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「AIエージェント元年」と呼ばれる2025年は、目標に応じて自律的に判断・行動するAIエージェントに大きな期待が寄せられており、各企業で導入や検討が進んでいる。その中で、2025年7月発売の「本当に動くAIエージェントはどう作るのか」をテーマに執筆された書籍『[現場で活用するためのAIエージェント実践入門]{target=“_blank”}』(講談社)が大きな注目を集めている。 今回は、導入現場で使える実践的なノウハウをまとめた同書を執筆した著者陣5名に、AIエージェントの基本概念や技術的な背景、導入時の課題、ビジネスへの応用可能性などについて取材を行った。 ## 著者情報 :::box **Sakana AI株式会社** **太田真人** Applied Research Engineerとして、AIエージェントの社会実装に取り組む。前職の株式会社電通総研では、AIの技術調査やPoCを主導。対外的にもAIエージェントに関する最新情報の発信をしている。 ::: :::box **株式会社Algomatic** **宮脇峻平** AI/MLエンジニアとして、採用を支援するAIエージェントの自社開発および品質保証に従事。2019年より自然言語処理に取り組み、現在は学術研究員として東北大学大学院に所属。雑談対話応答や質問応答タスクのコンペティションにも参加。 ::: :::box **株式会社ジェネラティブエージェンツ** **西見公宏** 2023年にAIエージェント解説書『その仕事、AIエージェントがやっておきました。』(技術評論社)を上梓し、その流れで共同創業者2名と共にAIエージェントの開発・利活用を専門に扱う株式会社ジェネラティブエージェンツを2024年3月に創業。共著に『LangChainとLangGraphによるRAG・AIエージェント[実践]入門』(技術評論社)。「本当に業務に使える」AIエージェントの開発に注力している。 ::: :::box **株式会社電通総研** **後藤勇輝** 2018年から機械学習に取り組み、自社における製品開発・研究開発に従事。近年は生成AIの可能性に注目し、技術とビジネスの両面から価値創出に取り組んでいる。著書に『PyTorch実践入門 ディープラーニングの基礎から実装へ』(マイナビ出版)、『アジャイルとスクラムによる開発手法 Azure DevOpsによるプロフェショナルスクラムの実践』(マイナビ出版)がある。 ::: :::box **株式会社電通総研** **阿田木勇八** AIエンジニア / Kaggle Competitions Master。大学卒業後、大手医療機器メーカーに入社。製造現場やKaggleなどでデータ分析のスキルを磨く。その後、AIソリューションの提供側に興味をもち、2021年に電通総研に入社。機械学習を用いた製品開発、さまざまなAIモデル開発・改善案件に従事。現在は自然言語処理を扱う機能のソリューション開発に従事しており、2023年から生成AIエージェントの研究開発に取り組む。Kaggleでは、tacoriceとして参加している。 ::: ![IMG_0170_a.jpg] :::small 画像左から、西見氏、宮脇氏、太田氏、後藤氏、阿田木氏 ::: ## AIエージェントとは何か **ーーまず初めに、AIエージェントとは何か?というところから、解説をお願いできますか。** **太田氏** AIエージェントという言葉は、2023年頃から出てきたというイメージを持たれているかもしれませんが、実は1970年、90年頃からありました。「エージェントとはなんですか?」という問いに関しては、【**目標に向けて環境で相互作用する知能システム**】と位置づけるのが、個人的にはわかりやすいと思っています。 ![AIエージェント_1.png] :::small 画像の出典:[ビジネスで活かす生成AIエージェント 〜業務利用を目指して今を俯瞰的に理解しよう〜]{target=“_blank”} ::: もう少しかみ砕いて説明します。目標というのはわかりやすいですよね。何かをするイメージで、“これを達成しなければならない”というのが目標です。 では、”環境とは何か”という点についてですが、エージェントが動ける空間をイメージしてください。デジタル空間もあれば、我々がいるこの場のようなフィジカルな空間もあり、その両方を環境と言います。 「環境と相互作用するとは何か?」