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2026/3/23 [MON]
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仕事のあり方を根底から変える「エージェンティックOS」とは―Slackが提唱する、人とAIが協働する次世代の働き方

生成AIの活用は、もはや特定のツールを試用する実験的なフェーズを終え、日常の業務プロセスに深く統合される本格的な運用フェーズへと移行しつつある。しかし、その裏で多くの企業が新たな生産性の危機に直面している。生成AIをブラウザの別タブで利用し、業務アプリケーションを個別に立ち上げる――この「アプリケーションとAIのサイロ化」こそが、コンテキストの切り替えによる非効率を生み、組織全体のポテンシャルを阻害する元凶となっている。 本記事では、Slackがこの課題に対し、いかにして戦略的な解決策を提示しようとしているのかを紹介する。SlackのCPOであるロブ・シーマン氏やゲストとして登壇した株式会社カカクコムの先進的な取り組みを通じて、Slackが提唱する「エージェンティックOS」というコンセプトが、単なる新機能ではなく、未来の働き方を定義する戦略的基盤であることを明らかにする。 なお本記事は、11月20日(木)- 21日(金)に開催された「Agentforce World Tour Tokyo」の中のセッション「仕事の一元化革命 Slackひとつで完結するエージェント時代の働き方」の内容を元に作成している。実際のデモンストレーションの挙動や詳細な解説については、ぜひ動画本編を確認してほしい。 :::button [動画の視聴はこちら] ::: ## 働き方の再定義:成長基盤の書き換えと「OS」の必要性 現代のビジネス環境は、AIの台頭によって構造的な地殻変動の渦中にある。ロブ・シーマン氏は冒頭、企業の成長基盤そのものが書き換えられようとしていると警鐘を鳴らす。 これまで企業は、生産性を高めるために多くのSaaSやツールを導入してきた。しかし、ツールが増えれば増えるほど、情報は分散し、従業員はアプリケーション間の移動に時間を奪われるようになった。「生産性を高めるはずのツールが、逆に仕事を複雑にしている」というパラドックスだ。 この状況下で、ソフトウェアのアプローチも変わりつつある。かつての「人がツールを使いこなす」時代から、「AIエージェントが人と連携して自律的に動く」時代へのシフトである。 シーマン氏が提唱するのは、すべてのデータ、アプリケーション、そして人が単一のプラットフォーム上で繋がり、協働するための基盤、すなわち仕事のための「OS(オペレーティングシステム)」の再発明だ。 Slackが目指すのは、まさにこの「エージェンティックOS」になることだ。CRM(顧客関係管理)やERP(統合基幹業務システム)といったシステムのデータ、日々の業務アプリケーション、そしてそこに関わる人々が、すべてSlackというインターフェースの中で統合される。AIはそこに自然に組み込まれ(ネイティブ化)、一人ひとりのユーザーに合わせてパーソナライズされ、業務プロセスをフルに自動化していく。 ![slack_01.png] ## 「組織のニューラルネットワーク」という見えない価値 「エージェンティックOS」が導入された組織には、目には見えないが極めて重要な変化が生まれる。セールスフォース・ジャパンのプロダクトマーケティングマネージャーである鈴木 晶太 氏はそれを「組織のニューラルネットワーク」と表現する。 ![slack_02.jpg] :::small セールスフォース・ジャパン プロダクトマーケティングマネージャー/鈴木 晶太 氏 ::: 従来、企業のシステムやデータは部門ごとにサイロ化されていた。営業のデータはSalesforceに、開発のナレッジはGitHubやWikiに、マーケティングの素材はBoxやDriveに――。それぞれの情報は分断され、横断的な活用は困難だった。 Slackのビジョンは、これらすべての情報を一箇所に集め、AIが自然に使える状態にすることだ。人間が意識してデータを繋ぎ合わせるのではなく、普段使い慣れた会話型UI(ユーザーインターフェース)で仕事をするだけで、自然とデータが蓄積され、AIがその文脈を学習していく。 「現在、この『繋がり』が圧倒的に足りていません」と鈴木氏は指摘する。 人と人、人とデータ、そして人とAIエージェントが、脳の神経回路(ニューラルネットワーク)のように密接に結びつくこと。これにより、組織全体がひとつの知性体のように機能し、市場の変化や顧客の要望に対して即座に、かつ的確に反応できるようになる。これが、Slackが提供しようとしている本質的な価値である。 ### デモ① CRMをSlackで再構築 動画の中では、このビジョンを実現するための3つのデモが紹介された。最初のテーマは「CRMの再構築」だ。 **チャンネルエキスパートによる24時間サポート** ITサポートチームのSlackチャンネルには、「チャンネルエキスパート」というAIエージェントが導入されている。このエージェントは過去の会話履歴やドキュメントを参照して、従業員からの「USBメモリの使用規定は?」といった質問に対し、24時間365日体制で即座に回答し、自己解決を促している。 **Agentforceとの高度な連携** さらにデモでは、重大なインシデント発生時の対応フローが実演された。 1. **ケース登録の自動通知:** Salesforceに重要度の高いケース(問い合わせ)が登録されると、Slackのワークフロー機能により関係者のチャンネルに通知が届く。 2. **専用チャンネルの構築:** Salesforce上でインシデントレコードが登録されると、Agentforceがインシデント対応用の臨時チャンネルを自動作成し、関係者を招待する。同時に、Salesforceのレコード情報をサマリーし、チャンネルで関係者に共有する。 3. **原因特定とロールバック:** ITマネージャーが「影響範囲を調査して」と指示すると、エージェントはログを解析し、「このインシデントに関連すると考えられる直近のコードリリースがある」と報告。さらに「ロールバック(切り戻し)を実行して」という指示に対し、外部システムと連携して処理を完遂させた。 4. **事後報告:** 対応完了後、Tableauのグラフでエラー率の低下を提示し、最終的な報告書のドラフト作成までを行った。 ![slack_03.png] ITマネージャーはSlackから離れることなく、自然な会話の中でCRMのデータを操作し、インシデントを解決に導いた。 ### デモ② 個人の生産性を最大化 次のデモは、営業リーダーを主人公に、進化したパーソナルAI「Slackbot」の能力を示した。 **「Today」機能によるキャッチアップ** ユーザーが朝Slackを開くと、まず「Today」画面が表示される。ここには、昨夜届いた大量の未読メッセージの中から、ユーザー自身にとって優先度の高いトピックだけが要約され、ネクストアクションと共にリストアップされている。 **「神様ファイル」を見つけ出す文脈検索** 商談準備のシーンでは、Slackbotの検索能力が光った。「アストロ工業様への提案に使えそうな資料はないか?」という問いに対し、SlackbotはSalesforceの商談データやGoogleドライブ内のファイルを横断的に検索する。特に注目すべきは、「バージョン2.1_修正済み_fix版_神様ファイル」といった複雑なファイル名が散乱する状況下で、Slackbotが過去の会話ログから「前任者が『これが最終版です』と言ってアップロードした文脈」を特定し、正確に「本当に正しい最新版ドキュメント」を提示した点だ。さらに、その資料を元に会議のアジェンダを作成し、関係者のカレンダーの空き時間を確認してスケジュール調整を行うまでの一連の作業を、たった一度の指示で完遂してみせた。 ![slack_04.png] ### デモ③ 組織全体をAgentic OSに一元化 最後のデモは、Slack上で複数のサードパーティ製AIエージェントを組み合わせた一連のワークフローだ。 シナリオは、キャンペーン開始直前にランディングページ(LP)の修正が必要になったというもの。 1. **コピー文の作成:** Slack上でChatGPTアプリを呼び出し、指定したチャンネル内の議論(ターゲット層や訴求点)を読み込ませた上で、最適なキャッチコピーを作成させる。 2. **イメージ画像の作成:** 目的に沿ったイメージ画像の作成を、Slack上でAdobe Expressアプリに指示。数パターンの画像が生成され、チャット上に提示された中から選択できる。 3. **文章のチェック:** チャンネル上で同僚と文章の修正について議論し、その文脈を踏まえてAgentforceが社内のコンテンツ規定と照らし合わせ、修正点を指摘。 4. **サイトの修正・公開:** 修正したLPをWeb上に公開(デプロイ)するため、外部コンテンツ制作サービスのエージェントに指示。エージェントはこれまでの会話の文脈を汲んで必要な作業に落とし込み、ランディングページの修正・公開を実行する。 ![slack_05.png] 異なるベンダーのAIツールが、Slackという一つの「場所」で、あたかも同じチームの同僚であるかのように連携して動く。これにより、コンテキストスイッチのコストは限りなくゼロに近づく。 ## 顧客事例:カカクコムが目指す「AIネイティブカンパニー」 セッションの後半では、株式会社カカクコム 上級執行役員CTOの京和 崇行氏が登壇し、同社の「AIネイティブカンパニー」化に向けた挑戦を語った。 カカクコムでは現在、全社の業務アプリケーションをSlackとGoogle Workspaceに移行・集約するプロジェクトを推進している。京和氏はSlackを単なるチャットツールではなく、仕事の基盤となる「Work OS」と位置づけている。 その背景には、「AI Excellence」な働き方を実現したいという狙いがある。 京和氏が掲げたコンセプトは以下の3点だ。 1. **WorkOS:** 「コミュニケーション」「データ」「ツール連携」を集約することで、すべてをSlack上で完結させられる状態を目指す 2. **AI活用:** 日々のコミュニケーションや情報のキャッチアップ、報連相、チャット起点の業務自動化などでAI・AIエージェントを日常的に活用 3. **ナレッジ活用:** 社内情報を探す際に「まずはAI(Slack / Gemini)に聞いてみる」が、当たり前の行動として定着・習慣化 「以前のツールでは、会話がサイロ化していました」と京和氏は振り返る。 ![slack_06.jpg] :::small 株式会社カカクコム、上級執行役員 CTOAI・テクノロジー管掌/京和 崇行 氏 ::: カカクコムがSlackを選んだ最大の理由は、その設計思想にある。「オープンな会話を奨励する」というSlackの文化は、AIに適切な情報を与え、学習させるために不可欠な要素だった。クローズドなDMではなく、オープンなチャンネルで会話することで、それがそのままAIの知識となり、組織の資産となる。この思想が、同社の目指す方向性と合致したのだ。 ### 食べログにおける「インシデント対応」の実践 カカクコムでは、Slackへの移行を7月に決定。10月の先行公開を経て12月1日から正式な移行を開始し、3月末の完了を見込んでいる。「Agentic OS」の実践事例として紹介されたのが、「食べログ」におけるインシデント対応だ。 従来は人が行っていた障害検知と初期対応を、Slack上でAIが担うフローへと変革した。 1. **AIによる報告:** システム障害を検知すると、AIがSlackに報告を入れる。 2. **AIによる障害原因推定:** AIがエラーログや社内ドキュメントを読み込み、初期調査を実施。原因の推定まで行ってスレッドに投稿する。 3. **協働による解決:** エンジニアたちはそのスレッドを起点に、AIや人と会話しながら、あるいはAIに指示を出しながら解決へと導く。 ![slack_07.png] 「AIがチームに溶け込んで、自然に会話をしているんです」と京和氏は語る。 社内で特に宣伝したわけではないにも関わらず、現場のエンジニアたちはこの機能をヘビーユースしているという。「頼れるチームメイトに変わった」という実感があるからだ。 インシデント対応という一分一秒を争う現場において、AIが自律的に動き、人間をサポートする。そしてその対応履歴がまたAIを賢くしていく。京和氏はこの循環を「複利で伸びるAI活用体制が実現されてきた」と表現した。 また導入検討時、Slackの営業担当から「熱烈な営業」があったというエピソードも披露された。「とにかくオフィスに来て、実際の画面を見てほしい」と熱心に提案され、実際にデモを見たことで具体的なイメージが湧いたという。Slackをただ導入するのではなく、AI機能やツールを組み合わせて「体験を作り込んでいく」ことの重要性を肌で感じた瞬間だったそうだ。 ## 未来の働き方は「OS」の選択にかかっている Slackが提示した「エージェンティックOS」と「組織のニューラルネットワーク」というビジョンは、単なるツールの機能拡張ではない。それは、AIを組織の「同僚」として迎え入れ、データと人をシームレスに繋ぐことで、企業の生産性と創造性をかつてないレベルへと引き上げるための、新たな業務インフラの提案である。 個人の生産性を最大化する「Slackbot」、組織と業務のプロセスを自動化する「Agentforce」、そして多様なAIを受け入れる「オープンエコシステム」。これらが組み合わさることで、企業はサイロ化された現状を打破し、AIネイティブな成長企業へと生まれ変わることができる。 カカクコムの事例が示すように、この未来はすでに一部の先進企業で現実のものとなりつつある。 次世代の成長基盤をどう構築するか。その答えの一つが、ここにある。 詳細なデモの様子や、各スピーカーの熱量あるプレゼンテーションについては、ぜひアーカイブ動画をご覧いただきたい。 :::button [動画の視聴はこちら](link) :::

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