2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。
「“チャットボットの今” 〜本格的なマネタイズフェーズへ〜」と題して講演した株式会社ZEALSの清水 正大氏は、チャットボットをマネタイズするための実践的なアプローチについて語りました。
株式会社ZEALS 代表取締役CEO
1992年岡山県出身。「日本をぶち上げる」という志の元、2014年に株式会社ZEALSを設立。新たなネット広告サービスである”会話広告fanp”を提供。2018年にはForbesの「アジアを代表する30才未満の30人の起業家」に選出。
時代は「ボットラッシュ」。チャットボットの波は来ているのだが…
ZEALSが手がけるのは、国内No.1のチャットボットによる会話広告パッケージ「fanp(ファンプ)」です。
会話広告とは、インフィード広告からチャットボットを通じてコンバージョンを獲得するモデルの広告です。
講演冒頭、清水氏は現在のチャットボット市場について触れました。
「日本のチャットボット市場に火をつけた人物、それはFacebook創始者のマーク・ザッカ―バーグです。
2016年4月12日に行われたFacebookの開発者カンファレンス『F8』で、Facebook Messenger APIのオープンソース化を発表しました。それを皮切りに、LINEなどもオープンソース化に踏み切り、国内でも一気に注目が集まりました。
さらにいうと、FacebookやLINEよりも前に、世界のチャットボット市場に火をつけたのは中国のWeChatです。現在、WeChat内にはLINEやFacebookを凌ぐ、14,00万台以上のチャットボットが存在しています。
この一連のできごとは、巷ではゴールドラッシュならぬ『ボットラッシュ』と呼ばれています」
中国国内ではWeChatが生活に欠かせないコミュニケーション手段になっており、現存するボットの種類は膨大。日本ではWeChatよりもLINEやFacebookがよく利用されるため、F8での発表が日本のチャットボット市場に火をつけるきっかけになったのです。
ボットラッシュといわれる一方で、チャットボットのマーケットではある問題が起きていると清水氏は言います。
「皆さん、チャットボットに取り組んでいますか? そして、チャットボット事業をマネタイズしていますか?
偽らずにチャットボット市場の“今”をお伝えすると 、世界的にチャットボットはマネタイズに苦戦しています。それにはチャットボットを巡るマネタイズを阻むさまざまな考え方が横行しているためです。
そんな中、ZEALSはチャットボット事業のマネタイズに成功しています」
うまくいかない3つの法則。チャットボットはそうするとマネタイズできない
チャットボットのマネタイズがなぜ難しいか。清水氏は、マネタイズできない3つの理由を語りました。
「まず1つ目の『ドロップボックス至上主義』とは、ドロップボックスのように無料でばらまいて、課金を後で行うフリーミアムモデルにすればマネタイズできるという考え。
2つ目の『カスタマーサポート神話』は、チャットボットにはカスタマーサポートをさせるのがぴったりなはずという考え方です。
最後に3つ目の『自然言語処理オタク』とは、チャットボットの勝負の重きを自然言語処理精度のみに置くこと。
これではマネタイズが難しい。この3つの問題を『fanp』の会話広告では克服しています」
なぜこれらが問題なのか。清水氏は以下のような問題点を指摘し、ZEALSの対処法を示しました。
- ドロップボックス至上主義(フリーミアムモデルを正義だと考えている)
- 無料でフレームワークを配ってもクライアントは会話を作れない(ノウハウ/工数問題)→会話内容の構築を全てZEALSが担当することで克服した
- そもそもチャットボットを何のために取り組むのか目的がハッキリしない(目的問題)→コンバージョン(広告)をゴールに捉えることで克服した
- ユーザーとの会話シナリオは簡単には作れない(技術的問題)→選択式会話で技術的課題を克服した
カスタマーサポート神話(CS以外での活用が模索されていない)
