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:::box 2025年の年末から2026年の年始にかけて公開する参加費無料のLedge.ai 年末年始特集「['25 to '26]{target=“_blank”}」より、今回は特別にサイト内で掲載している一部コンテンツの全文を公開する。2025年のAI関連の重要トレンドや、2026年以降のAIの展望について知りたい方は、ぜひご一読を。 ::: :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: 2026年は、人工知能(AI)研究が正式に始動した歴史的な瞬間、1956年のダートマス会議から70周年という記念すべき節目を迎える。この70年間、AIは期待と幻滅の波を乗り越え、ついに人類の創造性を拡張する「生成AI」の時代へと到達した。この壮大な進化の軌跡を、各時代のエポックメイキングな出来事とともに紹介する。 ## 1. AIの誕生、最初の挫折と基礎構築 (1956–1979) 人工知能(AI)は、1956年のダートマス会議でJ.マッカーシーらによって正式に分野として確立された。このダートマス会議で若手の中心となったJ.マッカーシー、M.ミンスキー、A.ニューウェルの3人はいずれも1927年生まれ、30歳を少し過ぎたところだ。ダートマス会議後、この3人はそれぞれスタンフォード大学、MIT、カーネギーメロン大学で活動し、AI研究の世界的な拠点が形成されていく。 初期の成功として、1958年にはF.ローゼンブラットが脳を模倣した初の学習可能モデルであるパーセプトロンを発表し、1966年にはJ.ワイゼンバウムが初の対話型システムであるELIZAを開発した。また、NNの学習においては、1967年に甘利俊一が確率的勾配降下法という後のディープラーニングの基礎となる最適化手法を発表するなど、技術的な基盤も築かれ始めていた。 しかし、この楽観的なブームは短期間で終焉を迎える。1969年、M.ミンスキーらがパーセプトロンの限界証明を行い、単層NNでは複雑な問題が解けないことを示唆した結果、AI研究への資金が大幅に削減され、最初の「冬の時代」が到来した。 ![表01_70AI.jpg] この停滞期においても、後のAIの土台となる研究は継続された。日本では、1972年に甘利俊一が脳の記憶を模倣した連想記憶モデルを発表し、1979年には福島邦彦が、後の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の原型となるネオコグニトロンという階層型のNNモデルを開発した。この時期の日本の研究者の貢献は、AIの次の飛躍に向けた重要な種を蒔いたと言える。 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: ## 2. AI研究の転換期における三つの潮流 (1980–1996) 1980年代から1990年代前半にかけて、AI研究は、1970年代の停滞期を脱するため、異なる哲学に基づいた三つの潮流が並立した。 まず、記号主義(知識ベース)AIの流れを極限まで推し進めようとする試みがあった。その代表が1984年にD.レナートによって開始されたCycプロジェクトである。このプロジェクトは、人間が持つ膨大な常識をすべて手作業で知識ベースに構築し、究極のエキスパートシステムを実現することを目指した。これは、記号主義AIの可能性を探る壮大な挑戦であったが、同時に知識を形式化し獲得することの難しさを浮き彫りにした。 次に、長らく停滞していたニューラルネットワーク(NN)研究が息を吹き返した。この復活は、1982年にJ.ホップフィールドが、甘利俊一の先行研究と同系統の連想記憶モデルを、統計物理学の手法を用いて再発見したことに端を発する。これにより、NNが「記憶」のメカニズムを持つことが示唆された。決定的なブレイクスルーとなったのは、1986年にG.ヒントンらが多層NNを効率的に学習させる誤差逆伝播法(Backpropagation)を普及させたことである。この手法の登場は、NNが単層の限界を乗り越え、複雑なパターン認識を扱えるようになる第2次NNブームを牽引した。 そして第三の潮流として、従来の複雑な推論中心のAIに異を唱える行動ベースAIが登場した。1991年、iRobotの創業者でもあるR.ブルックスは、包摂アーキテクチャという新しい考え方を提唱し、その具体例として小型六本足ロボットのGenghisを開発した。これは、中央の知識ベースを持たず、環境からのセンサー情報に基づいて直接行動することで、現実世界でのタスク実行を重視するアプローチである。この研究は、AI研究の主流を、抽象的な推論から知覚と行動の統合へとシフトさせるきっかけとなり、その後のロボット工学に大きな影響を与えた。 ![表02_70AI.jpg] このように、1980年代から90年代前半は、知識ベースの限界と挑戦、NNの劇的な復活、そして現実世界指向の新しいパラダイムの誕生という、複数の試行錯誤を通じて、後のAI発展の基礎が築かれた重要な転換期であったと言える。 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: ## 3. データと計算力によるAIの夜明け~ディープラーニングの衝撃 (1997–2016) 1990年代後半から2010年代にかけてのAI研究は、インターネットの普及によるデータの爆発的な増加と、計算機能力の飛躍的な向上という二つの外部要因に強く支えられた。