Legde.aiでは誰でも試せる無料教材やMOOCs(ムークス、大学や企業による大規模なオンライン講座)など、多くの学習教材を紹介してきた。実際、こうした学習系コンテンツの紹介記事は反響も大きい。
個人だけでなく、国や教育機関もデジタル人材の育成を急いでいる。小学校はプログラミングが必修化され、中学高校でも生徒がデジタル端末を使いこなす授業が展開されはじめた。大学ではデータサイエンス学部の設立や、全学生を対象にしたリテラシーレベルの講義も始まっている。
こうしたデジタル技術やデータサイエンスに明るい世代が、そう遠くない未来に社会にはばたき、やがて多数派になる中、今を生きるビジネスマンは何をすべきか?リスキリングを成功させる秘訣や、企業でのDX人材育成のコツはあるのか。
本稿では3月24日に開催され、現在はLegde Webinarでアーカイブ配信されているウェビナー「『リスキリング』から紐解く、DX時代の人材戦略」の様子をお届けする。
株式会社キカガク 取締役 CMO
都築知也 氏
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐(総括)
松本理恵 氏
学習系コンテンツ、「あとで読む」だけやっていていいの?
社会人にリスキリングの必要性は本当にあるのか?全国民が無理に学ばなくてもいいのでは?という疑問に対して、松本氏は「いま、学ばなくてもいい人なんていない」と主張する。
ただ、全ての社員が数十万レコードもあるビッグデータをバリバリ分析するデータサイエンティストになる必要があるか?とかいうとそうではないと思います。企業の規模にもよりますが、社内に数人なり数十人の専門家がいれば、分析結果を全社に共有していくことができるでしょう。
組織の全員が一定レベルの共通認識(リテラシー)を持てるように勉強したうえで、一部の専門家がさらに深めて勉強していく、という構造が健全ではないでしょうか。
経産省では現在、すべての働き手に求められるリテラシーレベルのスキルセットや、データサイエンティストなどデジタル推進人材に求められるスキルセットの整理を進めています。リテラシーレベルについては今月中※、専門レベルについても年内には皆さんの前にお出しして、企業さんが考えるうえでの参考にしていただけるといいかなと思っています」
※編集部注:3月29日に「デジタルスキル標準」として、「DXリテラシー標準」(いずれも経済産業省)が公開されている。
都築氏は、自身がリスキリングでキャリアの幅を広げた一人だ。キカガク入社前は営業やマーケティング、コンサルティングに従事していたが、入社後はAIや機械学習、ディープラーニングの講師に転身。現在は事業アライアンスや新規事業開発に携わっているという。
ただ職種やキャリアの年数によって、学びの深さを区切っていったほうがいいとは思っています。
例えば『あと5年で定年です』という管理職の方は、現場で手を動かすことはないので、若手の方の意見やボトムアップの動きを止めないように最低限のDXの知識や時代の潮流を知るセミナーに参加してもらう。というふうに、社内でもレイヤーを分けて、学びを変えていくのが望ましいです。
我々は経営者層なら戦略デザインのセミナー、社員向けには全社員の受講を想定したリテラシー研修や、実際に現場を動かす人には各企業様の実データを使った実践的な研修、というように、リスキリングの対象者それぞれに合ったテーマや学習スタイルを提案しています」
キカガクでは全社向けの基礎知識から、専門家向けの発展的なコースまで幅広いラインナップの研修プログラムを取り揃えているが、近年は「一気通貫して受講させたい」という企業からの相談も増えているそうだ。
「育てても逃げられる」は時代遅れになる――リスキリングはじめの一歩を踏み出そう
個人の学びの機運が高まる中、リスキリングに踏み切れない企業も少なくないとのことだが、「そうした企業に向けられる視線は冷ややかなものになるだろう」と松本氏は話す。