についてですが、そもそもAIは知能を人工的に作っているだけの知能なので、手や足があるわけではない。なので、我々がいるフィジカル環境やデジタル空間にインタラクションするということはできないんです。AI自体は何かを認識するなどしかできないのですが、「エージェント」と呼ばれるものは、人工知能を使って環境へインタラクションできるというのがポイントです。”環境”から情報を受け取ってAIエージェントが認識し、「次はこれを行おう」と判断して実際に行動できるということが重要なのです。 **ーー1970年代より概念があったとお話いただきましたが、ここ数年でなじみが出てきたのは、生成AIが大きく関係しているのでしょうか。** **太田氏** そうです。昔はルールベースや、データから学習しなければならず、研究・開発者以外の皆さんの手元に届けるのに時間がかかっていたんです。 私たちが身近に扱うものって自然言語や画像などがありますが、生成AIやLLMは「テキスト(自然言語)で指示をしたら、テキストで返答してくれる」というのがポイントで、このLLMという知能がユーザー層と密接になったことで、皆が「エージェントで何かできるのではないか」と考え始めるきっかけになったと思っています。 **ーーAIエージェントの他に、エージェンティックAIという言葉がありますが、この違いは何でしょうか。** **宮脇氏** 言葉の定義でいうと、AIエージェントは技術やソフトウェアのような「エージェントそのもの」を表す言葉であると思います。一方で、エージェンティックAIやエージェンティックテクノロジーでいうと、「エージェントの性質をもつもの」を指すと思います。 エージェンティックAIやエージェント型AIの言葉の意味合いは、最近変わり始めていると思っています。昔は「永続的なソフトウェア」というのが、一つの定義としてありました。データの流れを監視できるし、ユーザーの目的や好みに合わせてタスクを遂行するものというのが、[昔の解釈]{target=“_blank”}だと思っています。 しかし、最近では生成AIブームの流れで意味合いが変わってきたという印象を受けます。エージェントは日本語で言うと“代理者”と訳すことができますが、人の業務を代行するような形で、AIをコアとして代理者の性質を受け継ぐシステムを「[エージェンティックAI]{target=“_blank”}」と呼んでいると思います。 :::box 関連記事:[「AIエージェント」と「エージェント型AI」の違い、あなたは説明できますか?──ガートナーが解く“よくある誤解”]{target=“_blank”} ::: **ーータスクを遂行するだけであれば、これまではRPAなどでプロセスをオートメートできていました。しかし、人の代替と位置付けると単純作業だけではないと思います。ゴールに向けてタスク分解し、適切な順序で自律的に実行できるという点が、エージェンティックというキーワードに含まれているのでしょうか。** **宮脇氏** そうですね。“人との接点”というのが一つの軸としてあるかと思います。接点が少ないRPAやオートメーション。逆に接点が多いチャットボット型AI、というすみ分けになると思っていて、AIエージェントは、あまり接点はないが自分がやりたいことを委任して自走してくれるものです。ちょうど[中間に位置するイメージ]{target=“_blank”}ですね。 ## AIエージェントへの期待と導入課題 **ーー現在、AIエージェントへの期待や注目度は高まっていますが、なぜ、多くの人がAIエージェントに期待を寄せているのでしょうか。** **西見氏** 太田さんの説明で、AIエージェントとは環境と相互作用する知能システムであるというお話があったと思いますが、これってよく考えたら「人間なのでは?」という話なんですよ。 例えば、今、リモートワークをしている人が多くいらっしゃいます。パソコンを触ってリモートワークをしている人間って、ビジネスチャットを通じて仕事をしている姿を別の人間から見たとき、「何か言ったら返す」というシステムと類似していますよね。見え方としては人間である必要がなく、タイピングして返してくる“何か”なので、視点を変えるとソフトウェアと言えると思います。 そのような人たちと日常からコミュニケーションをとって一緒に仕事を行い、時には成果物としてPowerPointやWordを出してきたりする。これって「AIエージェント」じゃないか、という話なんです。 ご質問いただいた「何に期待しているか」については、シンプルに『**人間の代替**』です。