今、製造業は深刻な人手不足に瀕しており、少子化もあいまって、人材が集まりにくくなっています。
そんな中、製造業におけるAI技術の適用に力を入れているのが株式会社クロスコンパス。製造業向けの「AI開発環境M-IX」を開発提供し、工場などでのAI実装を助けます。
製造業のコアな課題は何なのか、AIがどのように解決に貢献するのか、株式会社クロスコンパスの小森さん、岡崎さんにお伺いしました。
「おじさんが引退している」製造業の深刻な問題
――現在の製造業における一番の課題はなんでしょうか?
「製造ラインにいるような、目視で商品が不良品か分かる“おじさん”世代が、定年退職を迎えていることです。今までは人手でやればよかったことが、物理的に維持が難しくなってきています」
これまで現場で製品のクオリティーコントロールを担ってきた年代層が引退しはじめており、工場の生産ラインを維持できなくなっている。その人手不足をカバーするために、AIによる自動化のニーズがあります。
「加えて、少子化でなかなか人が集まらないのもかなり深刻です。AIで代替するしかない感覚をお客様との会話から感じています」
クロスコンパスは、これまで150件以上の開発案件に携わり、そのうちの6割が製造業の案件。2018年に絞ると8割が製造業と、まさに製造業におけるAI導入のスペシャリストです。そのスペシャリストがここまで言うのは、かなり深刻に感じます。
エッジ処理と知見のアルゴリズム化で異常検知の質を上げる
――現場のナレッジをAIに代替する必要があるのは分かりました。実際に製造業でAIが導入されている事例はあるのでしょうか?
「ある工場では、製品の異常をデータサイエンティストが特徴量を抽出して判別していました。サーバーにデータを蓄積し、データサイエンティストが異常かどうか判断したのちに、再び装置にフィードバックする方法でした。
この方法の問題点は、データ回線の遅延などの問題で、データを一秒間に一回しかサーバーに転送できなかった。つまりデータを間引く必要があり、結果として粗いデータになっていました」
粗いデータを分析するので精度も粗く、上の図で言えば、グレーゾーン閾値を左側に寄せすぎると正常品の中に異常品が多く混在したり、逆に今度は異常を検知しない右に設定すると多くの正常品を異常品と判定し、コストが高くなってしまう事態が発生していたそう。
「そこで、現場の作業員が波形を見て判断したデータに、どこを見て異常と判断したのかをヒアリングし、知見をアルゴリズム化していきました」
また、推論処理をエッジ側でおこなうようにしたところタイムラグがなくなり、これまで間引いていたデータも処理できるようになったそう。
徹底した知見のアルゴリズム化と、エッジでのリアルタイム処理。これにより、異常と正常が交じることが極めて少なくなり、これまで発見できていなかった異常まで検知できるようになったそうです。
現場の作業員でもシステムにAIを実装できる「M-IX」
――クロスコンパスの「M-IX」は、製造業においてどのように使われるのでしょうか?
「『M-IX』は、製造業向けのエッジにも組み込める機能を備えたAI開発環境です。前処理から後処理まで、さまざまな用途に対応しています」
M-IXの特徴として、
- 受託開発で培ったニューラルネットワークを内蔵
- AIの知識がなくても簡単にモデルを生成できるワークフロー
- 簡単にさまざまなデバイスへ組み込みが可能
の3つがあるといいます。
「AIのスペシャリストではなく、現場の作業員でもシステムにAIを実装できることを目指しているので、データの入力からモデルの出力まで、すべての工程がGUIでおこなえます。
また、実験開発で精度が実証された学習済みのニューラルネットワークを使用できるので、ユーザーは正常・異常データを準備するだけで使用できます」
実際に使用する工程としては以下の通り。
- プロジェクトを選ぶ(画像、波形など、どのようなデータを扱うか)
- 入力するデータを準備
- 目標を設定
- 学習
- 結果を確認
- モデルを選び入力
生成された大量のモデルに初期値をランダムに振り、一番精度の高いモデルをユーザーが選定できるとのこと。
多くの候補の中から、もっとも実用的なモデルを選べるのは合理的です。
「モデルをエッジに組み込む際に、さまざまなデバイスの言語に翻訳が可能なミドルウェアも備えています。これを使うことで、簡単に各デバイスで動作するシステムをつくることも可能です」
モデルを生成しても、エッジへ組み込むためには再度開発が必要な場合も多いですが、ミドルウェアを使うことで相当な工数削減につながりそうです。
「IX」のシリーズ化で、多様な業界に向けたAIプラットフォームへ
――M-IXは今後どのような展開を考えているのでしょうか?
「M-IXのMは Manufactureの頭文字なのですが、今後はさまざまな業界の『IX』を作っていきます。具体的には、
- マーケティング
- 情報セキュリティ
- 医療
- ロボティクス
といった分野です」
――「IX」のシリーズ化。それができるのは、これまでの実験開発の経験が活きているのでしょうか?
「そうです。これまで数多くの開発案件に携わってきましたが、データの集め方や、活用の仕方が分からないなど、どの企業も悩んでいることは一緒でした。
私たちが開発の過程で自ら考え工夫したノウハウを横展開して、企業が持つ同じような悩みを解決するプラットフォームを作りたかったんです」
AI活用には、データを集めるだけではダメで、どのデータが使えて、どのようなデータが使えないか嗅ぎ分ける「嗅覚」が必要だとのこと。お二方によれば、それにはとにかく場数を踏むしかないそうです。近道はありませんが、まずはとにかくデータを集めてみる。その上でもしも困ったら、M-IXのようなサービスを使うのも選択肢のひとつです。
製造業では「おじさん」世代の引退や少子化による人手不足など、課題は山積み。製造業に限らず、特にこれまでIT化が進んでこなかった領域にAIが入り込み、改革を先導していくのは、純粋にワクワクします。
さまざまな産業がAIでアップデートされようとしている中、クロスコンパスはそれを実現しようとするAI企業のトップランナー。これからも目が離せません。