私も、経済産業省の採用活動の一環として学生さんとお話をすることがあるのですが、近年『国家公務員になると、経済産業省は、どんな風に僕たちを育成してくれるんですか』と聞いてこられる学生さんがすごく増えてきている印象があります。雇用の流動性が高まっている中、自分のキャリアをどう展開していこうかと考えられているわけです。
そうだとすると、社員の流出を防ぐために教育をしないのは時代遅れだ、という価値観に変わっていくのではないでしょうか。むしろ社内できちんと教育を提供することで、今いる社員を繋ぎとめられるだけでなく、外からも人を呼び込めるふうに転換していくのではなないでしょうか」
では、社内でリスキリングを進めるうえでのはじめの一歩をどうやって踏み出していけばいいのか。都築氏は「小さくてもいいので成功事例を作ってほしい」と多くのクライアント企業に伝えているという。
多くの企業様を見てきて感じるよくある成功例としては、小さな部署や小さなチームの中で、1つでも成功事例を作っていくパターンです。
数名のチームでいいのです。いま持っているデータを使って、データサイエンスをしてみるだとか、AIモデルを作ってみた、というような小さなチャレンジが実際のビジネスに適用されたというエピソードが出てくると、どんどん他の部署や事業部に波及していきます。
結果として、全社のリテラシーレベルが上がったり、新たな取り組みの方向性が見えてきたり、ということになるのです」
スモールスタートに向いているのはどんなチームなのか?
社長なら口が裂けても「CIOに任せている」と言うな
こうしたスモールスタートが実を結ぶまで、経営層は社内外にどう向き合うべきか。松本氏は、「経営者が性根を叩き直さない限り、企業のDXは進まない」と述べる。
中期計画にDXに関する目標を載せ、Webサイトに掲載して、株式総会で説明をする……というように、社外にも方向性を示しましょう。デジタル技術が苦手なら、プログラミングもデータ分析も、現場にまかせればいい。でも現場の取り組みを邪魔せずに『君たちが我が社の進む方向性の、最初の1事例だ』といって、一番の応援団になってあげてください。
社員が一生懸命勉強して現場で小さな成功体験を積んでいっても、経営層のサポートと正しい評価がなければ、見切りをつけて転職してしまうでしょう。非常にもったいないことです」
読者の中には「耳が痛い」と感じられる方もおられるかもしれない。だが都築氏も、「1年1年計画を立てて成果を積み重ねている企業は着実に成長している」と口をそろえる。
その後は研修に参加するメンバーも増え、受講ペースも上がり、製造業のエンジニアの方が自社のデータを自分たちで分析してAIモデルを作ったり、プロダクトを役員会議に提案したりするまでに至りました。
変化の激しい時代においては、同社のような学び続けるというマインドが一番大事だと思っています。今後も無料のe-ラーニング講座など、学べる環境はどんどん出していきたいと考えています」
ウェビナー動画の視聴はこちらから
本稿では割愛したが、当ウェビナーではリスキリングの背景や学びのモチベーションの保ち方、DX銘柄企業の成功事例など深い話題が展開された。動画はこちらからご覧いただける。
リスキリングにおすすめの学習コンテンツ紹介
最後に、リスキリングにぴったりの学習コンテンツや研修を紹介したい。
リスキリングを始めてみたいが、何を学べばいいか分からない、もしくは無料で学べるコンテンツを探しているという方には、学習プラットフォームの「キカガク」をおすすめする。独学でのAI知識の学び方5ステップを紹介した記事と合わせてチェックしてほしい。
経済産業省のデジタル人材育成推進プラットフォーム「マナビDX(デラックス)」にも、さまざまな教材が紹介されている。
企業の人事部や開発部、DX推進部門の人材育成を担当されているという方は、法人向けのリスキリング研修の活用を検討してみてはいかがだろうか。Legde.aiでも、キカガクの法人向け研修を紹介している。「各企業の課題に合わせて、完全にカスタマイズしてくれる」「基礎で終わらない、実践的な内容が学べる」などと好評だ。