2億件以上のデータから顧客心理を分析――ウェルスナビがAIによる資産アドバイス機能をリリース

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雇用の流動化による終身雇用の終焉や、少子高齢化に伴う年金水準の低下が連日ニュースで叫ばれている。金融庁・金融審議会が2019年6月3日に公表した「高齢社会における資産形成・管理」をきっかけに、「老後2000万円問題」が大きく取り上げられたのも、記憶に新しい。

お金へのこうした不安を解消すべく、個人向け資産運用ロボアドバイザーを提供する事業者のひとつがウェルスナビ株式会社だ。同社が提供するアプリ「WealthNavi(ウェルスナビ)」は、入金・発注・再投資などといった資産運用のわずらわしいフローを自動化している。預かり資産1700億円、口座数23万口座を突破したという同社の事業戦略説明会が2019年10月16日に開催され、経営層が今後のビジョン「資産運用3.0」について語った。





個人にとって最適化された資産運用プランの提案をめざす「資産運用3.0」ビジョン、老後資産の形成をサポートする「ライフプラン機能」のリリースと共に語られたのが「AIによる資産アドバイス機能の実装」だ。本稿でも同セッションの内容を中心にお届けする。

AIによる資産アドバイス機能をリリース

今回ウェルスナビが発表した資産アドバイス機能が目指すのは「ユーザーに寄り添うAIの実現」

登壇者の同社執行役員 AI資産運用ラボ所長の牛山史朗氏によると、アプリを通じて得た2億件以上のトラックレコードをもとに年齢や年収、求める生活水準など利用者の属性のほか、アクセスログや相場の影響、どんな資産運用をしたいかといった志向も加味しアドバイスを行っていくという。

――牛山
「AIによる資産運用サービスは数多く存在するが、その多くが”相場の先行きを予測し、短期売買を繰り返すことで利益を狙う”もの。

お客さま一人ひとりに合った商品を提案するネットショッピングや、習熟度に合わせてコンテンツを出し分ける学習アプリのように、当社でもお客様に寄り添う手段としてAIを活用していきたいと考えました」

アドバイスのパターンは無限大

ユーザーの情報だけでなく、「アドバイス」そのものにもいくつもの要素が絡み合う。内容や語り手の説得力をはじめ、アドバイスのタイミング・語り口、呼びかけ方、頻度…といった複数の要素をかけあわせることで、ユーザー数と同等もしくはそれ以上のアドバイスを提供できるようになると見込んでいる。心に響くアドバイスができるよう、今後も効果検証を続けていくという。

――牛山
「機械学習といえども、お客様の心理を理解し洞察することが必要になってきます。当社では相場が変動していくなかで、お客様がとられた行動とその心理を真摯に見ていった結果、今回の機能のリリースに繋がっていったと考えています。他社が同じようなことを考えてAIを作ったとしても、違った結果が出てくるのではと思います」

同機能のリリースに先立ち、2017年から東京大学の松尾豊研究室と共同研究を進めており、当発表会でも松尾教授からのコメントが発表された。

――松尾
「金融の世界において、データを使ってユーザーの感情をうまく汲み取り提案していく事例は数少なく、おもしろい取り組みです。

AIを活用して分析し、人が気づけなかったことを見つけ出すことで、資産運用の提案にも成長の余地があると思っています。サービスの成長によって多くのユーザーが集まることで、データがリッチになり、新たな発見も増えるのではないでしょうか」

AIの得意分野で「顧客に寄り添う」を実現する

なぜ同社が「お客様に寄り添った、長期・積立・分散投資」にこだわるのか。それは代表取締役CEO・柴山和久氏の個人体験にさかのぼる。

――柴山
「アメリカ人妻の両親と自分の両親は、同じような年齢・学歴・サラリーマン夫婦であるにも関わらず、10倍の金融格差がありました。それは個人に合った資産運用サービスを受けられていたから。もし私の両親も若い頃から同じような資産運用を始めていたなら、今の何倍も豊かになっていたでしょう。

日本でも多くの人が、海外の富裕層が受けられる個人金融サービスを受けられるようにしたいと考えています」

10倍もの差を生み出したのは、30年間に渡る計画的な資産運用だった。実際に「長期・積立・分散投資」は投資の基本として語られることが多く、金融庁が2016年9月に発表した金融レポートでも、短期的な売買など投機目的での資産運用ではない「長期・積立・分散」の有効性が記されている。

リターンの安定した投資を行うには、投資対象のグローバルな分散、投資時期の分散、長期的な保有の3つを組み合わせて活用することが有効である。過去の実績データに照らしても、20 年間にわたり、国内・先進国・新興国の株式・債券にそれぞれ6分の1ずつ長期・積立・分散投資を行っていた場合には、定期預金だけで積立を行った場合や、国内外の株式・債券だけに積立・分散投資を行った場合と比べて、パフォーマンスに大きな違いが見受けられる。

出典:平成27事務年度 金融レポート(金融庁) p.52

同社でも「利用者ひとりひとりに向けた最適サービスの出し分けはAIの得意分野」(牛山氏)というように、資産運用にテクノロジーの力をかけあわせ、ユーザが無理なく長期投資を続けられる仕組みづくりを進めている。

さまざまな金融の悩みをAIが解決できる未来へ

現在同社が考える課題のひとつが利用ユーザが長期投資を続けていくことだ。

今回発表されたAIによる資産アドバイス機能が、この課題を解くカギになるかもしれない。「AIが投資運用の中身だけ注目する時代から、運用時のコミュニケーションを加えたサービスになることが欠かせない」(牛山氏)というように、AIを用いることで、顧客のタイプや心理状況に応じた細やかなサポートを提供する。

今後は2020年春にかけて効果検証を進め、金融に対するさまざまな悩みをAIが解決できるよう、機能を改良していく。現在は「働く世代」をサービスの中心に据えているが、さまざまな世代のユーザにとってもAIの利活用は、重要な役割を果たすという。

テクノロジーを使って誰でも同等の金融サービスを受けられるように――。今回の資産アドバイスサービスは、金融分野における新しいAI活用法を世に示す試金石になるだろう。