「不満」のビッグデータから、新規事業創出のヒントを見つけ出す ── 自然言語処理AIによる課題解決の可能性

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2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。

「『文章解析AI+α』で解決したビジネス課題実例と成否の鍵」と題して講演した株式会社Insight Techの伊藤 友博氏は、「不満」のビッグデータと自然言語処理AI「ITAS」がビジネス、そして社会課題を解決すると語りました。

伊藤 友博
株式会社 Insight Tech/ 代表取締役社長

1974年愛知県生まれ。1999年早稲田大学院建設工学修了、同年、大手シンクタンクに入社。 ビッグデータマーケティング、AI(人工知能)を活用した新規事業開発を牽引。複数のサービスローンチを経て2017年より現職。日本マーケティング学会学会員。

日本語データの活用が進めば、日本のビジネス競争力はアップする

最近は「AIを使うメリットは何だろう?」と実務応用を検討する方が増えたように思います。そうした要望に応えるかのように、本講演では、AIで具体的にメリットを生み出した実例が数多く紹介されました。

――伊藤
「2019年は、AIで何かしたいという『AIが主語』から、『ビジネスや社会の課題が主語』になっていくと考えています。その課題を解決するために、精度ではなく、いち早く実を得るAIが求められています」

Insight Techが解決したい課題は、「日本語のテキストデータが活用されていないこと」だといいます。言語解析でも音声認識でも、日本語データの活用はかなり遅れている実感があり、「英語ならできるのに…」と歯がゆい思いをすることもしばしばです。

――伊藤
「私は、日本語データのビジネス活用の難しさが、日本におけるビジネスの進化を阻害しているとさえ思っています。活用が進めば、日本のビジネスはさらにブレークスルーします」

文章中でどんな単語がよく使われているかという「単語レベルでのテキストマイニング」の限界を超え、構文解析による「フレーズレベル」で意見 + 感情の両面からインサイトを見出すことで真に使えるデータになり打ち手につなげられる、と伊藤氏はいいます。

単語レベルをフレーズレベルにすることで、どんな打ち手につなげられるのかについて、実例が紹介されました。

口臭の不満を解析して意外な新規事業を提案

最初に紹介されたのは、ヘルスケアやオーラルケアで知られるライオン株式会社からプロジェクトを請け負った、新規事業探索の事例です。

2030年に向けて、次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーを目指すべく立ち上げられたプロジェクトの一環として、イノベーション創出を依頼されました。Insight Techがパートナーとして選ばれた理由は、「不満買取センター」というサービスで保有する不満データと、「ITAS」という独自の自然言語処理AIを持っていたからだといいます。

不満買取センターは、消費者から不満を1個10円程度で買い取るサービスで、会員は40万人以上、1,070万件の不満を独自のデータとして蓄積しています。

2012年に設立された当時は、新しいビジネスモデルとして話題になりました。当時は不満を業界別の冊子にして販売していましたが、2年前にビジネスを大転換しています。

――伊藤
「私が代表としてジョインしたのは、不満買取センターがビッグデータビジネス化するタイミングです。膨大な数の不満から、本当の意味で生活者起点の新規事業を創出できるんじゃないか、という想いが強かったからです」

蓄積された不満データは、そのままでは、日本語文章の自然言語データで、いわゆる非構造化データです。そこからインサイトを抽出するために用いられるのが、京都大学の黒橋・河原研究室などと連携して開発した、独自の自然言語処理AIです。「ITAS(アイタス)」という形でサービス化され、今回のアイディア探索にも活用されました。

単語だけでなく構文解析が可能なAIエンジンで、ビッグデータから「何を」だけでなく、「どう思っているか」までフレーズとして抽出。生活者の意見の可視化・俯瞰ができ、感情分類AIを用いることで優先順位付けもできます。

これにより、大きな発見があったといいます。

――伊藤
「事前には『口臭を直したい』という『口臭ケア』のニーズが高いと予測されていました。しかし、不満を俯瞰した結果、『自分は口臭がするのか気になる』『相手に気が付いてほしい』という『口臭チェック』に潜在的な欲求があることが分かりました。そこに新しいサービスの可能性があると考えたのです」

その提案が、口臭の判定とケアに最適なケア製品をレコメンドする新サービス「口臭チェックアプリ」に繋がりました。

――伊藤
「お客様からは、『口臭はデリケートな問題なので、インタビューでは本音が引き出せません。しかし、不満買取センターのバイアスがかかっていないデータと、情報解析ツールから得られた情報で、スピーディーにサービス設計の方向性を定められた』とお喜びいただきました」

