経済産業省の調査によると、日本のAI人材の需要と供給の差(需給ギャップ)は約4.4万人不足していると言われている現在から、2030年度までには約12.4万人の不足に上ると予測されています。特に、AI(人工知能)等を用いた新ビジネスを創造する「AI人材」の不足が懸念されています。そんな中、これからAIに関わる仕事に携わりたいという人も少なくはないと思います。
本稿では、拡大傾向にあるAI人材の需要を統計的なデータを用いて紐解きながら、AI人材にはどのような業種があるのか、どのようなスキルを習得すれば良いのか解説していきます。
AI人材とは?
AI人材とは、一般的に機械学習、ディープラーニング(深層学習)、データサイエンスなどの技術を用いてAIシステムを構築し運用する人のことを指します。
現在このAI人材の育成・獲得を巡った国家間の競争は日本に限らず、世界中で繰り広げられており、AI技術の可能性に早くから目をつけている海外の先進国ではすでにAI人材の育成が実施されています。
先進的な事例として、米国では2020年までに初等中等教育段階のSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)分野の教員を10万人養成する計画を2013年に発表しました。中国でも、イノベーション人材を育成する改革試行プロジェクト(実験学校の設置や指定など)を2010年から実施しています。
こうした中、日本は世界の先進国と比べてもAI人材の育成に遅れを取っているというのが現状です。
AI人材が求められる背景
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ではなぜ今日本でAI人材の育成が注目されているのでしょうか。
その理由は主に2つあります。
人工知能等のIT関連分野において近年高い注目を集めている先進的な技術・サービスは、IT産業界を変革する大きな可能性を持つと考えられており、今後のIT関連市場の拡大・成長の鍵を握るから
AI需要の拡大にもかかわらず、国内の人材供給力が低下することから、AI人材不足は今後より一層深刻化する可能性が高いから
この2つの理由の根拠となるデータが、経営コンサルティングファームのボストンコンサルティング・グループが発表したレポート、「Mind the (AI) Gap: Leadership Makes the Difference」に記載されています。
ボストンコンサルティング・グループは2018年に日本、アメリカ、オーストラリア、スイス、中国、ドイツ、フランスの7カ国の企業を対象にAIの導入状況に関する調査を実施しました。その中で、自社で「一部の業務をAIに置き換えている」もしくは「一部の業務でAIのパイロット運用を行なっている」のいずれかに該当し、AIの導入に成功していると評価した「AIアクティブプレイヤー」の割合が、最も低いのは日本で、わずか39%にとどまったと発表しています。それに対し1位の中国は85%、次点のアメリカは51%と、自国の半数以上の企業がAI導入に成功しています。
出典: BCG、企業の人工知能(AI)の導入状況に関する各国調査を発表
この結果は各国の企業がAIの先進的な技術に注目し、その導入に力を注いでいることを示していると同時に、日本のAI人材不足の問題も反映しています。
一刻も早くAI人材の育成が求められている中、日本政府は2019年の6月11日に「AI戦略 2019」を正式に発表し、初等、中等、高等教育、社会人すべての世代でAI人材を育成していく方向性を示しています。
政府は2025年までに、
- すべての大学、高専の年間卒業生約50万人が、初級レベルの数理、デー
タサイエンス、AIを習得 - 文理問わず一定規模の大学、高専生の年間卒業生約25万人が、自らの専門分野における数理、データサイエンス、AIの応用基礎力を習得
- 社会人から年間2,000人のエキスパート人材、100人のトップ人材を育成
という具体的な目標を打ち出し、実現するために、以下の取り組みを進める方針を示しています。
- リテラシー:外部人材の積極登用、生徒1人に端末1台
- 応用基礎:AI×専門分野のダブルメジャーの促進
- エキスパート:若手の海外挑戦拡充、AI実践スクール制度
- 優れた教育プログラムを政府が認定する制度の構築
この「AI戦略」が、日本から多くの優れたAI人材を輩出するキックスタートとなることを期待できるでしょう。
今注目の AI人材
