2019年12月23日にヤフーと経営統合に関する最終合意を締結し、ヤフーと共に「AIテックカンパニーを目指す」と宣言しているLINE。LINEのAIサービスというとClovaなどが思い浮かびますが、実際はOCR、音声認識や音声合成など多様なサービスを提供しています。
この記事ではLINEがAIで取り組んでいること、LINEが目指す姿について解説します。
LINEのAIに関するこれまでの取り組み
LINEはこれまで主にBtoC向けにさまざまなサービスを提供してきました。
AIアシスタント「Clova」
出典:https://clova.line.me/clova-friends-series/clova-friends/
LINEは2017年10月より、AIアシスタント「Clova」の提供を開始しました。
Clovaは韓国のNO.1ポータルサイトでLINEの親会社である「NAVER」と共同開発され、音声認識、自然言語処理の技術が使われています。話しかけることでコミュニケーションアプリ「LINE」でのメッセージの送受信や、「LINE MUSIC」で音楽再生などが可能です。
Clovaを搭載した製品には、スマートスピーカーであるClova FriendsやClova WAVEのほか、ディスプレイ付きでビデオ通話や動画視聴が可能なClova Deskや、走行中も声で操作できるカーナビアプリLINEカーナビなどがあります。
多種多様なチャットボット
LINEは、AIを搭載したさまざまなチャットボットを研究・開発しています。LINE上でのユーザーの問い合わせや予約、チケット検索などに自動で対応するチャットボットなどがあります。
ここでは、LINEのAIを活用したチャットボットの例として「LINEかんたんヘルプ」をご紹介します。
■ LINEかんたんヘルプ
Ledge.ai 編集部作成
お助けLINE公式アカウント「LINEかんたんヘルプ」では、LINEの機能で困ったとき簡単に解決方法を確認することができます。「アカウントの引継ぎ方法」など代表的な質問は、下部のタップメニューをタップすることで回答が表示されます。その他の質問は、LINEのチャットのようにキーボードで送信することで回答が表示されます。また、次の動作につながる質問の選択肢も表示され、選択肢をタップするだけで簡単に解決方法にたどり着くことができます。
また、LINEの提供するAIチャットボットとは異なりますが、LINEは、LINE公式アカウント、Messaging APIを他社に提供することで、多くの企業のAIチャットボットの提供を支えています。他社AIを利用した、LINEのチャットボットを紹介します。
■ 女子高生AI りんな
出典:https://www.rinna.jp/platform
マイクロソフトが開発し、LINE公式アカウントとして公開している対話型AI。タスク遂行ではなく会話を目的としており、話し相手になってくれます。犬の写真を送ると犬種を教えてくれたり、しりとりに付き合ってくれたりします。
■ ヤマト運輸
ヤマト運輸のLINE公式アカウントでは、「配達状況の確認」「再配達依頼」などが可能です。メニューの「再配達依頼」を押すと、送り状番号、お届け希望日、時間帯などが聞かれ、LINE内で荷物の再配達依頼を完了することができます。これまでの、電話やウェブサイトでの再配達依頼よりも、簡単に行うことができます。
ヤマト運輸のアカウントの登場は、消費者の負担だけでなく、日々大量の荷物の配送に追われている配達現場の社員にかかる負担を減らすことにも繋がっています。
その他これまでLINEが取り組んできたサービス
■ LINEショッピング
出典:https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2018/2241
「LINEショッピング」内の「ショッピングレンズ」は、写真や画像といった”ビジュアル”だけで理想の商品を探す事ができる機能。
その場で商品を撮影したりスマホに保存していた画像をアップロードすると、画像認識技術により、LINEショッピングで展開している6000万点以上のアイテムの中から近しい商品を検索することが可能です。
■ LINE CONOMI
「LINE CONOMI」は口コミと写真を簡単に投稿、検索ができるグルメレビューできるアプリです。
“店舗選びの煩雑さ”や“食べたいものを見つける難しさ”をAI技術によって解決し、本当に自分が行きたいお店・食べたいものと出会うことができます。
LINE独自のAIを使った文字認識技術(OCR)により、テキストを入力しなくても“レシートを撮影するだけ”で、店名やメニューを自動入力できるほか、位置情報の活用により料理写真をアップするだけで店舗情報が候補一覧として自動表示されるなど、ユーザーが簡単にグルメ記録を投稿することができる機能が充実しています。
「LINE BRAIN」で新たにBtoB事業に参入
出典:https://www.linebrain.ai/#strength