人間のように動くソフトウェアがあれば、どれほど使っても人間より安かったり、多く働いてくれたり、病気もしないし、労基署へも訴えないというところで、非常に使い勝手がいいですよね。そのように、労働力の代替として認められ始めているのが現在なんです。 ![AI Agent_b.png] AIエージェントというソフトウェアがあるとして、これが今後多方面で多く活用されていくという見立てを皆がするんですよ。OpenAIやAnthropicが独占して世界の覇権を取っていこうという動きではなくて、彼らはそのモデルを公開しているんです。AIエージェントを作る部品を提供していて、それを各社が使って動くものを開発していこうと。その渦中に我々がいるのを考えたとき、「キャッチアップしないとまずいのでは」「シンプルに置いていかれてしまう」と思っている人が多いのだと思います。 社員が1万人いる会社があるとして、1万人全員がAIエージェントとインタラクションしたり、AIエージェント自身が長時間働けるようになる未来、1名の従業員が100体のAIエージェントをマネジメントできるとなると、単純に10,000×100になります。そんな体制を他の会社が構築していたら、どれだけのインパクトがあるか。私は経営者なので、各社のいろんな方と対話をするのですが、そういった“危機感”を持つ声が強いという感覚があります。 **ーーただ、よく聞く話としては、活用に関するハードルやリスクなどの懸念も各社持っているかと思います。それについてはいかがですか。** **後藤氏** まず、昔とは状況が変わっているというのは一つあります。私たちが相対するのはIT部門やDX推進部なので、お客様側でやりたいというモチベーションがあります。なので「できないことは言わない」というか、以前よりは言わなくなっていると思います。ただその上で、どうしてもセキュリティや企業内で守らなければならないものがあるので、システム導入する上では、それらをすごく意識しています。 現在、AIエージェントの波が来ていますが、その前にはDXの波があって、「オンプレミスでしかデータは扱えない」という方針だったのが変更されて、クラウドに移行しました。また、「機械学習でデータを使って学習しよう」となった時に、「ではそのデータはどこに置いておくのか」というような議論も、これまでに行われてきたわけです。そうした積み重ねがあり、徐々に各社のデータやシステムに関するリテラシーが上がり、導入時のハードルが下がっているような印象を受けています。 **ーー今、DXというキーワードがありましたが、AIエージェントに取り掛かる手前で準備しなければならないものはあるのでしょうか。** **阿田木氏** AIエージェントの活用においては、まず、クラウドなどを用いたRAGなどの構築があると思います。RAGは、社内ドキュメントにアクセスするために使う手法として一昨年から昨年にかけて流行していました。RAGのために整備したナレッジがあると思うのですが、現在は、各所で作られたRAGを統合するために、エージェンティックな機能を入れたいというお客様を[支援]{target=“_blank”}することが多いですね。 :::box 参考:[従来のRAGとエージェント型RAGの比較 - AIエージェントがより賢くなるために動的知識が必要な理由]{target=“_blank”} ::: ![AIエージェント_2.png] :::small 画像の出典:[日経電子版 x AIエージェントの可能性とAgentic RAGによって提案書生成を行う技術]{target=“_blank”} ::: **ーーエージェントをフルに活用していこうとすると、その手前にRAGはクリアしないのでしょうか。** **阿田木氏** 要件によりますが、LLMが持つ知識は一般的なものなので、それを社内で活用していこうと思ったとき、情報を拡張する力としてRAGが一つの手段になると思っています。 **西見氏** “環境”という言葉で言い表せるかと思います。相互作用するものなので、環境上に情報がなかったら参照するものがない。検索システムをエージェントが使えるようにするのがRAGです。GoogleドライブをAIエージェントが見に行って参照できれば別に問題がないですが、どうエージェントが情報にアクセスするのかという話です。 **太田氏** なので、企業の皆さんはいきなり会社の根本となる業務をエージェントで代替しようとするとやはり怖いので、まず業務の中でも端の方のFAQや採用など、会社の大きな損失に関わらないところから始めています。徐々に、業務の根幹部分のデータをエージェントが触れられるよう、段階的に準備していると思います。