2025年に団塊の世代(約800万人)の方々が75歳という後期高齢者の年齢に達し、国民の約4人に1人が後期高齢者という状況になります。
2025年問題とは、後期高齢者の人口増加により引き起こされるさまざまな問題のことです。
この記事では、2025年問題の具体的な内容や政府の対策、AIの活躍可能性について紹介します。
2025年問題とは
2025年問題とは、後期高齢者の人口増加により引き起こされるさまざまな問題のことです。
後期高齢者の人口増加は、医療や介護を必要とする人の増加を意味し、財政・医療・介護へ深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。
また余談ですが、「2025年の崖」という言葉もあります。
これは既存のITシステムの複雑化・ブラックボックス化を解消できなければ、2025年以降最大12兆円/年(2018年の約3倍)の経済損失が生じる可能性があることを示す言葉です。
2025年は、あらゆる社会課題が顕在化する年となるかもしれません。
財政の問題
後期高齢者の人口増加により、医療費や介護費といった社会保障費が急増します。
以下の図では、2016年の時点での、65~74歳と75歳以上での1人当たりにかかる医療費や介護費の差を示しています。75歳以上の後期高齢者になると1人当たりの医療費や介護費が急増することがわかります。
出典:財務省ウェブサイト(https://www.mof.go.jp/zaisei/aging-society/society-future.html)
以下の図は、社会保障費の推移の見通しを示しています。医療費と介護費はGDPの伸びを大きく上回って増加していきます。医療費と介護費の増加が主な要因となり、社会保障費全体が増加していく見込みです。
出典:財務省ウェブサイト(https://www.mof.go.jp/zaisei/aging-society/society-estimate.html)
この社会保障費の財源は、借金・税金・現役世代の支払う保険料です。社会保障費の急増は、借金の増大や国民負担の増大を引き起こします。
医療費や介護費を抑制する場合、医療費抑制のため長期入院がしづらくなる、介護費抑制のため要介護認定の基準が厳しくなるといったことが起こり、社会保障に頼れる部分が減少する可能性があります。
医療の問題
後期高齢者の人口が増加し医療の必要とされる場面が増加するなか、少子化により若者は減少傾向にあります。医療分野でも、現状のままでは労働力が不足する一方です。現状でも日本の人口1000人当たりの医師は2.4人で、医師1人当たり400人以上もの患者を抱えています。医師が不足すれば病院の機能を維持できなくなり、病院の数も減少するでしょう。救急患者のたらいまわし増加など、必要な人全員がすみやかに治療を受けることが難しくなっていくかもしれません。
介護の問題
介護労働実態調査によると、介護事業者の6割以上がすでに人手不足を感じているようです。今後も高齢化により介護を必要とする人口が増える一方で、少子化により労働力は減少していきます。介護施設の数が不足し重度の要介護の人でも入居できず行き場を失う、入居待ちの間に介護をするため家族が職を変えざるを得なくなる、といった事例が増加する可能性があります。
政府の対策方針
ここでは、2025年問題への政府の対策と、2025年より先のさらに少子高齢化の進んだ2040年を見据えた政府の方針について紹介します。
2025年問題への対策―地域包括ケアシステム
前章で紹介した2025年問題の解決には、医療・介護を必要とする後期高齢者の人数を減少させるための病気予防・介護予防や、医療・介護を提供する公的機関の負担をやわらげること が必要となります。
そこで政府は2025年をめどに、高齢者の地域での生活を、地域住民・介護事業者・医療機関・ボランティアなどが一丸となって支える仕組みである地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
地域包括ケアシステムでは、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい生活を最期まで続けられるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されます。
高齢化の進み方は地域によって差があるため、各地域が自身の特性を生かした地域包括ケアシステムを作り上げることを必要とされています。
厚生労働省の事例紹介によると、たとえば埼玉県和光市では、コミュニティケア会議と住民への調査から得たデータを活用した取り組みを実施しています。コミュニティケア会議では、異なる職種の人々が知識を持ちより、自立支援に向けて最適なプランを検討します。データを個人単位で分析し、住民個人へフィードバックして介護予防の意識付けをはかります。また地区別のデータを分析し、地域ごとのニーズに応じた介護予防事業計画づくりや基盤整備に活かしています。
こうした取り組みの結果、和光市では高齢者の生活機能の改善などの効果が得られているそうです。
2040年を見据えた政府の方針
2025年よりも先を見据えると、今後も少子高齢化は進み、現役世代の人口減少の問題がより顕著になってくると考えられます。政府は誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指し、以下の4つの取り組みを掲げています。
- 多様な就労・社会参加の環境整備
- 健康寿命の延伸
- 医療・福祉サービスの改革による生産性の向上
- 給付と負担の見直しなどによる社会保障の持続可能性の確保
現役世代の人口が減少するなかで、より多くの人々が能力を発揮して活躍できる社会を目指す
2040年までに、健康寿命を男女ともに75歳以上にする
2040年時点で、単位時間当たりのサービス提供を5%(医師は7%)以上改善する
