サントリーロジスティクスが導入したフォークリフト操作の安全判定AIシステム、開発への軌跡

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2021年6月2日、富士通がサントリーロジスティクスにおけるフォークリフト操作をAIで判定し、安全運転評価業務を効率化したというプレスリリースを発表した。

サントリーロジスティクスでは従来、フォークリフトのドライブレコーダーの映像を人による目視で検査し、運転の安全性を評価・フィードバックしていた。今回、安全運転評価業務にかかる時間を約50%に削減したという。

どのようにプロジェクトを進めたのか?どのような苦労があったのか?現場へは浸透しているのか?

2021年7月30日、サントリーロジスティクスで本プロジェクトを主導した安全推進部長の小玉光志氏と、安全推進部担当部長の鵜川誠氏、本システム開発に携わった富士通クラウドテクノロジーズでデータサイエンティストを務める深町侑加氏をお招きし、ウェビナーを開催した。本記事ではその様子をイベントレポートでお届けする。

AIシステム開発の土壌となったドラレコ導入

サントリーロジスティクスはサントリーのグループ企業で、物流アセットを持った唯一の物流機能会社。

小玉氏がトップを務める安全推進部は社長直轄の部署だ。安全に対する社長方針を具体化し、現場にルールとして落とし込んでいく役割を果たしている。

サントリーロジスティクス株式会社 理事 安全推進部長 小玉光志氏

――小玉
「安全は『皆活動(かいかつどう)』と呼んでおり、安全推進部だけが旗を振るのでは現場はついてきません。現場と密に連携して全社的な安全に対する取り組みを行っています」

そんなサントリーロジスティクスが、所有する207台すべてのフォークリフトにドラレコを導入したのが2018年。当時、乗用車に取り付けるドラレコは前か後ろしか映らないものが多かったが、採用したのは乗務員を中心に広角で写せるタイプだった。

▲サントリーロジスティクス資料より

――小玉
「乗務員を中心に広角で映せるタイプにしたのは、事故発生の原因を乗務員の操作を含めて検証したかったからです。

事故が発生した際は、原因特定のために事故検証を行いますが、記録がない場合は当事者の記憶に頼った経緯や状況等の確認がおこなわれ、その過程で当事者の思い込みが入ってしまう。

決して間違いではありませんが、客観的になぜ起きたのかの過程が見えず、それがわからないと改善に踏み込めないという課題がありました。そこで、『記憶ではなく記録で』事故検証するためにもドラレコが必要でした」

また、教育目的としてのドラレコ導入の意図もあった。フォークリフト操作実務の現場経験を踏まえて現在は安全推進部の部長を担う鵜川氏は、当時の深刻な苦労話をこう語る。

サントリーロジスティクス株式会社 安全推進部 担当部長 鵜川誠氏

――鵜川
「弊社の17の拠点以外にも外部の倉庫と連携する必要があり、そこでの安全性の確保が課題でした。事故が起きるたび、現場に出向いて安全基準の遵守をお願いしますと伝えても、蓋を開けると事故が再発していました。問題点をハッキリ明確に伝えきれていなかったのが原因でした」

サントリーロジスティクスではフォークリフト安心安全操作の作業標準に23項目の確認項目を定めており、その中で過去に発生した事故の真因として、自戒し遵守していくべき項目を「3厳戒」として定めている。

▲サントリーロジスティクス資料より

ドラレコ導入以前はパワーポイントを用いて説明していたものの、画像で危険運転シーンを示しても「起きるわけがない」「危険そうな画像を見せて脅しているだけだ」と言われてしまい、危険度が伝わりにくかったという。ドラレコ導入後は、動画を用いて説明することで、スムーズに危険度が伝わるようになった。

また、ドラレコは取り付けているだけで危険運転に対する一定の牽制効果はあるものの、現場からは「監視されているようだ」などと導入当初は反発もあった。しかし、事故などを起こした際には自身の行動を後から客観的に確認することができ、自分自身をも守れる大事なものであるとし、共感と納得を得ていった。

このドラレコ導入が、今回のAIシステム開発につながることになる。

試行錯誤して完成したシステム。成功要因は「共通言語」

ドラレコ導入後、フォークリフト操作の安全品質の総点検を年2回実施し、定期的に安全性をテストしていたが、一回の検査時間が長いことが新たな課題だった。

一人の乗務員の操作を検査するのには平均80分ほどを要することから、検査員が疲労し、見落としや基準のばらつきが課題となっていたという。200名以上の操作を検査することで、年間500時間も検査時間がかかっていた。

そんなときに「できるかもしれない」と手を上げたのが富士通クラウドテクノロジーズだった。本プロジェクトでデータサイエンティストを務めた深町氏はこう語る。

富士通クラウドテクノロジーズ株式会社 データサイエンティスト 深町侑加氏

――深町
「お話をいただいたときは、似た前例がなく、技術を組み合わせたらできるかも……くらいの感覚だったんです。どこかの要素ができなかったときのためにここまで確認したら次に行きましょう、というふうにフェーズは区切ることを意識しました」

