変わらないまま生き抜けるか? 大局と現場から読み解く、AI時代の適者生存

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2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。

「AI時代の適者生存 – 生まれ変わるために”今”すべきこと」と題して講演した株式会社レッジの事業統括 兼 Ledge.ai編集長の飯野 希、同社CMOの中村 健太は、「失敗を恐れずに、とりあえずやってみることが重要だ」と語りました。

飯野 希
株式会社レッジ 事業統括 / Ledge.ai編集長

電気通信大学大学院修了。2016年3月に株式会社ビットエーへ入社。AI特化型メディア「BITAデジマラボ(現Ledge.ai)」を立ち上げ、編集長に就任。後にメディアを軸としたAIコンサルティング事業の立ち上げを行う。2017年10月に、BITAデジマラボの部隊を株式会社レッジとして子会社化、執行役員に就任、今に至る。


中村 健太
株式会社レッジ CMO

webコンサルとして数多くの実績を持つ株式会社レッジのCMO。2014年より一般社団法人日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に「webディレクターの教科書」「webディレクション最新常識」など多数。レッジではAIコンサルティング事業のプロデューサー、企画プロデュースのマネジャーとして大小数々のAIプロジェクトを成功に導いている。

AIが加速度的に注目されるようになった2018年

レッジの事業統括 兼 Ledge.ai編集長の飯野は、メディアの視点から、2018年のAI業界を振り返りました。

――飯野
AIやディープラーニングなどの最新技術は、どの産業にも適応できる大きな可能性のある技術であり、今後どんどん社会にこれらの技術が浸透していくでしょう。

一方、社会には論文を読めるレベルから、AIで何ができるのか分からない人まで存在し、リテラシーの差は広がりつつあります。リテラシーの高い人にだけ情報が理解され、一部のみでAI導入が進んでいくのは非常にもったいない。

さまざまなリテラシーを持つ方々に、さまざまなタッチポイントで適切な情報を伝えていく必要があると感じています」

レッジはAIの導入事例などの情報を、自社メディア「Ledge.ai」や、定期開催しているイベント「AI TALK NIGHT」などを通じて発信しています。

また、多様なチャネルを通じて集めた情報を用いたAI導入コンサルティングや、AIで実現できるアイデアを事業として市場に送り出す支援を行う「AI Startup Studio」など、さまざまなタッチポイントでAIの浸透を後押ししています。

メディアとしてAI情報を発信するレッジは、AI業界の潮流をどう見るのか? 飯野は「2018年はAI業界のひとつの転機だった」と語ります。

――飯野
「2018年は衝撃的なニュースが多々ありました。

その一例として、映像の動きからポージングを検出し、骨格の棒人間モデルに当てはめる『Everybody Dance Now』や、レストランの予約の電話をAIが行う『Google Duplex』があります。いままでは不可能と思っていたことが、テクノロジーによってできるようになってきています」

近年の著名人のAIに関する発言やさまざまなデータから、今後AIが我々の生活やビジネスに入っていくのは必然であることが読み取れます。

その流れを表すかのように、日本でもAI関連のニュースは増え続けています。

上の図はプレスリリース配信サービス「PR TIMES」のAI関連の記事本数推移を示しています。

AI関連のプレスリリース本数は、2014年から2018年にかけて32倍に増加。AIがビジネスの観点だけではなく、社会的な観点からも大変注目されていることがわかります。

「とりあえずやってみる」が重要。トライすることの価値は上がり続けている

足元の導入状況はどうでしょうか。飯野は「AIを使いこなせる企業はまだかなり少ない」と言います。

――飯野
「これだけ技術が発展している中で、AIを導入している企業はわずか10%しかありません。注目すべきは、今後も導入を考えていない企業が62%もいる点です。その理由として、

  • AIに対する理解不足
  • 効果が得られるか不安
  • AIを手軽に導入できるサービスがない

などが挙げられます」

――飯野
「しかし、先ほどご紹介したようにAIを使いこなせる企業もあります。つまり、AIを使える企業とそうでない企業の二極化が起きています

二極化は、インターネットが爆発的に発展した時期と同じ現象です。

当時、5年後、10年後のインターネットの姿を正しく理解していた企業と、インターネットを正しく使いこなせず投資できなかった企業の間に、大きな差が生まれました。

では、AIをうまく使いこなせる企業、うまく使いこなせない企業の差は何か?

