日本酒の“味”ほんとにわかる? データドリブンな“味”がブランドありきの購入をぶっ壊す

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若者の酒離れが叫ばれる昨今、国税庁の調査によると、酒類販売量はピーク時の約87%まで落ち込んでいるといいます。

市場全体として落ち込みの激しい酒類市場の中でも、特に苦しい戦いを強いられているのが日本酒市場。1989年に酒類における総消費量の15.7%を占めていた日本酒の割合が、今では6.4%まで縮小していることからも明らかです。

今回は、厳しい状況の日本酒業界に、データを活用した味覚解析で新たな風を吹かせようと目論むYUMMY SAKE株式会社CCO中島琢郎氏に話を聞きました。

中島氏は、言葉では表現しづらい日本酒特有の繊細なニュアンスを、オノマトペ(自然の音や心情などを表す擬声語の総称。例:ザーザー、ドキドキ)で表現することで実現可能な、「誰もが日本酒に親しめる世界」について語りました。

日本酒の“ジャケ買い”をなくしたい。飲食物の小売りにおける課題

YUMMY SAKE株式会社は、『「おいしい」の自由市場を作る』をミッションに、データを活用した「味覚の共通言語化」に取り組むスタートアップ。

未来酒店と博報堂アイ・スタジオによる、「テクノロジーを活用した新しい体験」の共同研究から発足し、日本酒の試飲結果から個人的な日本酒の好みを判定、12種類のオノマトペで味覚タイプを表現するプロジェクトを進めているといいます。

――中島
「原則として、飲食物の味わいを購入前に確かめることはできません。

そのため、消費者はパッケージデザインやブランド名、カタログスペックを参考に商品を選ぶしかありません。

言い換えれば、CDや本を“ジャケ買い”しているのと変わらないということです」

また、独自調査の結果、60%以上の人が価格やブランドなどの付帯情報の影響で味の評価を変えてしまうことが明らかになったといいます。

この現状に一石を投じるため、YUMMY SAKEではブラインドテイスティングによる好みの判定で、その人に本当に合ったお酒を選べるシステムを作ろうと思い立ったと語る中島氏。

このアイデアの裏側にはどのような想いがあるのでしょうか。

本質的な味ではなく経験に左右される現状に一石投じたい

――中島
「観光地で売っている漬物や醤油などのお土産は、その場で食べるととてもおいしく感じますが、家で食べると普通に市販されているものと大差ないことがありますよね。

それはつまり、本質的な味ではなく、経験に左右されているということ。

日本酒の場合、周りからの評価ブランドが経験と同義になっているため、日本酒にあまり詳しくない層は初めて見たお酒や聞いたことのないお酒を避けてしまうケースが多いです。YUMMY SAKEは、そんな現状を変えるためのプロジェクトとして始まりました」

ブラインドテイスティングでは商品Aの方が美味しいといいつつも、普段の買い物では有名商品Bを選んでしまうのは、ブランドイメージが頭に根付いてしまっているからだそう。

世の中には多くの商品があるにも関わらず、見たこと、聞いたことのある商品だけを選んでしまうのは、自分自身の選択というよりも惰性に近いかもしれません。

YUMMY SAKEはどのようなロジックで「本当に好きな味」を判定しているのでしょうか。

AIによる判別結果をオノマトペで定着させる

――中島
「YUMMY SAKEでは、プロの唎酒師の評価をベースに構築したロジックで日本酒の味を判定しています。

吟醸や大吟醸など、日本酒特有の用語が数多く存在していますが、そのほとんどが一般人には難解な指標です。実際に意味のある分類作成における現時点での最適解がプロの評価でした」

プロの評価という軸に行き着くまで、さまざまな検証を進めてきたというYUMMY SAKE。日本酒の味に関わる成分を分析し、機械学習やディープラーニングを用いて検証したり、テストユーザーからの評価データを元に分析を進めたこともあったようです。

しかし、全体の費用感や検証精度を鑑みると、唎酒師による評価が最も信頼性が高いという結論に至ったとのことでした。

――中島「YUMMY SAKEでは、ユーザーの味覚タイプを12種類に分類し、『スルスル』や『クルンクルン』といったオノマトペで表現しています。

日本酒に詳しくない人や、日本語を話せない人にも、自分の好みのタイプをおぼえてもらいたいですから」

たしかに、初心者からすると、原料米や、精米歩合などの変化がどのように味に影響するのかわかりません。

そんな中、自分にあったオノマトペを知っておくだけで、好みのものが提供されるシステムがあるとなると、日本酒に親しみを持ちやすくなりますね。

データ収集後からでもかまわない。できることから踏み出す第一歩

――中島
「ユーザーから十分なデータを集め次第、より高度な判定ロジックを組み上げていきたいと考えています。現在、TensorFlowを利用し、ユーザーの好みをマッピングするプロジェクトを試験的に進めています」

今後、YUMMY SAKEの活動や思想に協賛する飲食店などが増えていけば、より多くのユーザーデータが取得できることになり、さらなる精度向上が見込めるという中島氏。

さらに、好みを判別するシステム自体は汎用性が高く、さまざまな飲食物におけるユーザーの好みを探るために活用していけるといいます。

システムを横展開することで、「この日本酒が好きなら、この料理も好きなはず」という風に、ユーザーの好みを予測し、提案するなど、様々な応用が効きそうです。

今まで手に取ったことがないような新しい商品に触れる機会をAIが作り出す。YUMMY SAKEプロジェクトを通して、より自由な飲食の世界が広がっていくのでしょうか。