AIとの競争ではなく「豊かな無駄」を楽しむ ── スプツニ子! が語ったこれからの時代の幸福論

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写真提供:ロボスタ

2018年1月31日、レッジが「未来ではなく、今のAIを語ろう。」というコンセプトで開催した『The AI 2018』





『The AI』とは
The AIとは、株式会社レッジ主催の、”今のAIを語る”大規模AIカンファレンス。AIが世の中をこう変える、ビジネスを進化させるなどの抽象的な未来な話ではなく、具体的なコストは? 具体的に何ができるのか? など、今のAIを知る名だたる企業が登壇する大規模イベント。
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特別講演では、アーティスト/東京大学特任准教授として活躍されているスプツニ子!氏と、株式会社レッジのCMO 中村健太が、クリエイティブ領域でのAIの使われ方から、これからの時代の幸せとは何か、といった哲学的な話題まで、議論を交わした。

スプツニ子!
アーティスト
東京大学生産技術研究所RCA-IISデザインラボ特任准教授。元マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教(2013年~2017年)デザイン・フィクション研究室主宰。著書に「はみだす力」、共著に「ネットで進化する人類」(伊藤穰一監修)など。

中村 健太
株式会社レッジ CMO
Webコンサルとして数多くの実績を持つ株式会社レッジのCMO。2014年より一般社団法人日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に「Webディレクターの教科書」「Webディレクション最新常識」など多数。レッジでは、さまざまな企業にAIプロデューサー/ディレクターとして参画。大小数々のAIプロジェクトをプロデュースしている。

AIは個性を持つように進化する?

最初に語られたのは、クリエイティブとAIの関係について。中村は、レッジでAIの導入コンサルティングをおこなう際、広告などのクリエイティブをAIで代替できないか、という要望が多く来ていることを述べた。

写真提供:ロボスタ

――中村
「問い合わせは多いんですが、技術的にはまだまだ先になると思います。現状はまだまだクリエイティブの下準備の段階を任せるレベルに留まっていますね。」
――スプツニ子!
「現在のAIは、既存の価値観に当てはめる形での貢献は得意ですが、0から1で何かを生み出すのは得意ではないですよね。個人的には、これからは『クール』『ひねくれもの』などのキャラクター性を持ったAIが生まれてきてもいいと思うんです。

特にアートなどのクリエイティブにおいては、なぜその人がそのアートを作ったのか、どのようなバックグラウンドがあったのか、というキャラクター性や時代背景も重要になってくるので。」

確かに、私たちは作品の背景にあるストーリーや、作家の人間性などのキャラクターを知ると、より作品に深くのめり込む。共感するかしないかは置いておいて、キャラクターというフィルターを通して作品を見るようになる。

キャラクター性がストーリーを作り出す。そしてストーリーはアートの構成要素として重要なので、AIもそれを持つように進化していくというわけだ。

AIは人間の機能を外部に拡張しただけにすぎない

続けて中村は、多くのメディアに目を通す中で、「AIが人間の仕事に置き換わっていく中で、人間は人間にしか考えられないことをすべき」のような記事の結びが多いと指摘。

――中村
「実際にそういう締め方が多いんですが、人が考えなければいけないことってじゃあなんだ?っていう核心には触れられてないんですよね。そこは実際に置き換わってみないとわからないというところでしょうか?」

写真提供:ロボスタ

――スプツニ子!
「人間が考えるべきことというよりも、そもそもAIと人間を分ける必要がないと思っています。在籍していたMIT(マサチューセッツ工科大学)では、人工知能をExtended Intelligence(拡張知能)と呼んでいて、人工知能を拡張された身体機能の一部と定義していました。

あえて人間が考える必要があるとすれば、身体機能の一部であるAIを、いかにハンドリングするかの部分が重要になってくると思います。」

AIに仕事を奪われるという考え方は、現在議論の的だ。けれども、AIを、人間の脳機能を外部に拡張しただけと認識するなら、それをどう使いこなすかが人間には求められる。

AIが普及した時代に人間に求められるのは、機能そのものを内在的に持つのではなく、外部にアウトソースされた身体の機能を使いこなす能力であると言えるかもしれない。

人間は、無駄を楽しめる生き物

――中村
「今って、テクノロジーは無駄を省く方向に進歩していますよね。できるだけ負荷を変えずに良質なアウトプットを得ることがひとつのゴールとなっているのは、ビジネスを回していても感じます。」

写真提供:ロボスタ

――スプツニ子!
「AIによる効率化って、要するに無駄を排除する作業ですよね。でも、無駄と思われる仕事を好きな人間だっていると思うんです。

アイロンがけとか、レジ打ちでも、人間は幸せを感じれる。アートや音楽だって、壮大な無駄。でも人間って、そういう無駄なことからも幸せを感じる生き物なんです。」

確かに、ビジネスという観点でAIを見たときに、今のAIは「効率化の道具」だ。いかに無駄を排除して、利益を出すかという話が中心の議論になる。

そうではなく、人間がやることは所詮無駄なものと割り切ってしまい、だったら無駄そのものを豊かにしよう、という姿勢は、意外なほど新鮮だ。

スプツニ子! 氏はこう続ける。

――スプツニ子!
「たとえば、AIの方がアーティストよりも、売れる音楽を作れるという議論もあります。でも、アーティストは、売れるために音楽をやっているわけではなく、ただ『好きだから』『幸せになりたいから』やっているんですよね。

AIの方が得意だからって、人間がやりたいことを止められる理由にはなりません。『豊かな無駄』をもっと楽しむべきだと思いますね。」

すべては幸せになるために。無駄こそ最高だと気づく次の100年

最後にスプツニ子! 氏はこう語った。

――スプツニ子!
「これまで100年間、人間は競争に勝つことに慣れすぎて、知性を鼻にかけてたと思うんです。でも今、人間よりも何かを効率化することに長けた、AIという存在が生まれてしまった。

次の100年は人間のプライドがへし折られる100年になると思いますが、同時に無駄こそ最高だと気づくと思います。

負けていいんです。人間は幸せになるために生まれてきたんだから。」

大切なのは、目的と手段を取り違えないこと。Ledge.aiでも繰り返し伝えている、「AIの導入は目的ではなく、ビジネスゴールを達成するためのひとつの手段」という考え方を、さらにもう一段深められた気がした。

効率化の先に、どのような幸福を求めるのか。それこそがAIが私たちに投げかけている問いなのかもしれない。