株式会社レッジは7月14日、株式会社日立ハイテクソリューションズとPTCジャパン株式会社をゲストに招き、「装置・設備へのIoT導入がもたらす製造業のDX効果とは?」と題した無料ウェビナーを開催した。
本ウェビナーは、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)において重要となる、装置・設備へのIoT(モノのインターネット)導入について取り扱うもの。日本の現状のみならず、海外での先進的な取り組み、IoTプラットフォームについて議論が及んだ。この記事では、本ウェビナーの模様をレポートする。
製造業の半数以上、IoTやAIを導入していない
株式会社日立ハイテクソリューションズ ICT事業本部 デジタルエンジニアリング部 営業グループ 技師の長谷川紀子氏、PTCジャパン株式会社 エンタープライズパートナー営業部 担当部長の安松敬蔵氏(左から順に)
本ウェビナーでは、まず株式会社日立ハイテクソリューションズ ICT事業本部 デジタルエンジニアリング部 営業グループ 技師の長谷川紀子氏が「国内製造業のIoT・AI活用の現状と展望」について語った。
総務省が発表した「令和3年通信利用動向調査」の結果によると、日本国内の製造業の半数以上がIoTやAIを導入していないという。導入している企業も「効率化・業務改善」がメインで、「事業全体最適化」や「顧客サービス向上」といった発展的なものは低い割合に留まった。
IoTやAIを導入していない企業に着目すると、導入していない主な理由は「ビジネスモデルやシステムが不明確であること」「人材が不足していること」などだ。
長谷川氏はこのような現状を踏まえ、「まずは現状を把握してどこに課題があるのかを明白にして、そのうえで目指すべき目標を定めて、段階的に進めていく必要があります」と問題提起するとともに、IoT・AI活用の成熟度に応じたステップを示した図を持ち出した。
このようにIoT・AI活用には現状がどこのレベルなのかを把握して、自社の人材に応じた最適なソリューションを適用し、目指すべき目的に向かって段階的に発展させていくことが重要です」(長谷川氏)
製品IoTの展望「事業戦略の抜本的な転換」が約7割
日本では製造業のIoTやAIの導入は十分に進んでいない一方で、海外では先進的な取り組みも見られる。PTCジャパン株式会社 エンタープライズパートナー営業部 担当部長の安松敬蔵氏は、デジタル化に成功した海外企業として、アメリカの航空機エンジンメーカーであるGE・アビエーションを紹介した。
海外の調査では、スマート・コネクテッド製品(製品IoT)においてどのような展望を持っているのかを聞いたところ、「事業戦略の抜本的な転換を図っている」と回答した割合が約7割におよぶ。GEはそのような展望を実現させた代表的な企業と言えるだろう。
また、安松氏は機械や装置に機器を取り付けて稼働状況を監視する「リモートモニタリング(遠隔操作)」についても言及した。リモートモニタリングには、大問題が発生する前に問題を遠隔地から検知したり、問題点をリモートから修正できるため、現場への訪問が不要になったりなどのメリットが挙げられる。
例えば、PTCが支援した医療会社のエレクタでは、がんの放射線治療用ツールの非稼働時間を削減。機器の稼働情報を分析することで、製品の耐用寿命を予測し、部品や新しい機器を早めに販売する取り組みを実施しているという。
さらに、エレベーター会社のマッキンリー・ エレベーターでは、初回修理完了率を業界平均が60%のところ88%と高い結果を実現。最終的には90%半ばに達する見通しとのこと。
安松氏は「リモートモニタリングを通して高い付加価値としたり、再販につなげていったり、高額な商品であれば運用費を回収したりできます」「皆さまのビジネスにわれわれPTCをビジネスパートナーとして加えていただき、ご一緒に皆さまの製品の価値を上げ、皆さまのビジネスの変革のお手伝いをしたいと思っています」と話をまとめた。
IoTプラットフォーム「ThingWorx」の3つのメリット
次は、再び長谷川氏にバトンタッチし、「製造業が選択すべきIoTプラットフォームの特徴と導入成功の秘訣(ひけつ)」をテーマに、日立ハイテクソリューションズが提供するPTCのIoTプラットフォーム「ThingWorx」について導入事例ととも紹介した。
