名だたる豪華企業に、「今のAI」というテーマで講演していただいた、レッジ主催の大規模AIカンファレンス「THE AI 2nd」。
株式会社レッジが「未来ではなく、今のAIを話そう。」というテーマで主催する、大型のAIビジネスカンファレンス。具体的すぎたり抽象的すぎる話ではなく、ビジネスにおいてどの程度のコストで、どこまで活用可能か? という視点で、AIのスペシャリストたちが語ります。
THE AI 2ndの詳細はこちら
本記事では、株式会社VAAK代表取締役 田中 遼氏の講演内容をお伝えします。
AIを用いた万引き防止AI、レジなし決済を支援するVAAKには、新たな小売の形について「ニューリテールによる小売業界の革新」というテーマでお話いただきました。
株式会社VAAK/代表取締役
学生時代より起業し、大手をクライアントとしたシステム開発会社、業界シェア2位のプログラミング教育会社などを経営、また経営戦略およびAI活用のコンサルタントとしても活動する。のち行動解析に焦点を定めて研究開発をおこない、2017年に株式会社VAAKを創業。
AI × リアルタイム行動解析による小売体系の効率化・省人化
映像および時系列データによる行動解析技術を誇るVAAKは、
- 予測型警備支援
- レジなし決済支援
- マーケティング支援
以上3つを主軸事業としてサービス展開しています。
講演最初のテーマは万引き防止AIの予備警備支援とレジなし決済支援。
万引き防止AIは、人間の行動をリアルタイムで分析することで不審行動や危険行動を予測。行動の予測は防犯カメラの映像をもとにおこなっており、店舗・地域・天候などから犯罪件数を予測するマクロモデルと
- 商品
- 属性
- 目的
- 環境
- 行動
などから行動シナリオ・再来店を予測するミクロモデルの両方を用いて予測をおこなっています。

「ミクロモデルに関しては、防犯カメラを用いて100以上もの情報を検知し、犯行に及ぶかどうかを予測しています。検知すべき情報は多いですが、防犯カメラは従来と同じスペックで対応可能ですので、導入への敷居は比較的低いです。」
AIを使っていることで、コストがかかり敷居も高いと思われがちですが、既存のカメラVAAKの万引き防止AIは導入でもできます。そのため、専用カメラなどのデバイスを新しく設備する必要がありません。
同じくリアルタイムの行動解析を用いたレジなし決済支援「VAAKPAY」。
まずはこちらの動画をご覧ください。
商品を取りそのまま立ち去り、決済はオンライン。もちろんレジに並ぶ必要はありません。
レジなし決済の手順をまとめると、
- STEP 1 QRコードで人物とデバイスを認識
- STEP 2 商品を手に取ると、自動でカートに追加
- STEP 3 その場を離れると決済
という、たった3つのステップ。
お店側としてもレジ打ちに人をかける必要もありませんし、客側としても、急いでいるなか長蛇の列に並ぶ必要もなくなります。
「レジなし決済では、映像解析とバーコードを組み合わせることで商品を認識しています。映像解析だけだと、毎月商品が変わる度にデータの学習が必要になり、数百万円以上のコストがかかってしまいますが、バーコードを用いて購買を行い、同時に教師データを蓄積していくことで、大幅なコストカットを実現しています。」
商品はバーコードを、人間の行動は映像解析を用いることで、正確性、ユーザーの快適性を維持させたまま、さらにコストも安いというのが特長です。
万引き防止AI、レジなし決済と、これだけでも十分なインパクトなのですが、行動解析技術と取得データをもとにおこなうマーケティング支援が、すごいんです。
リアルタイムでの行動解析が可能にするOMOによるマーケティング支援
行動解析を利用したマーケティング支援。顧客ひとりひとりに沿った施策が必要ですが、そこで欠かせないのが「OMO」です。
「Online Merge Offline」の略。オンラインとオフラインを分けて考えるのではなく、一体としてデジタルに捉え、これを行き来する顧客体験を扱う施策。技術の進歩に伴って「O2O」を発展させたものです。
「Online to Offline」の略。オンラインで情報提供をおこない、店舗に来店し、購入するというオフラインへの行動を促す施策。
Amazon Goなどの無人レジ、オンラインデータによって近年OMO、O2Oは盛んになってきていますが、ニューリテールにおける現在の状況について田中氏は以下のように語っています。