- CS向けは膨大なシナリオコンテンツ作成する必要がある(工数/ROI問題)→広告ならコンバージョンというゴールがある会話なのでシナリオ数が最小化できる
- CS向けは他社への横展開が難しい(再現性問題)→広告なら業界特化でゴールも同じ構造になるよう類型化が可能なため横展開を実現できた
自然言語処理オタク(技術さえ磨けばマネタイズすると考えている)
- ユーザーは文字を入力するのが面倒(ユーザー置いてきぼり問題)→選択式会話で克服した
- 肝心の自然言語処理はオープンソース化されている(優位性問題)
→自然言語処理ではなく、コンバージョンするまでの会話データを独自データとしてシナリオの予想エンジンを開発した
fanpでは商品購入などのコンバージョンポイントをゴールとし、会話広告に選択肢会話を導入、シナリオ数を限定し自ら設計までを請け負うことでこれらの問題を克服しています。
たしかにチャットボットの理想は、自然言語処理を磨き上げ、ボットと人間の自然な会話が成立するようなシステムです。
しかし、実際に利用するユーザーやクライアントと技術とを天秤にかけ、技術だけに傾倒するのだけではなく既存産業(ZEALSの場合は広告産業)が抱える課題に対して腰を据えて取り組んだ結果、ZEALSはマネタイズに成功したのです。
清水氏の語るアプローチは、ここからさらに汎用的なノウハウに。
チャット型インフィード広告におけるZEALSの最適解。ユーザーにはヒアリングファーストで
今や時代はサーチの時代からフィードの時代に変わってきているといいます。インフィード広告の一部である会話広告はコンバージョン率も高く、腰を据えて取り組むべきだと清水氏は語ります。
「Googleの検索広告はよりニーズの顕在的なカスタマー、FacebookやLINEなどのインフィード広告はより潜在的なカスタマーを対象にします。そのため、通常インフィード広告では商品をゴリ押ししても潜在層には響かず、コンバージョン率は0.8%と低く出てしまいます。
インフィード広告にfanpのようなチャットボットを導入することで、コンバージョン率は5.7%、約7倍に跳ね上がります。
チャットボット型の広告で重要なのは、“ヒアリングファースト”。まずユーザーのニーズがどこにあるのかを確認することが重要です」
選択肢会話を活用することで、ユーザーのニーズを手軽に違和感なくヒアリングできます。その上でアプローチを出し分けることで、会話を通した自然な商品提案が可能に。
さらに、会話をパーソナライズしていきます。
「会話を通じて得たデータをチャットボットCRMで資産化します。つまりデータを価値として保存するのです。
さらに、保存したデータを活用することで、ユーザーにパーソナライズされた広告が打てるようになり、会話広告は最適な形で成果を上げるに至りました」
つまり、広告業界の検索広告からインフィード広告へのユーザーの流れや、チャットボットとインフィード広告の親和性を見出し、データ活用まで折り込んで、初めてマネタイズにたどり着いたということです。
チャットボットの理想的なイメージが先行している中、ビジネスとしてマネタイズさせるため、広告とチャットボットの特性・課題を理解し、寄り添っていることが分かります。
チャットボットで日本をぶち上げる。ZEALSが興す、コミュニケーションによる産業革命
「僕らは、チャットボットなどのコミュニケーション技術が産業革命を興すと思っています。
今後は、日本の人手不足を解消すべくチャットボットがより広く浸透していく。直近3年では、LINEやFacebook Messengerなどのチャットを中心に洗練されていく。
5年では、スマートスピーカーや無人店舗などで活用される技術になっていき、10年後には新たなデバイスが普及する未来が待っています。
そういう未来を僕らが日本から創っていきたいと思っています」
昨今では、「チャットコマース」と呼ばれるチャット内で商品購入まで完了できるユーザーに寄り添ったサービスも興隆しており、会話広告はさらに消費生活に浸透していくはずです。
今後はスマートスピーカーの浸透や、無人店舗などの発達に伴い大きな可能性が期待できるチャットボット市場。その今と未来を感じる講演でした。「ボットラッシュ」はまだまだこれからのようです。