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2026/1/16 [FRI]
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AIの進化を支え続けるNVIDIA グラフィックス企業からAIインフラの巨人への軌跡

:::box 2025年の年末から2026年の年始にかけて公開する参加費無料のLedge.ai 年末年始特集「['25 to '26]{target=“_blank”}」より、今回は特別にサイト内で掲載している一部コンテンツの全文を公開する。2025年のAI関連の重要トレンドや、2026年以降のAIの展望について知りたい方は、ぜひご一読を。 ::: 現在の生成AIブームを、NVIDIAの存在を抜きに語ることはできないだろう。同社のGPUはAIモデルの学習と推論を支える心臓部となり、その圧倒的な市場シェアは、単なる半導体メーカーという枠を超えた、巨大な影響力を物語っている。しかし、その成功は単一の技術的勝利ではなく、2006年のCUDAに始まり、現在に至るまで一貫して貫かれる「開発者中心のプラットフォーム戦略」という強固な哲学の結晶である。 今回、その軌跡を紐解くために話を伺ったのは、NVIDIAでテクニカルマーケティング マネージャーを務める澤井理紀氏だ。同社に15年間在籍し、グラフィックスが事業の中心であった時代から、AIへの歴史的な大変革を社内で目撃してきた。彼の言葉から、NVIDIAがAI時代の覇者となり得た必然性を探る。 ※インタビューは2025年11月26日にエヌビディア合同会社の会議室で行われた。 :::box ![image3_v3.png] NVIDIA テクニカルマーケティング マネージャー 澤井 理紀 氏 早稲田大学大学院情報生産システム研究科修士課程を修了後、2005 年に日本 SGI 株式会社に入社。同社ではビジュアライゼーション ソフトウェア開発やバーチャル リアリティシステム構築に従事。2009 年 NVIDIA に入社。プロフェッショナル ビジュアライゼーションのソリューション アーキテクト、仮想デスクトップ ソリューションの事業開発、コンシューマー マーケティングを経て、現在はエンタープライズからコンシューマー ビジネスまで、幅広い領域でテクニカル マーケティングを担当。社内外へのトレーニング、報道機関へのブリーフィング、各種イベントでの講演などを通じ、NVIDIA の技術の理解と活用を推進している。 ::: ## 「偶然」ではないAIへの転換。すべては開発者コミュニティから始まった NVIDIAの今日の成功を理解するためには、同社がAIブームの遥か以前から、いかに戦略的な布石を打ってきたかを振り返ることが不可欠だ。その軌跡は、偶然の産物ではなく、開発者コミュニティの声に真摯に耳を傾け、未来への投資を続けた結果であった。 ### グラフィックスから汎用計算へ:研究者たちの「ハック」が示した新たな可能性 NVIDIAの歴史は、1999年に発表したGPU(Graphics Processing Unit)から本格的に始まる。当初、その用途はゲームや3D CGといったグラフィックス処理に限定されていた。しかし2000年代初頭、一部の科学技術計算の研究者たちの間で、グラフィックス描画用のAPIをいわば「ハック」する形で、自身の研究における膨大な並列計算にGPUを応用する動きが生まれたのだ。 澤井氏は当時をこう振り返る。「グラフィックス用のAPIを無理やり自分の計算に当てて動かす、というハックのような動きがありました。我々はそうした研究者の動きをちゃんと理解していて、グラフィックス以外にもGPUのニーズがあるということに目をつけたのです」。この開発者コミュニティの小さな、しかし熱量の高い動きこそが、NVIDIAの運命を大きく変える最初の兆候だったのである。 ![image2_v2.jpg] ### 決定的な一手「CUDA」の誕生とエコシステムの構築 その新たな可能性に応えるべく、NVIDIAは2006年に歴史的な一手「NVIDIA CUDA」を発表する。これは、GPUをグラフィックス以外の汎用的な並列計算に利用するための統合開発環境であり、同社の歴史における極めて重要な戦略的転換点となった。 CUDAが画期的だったのは、C言語ベースのプログラミング言語やコンパイラ、デバッガといった開発に必要なツール一式を提供したことだ。これにより、それまで一部の研究者の「ハック」に過ぎなかったGPUの汎用計算が、公式にサポートされるようになった。澤井氏は、「CUDAを使えば、スーパーコンピューターでなくても、手元のPCで科学計算を動かすことができた」と語る。高価なスパコンを必要とせず、誰もが購入できるコンシューマー向けGPU「NVIDIA GeForce」で高度な並列計算が実行できるようになったことで、世界中の研究者や開発者がNVIDIAのプラットフォームに集結した。