食料生産をAIが担う。植物を最速で育てる未来工場の姿

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写真:株式会社プランテックス

FAO(国際連合食糧農業機関)が2009年に発表した予測によると、2050年には世界人口が91億人まで増え、食料生産全体を1.7倍引き上げる必要があるという。

単純に1.7倍の耕作地を開拓して食料を作るのは難しく、91億人を支えるためには食料生産技術の革新が必要だ。

株式会社プランテックスは、植物を最速で育てる環境条件の組み合わせをAIで導き出す研究を進めている。植物工場の稼働を安定化、効率化させることで食料生産の未来は変わるのか?

2019年4月23日に開催されたグローバルAIサミット「AI/SUM(アイサム)」にて行われたセッション「閉鎖型人工光植物工場における『AI活用』」の様子をお伝えする。

山田 眞次郎
株式会社プランテックス 会長

製造技術とAIを組み合わせれば、日本は米中にも勝てる

農業の世界では、1940年代から60年代にかけて「緑の革命」が起きた。種子の改良や灌漑、化学肥料といった生産技術が発達し、食料の生産性は約6倍に伸びた。

しかし、それと同時に水の使用量も増えており、従来の生産方法で1.7倍の食料を生産しようとすると、水も耕作地も足りない状況だ。

そこで、水と土地を効率的に活用できる植物工場での食料生産が注目を集めている。

――山田
「今は野菜だけでなく、小麦などの穀類も植物工場で生産が可能です。どんな環境、どんな場所、どんな人でも食料生産できるシステムが必要だという使命から、植物工場の技術開発を進めています。

日本は生産機の製作技術を持っています。これにAIを組み合わせることで、植物工場の分野で、AI先進国の中国やアメリカにも勝てる技術を作れると確信しています」

閉鎖型の植物生産機で環境を完全に制御

日本経済新聞によると、収穫量が安定しないなどの理由から植物工場の45%が赤字だという。そんななか、プランテックスではコストダウンよりも生産性向上に目を向けた取り組みを行っている。

――山田
「製造業では、同じ設備を用いて短い期間で製品を作ることができれば生産性をあげられます。植物生産でいうと、生産性とは成長スピードのことです。

そこで、

  • 電気
  • 二酸化炭素
  • 肥料

の5つの要素が植物の成長にどう影響するか検証しました」

千葉大学の植物工場で1年半システム検証を行い、なんと4ヶ月で生産性が2倍に上がったという。だが同時に問題点も浮き彫りとなったそうだ。

――山田
「千葉大学での検証は、エアコンで温度制御をするオープンタイプの植物工場でした。しかし、それだと場所によって5度も温度差がついたり、水道水の温度が季節でばらつきが出たりして、正確な環境制御ができませんでした」

そこで開発されたのが、クローズドタイプの植物生産機だ。植物の成長に大きく影響する3種のファクター(光、空気、養液)のうち、20個のパラメーター(温度、風速、CO2濃度など)を個別制御するためのエンジンを生産機に内蔵した。

クローズドタイプの植物生産機は植物が育つ各レイヤーが密閉され、

  • 光供給システム
  • 空気循環システム
  • 養液循環システム

で環境を完全制御(水温±0.2℃、気温±0.2℃、養分流速±0.1L/分、湿度±2%)できるという。また、成長重量もリアルタイムに計測するので、成長スピードの変化が一目瞭然だ。

AIは常識がないので、自然に存在しない環境条件を導き出す

AIの活用については、3年前から横浜国立大学の長尾智晴研究室と共同で研究している。植物が最速で育つ環境パラメーターの組み合わせを、AIで見つけ出そうと試行錯誤を重ねているという。

――山田
「AIは常識がないので、自然に存在しない環境条件を導き出せます。その結果、昨年12月に過去最高の収穫重量を記録しました。

これまで人間では785g/㎡/day※までしか生産性をあげられていなかったのですが、AIでは942g/㎡/dayまであげられました。

閉鎖型の植物工場だからこそ、自然に存在しない環境を作り出せるのです」

※g/㎡/day:1平方メートル当たりの日産収穫量

耕作地の99%を森に戻したい

最後に、山田氏は今後の目標と植物工場が果たすべき役割について語った。

――山田
「植物工場を活用すれば、露地栽培と比較し、耕地面積を1/100にできます。森を切り開いて作った耕作地の99%を森に戻すのが私たちの目標です。

また、従来、鶏卵でウイルスを培養する方法で6ヶ月かけて作っていたインフルエンザワクチンを、タバコの葉から1ヶ月で作れるようにするなど、生産スピードの向上以外にも、完全制御された環境での植物生産の技術は、さまざまな目的に活用できないか期待しています」

植物の成長スピードを最大化したり、植物から採集できる成分を調整したりと、これまで解明しきれなかった植物の可能性をAIが探り始めている。植物以外にもさまざまな分野の研究にAIが活用されることで、先入観にとらわれない新しい発見が次々と出てきそうだ。