日本AI|導入状況・技術力・企業・人材の4つの観点からみる日本と世界の状況

このエントリーをはてなブックマークに追加


Unsplashより

近年、多くの人々から関心を集めるAI。

業務の代行や補助による生産性向上、顧客の趣向の推論による販売効率の促進、顧客それぞれにカスタムすることによる満足度の向上など、AIの活用で実現できることは幅広くあります。

AIのビジネス活用に早くから着目し、多くのAI企業が存在するアメリカ、中国といった国々と比較して、日本は遅れをとっているともいわれています。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長 兼 社長の孫正義氏は、SoftBank World 2019で「日本はAI後進国」だと述べました。

日本のAIに関連する状況はどうなっているのか。

導入状況・技術力・企業・人材の4つの観点から、日本と世界の状況を比較し、日本の現状を紹介していきます。

AIの導入状況

はじめに、日本のAI導入状況を他国と比較したデータとして、オラクルとFuture Workplace社が共同で2019年7月2日から8月9日に実施したAIの職場利用などに関するアンケートの結果を見ていきます。

アンケートの対象は世界10カ国・地域(米国、英国、フランス、中国、インド、オーストラリア/ニュージーランド、シンガポール、アラブ首長国連邦/UAE、ブラジル、日本)の、従業員・マネージャー・人事リーダーで、合計8,370名です。

現在職場でAIが利用されているか否かを、「はい」「いいえ」「よくわからない」で答える質問において、日本で「はい」と答えた人の割合は29%でした。

日本は調査を実施した世界10カ国のなかで最低で、世界平均50%と比較しても低いことがわかります。

一方で、上位3カ国は、インド(78%)、中国(77%)、UAE(66%)で、日本より格段にAIの職場利用がなされていることがうかがえます。

AI技術力

次は、論文数や特許数などをもとに、世界各国のAI技術力を見ていきましょう。

論文本数による比較

スタンフォード大学の人間中心のAI研究所であるHuman-Centered AI Institute(HAI)が提供する各国のAI動向比較ツール「Global AI Vibrancy Tool」では、2018年に28カ国をAIに関する34の観点から評価した結果のヒートマップを確認できます。ヒートマップの色の濃さを決める値は、123カ国をAIに関する34の観点から評価し、0から100で正規化したものです。

ヒートマップの34指標のなかには、AIに関する会議論文の本数、AIに関するジャーナルの本数やDeep Learningに関するarXiv論文の本数の指標があり、中国やアメリカで高い傾向にあります。日本は各指標が20.67、13.53、8.87で、本数のもっとも多いアメリカの4分の1にも満たないことがわかります。

上記の3種類の論文の本数に関する指標を国民1人当たりの本数に換算した指標の場合、中国とアメリカで高い傾向はなくなり、シンガポールやスイスで高い傾向が目立ちます。中国やアメリカの研究力は人口の多さに助けられている部分があると考えられます。日本の場合、国民1人当たりに換算する前後で指標にほとんど変化はありません。

AI関連技術の特許出願数の比較

特許庁のAI関連技術の特許出願数調査によると、日本(JP)、米国(US)、欧州特許庁(EP)、中国(CN)、韓国(KR)、および特許協力条約/PCT国際出願(WO)の出願数の推移は、以下の棒グラフのようになります。

※AI関連技術とはAIのコア技術に関する発明であり、国際特許分類G06Nが付与されたものを指します。
※PCT国際出願とは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することで、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を得られるものです。

出典:「AI 関連発明の出願状況調査 報告書」(特許庁)

どの国でも出願数は年々増加する傾向にあります。中国は2016年から出願数が急増し、2017年にはアメリカを抜きました。特許出願数に関してもアメリカと中国が群を抜いて多いことが確認できます。

