※本記事は2022年3月30日に公開した記事「『高校生でも簡単に使えることに驚いた』プログラミング未経験の高校生4人組 たった2カ月でCO₂濃度をLINEに通知できた」の再掲載(一部改訂)です。
新型コロナウイルス感染が再び拡大し「第7波」の兆しを見せる昨今、感染対策として有効とされる「換気」に、今一度注目したい。
岐阜県立岐阜工業高等学校(岐阜工業高校)の部活動「設備システム研究部」に所属する2年生の生徒4人が短期間で、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を活用して、室内のCO₂(二酸化炭素)の濃度を可視化したり、濃度の制限値を超えるとLINEに通知したりする取り組みに成功した。
2021年12月に地元の新聞紙『岐阜新聞』に生徒たちへの取材記事が掲載されたり、内定企業が訪問する研究発表会(展示会)でソリューションを展示・紹介した際には企業から注目を集めたりするなど、大きな話題になっている。
なぜ、プログラミング経験のない生徒たちが短期間でAIとIoTの実装を実現できたのか──。今回は実装に携わった生徒4人と、設備システム研究部の顧問を務める山口 剛正教諭に話を聞いた。
CO₂濃度が高くなると「カンキスグニ」と表示
生徒たちが通う岐阜工業高校
今回、生徒たちが使用したのはアステリア株式会社が提供しており、岡谷エレクトロニクス株式会社が販売の代理店を務める、ノーコードでAI/IoTを構築できるミドルウェア「Gravio(グラヴィオ)」だ。
Gravioは月額2万円(税別)からと安価に手軽に導入できるため、さまざまな企業で導入が進んでいる。たとえば、ネットワークカメラを使いAI画像認識技術により人数をカウントすることで人の密集を検知したり、付属の開閉センサーを使うことでドアの開閉を把握したりできる。
岐阜工業高校の生徒たちはGravioを使い、どのような実装をしたのか? GravioはIoT(センサー)とAI(カメラ)を適材適所で活用できるというメリットがある。生徒たちは2021年10月から、まずIoTのCO₂センサーから作業を始めた。
具体的な実装について聞くと、設備システム研究部のメンバーで、設備システム工学科 2年生の多和田 彩花さん(たわだ あやか)さんは、ただCO₂センサーでCO₂濃度のデータを取得するのみならず、表示パネルへの表示、LINEへの通知も手がけたと教えてくれた。
生徒たちが実装にあたって利用した住宅の模型(左)、PowerBIでグラフ化している様子(右)
生徒たちはLEDマトリックスに「カンキスグニ」「カンキチュウイ」と表示した
──多和田さん
「まず私たちは締め切った空間を作れる住宅の模型を作成しました。密閉した模型内に人の呼気やCO₂のスプレー缶を用いて、CO₂で充満させました。密閉した模型内をGravioのCO₂センサーを使って測定し、CO₂濃度の変化をPowerBIでグラフ化しました。
CO₂濃度を『Gravio LEDマトリックス』という表示パネルを用いてリアルタイムで表示できるようにして、自分たちで設定したCO₂の基準値を超えると『カンキスグニ』『カンキチュウイ』と喚起を促す表示ができるようにしました。スマートフォンにもCO₂濃度が高くなった場合に『密です』と通知がいくようにして換気を促すようにしました」
「簡単に操作できてとても使い勝手が良かった」
実装はデータの把握のみならず、表示パネルとLINEの活用までにおよぶため、非常に難易度が高かったと思うかもしれない。しかし、Gravioの強みは実装が簡単であることだ。今回のCO₂センサーの実装は放課後の限られた時間のなかで、たった約2カ月で完成したほどである。
設備システム研究部の部長を務める設備システム工学科 2年生の松田 菜津美(まつだ なつみ)さんはGravioの実装について「最初は難しかったけれど、徐々にわかってきて、あまり難しく感じなくなりました」と語る。
──松田さん
「トリガーを設定するのは今回が初めてでした。最初は難しかったけれど、徐々にわかってきて、あまり難しく感じなくなりました。CO₂センサーや人感センサーなど初めて知るもので、室内のCO₂濃度を知ったり、人数が知ったりできてすごいなと思いました」
設備システム研究部のメンバーで、設備システム工学科 2年生の山本 怜佳(やまもと れいか)さんは「初めて使ったときは構築するのが難しい部分が多く、なかなかできなかった」と素直に話しつつも、「設定するまでの流れやセンサーの使いかたなどがわかりやすく説明がされていて、簡単に操作できてとても使い勝手が良かった」と振り返った。
──山本さん
「IoTのセンサーを使ってCO₂濃度を測定して表示パネルに表示したり、人感センサーを使って人数制限をして『密』を回避したり、結果をもとにPowerBIでグラフ化してより見やすくしたりなど、いろんなことがGravioを通してできます。
初めて使ったときは構築するのが難しい部分が多く、なかなかできなかったけど、設定するまでの流れやセンサーの使いかたなどがわかりやすく説明がされていて、簡単に操作できてとても使い勝手が良かったです」
「高校生でも簡単に使えることに驚いた」
教室とPC実習室に設置したONVIFカメラ
岐阜工業高校の生徒たちによるGravioを活用した取り組みはここでは終わらなかった。2022年1月から、IoTのCO₂センサーに加え、カメラAIによる人数検知にもチャレンジしている。