先の未来には、もしかしたら一部のホワイトカラーの業務が、エージェントに置き換わることがあるかもしれないですね。 **ーー現在、コア業務までAIエージェントを活用できている企業は、どのぐらいあるのでしょうか。** **太田氏** 多分みんなやられてると思うんです。しかし、この開発を社外に発注するのはデータが非常に機密であるから難しい。おそらく着手されていて、取り組んでる最中だと思うんですが、公開できない情報が非常に多いのだと思います。 ## AIエージェントはどのように作るのか **ーー続いて、AIエージェントをどのように作るか?という点についても、解説いただけますか。** **太田氏** まず、何を代替したいのか、エージェントを開発する対象の業務を考えます。次に、いきなり作り始めるのではなく、その業務が既に存在するDeep Researchや市場調査が得意なエージェントなどで代替できるかを考えます。AIエージェントを人間に例えるのであれば、似たようなスキルを持った人間がいないかを考えるんです。代替したい業務が企業独特の業務であり、世の中に同じスキルを持った人間がいない場合は、自分たちで作るしかないという判断になります。 “作る”と判断したら、LLMのAPIを使わなければならないので、LLMを用意します。その時、利用するLLMが、その業務に関する知識を持っているかどうかを見ます。持っていない場合は、業務を遂行するためのプロセスを可視化し、分解して、利用するデータソースや登録・申請などのアクションポイントを洗い出し、順序通りにLLMがこなせるようにワークフローを構築していきます。 ![AIエージェント_3.png] :::small 画像の出典:[ヘルプデスクの事例で学ぶAIエージェント (2024)]{target=“_blank”} ::: プロセスの中にはおそらく、人間の意思決定が伴う箇所がいくつもあると思います。それらすべてをプロンプトで渡し、意思決定を代替してもらう。エージェントが意思決定をしながらアクションも同時に実行していくという手続きを書くというのが、エージェントを作る設計における第一段階です。 **ーー宮脇さんは、所属されている企業で採用業務のエージェントを開発されていますよね。どの会社でも汎用的に使えるツールを開発する上で、意識する点や課題などはありましたか。** **宮脇氏** まず意識する点として、プロダクトを開発・提供する企業としての戦略の部分をお話しすると、「この業務を代替したら事業としてうまくいく」というところから始めています。多くのお客様が利用してくれるというのもそうですし、業務の効率化を重視しているのであれば「どれくらい効率化を期待できるのか」という視点を持って開発をしています。 ![AI Agent_c.png] 我々もAIエージェントを活用しながらプロダクトの開発を進めていますが、エージェントは「切り札にはなりうるがあくまで手札でしかない」と思っていて、一つの“手段”でしかありません。なので、AIエージェントとしてうまくいかなくても、その機能だけは今後も資産として横展開できる部分から開発をしています。 採用業務のAIエージェント開発において、採用業務特有の課題みたいなところでいうと、やはり個人情報を扱う点が挙げられると思います。AIエージェントは、一定うまくできそうな印象は受けますが、「うまくいきそう」と「うまくいく」の間は大きく乖離しています。AIエージェントにはタスクの実行完了までを委任することになるため「成果物には意図しない誤りが含まれない」と確信できるまでの作り込みが、大変な部分になるかなと思ってます。 **ーーAIエージェントと相性が良い領域などはあるのでしょうか。** **西見氏** 宮脇さんの企業はプロダクトでAIエージェントを出してますが、とても難しいんですよ。 なぜ難しいかっていうと、エージェントって自由に動くんですよね。自由に動かせられるほどパワーが出るのですが、リスクが大きい。それに対して、“ガードレール”と呼ばれるもので、「この範囲で動いてね」という具合にAIを制御するんです。 ![AIエージェント_4.png] :::small 画像の出典:[AIエージェントの地上戦 〜開発計画と運用実践 (2025)]{target=“_blank”} ::: しかし、安全に使えるように囲い込んで、安全の余白を作れば作るほど、決定論的に決められた通りにしか動かなくなる。それはそれでパワフルではありますが、AIエージェントへの期待とはまた違うわけです。 これをどのようにバランスを取ればよいかというと、多く言われているのがBPO(業務代行)の話です。