この時期、AIは「知識ベース」から「データ駆動」へとパラダイムを完全に転換し、特定のタスクで人間の能力を超える成果を上げ始めた。 まず、AIは特定の知的ゲームにおいて、人間を凌駕する能力を示した。1997年には、IBMのDeep Blueがチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフに勝利し、「探索と計算」に特化したAIの能力を世界に示した。この頃、インターネットの本格的な普及は、AI研究の間接的な基盤を構築していた。Web上の膨大な情報(ビッグデータ)を分析するデータマイニングや統計的手法が発展し、AI研究も経験的なデータから知識を抽出する方向に傾倒していった。 AIに真のブレイクスルーをもたらしたのは、ニューラルネットワーク(NN)の進化であった。2006年、G.ヒントンらがディープラーニングを提唱し、多層NNを効率的に学習させる手法(深層化)に成功した。これは、増大するインターネット上のビッグデータを扱うために、極めて重要な進歩であった。この技術の有効性は、様々な分野で証明され始めた。2011年には、IBMのWatsonが、膨大な非構造化データ(書籍、記事など)から答えを導き出す能力により、米国の人気クイズ番組『ジェパディ!』で歴代チャンピオンに勝利した。そして2012年、ヒントンらが開発したAlexNetが、大規模な画像認識コンテスト(ILSVRC 2012)で圧倒的な性能を見せつけ、ディープラーニングが画像認識の主流技術となることを決定づけた。 この時期のAI研究の集大成となったのが、Google DeepMindによるAlphaGoの成功である。2016年、AlphaGoは、人間の直感と深い洞察力が求められる囲碁において、世界トップ棋士であるイ・セドル九段に勝利した。この勝利は、チェスのような「探索」だけでなく、「直感的な判断」が必要とされる領域でもAIが人間を超越したことを意味し、ディープラーニングと強化学習を組み合わせたAIが、人類の「知性の最後の砦」の一つを突破した歴史的な瞬間であった。 ![表03_70AI.jpg] この1997年から2016年にかけて、AIはインターネットによって供給されるデータと、高性能なGPUによって可能になった計算力を武器に、ディープラーニングという核技術を獲得し、次の「生成AI」時代への道筋を明確に作ったのである。 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: ## 4. 生成AI革命の勃発 (2017–2022) 2017年から2022年の期間は、AI研究史上最も劇的な変革期であり、技術的なブレイクスルーと、それによる生成AI革命の勃発が特徴である。 この変革の起点は、2017年にGoogleが発表したTransformerモデルにあった。このモデルは、入力データ内の重要度を把握する「注意機構(Attention)」を採用し、計算を並列処理できるようになったため、大規模で深いネットワークの学習を可能にし、大規模言語モデル(LLM)の時代の扉を開いた。 このアーキテクチャを基盤に、2018年にOpenAIがGenerative Pre-trained Transformer(GPT)を開発し、LLMの基礎を築いた。さらに2020年には、モデルを大きくするほど性能が向上するというスケーリング則が確立され、LLMの巨大化戦略が主流となった。また、同年には拡散モデルが実用化され、高精度な画像生成AIの道も開かれた。 そして2022年、AIは一気に社会へ浸透した。LLMの推論能力を飛躍的に高める思考の連鎖(CoT)などの手法が開発される一方、Midjourneyなどの対話型画像生成AIが普及した。極めつけは、同年後半にOpenAIからリリースされたChatGPTである。人間と遜色ない自然な対話能力を持つChatGPTは、リリース後わずか約2か月で月間アクティブユーザー数1億人を突破し、生成AIブームを世界中に巻き起こした。 一方で、技術の急速な発展に伴い、AIの倫理と安全性に関する議論も本格化した。2017年にはアシロマ会議が開かれ、AIの安全な開発と利用に向けた「アシロマAI 23原則」が策定されたことも、この時期の重要な出来事である。 ![表04_70AI.jpg] この5年間で、AIは「認識」から「創造」の領域へと能力を拡張し、人類の生活を一変させる新たなステージへと進んだのである。 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: ## 5. 70周年の展望:AIと人類の未来 (2023年~) ### 5-1. 2023~2025年におけるAIと人類の状況 2023年から2025年は、生成AI(Generative AI)技術が社会全体に急速に浸透した「AIの実用化元年」とも呼ぶべき変革期であった。特に大規模言語モデル(LLM)の進化により、AIは単なる自動化ツールから、人間の協働者や代行者へとその役割を急速に拡大した時期である。 日常生活においては、AIはスマートフォンや家電に深く組み込まれ、ルーティン作業の自動化、情報検索の高度化、そして個別化された健康管理の提供を通じて、人々の生活効率を向上させた。教育分野では、AIチューターや個別学習プログラムの利用が一般化し、生徒一人ひとりの進捗に合わせたカスタマイズ教育が主流となった一方で、教師は教材作成や評価の負担が軽減され、より対話的な指導に注力できるようになった。エンターテイメント領域では、AIによる画像、音楽、動画の生成が爆発的に増加し、コンテンツ制作の民主化が進んだ。