落合陽一「2025年までに新しい転換点を示すのが僕らの役割」

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2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。

多様性社会とAI駆動型課題解決」と題した落合 陽一氏の講演は、次の一言で幕を開けました。





――落合
「今日は、どのように研究を行い、それをどうやって社会実装することで世の中に出していくかについて話していきます」

「まず、日本が抱える課題を認識する必要がある」

世界人口が上昇する一方、日本の人口は減少傾向にあります。これは非常に危機的な状況であると、落合氏は強く指摘します。

――落合
「日本の人口減少は大きな問題です。たとえば、高齢者の方が何かあったときにスマートフォンで助けを呼べる仕組みを作っても、動ける若者の数が足りなければ意味がありません。少子高齢化対策として、海外から移民を大量に受け入れるという選択肢もありますが、社会の側が負担するコストが高くなります。

そこで、俗にいうAIなりロボティクスなりを社会にはめ込むことで減少する労働力を補おうとするのは、当然の発想だと思います」

日本が抱える課題を解決するためには、「多様性が1つの戦略となる」と落合氏は言います。

――落合
「諸外国では、自動化やIoTデバイスを使った高齢化や身体的な問題の解決は、既に普通に行われています

たとえばイギリスでは、病室にセンサーを導入して介護の負担を削減したり、iPadを活用して高齢者の社会参加を促す取り組みが行われています。オランダではテクノロジーの活用で、介護士は一人あたり40人の高齢者を担当している。一方、日本では一人あたり15人の計算で、約3倍の効率差があることになります。

その効率差を埋めるのが、画像認識や機械学習、センサーネットワークなどの技術です」

落合氏は、高齢化社会や身体的な問題に積極的に取り組んでいるのは、単純に日本が危機的状況にあるからだとし、次の言葉を放ちました。

「Social Issue in Japanがある──.」

まず、現在の日本には社会的課題があることを認識する。その危機に対して、どうアプローチしていくかが重要だという落合氏。講演は、課題の具体的な解決策へと進んでいきます。

「僕らは何ができるのか? どんな打つ手があるのか?」

――落合
「2020年以降、画像認識や音声認識、移動体のロボティクスを制御する通信基盤が整備され、動画データの送信や遠隔医療の通信コストは下がっていきます。そうなった時に足りないのは、

  • ツールを使うユーザーの考え方
  • 主導者がユーザーの声を聞く機会

です。この2つを、なるべく社会全体で支援していく必要があります」

高齢化が進むと認知症の患者数も増えます。できないことが増えていく中で、できることをどのように拡張していくかを考える必要があると、落合氏は言います。1つ1つの課題を抽象化して考えたときに、テクノロジーで人間の認知能力や処理能力をどう補うかについてのヒントを、以下のように示しました。

  • 目や耳、五感 → センサーで認識?
  • 筋肉 → ディスプレイ、デバイスによる処理?
  • 頭 → CPU、GPUによる処理?
  • 会話 → テレプレゼンスによる処理?
――落合
「たとえば、高齢化によって足腰が衰えたことで、二足歩行よりも車椅子での移動がメインになる人も増えるでしょう。そうなったときに、次のような問題意識が生まれてくるはずです。

  • どこまで自動化するのか
  • どこまで遠隔操作で動かすのか
  • モーションキャプチャをどこで使うのか

など、何が最適解なのかは、すべてを実装して、現場で動かして、現場の声を聞くしかない。それぞれを組み合わせて現実の問題に当てはめていくしかないんです

――落合
「世の中にある課題を具体的なタスクに落としこむ。そのタスクに基づいた認識と、タスクに特化したデバイスが紐付いたときに初めて問題を解決できます

たとえ超高性能なAIを搭載したロボットが登場しても、問題は何も解決されないでしょう。いまは快適さを追求することよりも、身近な課題に対してタスクを中心とした解決への取り組みを繰り返していくことが重要だと思っています」

落合氏は、2020年までに社会へどこまで社会にロボティクスを導入し、作業を自動化するべきか線引きをし、それを2030年までに実装する必要があると言います。

――落合
「2030年以降、高齢化と人口減少のペースが一定になったとき、多様な能力が包摂される社会のあり方を考える必要があります。どうしたら100歳まで働き続けられるのか。介護する側とされる側を分けるのではなく、みんなが能力を活かして働くためには、どんなテクノロジーが必要か、といった発想に切り替えていく必要があると思います」

「どうしたら本当に世界を変えられるのか?」

テクノロジーを実装し、世の中に出していく際に、どんな課題に突き当たるのか。技術面、社会面からそれぞれの課題を以下のように挙げます。

技術面

  • 少ないデータセットでの学習
    • 三次元データからの二次元データセット生成などを含めデータセット整備のための課題
    • データの収集ルーチンを含めた現場課題の解決
  • 個人に合わせたチューニング
    • 学習:教師信号のインターフェースのデザイン
    • 身体性:デジタルファブリケーションによる身体拡張
    • DNN:入力と出力の直接学習によってどこまでいけるか
社会面

  • 分野融合による技術評価と民間企業との創発
    • 社会実装としてのアカデミックを超えた巻き込み
  • ユーザー層へのリーチと実践コミュニティ作り
    • 認知度の向上、障害を持つコミュニティ(被験者・受益者)との連携
――落合
「個人に合わせたチューニングをどう行うかは難しい問題です。たとえば、おばあちゃんの補聴器が間違った認識をしても、おばあちゃんはUIを使って教えてくれない。専用のデバイスを開発する必要があるかもしれないし、ウェアラブルでボタンを押すだけにする必要があるかもしれない。このように、機械学習にともなうインターフェースのデザインは非常に重要だと思っています。