BPOは古典的な業務代行のことで、人が代行するイメージがありますが、その裏側で何が行われているかという点は、顧客側は頓着しないですよね。結果を出してくれればよいと。その“裏側でどうするか?”というところで、AIエージェントが注目されているんです。顧客に直接AIエージェントを触らせないので、何かをしでかすリスクはないし、考えうるリスクに対しては、ある程度マニュアル等でガードできます。 業務代行を行うための人材採用に力を入れなくてもエージェントを強く配備していけば、ものすごい大量の人を雇ったのと同じ形でビジネスを展開できる。社内の代行として何ができるかの検討も進んでいるし、実際いろんな分野でAIエージェントが動いている姿が見えてきてる印象です。 **ーー最近、Agent-to-Agent([A2A]{target=“_blank”})のような、エージェント同士が連携する技術も注目されていますが、1つのエージェントがなんでもこなすのではなく、特化型のエージェントが連携してタスクを実行する必要性について、どのような理由があるのでしょうか。** **後藤氏** 様々な理由がありますが、[コンテキストが多くなりすぎてしまう]{target=“_blank”}というのが一つ挙げられるかと思います。例えば、一人の秘書に色んな業務を依頼すると一個の業務に対する精度が下がってしまいますよね。LLM自体に入れられるトークン数にも限度があるので、一つのエージェントに全て詰め込むのは難しい、という技術面の制約があるかと思います。 **阿田木氏** また、「責任を分ける」という観点もあります。人間の社会も業務においても、「この人はこの業務」などと分けると思いますが、そこを明確に分けることで、管理がうまくいくというのがあります。エージェントも同じで、[分けて制御してあげる]{target=“_blank”}というのが、利用する上で安全であると思います。 加えて、エージェント技術の背景として、シングルエージェントから発展してきたのもあるので、それらを繋げましょうというのが[現段階]{target=“_blank”}になるかと思います。 **西見氏** あとは、[ベンチマーク]{target=“_blank”}があるんです。一つの仕事を行うエージェントに対して、複数のドメインを与えて、たくさんの仕事に対応できるよう知識を持ってもらうテストを行った例があります。与える知識を0〜10まで試して実験したところ、1つの知識を与えたら目的の仕事をしてくれるが、2つ以上知識を与えると急に仕事の精度が落ちていく。目的はベンディングマシンの仕事なのに、なぜか不動産関連の仕事を始めてしまうというような、混乱しだしたという実験結果もあり、定量で計測してみても、混乱するというのはあるんです。 **ーーAIエージェントは人の代替であるからこそ、人との比較がされやすいと思いますが、導入における投資対効果についてはいかがでしょうか。** **太田氏** 現在、エージェントの利活用というとドキュメントワークが多いのですが、その業務にかかる時間・工数・人数などは、指標として参考になると思います。それが実際に何時間くらい削れて、かつ品質がどれぐらい安定するのか。人間の場合、人によってクオリティの差が出るので、どのぐらいまで均一な品質でアウトプットできるか、というのがまずあります。実際の運用を考えたときに、投資対効果があるのかどうかは数値で表せると思います。 **ーー今後の方向性として、会社でひとつのエージェントを持つイメージなのか、従業員が自分のタスクの生産性を上げる目的で、100や1,000など様々なエージェントを使いこなしていくのか、どちらのイメージが近いでしょうか。** **太田氏** おそらく、世の中で目指したいのは一体のエージェントが多数の仕事をこなす世界だと思います。しかし、提供する側からすると一体のエージェントが複数の仕事をこなせているかを常に監視したり、評価するのは、運用が複雑になってしまいます。そのため、見せ方としては「業務用エージェントがあなたの仕事こなします」と言いつつ、裏で複数エージェントが動くことになると思います。それで各業務において、タスクごとにエージェントをモニタリングするという形に落ち着くかと思います。 この一年は恐らく各従業員ごとであったり、提案するんだったら“提案用のエージェント”や市場調査する場合は“市場調査用のエージェント”など、各タスクごとに異なるエージェントを選択して使う形で、利活用が進むと思います。それは扱う参照データや考え方などの“環境”が違うので、目標というタスク定義で使う対象を分けるためです。 