「『デジタル人材がいない』は言い訳だ」デジタル庁の官僚がDXブームに怒る理由

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(写真は本人提供)

「デジタル後進国」「AI後進国」と言われて久しい日本。しかし、これから社会で活躍するZ世代には10代や20代でAIやスマホアプリを生み出した若者たちがいる。特集『それ私が作りました!〜AIやスマホアプリを開発したZ世代に聞いた』の1回目では、デジタル庁 統括官の村上敬亮氏に、日本社会の課題や若者たちへの想いを聞いた。

デジタル庁が9月1日に設置されてから、2カ月が経過した。この2カ月間で菅内閣が総辞職し、10月4日に岸田内閣が発足。デジタル庁のトップであるデジタル大臣は平井卓也氏から牧島かれん氏に変わった。

昨今、日本では民間でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がブームのようにもてはやされている。一方で、デジタル人材の不足が叫ばれ、若者たちが活躍しづらい状況にある。

「『デジタル人材がいない』は言い訳だ」──。大胆にもそう訴えるデジタル庁 統括官で、国民向けサービスグループのグループ長を務める村上敬亮氏に話を聞いた。

「大企業のDXは難しい」

Unsplashより

──民間ではいわゆる「DXブーム」が起きています。村上さんから見てどのような課題がありますか?

たとえば、スーパーシティに関して考えると、「免許を返納した高齢者が病院に行くために、自動走行車両やカーシェアサービスを使えたら良い」など、理想を描くのは簡単です。しかし、オセロで喩えると、急にすべての石が黒から白にひっくり返ることはありません。どこかから始めていく必要があります。

オセロの石を白にひっくり返すにはコストシェアが不可欠です。自動走行車両を走らせたい人たちがバラバラに投資していたら採算が合いません。タクシー会社や運送会社だけではなく、保育園の送り迎えなど、いろんな人たちでうまくコストシェアすれば、多少高めのインフラでもやっていけるでしょう。今はそのようなビジネスモデルが描けていません。

──オセロの喩えで言うと、スタートアップ企業は企業全体をすぐに白にひっくり返せますが、大企業にはなかなか難しいと思います。

大企業のDXは難しいと思います。大企業は単に大きいだけでなく、間接費用が重たすぎるからです。大企業だってスタートアップ企業と同じ技術は作れるし、ビジネスモデルも作れるとは思いますが、安い料金でできません。

大企業はものすごくお金を持っている代わりに、不採算部門や間接部門にもたくさんの人を抱えています。新しいサービスをやろうとしとも参入コストで勝負になりません。市場が熟して参入できるようになった頃には、市場はすでにどこか別の企業が占拠しているでしょう。

──なかなか大胆な発言ですね。

私は大企業、とくにIT系の皆さんには売上で役員の業績評価をするのをやめたらどうかと提案しています。クラウド化で顧客への提供価格はじりじりと下げられるのに、裏でクラウドサービスなどに払うお金はどんどん上がっていきます。一見すると、目の前の売上は守られていますが、収益率はどんどん悪くなっているはずです。

一部の大企業は、スタートアップ企業と積極的に組んで事業を展開しています。目の前の売上は一生懸命守っていますが、その代わりに内部の収益構造や比較優位をどんどん切り売りしている状態です。このまま目の前の売上を守り続けていると、日本のITベンダーの競争力は空洞化するかもしれません。

「『デジタル人材がいない』は言い訳だ」

Unsplashより

──総務省による「情報通信に関する現状報告(令和3年版情報通信白書)」では、日本企業におけるDXを進めるうえでの課題は「人材不足」が53.1%で最多です。

「デジタル人材の不足」はそのとおりだと思います。日本全体として見れば、エンジニアの数は足りていません。とくにデータ中心の世界でのエンジニアは不足しています。ただ、デジタル人材はお金で雇えば良いのでしょう。

業務の現場でDXを引っ張るのは別の要素です。データモデルやデータベースの設計自体は大変ですが、そんなに難しい技術ではありません。できる人にやってもらえば良いのです。

オセロは最初の数枚の石を白にひっくり返しただけでは勝てません。どんどん白にひっくり返していく必要があります。DXでも「世の中にレイヤー構造を差すことで、結果としてデータを使って新しい付加価値を生む」という新しいビジネスが生まれないと意味がないのです。盤面の最後まで石をひっくり返し続ける胆力のある人が「本当のDX人材」だと思います。

──DXにはデジタルリテラシー以上に、最後までやり切る能力が不可欠ということですか?

DXの本質にはデジタルリテラシーは高さはあまり関係ありません。やり抜く覚悟とやる気の問題だと思います。「デジタル人材がいないからできない」は言い訳です。「本気でDXをやる気があるのか、ないのか? 人手不足でDXができなかったと言っている企業があるのか」と言いたいです。

──オセロの喩えで言うと、日本は他国以上に白にひっくり返しづらい状況にあると思います。必然的に「覚悟とやる気」が必要になるのかもしれません。

今、目の前にある自分の売上を守ることを優先していることが問題です。たとえば、移動サービスを考えたとき、今のままの状態で地域の移動交通の未来を描けるはずがありません。地域の住民の数が減っているのに、これまでのバスなどの交通手段のすみ分けを大事にしていたら全員の収益率が悪くなるのは火を見るよりも明らかです。

できるだけ人手をかけずに人を運ぼうと思ったらデジタルを使うべきでしょう。ほかの業界と一緒に地域の移動サービスの未来を本気で考える必要があります。「デジタル人材がいない」は言い訳です。日本人は本当にチャレンジしない国民になってしまったと感じます。

「『自分の好きなようにやらせろ』と反抗してほしい」

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──この特集では、これから10代や20代でAIやスマホアプリを生み出した若者たちに話を聞いていきます。若者たちに期待することは何かありますか?

官民問わずさまざまな組織で、各分野に知見のある先輩が組織の上で詰まっている状況です。若い人は任せてもらえません。本来はどんな小さなことでも良いので、若い人が崖っぷちで自分ですべてやり切るという仕事の任せ方をしないとダメだと思います。

だから、若い人には「上の世代がフタをしているせいで、好きなことができない」という支障があったら、どんどん上の世代に文句を発信してほしいし、組織のなかで「自分の好きなようにやらせろ」と反抗してほしいです。

もし「ここはダメだ」と思ったら見切りつけて辞めて、自分たちで会社を作って好きにやったら良いと思います。そういう人たちのアクティビティを支えられるような政府にできたら良いと思います。

──上の世代も若者が活躍しやすいように働きかける必要があると思います。

私自身の反省も顧みて言えば、私たちは若い人たちがチャレンジできるようなスペースを作れるように仕事をしなければいけません。DXはまだ抽象度が高すぎますが、年寄りが「DXとは何だ?」と言っているうちに、若い人がDXに挑戦するスペースができます。私たちはそういうことを仕掛けとして考える必要があるのかもしれません。

私はDXに詳しいわけではありませんが、私の立場でDXという言葉をうまく語ることで、若い人たちが活躍するスペースができるように頑張って動きます。若い人たちはスペースができたと思ったら、どんどんシュートを打ってほしいです。