――飯野
「AIに関するニュースを追い、導入事例を取材する中で、小さく始め、失敗できる企業が生き残ることが見えてきました。

20個のプロジェクトがあっても、うまくいっているプロジェクトはせいぜい5個。ニュースではその5個しか扱わないため、どの企業もうまくいっているように見えますが、裏にはかなり泥臭い努力があり、失敗を繰り返しています

フレームワークのオープンソース化などにより、AI導入のハードルは着々と下がってきています。また、AIプロジェクトの問題として、精度の確約ができない部分もあります。だからこそトライすることが重要になります。

――飯野
「AI技術の特性として、求める精度が出るか出ないかはトライしてみるまで分かりません。

ある作業を、AIで代替できるかできないか悩んでいる企業が多いですが、そんなのはやってみないとわからない。AI導入の成功事例から見ても、『とりあえずやってみる』ことが重要です。トライすることの価値はどんどん上がっています

AIに100%の精度を期待してはいけない。あくまで人間をサポートするツールとして捉える

続いて、コンサルティングの視点からAI導入現場における適者生存を語るのは、株式会社レッジ CMOの中村健太。

クライアントのAI導入開発プロジェクトにおいて、実装の目的に合わせ、実際に設計して実装に至るまでの手順を整え伴走しています。

––中村
「我々はAIを実装する最初の一歩を進めるコンサルタントです。完璧なものを作るのではなく、ある程度の精度を持ったAIと人間の処理フローにより、とにかく早く実装することに重点を置いてます」

第一線でAI導入に携わっている中村にとって、AIを小さく始め実装するには、要求を完全に満たす精度は難しいと認めること、コストカットを目的にしないことが重要だと言います。

――中村
「最初からAIの処理で100%の精度を出すのは不可能です。大抵は、求める精度の60~70%の精度しか出すことができません。

つまり、AIに頼りきるのではなく、あくまで人間の処理をサポートするツールとしてAIを捉えることが必要です。

人間をなるべく排除し、あれもこれも人の手をわずらわせないようにすると、必然的に開発費が上がります。そもそも、人件費を下げることを目的に開発すると、プロジェクトが進まなくなります」

AIの実装には失敗を織り込んだ体制構築が不可欠

うまくいかないAIプロジェクトには、以下の「3つの共通点がある」と中村は語ります。

  • 従来のシステム/フローを大事に継承
  • プロジェクトの単独成果のみで評価
  • 準備に時間をかけすぎている
――中村
「既存ワークフローを壊すことなく効率化を目的にすると、必然的にコストカットが目標になり、プロジェクトの単独成果のみで評価することになります。そうではなく、新たに生まれた価値を評価することが重要です。

また、年単位かかることもある開発の準備に時間をかけすぎると、プロジェクトは途中で燃え尽きます。いくらデータが貯まったとしても「事業実装」というゴールにたどり着くことができません

――中村
「うまくいかないくAIプロジェクトと、そうでないプロジェクトで大きく道を分けるのは、失敗ありきで計画し、とりあえずやってみることができるかどうか。

失敗しないための準備に時間をかけるより、失敗を織り込んだ体制を作るべきです。準備に時間をかけすぎるのではなく、『どれだけ小さく、どれだけ早く試行(≒失敗)できるか』を兼ね備えた体制をいかに構築するかが重要です」

レッジのクライアントの中には、挑戦を小さく積み重ねるために、失敗を織り込んだ体制でプロジェクトに挑む大手企業も存在します。

今後、失敗を積み重ねながら少しずつ進めていく体制を構築できた企業がAI時代を生き抜くことができるのでしょう。

――中村
「レッジは挑戦を加速させ、応援する立場です。AIをはじめとした最先端技術を事業へ浸透させるべく、小さな失敗を繰り返しながらなんとしてでも前に進めていく。そのための意思と体制を支えていきます」