このように、タスクの定義は、初めは従業員単位になるかと思いますが、次第に“資料作成”であればなんとか動かせるところまで抽象度は上がっていく、つまりは会社共有のエージェントになると考えられます。その場合、全データのアクセスが前提となるため、会社側もデータを整備する必要が出てきます。これまでの提案履歴や取引記録を全て接続して、提案先にカスタマイズされた提案書を作成できるのが、将来的なイメージ図になるということですね。 ## AIエージェントとこれからの未来 **ーーAIエージェントをキーワードに、どのように未来が変わっていくのか、お一人ずつコメントをいただけますか。** **阿田木氏** これからのエージェントの世界でいうと大きく二分されていくかと思っていて、一つはエージェントと人間が「相互にやり取りする世界」、もう一つは「エージェントに閉じた世界」と考えています。先ほど西見さんからBPOの話がありましたが、AIエージェント開発をしてて思うのは、ボトルネックは人間だということです。なぜかというと、それぞれのアクションは人間が持っている暗黙知に依存することがとても多く、企業においては特にそれが顕著であるからです。人間が介在すると、なかなか前に進まないことがあるので、そこをAIだけの世界にすると、上手くいくのではないかと思っているところです。 しかし、人間が存在する限り人が持つ正解もあるので、人間とAIエージェントが相互にやり取りする世界は存在し続けると考えています。 個人的に“こうあってほしい”という未来についてですが、現在、データ分析でもAIエージェントが使われてて、私はKaggleなどをよくやるのですが、[Kaggleでもコーディングエージェントが使われている]{target=“_blank”}んです。全て使ったことあるのですが、やっていて思ったのが、エージェントに作業を全部渡すと楽しさが奪われてしまうということですね。私は、Kaggleをゲーム感覚でやっているので、ゲームを代わりにやられてしまうのが結構辛い。エージェントには、本当に任せるべきところを任せ、人間も楽しいとこにコミットできるといいなと思っています。 **後藤氏** これまでの話しでもあったように、先を読むのは非常に難しくなっていると思います。インタビューの中で思い出したのですが、この書籍を書き始めたときは、そもそもお客さんに「エージェント」と言ってもわかってもらえないことがありました。それが今の状況になっているので、短期間ですごく変わったと思っています。 そのような中で、ある程度直線状にある未来像でいうと、業務のやり方が変わってくるのかなと思います。まずは人の触る部分をAIエージェントが代替していく。その後にAIエージェントのためのデータ設計だったり、業務のやり方も徐々に変わっていくのかなと思っています。これまで人間だけだと難しかったことや、管理されたもののイメージを作るなど、AIエージェント前提の仕組み作りが進んでいくのかなと思います。 **ーーAIエージェントがAIエージェントを作るみたいなものはあるのでしょうか。** **後藤氏** 研究分野ではそういう取り組みもあります。ただ個人的には直近の話ではないと思っています。データや環境の整備といったDX、すなわちこれまで人間しかアクセスしてなかったものや、業務に詳しい人に聞かないと分からなかったところがAIエージェントに聞いても分かる、AIエージェントが探せる、そういった整備が先んじて進んでいくと思っています。 :::box 参考:[Automating Agentic Workflow Generation]{target=“_blank”} 参考:[A Framework for Automatic Agent Generation]{target=“_blank”} ::: ![AI Agent_d.png] **西見氏** インフラが整っている領域は基本的にエージェントが入り込んでいく領域だと考えていいと思います。インフラとは、大きく分けてデジタルとフィジカルですね。特にデジタルはエージェントが入り込みやすい。センシティブなデータやデータ管理に関しては様々な問題があるにせよ、基本的にはアクセスができるわけです。 インフラが整っているもの、その中で現在活発なのが自動運転ですね。なぜ自動運転が活発かというと、道路が敷かれてるからです。走れるインフラがあるんです。なので、インフラがあるところからエージェントがどんどん活用されていくと考えています。 