こちらのアプリは先日、サービス業などへの提供を開始。一般ユーザー向けにも提供されれば、ブレイクする可能性が大いにあります。

求人広告の文字校正コストを40%削減

求人メディアや人材紹介を行うエン・ジャパン株式会社の求人広告をAIで校正するためのツール開発事例も紹介されました。

エン・ジャパンの求人サイトは、毎週1,000件以上の求人広告が作られています。取材による長文原稿(1原稿6,000文字!)が特徴で、季節変動も大きいため、人による校正業務の効率化が経営課題になっていました。

求人広告は、仕事という人生を左右する内容を扱うため、ミスは厳禁。労働法の知識なども必要なため、校正は難度の高い業務でしょう。そのため、完全自動化ではなく、支援ツールを開発したそうです。

――伊藤
「業務コンサルティングという形で参画し、まず業務フローを精査して、

  • 人が行なうこと
  • AIに託すこと

の2つに切り分けました。そして、過去の原稿データから独自の言語モデルを構築し、UI設計、システム開発も行い、AIを実装したwebアプリとして校正支援ツールを提供しました」

作成中の原稿を入力すれば、チェックすべき箇所の判別や、チェックワードのリストアップなどを行います。ダブルチェックのような形でAIの目が入ることで、負担は軽減できそうです。

いかに早く気付いて、早くスタートできるか、が今の時代に重要」という伊藤氏の言葉通り、AIモデルを2カ月で構築し、約半年で本番システムをリリースという、驚異的な開発スピードにも驚きが隠せません。導入後、文字校正にかかるコストは約40%削減できたそうです。

サイトやサービスからの離反防止解析

マーケティング分野で重視されているテーマである「リテンション」。既存顧客の離反を防ぐための、インサイト解析の事例も紹介されました。

――伊藤
「部門やサービスによってどういうインサイトが必要かは異なります。例えば、カスタマーサポート部門の場合、お客さまの意見を解析し、意見のボリュームと感情の強さを解析します。さらに、四象限のグラフとして可視化し、対応の優先度を判定しています」

他にも、

マーケティング部門の場合
アンケート調査の中のフリーアンサーから定量的に「どういう気持ちが生じるとNPS評価(この商品を人に勧めたいか)が高まるのか」を抽出する

コンテンツ制作部門の場合
サイトを解析し、「どういうフレーズを書くとコンバージョンが高まるのか、反対にページ離脱が起こるのか」を抽出する

という形で解析しています。ゆくゆくはCMSへのビルドインを目指しているといいます。コンバージョンが高まるフレーズをレコメンドしてくれたり、その先には自動で原稿を作成する機能も視野に入るかもしれません。

――伊藤
「人事領域でのリテンション(離職防止)に関しては、従業員満足度調査のフリーアンサーを自然言語解析し、社員の就業意欲を示す『感情スコアリング』をレベル別に判定するサービスへのAI技術提供もレベニューシェアで行っています」

フリーアンサーなどの非構造的なデータは、これまで1件ずつ人間が確認していく必要がありました。これをAIで解析&可視化できるとなれば、さまざまな業務で大きなサポートとなることが期待されるでしょう。

2019年のホットテーマはHR、VoC、社会課題

最後に、AIのホットテーマを聞くことができました。

――伊藤
「AI業界のホットな市場はHR領域だと考えています。例えば求職者や学生が書くプロフィールシート。選考には、学歴やテストの点数などのフィルターがかかりがちです。しかし、文章を解析することで、にじみ出る人間性や個性を理解したり、ハイパフォーマーとの類似性をピックアップしたりと、新たな視点でのマッチングが可能となります」

会社としてのホットテーマは「コールセンターでのVoC(顧客の声)活用による経営革新」です。音声認識により、会話のログをテキストにするハードルは下がりましたが、それを効果的に使えている企業は少ないです。そこで同社は、AIでフレーズ解析し、経営の意思決定に繋がる仕組みを開発しているといいます。

最後に、伊藤氏自身のホットテーマは、不満 × AIによる社会課題の解決だと述べました。

――伊藤
「これまで蓄積してきた不満のビッグデータは、企業課題の解決だけでなく、社会課題の解決に使えるはずです。これをボトムアップ型の政策立案に役立てていきたい。既にまちづくりなどで、自治体などとの意見交換を始めています。中立性を保ちながら、また生活者の視点を大切にしながら、不満のない社会を実現していきたいと考えます」

アナログなテキストデータをAIでデジタル化し、経営判断やマーケティングに活かすInsight Tech。同社自体が、不満というアナログデータを宝の山に変えた、AI活用の成功事例となっていると感じました。

本講演資料は下記からダウンロード可能

株式会社 Insight Techの講演の資料は、下記からダウンロード可能です。