長谷川氏はIoTプラットフォームについて、「機器への接続、データの吸い上げから、整理・統合管理し、そのデータを利用した標準やカスタムのアプリケーションを整備することで、さまざまなサービスを短期間で構築するプラットフォームです」と説明する。
日立ハイテクソリューションズが支援したとある医療機器メーカーは、陽子線がん治療装置と放射線診断装置について、「故障が発生しても、現場に行くまで装置の状態が分からない」「すべての対応に現地訪問が必要」などの課題を抱えていた。
ところが、IoTプラットフォームを導入した結果、リモート監視と保守対応が可能になった。操作は簡単で、アプリケーションの画面で監視対象の装置を地域・機種別に表示・選択したり、装置の状態を確認したりできる。その結果、訪問回数の半減、高精度な障害分析などを実現しているという。
このような課題を解決に導いたのがThingWorxだ。ThingWorxはさまざまな装置や機器、業務システム、データベースと接続し、収集データを統合、遠隔から接続機器を監視・管理する仕組みを構築できる。ThingWorxにはどのような特徴があるのか。長谷川氏は3つの特徴を紹介している。
「自前でシステムを作る」が日本のIoT導入の足かせか
株式会社日立ハイテクソリューションズ ICT事業本部 デジタルエンジニアリング部 部長の三島恒夫氏、株式会社日立ハイテクソリューションズ ICT事業本部 デジタルエンジニアリング 営業グループ 担当部長代理の下靖彦氏、PTCジャパン株式会社 エンタープライズパートナー営業部 担当部長の安松敬蔵氏(左から順に)
第2部のディスカッションには、安松氏に加え、株式会社日立ハイテクソリューションズ ICT事業本部 デジタルエンジニアリング部 部長の三島恒夫氏、株式会社日立ハイテクソリューションズ ICT事業本部 デジタルエンジニアリング 営業グループ 担当部長代理の下靖彦氏の2名が参加。国内外でのIoT活用の現状、IoTプラットフォームがもたらす価値などについて議論を繰り広げた。
世界的には、日本のIoT導入はどのような状況だと位置づけられるのか。安松氏は世界的な状況を鑑みて、「北米とヨーロッパは比較的にIoTが先行しているが、日本は他の国と比べてARが先行しているのが実情です。どうしても、製造業の皆さまは見えるものからやっていきます。製品IoTは個人情報などセキュリティの問題もあります。日本のお客さまは製品IoTは手作りで始める方がいます」と分析している。
三島氏はそのような指摘を踏まえ、日本のIoT導入が進まない背景について、「自前でシステムを作るには要件をきっちりまとめ、仕様をしっかり作り、設計書をきちんとまとめて、何カ月もかけてものづくりをします。それをテストしてやっとリリースできます。最初の要件やビジネスモデルをどうするべきかをきっちりと設計しないと始められません。一方で、私たちのお客さまに聞いてみると、そんなに深く考えずに軽く第一歩を踏み出している方が意外と多いです」と話した。
実際、どのような業界や業種などからIoT導入についての相談があるのか。下氏は日立ハイテクソリューションズについて、「やはり、サービスや保守メンテナンスの部門からの相談が1番多いです。フィールドで稼働している装置を自分たちで保守・管理することを主な業務としているからだと思います。一方で、開発部門からも相談があります。自分たちの次世代モデルをIoT化した、より優れたものに開発設計したいという相談などです」などと説明した。
安松氏はPTCについて、「北米の会社はCDO(最高デジタル責任者)が経営に参画しており、トップダウンでの相談が多いです。日本は『DXをやりなさい』『IoTをやりなさい』などと命令された、担当者からのご相談がここ数年は続いていました。ここ最近はCDOの方のご相談が増えてきています。最近はボトムアップの考え方とトップダウンの考え方が半分半分ぐらいです」と話した。
日本のIoT導入はまだまだ進んでいるとは言いがたい。このような障壁をどのように突破すれば良いのか。最後にそう問われた3名は、それぞれこう語った。