デジタル領域において、なぜこんなにAIエージェントが活用されているかというと、“インターネット”というインフラがあるので、インパクトも出るからですね。僕はこの畑に入りすぎて人間しかできないことはないんじゃないかとか思っちゃうんですけど(笑)農業などもデジタル化できないと言われつつも、今では、大規模農業は結構機械化が進んでいます。ドローンで生育状況を把握し、トラクターも自動運転で動かすことができるので、ある意味代替できている。それもインフラですね。ドローンで監視ができ、農作業の機械があり、自動運転ができればうまくいく業務があるということです。 **ーー統一規格みたいな存在も結構大きいですよね。** **西見氏** インターネットはhttp通信させれば情報取れるので、そのようなプロトコルがある時点でインフラは整っているわけです。倉庫などでも、パレットで積んであれば動かせる話と、荷物の規格が異なると動かせないというようなイメージですね。 船での運搬も、コンテナという規格が生まれたからこそ、高速に行えるようになった経緯があります。人間は、人が働きやすくするためのインフラを作ってきた歴史がある。そのようなインフラを土台にしてエージェントは動いていくので、人間にはできなかったような長時間労働も可能ですし、コンピュータシステムなので、スケーリングによって作業量も増やせるという期待があります。その期待に応えられるように拡張しているのが、現在見えてる姿なんです。 AIモデルもどんどん進化しているので、この相互作用によってどこまでできるかっていうのは、まだわからない。インフラがあるところにAIエージェントは浸透するので、今はそのインフラ自体を作っていくというフェーズですね。 **ーー続いて宮脇さん、いかがですか。** **宮脇氏** AIエージェントは、成果創出を図るという部分において圧倒的に長けているかなと思っています。従来のMLシステムだと、OCRや翻訳みたいな一部の業務だけを代替するものでしたが、AIエージェントという枠組みにおいては、他の業務と繋がりやすくなったっていうところで、圧倒的に成果創出に向くようになったと思います。 AIエージェントの良い部分は「質・量・スピード」それぞれにあります。 ![AIエージェント_5.png] :::small 画像の出典:[AIエージェントの地上戦 〜開発計画と運用実践]{target=“_blank”} ::: 例えば採用領域でいうと『摩擦』と『スピード』の2つの側面でメリットがあると考えられます。 『摩擦』については、特定の判断においてAIが考慮できる項目が増えたということです。例えば[LADDERS社の報告]{target=“_blank”}では、採用担当者が書類選考にかける時間は60秒以内といわれていて、採用担当者がチェックできる観点は限定的だといえます。候補者にとってもあまり嬉しくないですよね。一方AIによる読み込みの場合、レジュメ全てを読んだ上で総合的に判断することが多いため、これまで採用担当が読み飛ばしていた色んな職能や経験を考慮できるようになったといえます。 『スピード』でいうと、LLMの文章生成が速いことだったり、24時間365日体制が築けるようになったことで、候補者が応募してきた際にすぐ反応できるようなフローが組める。極端にいうと、応募があったその日のうちに面談ができるような、そういう世界がくるかなと思っています。 ![AIエージェント_6.png] :::small 画像の出典:[ AIエージェントを現場で使う 著者陣に聞く!現場で活用するためのAIエージェント実践入門]{target=“_blank”} ::: **ーー現時点で、質の部分も人より高水準であると言えてしまうのでしょうか。** **宮脇氏** そうですね。AIが参照できるガイドラインがあれば、一定の品質が担保された状態で価値創造できると思います。 今の話はこの先5~10年の話なのですが、40年後の日本をみると、労働人口が40%減るというような予測もあるので、必ず労働力の代替としての期待がある。エージェントの『代行』と『協働』の2つの期待が高まっていると思います。 **ーーAIエージェントのこれまでの歴史がある中で、現在思ったより早く実用化できたということなのでしょうか。** **太田氏** コーディングは思った以上に早く進んでる印象はあります。加速できる枠組みができたんですよね。先ほど、人が介在すると遅くなるという話があったんですけども、コーディングの作業は基本的にテストがあり、正解か不正解かがわかると。エージェントが自分で計画して行動して、うまくいったかどうかがテストでわかり、そのデータが蓄積されるという、人が介在せずに自動的に賢くなっていく、自己完結できるレールに乗っかったんですよね。 