年齢に関わりなく支える側に回り、一人ひとりの負担の上昇を抑えるとともに社会保障の維持を目指した、少子高齢化社会に対応した社会保障制度への改革を検討する
詳細は、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめについて」を参照してください。
少子高齢化社会でのAIの活躍可能性
今後も日本で進んでいく少子高齢化に対応するため、政府は前章で紹介したような4つの対策を挙げています。なかでも、2.健康寿命の延伸と3.医療・福祉サービスの改革による生産性の向上には、AIが活躍する可能性が秘められています。ここでは、事例からどのようなAIが活躍の余地があるか紹介していきます。
AIによる健康維持のサポート
ヘルスケア領域でのAI活用は活発化しています。データの収集・分析による個々人に最適な情報の提供や、ツール自体の利便性を向上させ継続的な利用を促すために、AIが利用されています。
- AI搭載の健康アドバイスアプリ「カロママ プラス」
- 生活習慣病リスクの予測
- ヘルスケア・フィットネスアプリ「FiNC」
株式会社リンクアンドコミュニケーションが提供する、毎日の食事・睡眠・運動を自動診断し個々人に適した健康アドバイスを行ってくれるAI搭載アプリ。6000以上の企業・健保・自治体で導入されている。新型コロナウイルスの影響による生活習慣の変化の調査を実施し、レポートを出している。
SOMPOホールディングスグループと東芝グループが開発した、生活習慣病のリスクを予測するAI。ヘルスケアデータとビッグデータ解析技術を融合させて予測を可能にした。病気の発症確率まで予測し、健康保険組合が必要とする予算の予測にも取り組んでいる。
FiNC Technologiesが提供するヘルスケア・フィットネスアプリ。体重・歩数・食事・睡眠時間の記録や、AIとのチャットでの会話により美容・健康アドバイスを受けることが可能。データの入力作業もAIがサポートし簡単にすることで、面倒になってやめることを防ぐ。
医療・福祉サービスの改革に活躍可能性のあるAI
医療・福祉サービスの改革による生産性の向上にはやロボットやAIの活躍が大いに期待されています。
- AIによる医師の画像診断サポート
- AI搭載アプリによる医療診断
- AIを活用した医療施設内での見守りサービス
- 歩行解析AIによる転倒リスクや介助方法の可視化
- AI搭載ロボットによる介護
- AIカメラによる高齢者の転倒検知・通知
株式会社エムネスは医師の画像診断をサポートするAIを開発している。AIが画像の特徴から分析を行い、アルツハイマーや脳動脈瘤の違いがどのくらいあるか医師に伝える。脳の収縮も、AIでは画像から脳の体積を推定することでわかる。エムネスの画像診断システムはクラウドとつながっているため、遠隔の医師が画像診断することも可能で、医師が不足する地域の医療を支える手立てともなる。
Babylon Healthが開発した、AI搭載型チャットボットに症状を伝えると症状を即座に分析して適切な医療診断をしてくれるスマートフォン向けアプリ。AIが人間の医師に代わり診察を行うことで、医師側は不要な診断数が減り負担が軽減し、より高度な人間にしかできない治療に注力できる。一方患者側は待ち時間が解消され、診断コストも抑えることができる。
凸版印刷の開発した、医療施設内でも特に見守りが行き届きにくい、トイレ・シャワー室・お風呂といった個室における見守りサービス。個室内に人感センサー・開閉センサーなどを組み合わせて設置し、利用者の動きや扉の開閉状況を検知することで転倒などの利用状況を把握する。そしてAIでセンサーに蓄積された緊急時の検知パターンを学習することで、緊急時の早期発見や、個室内での患者の容体急変、個室の長時間利用といったインシデントに対応できるようになる。こうしたAIを使うことで、施設の人員削減が可能となる。
エクサウィザーズが開発した歩容解析AIは、5メートルの歩行動画を解析し、歩行における転倒リスクや介助方法を可視化する。AIが解析した結果をもとに、対象者のサポート方針などを検討できるため、地域包括ケアシステムで効率的に個々人にあったプランを計画するためにも活用できる。宮崎市のケアマネジメント最適化を目指した実証事業で活用されている。
Aeolus Robotics Corporationの「アイオロス・ロボット」は、2本のアームでものを掴むことも可能な自立走行ロボットである。周囲の環境を認識・学習できる「AIビジョンセンサ」を搭載しており、作業で必要とされるほとんどモノを認識して持ち運ぶことが可能なため、日用品・食事・洗濯物などの運搬ができる。高齢者の見守りや、姿勢から転倒を判断して介護スタッフへ伝達する緊急対応の機能も備えている。介護スタッフの身体的な負担の軽減とともに、高齢者との会話や心のケアにあてる時間の増加が期待されている。
AI、IoT技術開発のmtes Neural Networks株式会社が開発した「ヤモリン転倒検知システム」は、画像分析機能を備えたAIカメラが半径10メートル・約120度の範囲で人の転倒を検知し、LINEやSlackに通知する。介護・福祉施設のスタッフの人員削減を可能にするほか、新型コロナウイルス対策として人との接触機会を減らすことにも役立つ。
AIは少子高齢化問題解決のひとつの鍵となるかもしれない
2025年問題とは、後期高齢者の人口増加により引き起こされるさまざまな問題のことでした。日本では同時に少子化も進んでいるため、財政・医療・介護で増していく負担をこれまで通り現役世代で支えていくことが難しく、より問題が深刻になっています。
財政負担の増加抑制、軽減のための健康維持のサポートや、医療・介護分野での業務の一部代行・サポートには、AIの活躍可能性があります。
AIの活用は、少子高齢化問題を解決するためのひとつの鍵となるでしょう。