身体性についても、デジタルファブリケーションによる身体拡張はどこまで可能なのかを考えなければならない。具体的には、義足にはどんな素材が必要で、どこまで3Dプリンターで作れるのかといったケーススタディが必要になります。

入力と出力の直接学習をディープラーニングでやるにしても、実際どこまでできるかは、現場によっても変わってくるので、やってみないとわからないというのが現状です

――落合
「さらに、課題を解決するためにいろいろな技術やツールを使う人を社会がどう受け入れるか、どうやって民間企業と創発しながら問題を解決していくのか、社会面での課題も大きいんですよ。

研究課題とエンジニアリングと社会認知を一気通貫して問題を解かないと、状況は何も変わりません。今までもみんな努力してきましたから。過去に義足を作る人はたくさんいたし、車椅子を自動化しようとする人も1980年代からいるので。

ただ、2020年の東京オリンピックや、2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)を控えているいまのタイミングは変化のチャンスだと思っていて、その機会を活かすことが我々の使命です」

落合氏は、生まれながらに足と手がない乙武洋匡氏に、モーター搭載のロボット義足を装着するプロジェクトの概要を話しました。

「xDiversityで行われている遠藤プロジェクトリーターを中心としたプロジェクト。僕は乙武さんが義足や義手を付けて歩いたら、ガンダムみたいでかっこいい」と思ったといいます。


出典:乙武洋匡公式Instagramより

――落合
「乙武さんは普段は車椅子で移動していますが、本当は常に車椅子に乗っている必要はないんです。その時々のタスクに合わせて車椅子と義足を使い分けられる社会こそ、真に多様な社会だと思っています。

ただ、現状まだまだ乙武さんは歩けないわけで。どうすれば膝関節を動かせるか、体の一部を自由に入れ替えるにはどうすればいいのかなどを考える必要があります。それには本人の練習も必要だし、周囲の協力も必要です」

重要なのは、そういったプロジェクトが動いていることが社会に認知されること。そのうえでコストはどれくらいか、どれくらいでペイするのかを考えながらエンジニアリングする必要があると、落合氏。

――落合
「どれか1つでも欠けたら、何も変わらないんですよ」

「あるべき未来を想定して戦略を考える」

――落合
「今ある課題を解決するために必要なデバイスやツール、ソフトウェアはすでにある。重要なのは、いま豊富にある画像認識や音声認識などのソフトウェアリソースを、状況に合わせてどう最適化し組み合わせて解決していくかです。

そこで重要なマインドセットは、技術的が大したことがなかったとしても、それをバカにしないこと。大したことのない技術で問題が解決できれば、スマートだしコストも安くつきます。課題を解決するうえでの技術なんて何でもいいんですよ。新しい課題を見つけ、技術で解決する。そのこと自体がイノベーションなんです」

落合氏は、ビジョンドリブンの開発スタイルにこそ、あるべき世界があると言います。

――落合
「車椅子が全自動になったり、すべての問題をたくさんのロボットが解決してくれるような世界がいきなり来るわけがない。技術障壁をクリアするための行使コストを考え、最終ゴールを見定めた開発が重要です。

課題を解決する上で、技術なんて何を使ってもいいんですよ。ただ、今のままではいずれ人もリソースも足りなくなるので、自動化できるタスクは自動化する必要があるし、それによって付加価値が出るならそれをビジネスにしていかなければならない」


講演資料を参考にしてLedge.ai編集部が作成したもの

――落合
「課題を解決するためには、ゴールを見定めて、段階的に進めていく必要があります。30年後に現場の作業員の数が足りなくなってもやっていけるように、今年は3時間だけ自動化しよう、来年は10時間まで自動化してみよう、といったプロセスです。あたりまえのことですが意外とできていない」

世の中の課題をどう見つけ、どう解決していくのか。落合氏はひとつのキーワードを提示しました。

「バックキャストアプローチ ── あるべき未来を想定して戦略を考える.」

「この数年で世界はガラッと変わる」

――落合
「我々にとってのあるべき未来はすごくわかりやすい。

人口減少。労働力不足。使える人的リソースは目に見えて減少しています。とくに、ソフトの開発人材や現場にいくエンジニアリング人材は不足している。一方で、高品質かつ壊れないハードウェアを作るリソースはある。さらには、その応用先となる困っている人もいる。ソフトウェア化する、自動化する、省人化する、AI化する。こういった技術の社会的要請が高まっているんです。

バックキャストアプローチはよく使うフレーズではありますが、意外とできていない。現場から手を動かしながらあるべき未来を想定すれば、やるべきことは明確です」

――落合
「(前回の)東京五輪から大阪万博までの間には、日本社会におけるハードウェアの転換点がありました。新幹線を通したり、高速道路を作ったり。現在の都市構造の多くはこの時期に作り出されたものです。

次は我々の世代がソフトウェア技術を使って、2020年から25年までの間に転換点を示さなくてはいけない。この数年で世界はガラッと変わると思っています。

世の中に転がるソフトウェアと、日本が得意とするハードウェアをいかに組み合わせるか。それこそが、多様性社会の中でソフトウェアを使って問題解決するために最も重要なことだと思っています」