当然サントリーロジスティクスにも前例はない。社内説得のために投資額にもキャップを設け、フェーズも区切り、その都度可能な範囲を確認しつつ、プロジェクトが進められていった。

結果としてできあがったのが、サントリーロジスティクス社内で「フォークリフト操作3厳戒AI判定システム」と名付けられたシステムだ。


▲サントリーロジスティクス資料より

システムで解析後の動画では、課題だった検査時間の長さへの対策として、シーンによって動画の再生速度が変わる。危険な運転をしている可能性があるシーンは通常速度で再生され、それ以外のシーンでは動画を早回しで再生される。これにより、危険運転の可能性があるシーンに集中して検査できるようになった。

動画上にはこれに加え、危険シーンの判定結果と、その根拠を示すフォークリフトや乗務員の動きの検知結果、また安全係数と呼ばれる動画全体を通した安全なフォークリフト操作の割合を表示し、乗務員への運転のフィードバックに役立てられるような機能が盛り込まれた。

もちろん苦労もあった。フォーク(爪)部分の昇降判定が思うような精度に達しないことがあった。そこで、蛍光テープをフォークリフトの機体に貼り付け、それを認識することでさまざまな環境下でも高い精度が出せないか、検証を重ねた。

どういったテープであればもっとも認識精度が高くなるのか、ホームセンターで蛍光テープを探し回っていたところ、両社別々に探していたのに、たまたま同じ色の蛍光テープを探し当てていたという。一緒に作っていく感覚があった、と深町氏は言う。

――深町
「本プロジェクトがうまくいった要因として、もともとドラレコを導入されており、データが大量に、かつきれいに保管されていたことも大きいですが、それ以上にフィードバックを回すうえでのコミュニケーションがスムーズに行えたり、新たなデータの収集に協力いただいたことも大きいです。蛍光テープの件についてもこちらが伝えてから2、3日で新たにデータを取得していただいたり、一緒に作っていく感覚がありました」

小玉氏はうまく進んだ要因を、富士通クラウドテクノロジーズが「こちらの業界用語を理解する姿勢があった」からだと振り返る。

――小玉
「深町さんが信頼できる人だったのが大きいです。最初の打ち合わせの際にフォークリフトの模型をプレゼントしたら、次からフォークリフト部位名称で操作内容を説明する会話が成り立つようになった。

システム会社さんと会話するとき、一番苦労するのがお互いの言語の共通化です。お互いに業界特有の言い回しがあって噛み合わないことがこれまでにありましたが、今回は物流業界で一般的に使われている言葉での説明を非常に理解いただき、意思疎通としてのコミュニケーションがとりやすかった。たいしたもんやなと思いました」

「評価」ではなく、あくまで「安全」のために

「動画のみで人間を評価することはどう思うか?」という質問に対しては、「現時点ではAIをセカンドオピニオンとして捉えている」と小玉氏は回答。

――小玉
「危険運転かどうかを判断する際、人間の判断が絶対的に正しいとも思いませんし、AIの判断が必ず正しいとももちろん思いません。必要なのは当事者以外の第三者の目線です。

両方を見て納得度が高いのはどっちかを比較したいし、絶対値を求めているわけではない。なので乗務員の成績評価には利用しておらず、あくまで参考値としています。数値が悪ければ改善すべきところを指導共有しますし、良ければ好事例としてのお手本にしています。

すべては安全を担保するためです。過去に危険運転が原因で事故につながった経験があり、これを看過したことで発生した事故に後悔することはしたくない。ベースとして評価が目的ではないということをきちんと現場と共有することが、現場とすれちがいを生まないために重要だと思います」

深町氏も、「評価」にしないために気を配ったと語る。

――深町
「現場からすれば、フォークリフトの運転も知らない人間が作ったAIが入ってくると受け入れがたいし、直そうという気になりません。フォークリフト実務経験者である鵜川さんのような方からアドバイスいただいたほうが現場も納得感がありますよね。

あくまで今回はAI導入の目的を『評価者を楽にする』ことを目的とし、安全係数などの数値の出し方についても、ここまで出すと『評価』になってしまわないか?といった点を徹底的にすり合わせました」

今後は外部倉庫などへのさらなる展開のため、検知精度の改善やセキュリティの強化、ユーザビリティの向上など、さらなる改善を行っていきたい、と小玉氏、鵜川氏は口をそろえる。

――鵜川
「現場からフォークリフト安全操作の重要性理解促進を目的にした研修企画が出るなど、弊社の現場は安全に対する意識は高いです。その現場から『AIシステムはすごい』という声が多いので、うまく改善・運用していきたいですね」

システムが使われ始めてから3ヶ月。現場への定着が成功すれば物流業界の安全性は飛躍的に向上するだろう。今後の動向にも注目したい。さらに詳しく知りたい人は下記から本ウェビナーのアーカイブをチェックしてほしい。