できる場面は多いと考えています。HRテックは、社員のスキルや適性を見つけるタレントマネジメントや、人事評価による透明性を高める取り組みを考えています。また、これまでの組織内におけるコミュニケーション分析は、『誰が何をどれだけ発言したか?』という定量的な評価に留まっており、内容の良し悪しを判断する定性的な評価には至っていません。これはコールセンターとも同じ要領で対応できると考えていまして、長時間の対応が好意的なやり取りなのかクレームなのかでは、取るべき施策は異なります。

すでに異業種の進出としては、バイオインフォマティクス(生命科学と情報科学の融合)において、「GGGenome(ゲゲゲノム)」「CRISPRdirect(クリスパーダイレクト)」をリリースしています。これまで培った自然言語処理の技術を遺伝子配列の検索に横展開させて、創薬分野に活かしています」

―― マスクド
「最後にレトリバに興味がある人向けにアピールなどございますか」
―― 河原氏
「我々はお客様の課題を解決することを理念としています。自分達の技術が人の役に立つことに喜びを感じる方と、一緒に仕事をしたいですね。弊社の魅力としては、レベルの高い研究者やエンジニア同士がフラットな関係で、最先端の技術を用いて開発できる点です。たとえば音声認識エンジンでは、オープンソースベースではなく、1からフルスクラッチで開発する数少ない企業です。そして一般のお客様が使いやすい点にもこだわっているので、実用化という目線で高品質なプロダクトを開発する経験が積めるでしょう。これから注力したいUI/UXエンジニアも重要なので、こちらに関心のある方もぜひお待ちしています。

自然言語処理は、まだまだ伸びしろが大きい分野です。テキストを使わない会社はありませんし、ビジネスにおいて人間同士のコミュニケーションが無くなることもありません。どんな会社でも活用できる製品なので、いろいろなお客様に役立ててもらえます。その点はとても魅了がある仕事ですね」