LINEは2019年、同社がこれまで培ってきたAI技術を外部企業などに展開するサービス「LINE BRAIN」を開始。2019年6月のLINE CONFERENCEで大々的に発表され、話題を呼びました。
LINEはこれまで社内でAI技術を活用してきており、社内で培った技術や知見を取り入れ、AI技術をBtoBで提供していきます。
LINE BRAINの強みは、日本語を含むアジア系言語に対応し、各国の文化に合わせた行動データ分析やカスタマイズが可能なこと。米国や中国との競合との差別化を図ります。
LINE BRAINが提供するサービス
LINE BRAINが提供するサービスは以下の7つ。
- CHATBOT(チャットボット)
- TEXT ANALYTICS(言語解析)
- SPEECH TO TEXT(音声認識)
- TEXT TO SPEECH(音声合成)
- OCR(文字認識)
- VISION(画像認識)
- VIDEO ANALYTICS(画像・動画解析)
LINEが発表しているプロダクトロードマップによると、現在開発中のサービスは2020年にはSaaSとして一般に開放する予定です。
また、2020年1月22日より、「LINE BRAIN CHATBOT」、「LINE BRAIN OCR」のSaaSとしての提供を開始しました。
■ 顧客問い合わせや社内問い合わせ対応に活躍する「CHATBOT」
LINE BRAINのチャットボットは、最新の機械学習モデルを活用したサービスです。
自然言語処理・機械学習・テキストマイニングなどのAI技術を適用し、自然な応答を実現。英語、中国語、韓国語、タイ語、インドネシア語に対応しています。
- これまでのLINEサービス内での活用事例
LINEアプリ(LINE公式アカウントでの問い合わせ対応、雑談など) - 今後の活用事例
チャットボット上での予約や商品購入といったCRM連携、社内FAQ対応、チャットボット運営の省力・内製化
無料で使える「Trialプラン」や、⽉50,000 円の基本利⽤料で利⽤できる「Commercialプラン」など⽤途に応じて選べるプランがあります。
■ 煩雑な入力作業を助ける「OCR」
LINEの画像認識を活用したOCR。紙面等に記載された文字・文章をテキストデータへ変換します。文書の検出と認識に関する国際会議(ICDAR:2019/3/29時点)では4分野で認識精度世界No.1を獲得しました。湾曲して書かれた文字や傾いた文字、正面から撮影できなかった文字も認識可能です。OCRの機能はLINEのアプリ内でも利用することができます。
- これまでのLINEサービス内での活用事例
LINEアプリ(LINEのトーク画面上で画像からテキストを抜き出せる)、LINE CONOMI - 今後の活用事例
伝票登録OCR、領収書OCR、身分証明書OCR、モバイルアプリ自動入力OCR、eKYC
斜めになった⽂字、歪んだ⽂字でも⾼い認識精度を誇る⽂字認識技術を無料で利用できる「Free プラン」をはじめ、読取枚数に応じたプランがあります。
LINE AiCall
LINE BRAINを象徴する開発プロジェクトとして「LINE CONFERENCE 2019(外部リンク)」において紹介されたのがProject「DUET」というAI自動応答システムです。
LINEの音声認識技術Speech to Text、チャットボット、Text to Speechの技術を組み合わせています。サービス名を「LINE AiCall(外部リンク)」とし、電話での新規予約受付とFAQ対応を、すべてAIが対応し、飲食店の電話応対の負担削減を目指します。2019年11月より「俺のGrill&Bakery 大手町」での実証実験を開始しています。現段階では実験は終了し、今後の展開を検討中とのことです。
出典:LINEプレスリリース
Googleが同様のサービス「Google Duplex」をすでに展開していますが、「LINE AiCall」はなめらかな日本語対応が強みです。
また、「LINE CONFERENCE 2019(外部リンク)」においてLINE CSMOの舛田 淳氏は、音声合成の難しさ、一般回線で音声を正しく認識する性能、曖昧な会話でも理解する対応力がポイントだと語りました。
LINE AiCallは、AIによる自動化で電話応対の時間が削減できることに加え、24時間の対応が可能になることで、営業時間外の機会損失を減らすことができます。
「何もかもに対応する万能なAI」ではなく、まずは「特定の課題解決に特化したAI」を目指すLINEにとって、LINE AiCallはその特徴の現れた代表例と言えるでしょう。
その他LINEの最新の取り組みについて
LINE BRAINのほかにもLINEが取り組んでいるサービスをご紹介します。
検索サービス事業に再参入。「LINE Search」
LINE Searchは、コミュニケーションサーチとコンテンツサーチを足し合わせた統合型の検索サービスです。2019年6月に発表しました。LINEの前身であるNHN Japanは、韓国の検索エンジン「NAVER」を日本で展開していましたが2013年に撤退した経験があるため、今回検索サービス事業へ再参入という形になります。
