東京大学らがAIと人工嗅覚センサを利用した呼気による個人認証の原理を実証 偽造できない生体認証技術実現へ期待

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国立大学法人 東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻の長島一樹准教授、柳田剛教授らの研究グループは5月23日、生体呼気から得られる化学情報に基づく個人認証の原理実証に成功したことを発表した。

本研究グループのメンバーは他に、国立大学法人 九州大学大学院 総合理工学府 ジラヨパット チャイヤナ大学院生(研究当時)、国立大学法人 名古屋大学大学院 工学研究科 生命分子工学専攻の安井隆雄准教授、馬場嘉信教授、パナソニック インダストリー株式会社 技術本部 花井陽介主任技師、中尾厚夫主任技師、中谷将也課長。

本研究では、人工嗅覚センサを介して呼気を検知し、得られたデータをAI(人工知能)による機械学習を通して分析して、20人の個人認証を97%以上の高精度で達成した。本研究成果は、5月20日に英国王立化学会が出版する「Chemical Communications」誌のオンライン版に掲載された。

生体認証は人間の身体的・行動的特徴で個人を認証する仕組みで、パスワード認証やPIN認証(スマートフォンなどで利用される暗証番号)に代わるかんたんでセキュリティの高い本人確認方法として、近年広く利用されている。

これまでに指紋や掌紋、顔などさまざまな特徴を利用した生体認証技術が開発されてきたが、物理情報に基づくそれらの技術では、外傷などの身体的特徴の変化による認証精度の低下や、情報が偽造・窃取された際の長期的ななりすましのリスクなどの課題が残されている。

本研究のテーマである呼気(生体ガス)を介した生体認証技術は、生体ガスを構成する分子群の化学情報(各分子の種類やその数量)に基づいて認証する新しいアプローチである。生体ガスは内因性の成分を含む膨大な種類の分子群で構成されるため、外傷による変化や情報偽造がされにくい。

また、一度使うと消費されるため、窃取による長期的ななりすましが困難といった特徴があり、従来の生体認証技術が抱える課題を本質的に克服できる可能性がある。

これまで、主に皮膚から出るガスを利用した個人認証が研究されてきたが、皮膚ガスに含まれる多くの分子群の濃度は化学センサの検出限界を大きく下回ることから、個人認証に利用可能な分子の種類は限定的で、本アプローチの適用限界が示唆されてきた。

本研究では、皮膚ガスに対して構成する分子群の濃度が三桁程度高い呼気ガスに着目し、人工嗅覚センサを介した呼気検知による個人認証の原理実証を実施した。まず、呼気ガスが皮膚ガスと同様に個人認証に利用可能な成分を含んでいるかを調べるために、呼気ガスの成分を分析した。

その結果、呼気ガスでは皮膚ガスと共通する成分が多数検出されるとともに、個人を特徴づける成分を示した特徴量マップから、個人ごとに異なる呼気成分パターンの存在を確認できた。

次に、高分子材料と導電性カーボンナノ粒子などから人工嗅覚センサを構築した。人工嗅覚センサは、分子が吸着するとセンサ材料が体積膨張し、導電性カーボンナノ粒子間の距離が広がることで電気抵抗が増加するといった原理で標的分子を検出できる。

分子の検出のしやすさは高分子材料と標的分子の親和性により決定され、異なる性質の高分子材料を利用して多種類のセンサを搭載することで、多様な分子群を検出できる。本研究グループは作製したセンサ素子を用いて呼気ガスの成分分析で得られた個人を識別できる分子を取得し、呼気ガスの濃度範囲で標的分子を検出できることを確認した。

年齢・国籍・性別の異なる空腹状態の6名を対象に呼気を測定した結果、16個のセンサ素子はすべて異なる応答を示し、個人ごとに異なるパターンの応答が得られた。また、個人を特徴付けるための各センサの寄与度を評価したところ、すべてのセンサ素子が個人認証に有効であることが確認された。

6名を対象とした本実験では、平均97.8%の精度で個人の識別に成功した。この高い識別精度は、別の日に呼気をサンプリングした場合や、対象人数を20名に増やした場合の実証実験でも同様に達成された。

本研究では、データ分析に使用するセンサ数の増加にともなって識別精度・再現性が上昇する傾向も観測され、本研究で得られた一連の知見はさらなる多人数の識別へ向けたセンサ開発の重要な指針になり、高いセキュリティの生体認証技術の実現に繋がると期待される。

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