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AI人材と一括りに言われますが、その中でもAIを扱う人材はさまざまな種類に分けられます。なかでも多種多様な業界、企業から注目されているAI人材がAI開発に携わるプロジェクトマネージャー、AI開発エンジニア、データサイエンティスト、データエンジニアです。
AI開発プロジェクトマネージャー
AI開発プロジェクトマネージャーは主にAI開発までの4つのフェーズ、
どんなAIを開発するのか構想を練る
(2) PoCフェーズ
構想したAIが実現可能か検証する
(3) 実装フェーズ
開発したAIを実装できるかテストする
(4) 運用フェーズ
開発したAIをいかに有効活用できるか試す
を全て担います。ビジネス課題を理解し、遂行する力はAI開発プロジェクトマネージャーに求められる大切な能力です。ビジネスにおけるAI開発はまだまだ前例も少ないために、このような人材は近年注目を浴びています。
AI開発エンジニア
AI開発エンジニアはビジネス上でAIを適用する箇所を見出した後、高度なプログラミングスキルやコンピュータサイエンスの知見などを駆使し、データをAIが処理できるように適切な形で整理するといったシステム開発をすすめる役割を担います。AI開発エンジニアは前例の少ない開発テーマに取り組むことも多く、現在どの企業も欲しがる人材です。
データサイエンティスト
データサイエンティストはAIシステムを構築・運用する際に、学習データの質を理解して適切に教え込むためにも欠かせない人材です。膨大な情報・統計からバリューを見出し、AIにどのような「データ」を与えるかで出力される結果も変わっていきます。
データサイエンティストが現在注目されている大きな理由の一つは「ビッグデータ市場の拡大」です。社会の情報化が進んでいる今、ビッグデータ市場は拡大しています。それに加え、ディープラーニングの精度を上げるためには教材となるビッグデータが必要となります。そのためデータ分析・解析を行うデータサイエンティストは企業の競争力を左右する重要な役割を担うことになり、需要が高まりつつあります。
データエンジニア
AI開発やデータ分析を行う際には、利用するデータがきれいに整った状態であることが必須条件となります。データエンジニアの業務において、データを意味のある形に使えるようにし、AIの実装、運用までを担う力はどのような案件でも求められる重要なスキルと言えます。多くの企業がデータエンジニアを外注するケースが多く、自社でこのような人材を確保したいという企業は少なくありません。
AI人材の育て方と必要となるスキル
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ではこのような人材を育成するために、日本はどのような施策を提案しているのでしょうか。更に今の若者はAI人材を目指すにあたり、どのようなアクションを起こし、具体的なスキルを習得すれば良いのでしょうか。
AI人材に求められる必要なスキルに関しては、先に紹介した「AI戦略 2019」で政府が掲げた、教育改革に向けた主に取り組みを提示しています。
2020年より初等教育でプログラミング教育の必修化、中等教育ではプログラミングに関する内容の拡充。
高等学校の共通必履科目「情報Ⅰ」では、 データサイエンス・AIの基礎となる実習授業を実施。さらに2024年度からの大学入学共通テストに向けて「情報Ⅰ」の追加を検討。
大学ではAI×専門のダブルメジャーを可能とする環境を設備。
このうち、プログラミングは自分で習得するのが比較的容易なスキルの一つだと考えられます。プログラミングを通して、AI人材には必要不可欠な知識であるディープラーニング(深層学習)を理解することが可能です。ディープラーニングとは機械学習の実装手法の一つで、人間が行うタスクをコンピュータに覚えさせ、複雑な問題を解決するための技術です。これからAI人材を目指そうという方にはディープラーニングの基礎を学ぶためにも、まずはプログラミング言語の一つであるPythonから学習してみてはいかがでしょうか。
AI人材の今後
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AI人材の需要は日本に留まらず、世界中で拡大傾向にあります。日本国内でもAI人材を積極的に育成する体制が整い始めています。今後、すべての人がAIの技術の恩恵を受けられるような社会を形作っていくのは、間違いなくAI人材です。この記事を通して少しでもAI人材に興味を持ってもらい、AI人材を志す方が出てくればと思います。これからもAI人材育成の動向、そして日本からAI等を用いて新ビジネスを創造する新たな人材の出現に目が離せません。