AI企業

次は、世界のAI企業数を見ていきます。

AI企業数

中国の清華大学の報告書によると、全世界のAI製品、サービス、および関連ソリューションの提供を中核事業とするAI企業数は、2018年6月の時点で4,925社です。

このうち2,208社がアメリカの企業でもっとも多く、中国は2番目の1,011社です。日本はオランダ・スイスと同率の40社で11番目でした。

AI100に選出された企業数

AI100とは、米リサーチ会社CB Insightsがもっとも有望なAI企業を毎年100社選ぶものです。選出は、CB Insightsのデータセットに基づいており、特許活動・企業の健康状態・技術力などの分析を総合評価します。2020年版のAI100において、企業の拠点の分布割合は以下のようになりました。

https://www.cbinsights.com/research/artificial-intelligence-top-startups/をもとに作成

AI100に選出された企業の拠点は13カ国に分布しています。日本から選出された企業は、スパースモデリング技術を用いて「説明可能なAI」を開発するHACARUS1社で、図では「その他」に含まれています。

日本の以外で1社のみ選出され「その他」に含まれたのは、フランス、スイス、チリ、スペインでした。AI100に選出された過半数以上の企業は拠点をアメリカに構えています。

AI人材

ここではAI人材について、AI人材数・スキル習得意欲をもとに見ていきます。

AI人材数

2019年にカナダのAIスタートアップ企業ELEMENTが発表したグローバルAIタレントレポートでは、世界主要国のAI研究者数や、影響力の強い研究者について分析されています。

本レポートにおけるAI研究者数は、2018年に主要なAI会議で英語論文を発表した研究者数を意味します。総数の上位5カ国は、アメリカ(10,295人)、次いで中国(2,525人)、イギリス(1,475人)、ドイツ(935人)、カナダ(815人)。日本はカナダに次いで6位(805人)です。

また、研究者がAI分野に与えるインパクトを評価する目的で、主要なAI会議に出版された2017年と2018年の出版物の被引用数を分析した結果、研究者の18%(約4,000人)が分野全体に顕著な影響を与えることがわかっています。

顕著な影響を与える研究者は一部の国に集中しており、総数の上位5カ国はアメリカ(1,095人)、次いで中国(255人)、イギリス(140人)、オーストラリア(80人)、カナダ(45人)です。

AI人材育成能力

グローバルAIタレントレポートでは、各国のAI人材育成能力をはかる目的で、顕著な影響を与える研究者が、その国のAI研究者の総数に占める割合についても分析しています。割合でみると、1位はオーストラリア(18%)で、次いでアメリカ、イギリス、中国(それぞれ13%)、スイス(11%)、シンガポール(9%)です。

AI活用スキル習得意欲

出典:総務省ホームページ

総務省の「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」では、日本とアメリカのAI活用スキル習得意欲が比較されています。

平成28年(2016年)の時点で、どのスキルに関しても習得したい人の割合はアメリカの方が高く、はやい時点からの関心の高さが現在の競争力を生み出しているとも考えられます。

日本の現状

ここまで、導入状況・技術力・企業・人材の4つの観点から日本と世界のAI事情を比較してきました。アメリカと中国は多くの観点で上位となり、人口当たりの論文数やAI人材育成能力といった観点では、オーストラリア、スイス、シンガポールなどの国々も優れていることがわかります。一方で、4つの観点どこからみても日本は強みがなく、遅れをとっているようです。

こうした遅れを鑑み、日本政府はAI技術開発やAI社会実装の戦略である「AI戦略 2019」を策定しています。

AI戦略2019では、日本がAIに関して競争力があるとは言えない状況を受け入れつつ、課題先進国として解決のためAIなどの技術をうまく活用し、新たな社会の形を実現する必要性があるという旨が述べられています。

戦略目標

AI戦略 2019では、以下のような戦略目標が設定されています。

  1. <人材>我が国が、人口比ベースで、世界で最もAI時代に対応した人材の育成を行い、世界から人材を呼び込む国となること。さらに、それを持続的に実現するための仕組みが構築されること
  2. <産業競争力>我が国が、実世界産業におけるAIの応用でトップ・ランナーとなり、産業競争力の強化が実現されること
  3. <技術体系>我が国で、「多様性を内包した持続可能な社会」を実現するための一連の技術体系が確立され、それらを運用するための仕組みが実現されること
  4. <国際>我が国がリーダーシップを取って、AI分野の国際的な研究・教育・社会基盤ネットワークを構築し、 AIの研究開発、人材育成、SDGs の達成などを加速すること