教室およびPC実習室にONVIFカメラを設置し、Gravioの画像推論モデルを使うことで、人数検知(教室内の人数カウント)を実施。変化の傾向をMicrosoft PowerBIを使ってグラフ化し、可視化(タイムスタンプと人数)した。
設備システム研究部のメンバーで、設備システム工学科 2年生の平山 晴大(ひらやま せいた)さんは「自分のなかで『AI』というものがとても高度で難しいイメージがありました」と振り返りつつも、Gravioについては「自分たちのような高校生でも簡単に使えることに驚きました」と話した。
──平山さん
「自分のなかで『AI』というものがとても高度で難しいイメージがありました。実際にそうだと思いますが、Gravioはそれを自分たちのような高校生でも簡単に使えることに驚きました。Gravioの作業をしていて、ソフト内のサンプルをダウンロードするだけで、AI作成に必要な膨大なデータを用意せずに利用できるので、簡単にすぐに使えると感じました。
自分たちが作成したのはカメラに写っている人数を自動で数えるシステムで、メガネやサングラスを付けたり、マスクなどで顔の一部が隠れたりする状態でも人を検知できて、すごいと思いました。コロナ禍で人数制限が必要な場面が多いので、イベントで活用するなど使い道がたくさんあるのではないかなと思いました」
「Gravioはすぐに実行できるのがすごく良い」
最後に、設備システム研究部 顧問を務める山口 剛正 教諭に話を聞いた。山口教諭はなぜ部活動の一環で、生徒たちの主導でGravio実装を取り入れたのか? 山口教諭はGravioを導入した経緯について「これは設備を学ぶ生徒向けだな」と感じたと振り返る。
──山口教諭
「本校の設備システム工学科は平成13年に開講しました。当初は空調や衛生、電気、通信などを満遍なく取り扱っていました。開講してから数年間は衛生に重点を置いていましたが、現在では空調に重点を置いています。全国に設備システムを専門とする学科は23校ありますが、そのなかでも本校が1番空調に重点を置いていると思います。
現在、CO₂濃度は『空気の清浄度』を表す1つの指標になっています。設備システム工学科では毎年約40名の生徒がいますが、就職をする生徒の約8割は設備業界、空調業界に就職します。空調業界に将来務める生徒がCO₂濃度のコントロールを知らずに、世の中の役に立つことはあんまり考えられません。GravioはCO₂濃度を測定できるので、『これは設備を学ぶ生徒向けだな』と思い、導入を判断しました」
山口教諭は生徒たちによるGravioの実装を指導をして、どのような所感を抱いたのか。山口教諭はGravioの良いと感じたところについて聞くと、「いろんな人にデータを簡単に共有できるところ」「思い立ったらすぐに実行できるところ」の2つを挙げている。
──山口教諭
「Gravioの汎用性が高くて良いのはいろんな人にデータを簡単に共有できるところだと思います。今回は表示パネルのほか、CO₂濃度をLINEのグループに通知できないかと考えました。生徒たちは日常的にLINEを多く使っており、換気の必要性に1人だけではなく複数人が気づく状況を作り出すのが1番良いと思ったからです。
また、Gravioのすごく良いのは思い立ったらすぐに実行できるところだと思います。開発者が展示会などで来場者と会話して、さまざまなアイデアを吸収するのは大事なことです。そのようなアイデアを受けて、生徒たちがすぐに実行に移しても、Gravioは従来のコーディングの必要なソリューションよりも早く結果を出せます。ダメだったらダメですぐに別のプログラムに移れます」
マイクロソフトの「Kinect」を実演している様子
山口教諭によると、現在はカメラAIによる人数検知については人数を検知するところまでに留まっているが、今後は教室内のCO₂濃度の上昇(IoTセンサーのデータ)と混雑状況(カメラAIのデータ)の関係性を分析したいと考えているという。山口教諭は具体的にこう説明する。
──山口教諭
「今後はカメラAIで部屋のなかの正確な人数を把握して、(マイクロソフトが販売するジェスチャーや音声認識でゲーム機、コンピューターを操作できるデバイスである)Kinectでその運動量を予測することで、そこから発生するCO₂濃度を予測したいと考えています。
部活動では以前からKinectを使っています。Kinectはおおよその運動量を予測できますが、1台のデバイスで最大で5人までしかデータを取得できません。そこがネックだと感じていました。
もちろん、低性能のIPカメラやウェブカメラも画角などの関係で、1つのカメラで捉えられる人数は限られています。今後は部屋のなかにカメラを数台設置して、得られた画像を1つのコンピューターで処理し、その画像をGravioのカメラ機能に取り込むことを考えています。GravioのAI機能を使うと、部屋のなかの人数の最大値が求められるからです」
実装した生徒たちには「簡単に操作できてとても使い勝手が良かった」「高校生でも簡単に使えることに驚いた」、顧問の山口教諭には「いろんな人にデータを簡単に共有できる」「思い立ったらすぐに実行できる」などと好評だったGravio。岐阜工業高校のGravioを活用した今後の取り組みにも注目したい。
Gravioは法人向けのGravio Standardで月額2万円(税別)からと安価かつ、ノーコードでAI/IoTを構築できるミドルウェアだ。気になる人はGravio公式サイトをのぞいてみてほしい。