「自然言語処理がようやく使い物になってきた」働き方改革の本丸「営業」を変える東大発AIベンチャー

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データは日々爆発的に生まれている。現存するデータの90%が過去2年以内に生成されたものだと言われている。

つまり、2年ごとに世界に存在するデータ量は10倍に増え続けている。しかし、その大量のデータを処理可能な自然言語処理技術は、これまでリーガルやコールセンターなどの限られた分野でしか活用が進んでこなかった。

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自然言語処理技術に革命をもたらしたのが、2018年にGoogleが公開した汎用言語モデル「BERT」だ。

BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)とは
2018年秋にGoogleがオープンソースとして公開した自然言語の意味理解に特化したモデルの名称。

そのBERTを自社のサービスに活用している会社が、2016年に設立された東京大学発ベンチャー、ストックマークだ。今回は、ストックマークのCTO 有馬幸介氏、エンジニア岩谷純至氏の2人に、企業における自然言語データの扱いにおけるトレンドや、BERTをどのようにサービスに活用しているのかを聞いた。

企業が内部データをオープンにし始めた「焦り」

自然言語処理技術を活用するには、当然ながら解析対象となる自然言語データが必要だ。企業はデータの準備を内製で行うか、外部に委託する。後者の場合、データを外部企業に預けなければならない。

セキュリティの観点から、データを外部企業に預けるのはリスキーとされてきた。ただでさえコンプライアンスが叫ばれる昨今、データの扱いは企業にとって最大の関心事のひとつだ。

しかし、この数年、企業がパートナー企業へデータを提供する流れが生まれ始めているという。CTOの有馬氏は、その理由を「焦り」だと語る。

――有馬
「働き方改革の外圧によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進で、企業はなんとかして業務を効率化しなければと焦っています。そのため、たとえ外部企業であろうと、信頼できる外部パートナーにデータを提供し、少しでも効率化しようという潮流が生まれています」

企業がますますデータを活用し、AIをビジネスに導入しようとするなか、まだ行動を起こせていない企業にはプレッシャーがかかっている。そのため、過剰なセキュリティ意識で行動を起こさないよりも、データを活用して生産性を高める方向に動いているという。

しかし、上記のような潮流があるにも関わらず、これまで「営業」の働き方はあまり効率化が進んでこなかった。現在メインでAIの導入が進んでいるのはリーガルやコールセンター、バックオフィスなど、ビジネスの「縁の下の力持ち」的な職種が多い。

が、「それも少しずつ変わり始めている」と語るのは、エンジニアの岩谷氏だ。

――岩谷
「人材の流動性が上がり、優秀な営業マンを囲い込めなくなってきたので、企業は優秀な人材のノウハウをできるだけ社内に蓄積せざるを得なくなってきました。たとえばメガバンクなどの大手金融機関はAIやRPAの活用を推進し、優秀な人材のノウハウを横展開しようとしています」

営業を分析するサービス「Asales」

ストックマークはこれまで、企業に必要なニュースをAIで収集し、社内でシェアすることでコミュニケーションを促進する「Anews」と、収集した情報をレポーティングし、インサイトを抽出して経営施策に活用できる「Astrategy」というふたつのサービスを提供し、企業のDXを推進してきた。

今後は直接部門への自然言語処理の活用を進めるという。DXのなかでも、営業の働き方を変革するのが「ド本命」だと有馬氏は語る。

――有馬
「これまで多かったコールセンターやリーガル領域ではなく、あくまで営業など『実ビジネス』への自然言語処理の利活用を進めたいと思っています」

営業の働き方改革を推し進めるために、ストックマークがリリースしたサービスが「Asales」だ。Anews、Astrategyはwebなどの外部データを解析するものだったが、Asalesは同社としてはじめて「社内の自然言語データ」を解析するサービスだ。

AIで営業が残した商談メモなどの顧客接点データを解析し、誰の営業では売れて、誰の営業では売れなかったかを可視化、スコアリングする。これによって、優秀な営業マンのセールストークなど、ノウハウを横展開することが可能になる。

Asalesの使用画面

別の利点もある。顧客接点データを解析することで、リードの潜在ニーズを抽出できる。これにより、成約率を高められたり、同じようなニーズのある別業界の潜在顧客が把握できたりする。潜在顧客が把握できれば、営業のアタックリストを作ることが可能になる。

もちろん、BtoBの営業などは、予算やスケジュール、決済者へのアプローチ方法など、ニーズだけですべてが決まるわけではないが、これまで営業が調査に調査を重ね、アタックリストを作成していた作業が簡略化できるのは大きい。

Asalesの導入事例として、ストックマークのクライアントである不動産業界の企業ではAsalesでCS(カスタマーサービス)分析のPoCをすでに行なっているという。

具体的には、「どのような顧客対応をした顧客が物件の更新率が高いか」をAsalesを使い分析している。物件の更新率が予想できれば、どの層に重点的にマーケティング予算を使うかを計画し、リテンションにつなげるなどの対策が立てることが可能だ。

自然言語処理のブレイクスルー「BERT」のすごさ

商談メモなど、フォーマットがバラバラな文書からインサイトを抽出するような、高度に抽象的な判断を機械学習で可能にするのが、冒頭で紹介した汎用言語モデル「BERT」だ。ストックマークはAnews、AstrategyにBERTのモデルを活用している。

2013年ごろまで主流だったBERT以前の言語モデルは、単語レベルの意味や、概念の近さを理解するのみだった。2018年に登場したBERTによって、文章の前後の文脈を鑑みた、より抽象度の高い読解が可能になった。

つまり、営業マンが残した商談のメモから顧客の潜在ニーズを抽出するなど、抽象的な解釈を伴う判断を機械学習で可能にしたのがBERTのブレイクスルーのひとつと言える。

また、「少ないデータ数で精度が担保できるのがBERTのすごさ」とも岩谷氏は語る。

――岩谷
「BERTのブレイクスルーのひとつは、全体の1、2割のデータにラベル付けするだけで、残り8割も精度が担保できることです。数で言うと1,000件ほどでしょうか。商談メモは企業毎に書き方が異なるので、BERT以前は最低でも5万件ほど必要でした。これは大きな変化です」

今後はAsalesにもBERTを実装していく

今後、上述のAsalesにもBERTを実装していくという。Asalesを用いて、Anewsの商談メモの分析も試しているという。

――有馬
「Anewsはこれまで、新規事業開発に携わる顧客の導入が多かったサービスです。しかしAsalesを使った分析の結果、新たに研究開発部門の顧客にもニーズがあることが分かりました。これまでの体感とは違う結果が出て、自分たちでも驚いています」

自然言語処理の世界にブレイクスルーをもたらしたBERT。ビジネスへのさらなる応用が進むことに期待したい。

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