「ニューリテール戦略は世界中で注目を集めており、特に中国ではさまざまな無人リテールが乱立しています。
そのなかで、無人リテールは店舗内で完結させるものから店舗を超えてデータを収集する形へと変わってきています。」
店舗を超えてデータ収集することで、傾向を分析することができ、より強いマーケティング施策が打てるそう。
ここで無人リテールの利点として頻繁に挙げられるのは、商品管理や決済システム、監視システムの無人化とオンラインデータやEC連携による収益化の面。しかし、無人化要素と収益化要素はあくまでニューリテールの表層であって、ニューリテールの核心ではないそうです。
田中氏は、OMOを用いる、無人化・収益化以上の利点についても語ってくれました。
OMOが生み出す体験の好循環
「たとえば小売の場面では、まずオンライン上でフックとなるようなクーポンやチラシを使い来店を促します。次に来店後、顧客行動を分析することで、何に目がいくのか、何に手をとるのかといった情報や、「迷っている」といった情報を収集します。その場でおすすめ商品を紹介したり、後日スマホで「迷っている」ポイントに応じたレコメンドを行ったりすることで、より高い顧客満足を目指します。」
実店舗での行動時でもデジタルな施策を打つことができ、そのときの顧客の状況に応じて、より効果的に施策を打つことが可能になるのがOMOです。
田中氏は2つの事例をもとに、OMOの利点について挙げました。
事例1「平安グッドドクター(好医生)」
こちらは、患者が歩くとポイントが貯まり、患者はそのポイントを利用して医師とチャット問診できるような仕組みとなっているそう。
- 患者の問診データの保有
- データをもとに治療や保険の見直しなどに活用
- ポイントが貯まるという可視化による、ユーザーのモチベーション増加、健康リスクの軽減
といった点で医師側、患者側双方にメリットがあります。
「医療・薬・保険データを連携し、ユーザーに新しい「体験」を提供しています。その「体験」にユーザーが集まり、データが貯まる。そのデータを使って、アプリや店舗窓口などのタッチポイントを改善。そのタッチポイントが洗練されることでユーザーがさらに増え、体験が増加される。OMOでは、このような好循環をつくることが重要とされています。」
歩くことによって得られたデータを診療データや保険データなどと組み合せて治療をおこなうことはもちろん、体験が一回で終わるのではなくサイクルとして継続されていくことがOMOの大きな利点であると思います。
事例2「スーパー(盒馬鮮生)」
手に取った商品をもとに料理を提案し、その選んだ料理をもとにレシピの提案をするという仕組みです。
- 客も料理を決めやすくなる
- レシピを探す必要がない
- そこから得た情報をもとにECへと繋げれる、一度食材をみていることで不安も軽減
こちらもただ売る側にとってメリットがあるだけでなく、買う側にとっても良い体験となっています。
「このような体験の提供が可能なのは、オンラインとオフラインの境界線をなくすことで、タイミングよくオンライン上で施策を打つことができるからです。従来のオフラインとオンラインが分けられていた状態では不可能なことでした。」
選んだ食べ物に合った飲み物をレコメンドしたり、飲み物コーナーで迷っていたら新作をレコメンドしたりと、AIを経由することでよりユーザーに最適化された売り込みなどができます。
無人リテールと聞くと省人化や収益化を思い浮かべますが、この2つの事例のようにOMOを用いて良い顧客体験を作れることがニューリテールの大きなポイントとなるでしょう。
OMOが促す「モノ(商品)」の提供から「コト(体験)」の提供へ
「OMOによって産業構造にも変化が生じると思います。モノからコトという体験指向が起きることで、得たデータからどのような施策を打つかが重要になっていくのは間違いありません。
OMOを用い最適な施策を打つことで、顧客に適したサービスがより促進され、満足度・リピート率の向上が期待できるでしょう。」
顧客体験を向上させることで、結果としてお店の利益、ブランド向上に。OMOの果たす役割は大きなものになりそうです。
ただモノを売るだけでなく、モノとの接点からモノを買うという全体の体験を大切にするニューリテール。そこにAIテクノロジーを掛け合わせていくことで、顧客体験を最大化していく。
ニューリテールによる小売業界の革新に、ユーザーとしても企業としても今後注目していく必要がありそうです。田中氏ご登壇ありがとうございました。