2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。
「Dから始まるPDCAの先にあるもの」と題して講演した株式会社NTTドコモの河村 祐輝氏は、Web接客でコンバージョン率を改善するための考え方について語りました。
株式会社NTTドコモ イノベーション統括部 事業創出・投資担当
大学院卒業後、株式会社NTTドコモに入社。学生時代は量子状態の変化に対する理論研究に従事。入社後はWeb上でのコミュニケーションを最適化することに注力。現在、ecコンシェルのプロダクトマネージャーとして顧客の感情変化に対する機能開発を行っている。
ユーザーに最適化されていなかった従来のWebマーケティング
河村氏は、「従来のWebマーケティングでは、サイトに訪れたユーザーの属性や目的を個別に考慮できていなかった」と語ります。そのため、これまではすべてのサイト訪問者に対して同じ広告を表示していました。
ドコモではこの事実に問題提起し、無料で使えるWeb接客ツール「ecコンシェル」を開発。
Web接客によって、
- サイトを訪れたユーザーの属性の特定
- ユーザーがページのどの箇所を見ているかの特定
が可能になり、それぞれのユーザーに適切なタイミングで最適な広告を表示できます。具体的には、「初回購入で1000ポイントプレゼント」のような広告を、初めてサイトに訪れた顧客のみに表示できます。
「お歳暮の購入を考えているお客様について考えてみてください。ユーザーに対して、
- ポイント還元
- 最短お届け日
- 送料無料
という施策を検討する際に、どれが最適であるかを1つに絞ることはできません。しかし、今までのマーケティングでは、一度『送料無料』が最も有効であるというデータが取れると、その施策をずっと使い続けていました」
河村氏はこれからのWebサービスでは「顧客のその瞬間の感情の変化に対応すること」が必要といいます。
「Webサービスの本来あるべき姿は、その瞬間にお客様が何を求めているかを考え、表示される広告を常に変化させることです。施策の有効性に対する順位が決定した後も、施策を柔軟に変更していくことが求められています」
AIに「DCA」を任せ、人間は「P」を担う
河村氏は、顧客の感情の変化に対応し続けて行くためには、次の2点が重要だといいます。
「重要なのは、
- 仮説の接客案を思いつく限り作る
- 仮説を施策化し、高速でPDCAを回し続ける
これらは具体的に、
- お客様がどのような行動をしているのかを把握した上で案を出す
- 案を出した上で仮説をすべて試す
と言い換えられます」
しかし、手作業のみでこれらの作業を網羅的に行うことは不可能。さまざまな仮説を提案しても、実際に検証を行う段階まで進めるものは多くありません。
「そこで、ドコモではAIを用いてPDCAの効率化を実施しました。現状ではすべてをAIで自動化することはできず、P(施策の作成)は人間が行い、DCA (施策実行及び検証)をAIに任せるところまでは可能です」
河村氏は、ドコモのクレジットカード(dCARD)における『こえたらリボ』『キャッシングリボ』の申込数増加を達成した事例についても言及。
「施策を考える上で、AIDMAモデルという消費者行動モデルを用いました。AIDMAモデルとは、ユーザーの購買行動を5つに分割し説明するモデルです。
- Attention(注目)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
dCARDのサイトのページをAIDMAモデルに沿って分割し、ユーザーのサイトの離脱について考えることで、コンバージョン率の上昇を図りました」
約7000万のユーザーデータを元に、ページを離脱したユーザーの属性を推測し、接客仮説を立案。AIDMAモデルにおける、Interest(興味)に相当するページでのユーザーの離脱が判明したため、興味を引くような具体的な利用例を紹介するクリエイティブを複数作成。
それに伴い、ecコンシェルを使用し、ユーザーごとに広告表示を最適化したところ、コンバージョン率が約5倍に跳ね上がったといいます。
「PDCAの全自動化」は近い未来に実現される
「ecコンシェルは6500社を超える企業に導入されています。サービス開始からさまざまな施策のデータを収集しており、この部分をAIで自動生成できるよう、日々取り組んでいます。
PDCAのPすらも、AIが担うことができる世界は目の前に来ていると強く思います」
現状では、PDCAサイクルをすべて自動化できるシステムは未完成ですが、「DCA」の部分を自動化することで大幅な効率化が可能になる。
「P(施策の考案)」の自動化は現在開発を進めている最中とのこと。Web接客におけるPDCAサイクルのAIによる全自動化は近いうちに実現されそうです。
AI技術は日々アップデートされ、その応用範囲は多種多様に存在します。今後、AI技術を導入できた企業とできなかった企業の間で溝が深まっていくことは明らか。常に新しい技術を取り入れ続けることが今の時代に求められているのではないでしょうか。