また、AIを活用したパーソナライズされたゲーム体験や、没入型のMR/VRコンテンツも普及した。 ビジネスにおいては、AI導入が業務効率を大幅に向上させ、産業構造の再編を促した。ここでは利用形態に明確な対比が見られた。一つは、コーディングや文書作成などの専門作業において人間の作業を支援・加速するコパイロット型AIであり、これは人間の意思決定が最終的に介在する協調的な形態である。もう一つは、人間からの指示を基に複数のタスクを自律的に計画・実行し、ビジネスプロセスや顧客対応を代行・自動化するAIエージェントの進化である。この対比は、業務におけるAIの自律性の度合いを示す重要な指標となった。 政治においては、AIによる情報分析と政策立案支援が進み、行政の効率化が図られた。しかし同時に、AIが生成するディープフェイクや誤情報が選挙や世論形成に与える影響が重大な社会問題となり、各国でAIの倫理的利用と規制に関する議論が加速した。この時期、人類はAIの利便性を享受しつつも、その倫理性、安全性、社会への影響に対する向き合い方を確立する過渡期にあるのが現状である。 ### 5-2. 未来のAI:相乗効果と応用のグランドビジョン 未来のAI技術 (AI_future) の進化は、現在の技術の単なる延長ではない。それは、基礎技術の「積」による指数関数的な相乗効果と、応用領域の「和」による社会的な価値の最大化によって実現されるビジョンである。 Ledge.aiでは、このビジョンを、以下のように定式化して考えている。 ![ai70th_formula.png] ### ■SYNERGY(相乗効果:積の力)による性能の飛躍 現在のAI技術 (AI_current) は、四つの主要な基礎技術が掛け合わされる(積Π)ことで、その性能を劇的に高める。これらの技術は、それぞれがAIの抱える限界を突破する鍵となる。 - **量子コンピューター (Quantum) :** AIの処理速度と複雑な問題解決能力に演算能力のブレイクスルーをもたらし、現行のスーパーコンピューターでは不可能な領域の学習と計算を可能にする。 - **Web3 技術 (Web3):** ブロックチェーンや分散型台帳技術により、AIが扱うデータと意思決定プロセスに透明性と信頼性を与え、分散化された環境での安全なAI連携を実現する。 - **核融合エネルギー (Fusion):** ほぼ無限かつクリーンなエネルギー源を提供することで、大規模な計算資源の制約を完全に緩和し、膨大なデータを用いた学習(超大規模モデル)を経済的かつ環境負荷なく実行可能にする。 - **データインフラ (DataInfra):** 5G/6Gや次世代ストレージ技術が実現する高速・大容量データ処理基盤が、AIのリアルタイムな学習と推論を支える。 これらの技術が個別に進化するのではなく、相互に作用し合う(積)ことで、AIはこれまでにないレベルの知性を獲得する。 ### ■APPLICATION(応用価値:和の力)による社会実装 性能が飛躍的に向上したAIは、様々な応用領域へ展開され、その価値を社会へ還元する。これらの応用領域は、AIの価値を社会的効用として積み重ねていく(和Σ)役割を担う。 - **Robotics (ロボティクス):** 高度な知性を持つAIが、物理的な世界で活動するロボットと統合され、自動化・遠隔操作・協調作業を飛躍的に進化させる。 - **MR (複合現実):** AIがMR環境を分析・最適化し、人間とAIが直感的かつシームレスに連携する新たなインターフェースと作業空間を提供する。 - **Autonomous Driving (自動運転):** 複雑で予測不可能な環境においても、AIがリアルタイムに安全な判断を下し、交通システム全体を最適化することで社会インフラを革新する。 - **Social Engineering (社会システムへの適用):** 都市計画、医療、教育などの大規模な社会システムにAIが組み込まれ、データの分析と最適化を通じて社会全体の効率と公平性を向上させる。 結論として、未来のAIは、基礎技術の「積」によって知性の限界を超え、応用領域の「和」を通じて私たちの生活、産業、そして社会構造そのものを根本から変革するグランドビジョンである。 金融分野でのいわゆる”AIバブル”は、早晩弾ける可能性がある。しかし、AI技術は着実な進歩が予想される。このようなグランドビジョンのもと、人類とAIの未来を創造していただければ幸いである。 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: ## おわりに ![25to26_thumb.png] Ledge.ai年末年始特集では、読者に向けて、2025年のAI関連の重要トレンドを振り返り、また2026年以降のAIの展望について発信している。新しい年へ動き出すための情報が詰まっているので、ぜひ以下ボタンより特集サイトをご覧いただきたい。 **【コンテンツ情報】** 無料登録を行うと、これらすべての記事を閲覧できるようになる。 ■ 特別インタビュー 京都賞受賞のAIのパイオニア甘利俊一先生をはじめ、量子コンピュータ/量子機械学習からロボット基盤モデル、話題の”PLURALITY”、NVIDIA、AMDなど、”いま読んでおくべき”インタビューが満載 ■ 2025年のAI動向総ざらい ■ 厳選注目記事49本 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} :::
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