そうなると、AIの知能は人間を追い越すので、同じように人間の業務の中でも自己完結できるものがあれば、すごい速度でどんどん成長していくと思います。 それが報告されたのがここ1~2年で、大きなインパクトがあったので、自己完結できる環境を皆が探している状況かと思います。 **西見氏** ロボティクスの分野でも世界モデルというものがあって、「こういうふうに行動が起きた場合にこういうふうに返す」というように、光景の動画を生成器というモデルが生成し、それをもとに学習するサイクルが回っています。世界モデルは正解・不正解がわかるので、自己完結する。複数モデルで組み合わせてRL(強化学習)を回していくっていうのは、十分あります。 **ーー最後に太田さん、お願いします。** **大田氏** 究極的にいうと、皆が“人間”に興味が出てきて、一日のほとんどを様々な人と会話をしているような、そんな働き方になるかなと思ってます。問題を定義したり、手を動かす部分は徐々にエージェントの方が良くなるので、人の気持ちを考えたり、こういうアイデアはどうだろうかと考えたりする作業が増えるのではないかと思います。まだLLMや生成AIは、想像力であったり、点と点を結び合わせて新しい何かを創造するという点は弱いので、それが伸びてこない間は、人間が色んな人と話をして、今までの経験から新しいアイデアを出し、それらをエージェントを使ってシミュレーションしたり、実際に作らせてみたりなど、そういう世界観になると思ってます。 今までの話をまとめになりますが、まず、個人で様々な業務をこなすと属人化するという課題があります。これまで、属人化したくないからシステムを作ってきたわけなんですよね。銀行を例にすると、様々な町ごとに店舗を構えて、お客さんが来たら対応していましたが、その業務がATMへ置き換わりました。ATMによって自動化されましたが、もともとその業務を担っていた人たちは失業したわけではなく、別のお客さんにライフプランを考えるなどの業務へ変わっていったと思います。なので、AIエージェントが出てきたからと言って、仕事がなくなるわけではなく、違う何かに価値を見出すように変わってきている。我々が開発しているエージェントも、今までシステム化されてなかったところをシステム化しようとしているだけなんです。その時、我々人間の仕事は何かというと、新しいアイディアを考えることであったり、様々な人とコミュニケーションをとって、もっと面白いインパクトがある事業を作り出すなど、そういう方向に進んでいくと思っています。もちろん動いているシステムを監視する人は必要なのですが、より短いサイクルで面白いものが出てくる未来があるのではないかなと思います。 先ほど話題に上がったA2Aについて言うのであれば、事業や企業ごとに作られたエージェント同士がもっと情報をやり取りすることによって、新しいサービスの開発はどんどん加速する。事業や企業ごとにデータをきちんと連携しているからこそできる技だと思うので、面白いビジネスが1週間や1ヶ月などの短いスパンででポンポン出てきて、コンテンツや、よくわからない体験も含めていろいろ生まれてくるような、“創造の社会”もあるんじゃないかなと思います。 様々なシステムがもっと連携されやすくなれば、例えば交通関係と周辺の百貨店が連携するなど、街全体を繋げられるようになったり、一歩ずつシームレスな形で社会が形成されていく期待もあると思います。 **ーー人間同士のコミュニケーションがより大事になってくる一方で、すべてAIで良いのでは?という極論もあるかと思いますが、それについてはいかがですか。** **後藤氏** 先ほど、コーディングエージェントがすごいという話がありましたが、実際にタスクを振れば色々やってくれるんですけど、でもそのタスク(目標)は定義しなければなりません。 そのタスクは何から取ってくるかというと、太田さんが仰ったように、「そもそも自分たち何やりたいんだっけ」や「こういう機能追加したいです」などの人間の要望から生まれてきます。下流のタスクを実行してくれる部隊(AIエージェント)が増えて、速度も上がった分、上流で意思決定しなければならない。高速に回り始めているのが、現実としてあります。 ![AI Agent_book2.jpg] :::small [現場で活用するためのAIエージェント実践入門(講談社)]{target=“_blank”} :::
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