日本の現状を考えると、上記の目標の達成は簡単なものではないでしょう。戦略目標達成へ向けた取り組みは始まったばかりです。

戦略目標達成へ向けた方針

戦略目標を達成するための方針は以下のようになっています。

出典:AI戦略2019【概要】

教育改革の具体目標には、”「数理・データサイエンス・AI」の基礎などの必要な力をすべての国民がはぐくみ”と記されています。

実際、学校のカリキュラムは具体目標に沿って変更されていく見込みで、2020年度からすでに小学校でプログラミング教育が始まっており、2022年度からは高校で情報の授業が必修化される予定です。

一方、学生以外に関しては一律に教育を実施するのは難しく、基本的情報知識とAI実践的活用スキルを習得する機会の提供という形になるため、企業や個人の関心の高さによるところが大きくなりそうです。

近年AIスキルを身に着けるためのオンライン講座は充実してきており、学習のハードルは下がりつつあります。

日本でのAI活用事例

世界と比較すると進んでいるとは言い難いかもしれませんが、日本でも着実にAIの活用および検討が進んでいます。ここでは、過去のLedge.aiの記事をもとに、日本でのAI活用事例や活用に向けた取り組みを紹介していきます。

このほか製造業・金融業など業種別のAI活用事例については、AI活用事例カテゴリにまとめています。

より詳しく・細かく事例を検索して知りたい方は、AI活用事例をまとめたプラットフォーム「e.g.(イージー)」をご覧ください。

またAIスペシャリストの生の声でAIの活用について知れる、Ledge.ai Webinarもご活用ください。

日本の行く末は

この記事では、導入状況・技術力・企業・人材の4つの観点から、日本と世界の状況を比較し、日本の現状をみていきました。

4つの観点からみると、現段階で日本は遅れをとっているようです。

ただ、現段階で遅れているからといって、今後もそのままとは限りません。また各国それぞれの事情もあるため、遅れていると気にしすぎても仕方のない部分もあります。

日本の場合、単に国際社会での競争力という観点だけでなく、少子高齢化の進行で生じるさまざまな社会課題の解決にもAIの活用が必要になってくるでしょう。

以前、株式会社レッジが開催した日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』にて、筑波大学准教授でメディアアーティストなどの活躍でも知られる落合陽一氏は次のように語りました。

「今ある課題を解決するために必要なデバイスやツール、ソフトウェアはすでにある。重要なのは、いま豊富にある画像認識や音声認識などのソフトウェアリソースを、状況に合わせてどう最適化し、組み合わせて解決していくかです。

そこで重要なマインドセットは、技術的が大したことがなかったとしても、それをバカにしないこと。大したことのない技術で問題が解決できれば、スマートだしコストも安くつきます。課題を解決するうえでの技術なんて何でもいいんですよ。新しい課題を見つけ、技術で解決する。そのこと自体がイノベーションなんです」

世界でもっとも少子高齢化の進む国である日本の対応は、今後同じ道をたどるであろう国々の道しるべともなります。国内の社会課題の解決に向けて開発したAIが、将来的には同様の問題に悩む他国の助けとなるかもしれません。

日本の場合、社会課題に関連する介護・医療分野や業務効率化の用途においてのAI活用は、課題が目前にあるぶん取り組みやすく(というより、取り組まざるを得ないため)、結果として他国に技術を提供できるほどの強みになる可能性をもっています。

日本政府も危機感を持ってAI戦略を立ており、2020年度からは小学校でプログラミング教育が始まっています。今後も人材育成や社会実装の流れは進んでいくでしょう。

Ledge.aiの記事が、読者の方々がAIへ興味をもつきっかけや、理解を深める助けになれば幸いです。