レッジが1月31日に開催した「THE AI 2018」。総勢500名以上の方に来場いただいた本イベントは、大盛況で幕を閉じました。
The AIとは、株式会社レッジ主催の、“今のAIを語る”大規模AIカンファレンスです。AIが世の中をこう変える、ビジネスを進化させるなどの抽象的な未来な話ではなく、具体的なコストは? 具体的に何ができるのか? など、今のAIを知る名だたる企業が登壇する大規模イベントです。
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株式会社 Cogent Labsの講演では、David Malkin氏・David Cournapeau氏が登壇。今回は、David Cournapeau氏による講演後半部分の内容をお伝えします。
株式会社 Cogent Labs/シニア・リサーチ・エンジニア
理学修士号と音声認識博士号を保持、10年以上に渡りエネルギーや遺伝学など、さまざまな分野の科学プロジェクトを経験。現在Cogent Labsのリサーチエンジニアチームの責任者を務める。
David氏に話していただいたのは、エンジニアと研究者の文化の違い。AI開発における組織構造はどのようなものがベストか、といった話は、今回の講演の中でも独自の切り口でした。
研究者とエンジニアのカルチャーギャップ
はじめに、David氏は、AI開発プロジェクトにおける、研究者とエンジニアの文化の違いを説明しました。
「研究者とエンジニアは、一見同じようにチームに貢献しようとしますが、実態は大きく異なります。研究者は、作成した学習モデルでいかに精度を出せるかにこだわる傾向があります。一方、エンジニアは、次のプロダクトを作るときに再現できるかどうか、プロダクトを量産する際の再現性を重視します。」
David氏は、これを自動車の違いにたとえていました。
「研究者は自動車でいうフォーミュラーワン。精度を徹底的に追求するための車です。対してエンジニアは量産車にたとえられます。精度だけではなく、いかに多くの人にプロダクトを使ってもらえるか、そのモデルはほかのプロダクトに転用可能か、などの視点も持ち合わせています。」
研究者とエンジニアをうまくコントロールできないと、コミュニケーションロスでプロジェクトマネジメントの工数が増え、プロジェクトの遅延を招いてしまうとのこと。では、どのようにしてこの溝を埋めればいいのでしょうか?
カルチャーギャップを機械学習エンジニアが埋める
David氏は、カルチャーギャップを埋めるには、機械学習エンジニアが間に入る組織体制にすべき、と語りました。
「機械学習エンジニアは、ある程度エンジニアリングも知識の面でも理解している人です。チームの体制は、研究チーム、バックエンドエンジニア、フロントエンドエンジニア、機械学習エンジニアのクロスファンクショナルな体制が望ましいでしょう。」
機械学習エンジニアとは、理論からエンジニアリングまでをカバーできる人材。
具体的には以下の能力を持つ人とのこと。
- モデル設計のプロである
- モデルやその限界を理解し、それらを改善することができる
- 研究者と協力して、新しい概念や研究アイデアを理解することができる
- モデル自体が機械学習システムの一部であることを理解している
機械学習エンジニアが研究者とエンジニアの仲立ちをすることで、エンジニアも研究者も得意な領域に特化でき、スピーディな開発ができます。
しかし、AI人材が不足しているというニュースはよく聞きますし、機械学習エンジニアも例外ではない気がします。
「不足はしていますが、必要な人材です。Cogent Labsでは、優秀な人材を獲得するために世界中を飛び回ってリクルーティングをしています。」
世界中を飛び回って、日本に優秀な人材を移住させる。簡単に聞こえますが、世界中の企業が人材獲得に苦労している現在では、このように取り組めること自体が、かなりすごいことですね。
AI開発プロジェクトで、やるべきこととやるべきでないこと
また、組織論に絡めた、AI開発においてやるべきこととそうでないことについての話も。
そのひとつに、モデルの精度を最初から完璧にしようとするのではなく、メンテナンス性や安定性といった要素を高めていくことを挙げていました。
「特に重要なのは、モデルの最適化は、そのプロダクトの作られた背景を考慮してされなければならないということです。研究者がモデルの精度向上のみを目的として、メンテナンス性や安定性を軽視するのは好ましくありません。」
モデルの精度が最初から高い状態であることはありえないですし、精度を向上させるとしても、プロダクトのニーズに合致していなければ意味がありません。ユーザーが見るtoC向けのウェブサイトと同じくらい批判的になることが重要と、Davidさん。
「そもそも、ソフトウェア工学を理解している人を雇えれば、機械学習はそれほど難しいものではありません。わかっている人を雇う、というのは一番重要なポイントです。」
AI開発には、その道のスペシャリストが必要。当たり前のことですが、できている企業は多くありません。AI人材が不足している今、これからの企業の競争力は、いかに機械学習エンジニアのような人材を多く雇い、体制を構築できるかにかかっていることを再認識した講演でした。
Cogent Labsのお二人、ご登壇ありがとうございました。