これが、今日まで続く巨大な開発者エコシステムの礎となったのである。 ### AlexNetの衝撃とジェンスン・フアンCEOの強力なリーダーシップ CUDAによって築かれた土壌の上で、AIという新たな芽が育ち始める。その萌芽は2011年に見られた。NVIDIAの研究者が、スタンフォード大学と共同で、わずか12基のGPUを使い、Googleが2000台のCPUで実現した猫の顔認識プロジェクト「Google Brain」と同等の成果を叩き出したのだ。 そして翌年、その可能性は決定的な形で証明される。画像認識の国際コンテスト「ILSVRC」において、トロント大学のジェフリー・ヒントン教授の研究室に所属していたアレックス・クリジェフスキー氏が開発した「AlexNet」が、2枚のコンシューマー向けGPUを駆使して他のチームを圧倒的な精度で打ち破り、優勝したのだ。この出来事は、ディープラーニングのブレークスルーとして歴史に刻まれ、GPUがAI研究のデファクトスタンダードとなる引火点となった。 この好機を逃さなかったのが、創業者/CEOのジェンスン・フアン氏だ。澤井氏によれば、フアン氏はAlexNetの衝撃を受け、「これからはソフトウェアがソフトウェアを作る機械学習の時代が来る」と確信し、会社全体の舵をAIへと大きく切っていった。ここに、NVIDIAを単なる高性能チップメーカーからAI時代の覇者へと押し上げた、ジェンスン・フアン氏の経営者としての真骨頂が見える。 研究者の「ハック」から始まり、CUDAによるエコシステムの構築、そしてAIの可能性を確信した経営陣の強力なリーダーシップへ。NVIDIAの過去の歩みは、一貫して「開発者中心のプラットフォーム戦略」に貫かれている。こうして築かれたAIにおける圧倒的優位性も、半導体技術の物理的限界という新たな壁に直面する。NVIDIAは、過去の成功方程式であった「チップ性能の向上」から、より包括的な戦略へと舵を切る必要に迫られたのだ。 ## チップ性能の先へ。プラットフォーム全体で最適化する「Co-design」戦略 半導体のプロセス微細化といった単一の指標だけでは、NVIDIAの現在の競争優位性を測ることはできない。同社の真の強みは、ハードウェアの性能を極限まで引き出すための、より包括的なアプローチ「Co-design」戦略にある。 「いわゆるムーアの法則は終焉に近づいています」と澤井氏は指摘する。かつてのように、プロセス微細化だけで劇的な性能向上が見込める時代は終わった。この課題に対し、NVIDIAはアルゴリズムからソフトウェア、GPUアーキテクチャ、システム、そしてデータセンター全体に至るまでを統合的に設計する「Co-design」というアプローチで応えている。 その象徴的な例が、最新のBlackwellアーキテクチャだ。驚くべきことに、Blackwell世代のGPUは、前世代のHopperと同じ半導体プロセスで製造されている。しかし、澤井氏によれば、「プラットフォームを刷新することで、Hopperの10倍の電力効率を実現」しているという。これは、プロセス微細化に依存せず、システム全体の最適化によって性能の壁を突破できることを証明している。この「Co-design」は、かつてCUDAでソフトウェアとハードウェアを統合し開発者エコシステムを築いた成功体験の、現代における正統進化と言えるだろう。 ### 量子コンピュータとフィジカルAIへの貢献 NVIDIAの戦略の根底には、「エンドプロダクトを自社で作るのではなく、それらを開発する人々を支援するプラットフォームを提供する」という一貫した哲学がある。澤井氏はこれを自動車業界に例えて説明する。 「我々は自動運転技術を開発していますが、自社で車は作っていません。自動車メーカーの開発を支援しているのです。それと同じように、量子コンピュータ自体は作りません。量子コンピュータを作りたい人の計算を加速するのです」 この思想は、同社が設立した「NVAQC (NVIDIA Accelerated Quantum Research Center)」にも表れている。NVIDIAは自ら量子コンピュータを開発するのではなく、既存のAIスーパーコンピュータ上で量子コンピュータの研究開発をシミュレーションし、加速させる役割を担う。 同様のアプローチは、ロボティクスや自動運転といった「フィジカルAI」の分野でも貫かれている。シミュレーションプラットフォームである「NVIDIA Omniverse」や「NVIDIA Isaac Sim」、エッジデバイス用の「NVIDIA Jetson」などを提供し、産業全体の進化を支援する。あくまで黒子に徹し、あらゆるイノベーターたちのためのインフラとなることが、NVIDIAの戦略の核なのだ。 AIへの長期的な投資は、今や明確な成果となって表れている。2020年の第2四半期には、データセンター部門の売上が、長年同社の屋台骨であったゲーミング部門を初めて逆転。これは、NVIDIAが名実ともにAIインフラ企業へと変貌を遂げた象徴的な出来事だった。しかし、社内でこのマイルストーンが盛大に祝われることはなかったという。なぜなら、データセンター部門の目標は「ゲーミング部門を超えることではなく、とんでもなく大きな目標があったから」だ。このエピソードは、NVIDIAが当時から既に、過去の事業を遥かに超える未来を見据えていたことを物語っている。 その注力領域は、今やロボティクスや自動運転といった花形分野にとどまらない。澤井氏は、「ヘルスケアやテレコムといった領域にも全方位で注力している」と語る。特定の産業に偏ることなく、あらゆるバーティカル市場でAI活用を推進する姿勢は、同社のプラットフォーム戦略がいかに広範な応用可能性を持つかを示している。 チップ性能の追求から、システム全体を最適化するプラットフォーム戦略へ。NVIDIAの現在の姿は、開発者中心という哲学を現代的に昇華させたものだ。現在のプラットフォーム戦略は、単に今日のAIを動かすに留まらない。それは、量子やフィジカルAIといった「まだ見ぬ未来」のイノベーションすらも自社のエコシステムに取り込むための、壮大な布石なのである。NVIDIAの視線は、もはや現在のAIの先、次なる産業革命の基盤そのものに向けられている。 ## AIは「バブル」ではない、「始まり」に過ぎない 市場の一部では、現在の熱狂を「AIバブル」と懸念する声も囁かれる。しかし、インフラの最前線から未来を見据えるNVIDIAにとって、今はバブルどころか、壮大な物語の「始まり」に過ぎない。 ### 金融市場と技術進化の切り分け 「AIバブル」という言葉について、澤井氏は冷静な視点を示す。「金融的な評価がバブルかどうかは分かりません。しかし、AIという技術自体がバブルではないことには、全く疑いの余地がありません」。これは、市場の短期的な評価と、社会に不可逆的な変化をもたらす基盤技術の進化とは、明確に切り分けて考えるべきだというNVIDIAの姿勢を物語っている。AIが社会に浸透し、当たり前に使われる未来は揺るぎないという確信がそこにはある。 ### 新たな産業革命「AIファクトリー」構想 ジェンスン・フアンCEOは、AIがもたらす未来を「AIファクトリー」というビジョンで表現している。これは、データセンターが単なる計算施設ではなく、データを原材料として「知能」を生成する工場へと変貌するという構想だ。あらゆる企業が、自社の日々の業務データを「AIファクトリー」に入力し、そこから生み出されたインテリジェンス(知能)を活用して事業を革新していく。NVIDIAは、AIを一時的なブームではなく、社会基盤そのものを根底から作り変える、新たな産業革命と捉えているのだ。 ### 変わらぬ原点:すべての開発者のために 企業規模が拡大し、巨大テック企業との取引が増える中で、「NVIDIAはもはや大企業だけを相手にするのではないか」という声も聞かれる。この問いに対し、澤井氏の答えは明確だ。NVIDIAのDNAは、創業以来変わっていない。 「2006年にCUDAを作った時も、ハイパフォーマンスコンピューティング用のGPUに限定せず、コンシューマー向けのGeForceでも動くようにしました。それによって開発者が手軽に利用できるようになったのです。我々はそのことを覚えています」 大規模なデータセンターから個人のPCに至るまで、あらゆる規模の「開発者をサポートする」という姿勢こそが、NVIDIAの揺るぎない原点であり、強固なエコシステムを維持し続ける力の源泉なのだ。この哲学は今後も変わることはない。 ![image4_v2.png] ### 次のブレークスルーとNVIDIAの役割 現在主流のTransformerモデルの次に来る、革新的な技術は何だろうか。この問いに対し、澤井氏は「それは誰にも分かりません」と率直に認める。未来の不確実性を受け入れた上で、彼はNVIDIAの使命をこう語る。 「我々の役割は、AIの進化に向けて、どのような技術が登場しても対応できる、最先端のプラットフォームを構築し続けることです」 特定のアルゴリズムに賭けるのではなく、あらゆるイノベーションが花開くための最高の土壌を用意し続けること。それこそが、AIインフラの巨人としてNVIDIAが自らに課した役割なのである。 AIの概念が生まれて70年。我々は今、新たな産業革命の入り口に立っている。その不確実で、しかし可能性に満ちた未来に向かっていく上で、これからもNVIDIAが支える技術進化に期待したい。 :::box [関連記事:NVIDIA、次世代AI基盤「Rubin」をCESで正式発表──GPU「Rubin」と新CPU「Vera」を含む6チップ構成、推論コストは最大10分の1に] ::: :::box [関連記事:NVIDIA、フィジカルAIと自動運転AIを統合展開──ロボットと車両向けに新モデル群] :::

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