LINE Searchは「人」と「ロケーション」の2点の検索精度強化に注力しています。
- 「人」軸
「インフルエンサー検索」をリリースし、知りたい事柄に詳しい人をTwitterやInstagramで探すことを可能にしました。さまざまな分野の専門家を検索し、見つけて相談できる「LINE Ask ME」も2020年に提供予定です。 - 「ロケーション」軸
すでにリリースされているグルメレビューアプリ「LINE CONOMI」などのサービス展開を進める予定です。
LINEは今後、LINEの持つAI技術とLINE Searchをかけ合わせ、あらゆる情報をLINE上で検索できるようにするとしています。
トヨタと提携「LINEカーナビ」
LINEは2019年9月から、「LINEカーナビ」サービスを開始しました。トヨタと協業し、トヨタのカーナビエンジンとClovaのUXが融合したスマホアプリです。注目すべきは、LINEのAIアシスタント「Clova」が搭載されており、自動車の走行中も“声”でカーナビを操作できる点です。
出典:「LINE カーナビ」公式サイト
2019年11月15日に開催された「MOBILITY TRANSFORMATION CONFERENCE 2019(外部リンク)」で、Clova企画室室長の中村浩樹氏は次のように言いました。
「古くから、声によるナビ操作は普及を目指されていたが、音声認識の精度向上などによってやっと実現できるタイミングが来た」
音声によるカーナビ操作は、今後さらに需要が高まる見込みです。2019年12月1日から道路交通法が改正され、運転中にスマートフォンを持って通話をしたり、メールなどを確認したりする「ながら運転」が厳罰化。ハンズフリーで操作できるカーナビは、ながら運転厳罰化の追い風を受けそうです。
Clovaを搭載したLINEカーナビは、ナビとしてだけでなく、LINEメッセージのやり取りもできるなど、さまざまな活用も可能なため、アドバンテージは多いでしょう。
「LINE×AI」のこれから
LINEが今後AI事業で目指す「LINE×AI」のこれからについて解説します。
サービスの親和性を生かして「トータルでの体験」を目指す
これまで紹介してきたように、LINEは多くのサービスを提供しています。これらの強みは「それぞれのサービスの親和性が高い」ことにあります。
この高い親和性を生かして「LINEはトータルでの体験を目指す」と、「MOBILITY TRANSFORMATION CONFERENCE 2019(外部リンク)」で中村 浩樹氏は語りました。
カギとなるのは、「LINEカーナビ」「LINE Search」「LINE AiCall(LINE BRAIN Project『DUET』)」「LINE Pay」です。
Ledge.ai 編集部撮影
検索サービスの「LINE Search」で気になる飲食店を検索。飲食店の予約管理サービスの「LINE AiCall」で予約し「LINEカーナビ」で道案内。そしてLINE上で決済などが可能なキャッシュレスアプリ「LINE Pay」で支払う。こうした一連の体験をつくることをLINEは目指しています。
また、ヤフー(Zホールディングス)との経営統合も実現すれば、LINEの目指す「トータルでの体験」を後押ししそうです。ヤフーが持つサービスはLINE同様に豊富で、大きなシナジーを持つサービスも数多くあります。
それこそ、カーナビ事業ではヤフーも「Yahoo!カーナビ」を展開中です。また、キャッシュレス事業においても、ヤフーは「PayPay」という最大規模の事業を抱えます。両社のシナジーが生まれれば、今後様々なサービスが一層私たち生活に溶け込むことが予想されます。
GAFAからこぼれたニーズを拾っていく
今の世界の状況を見ると、AI分野ではアメリカではGAFA、中国ではBATHと呼ばれる企業群が圧倒的です。
そこでLINEの描く今後の戦略としてLINE BRAIN室 室長の砂金信一郎氏は「GAFAからこぼれたニーズを拾っていく」と語ります。
「GAFAなど、外資系ベンダーによるジャパンパッシングがありますよね。海外のカンファレンスで新サービスが発表されても、日本に来るのは2,3年先とか。
しかし、日本企業の課題解決のカギはGAFAによるサービスのローカライズではありません。LINEは、GAFAが投資対効果が合わずに撤退した、たとえばマイナー言語などのニーズに集中します」
Ledge.ai 編集部撮影
実際に、海外で新サービスが発表されても、日本語に対応するのは数年先ということが少なくありません。一方日本では海外に比べて、「キャラクターと雑談を楽しみたい」などのニーズが多くあるといいます。これらの「GAFAからこぼれ落ちたニーズ」を、LINEは積極的に汲み取ろうとしています。
「人に優しいAI」を提供する
また、LINEはLINE BRAINの発表時「人に優しいAI」を提供していくとしました。この真意について、砂金氏は「人々の生活に密着し、知らないうちに後ろから手を差し伸べるようなAI」であると語ります。
「『人に優しいAI』とは、人の仕事を奪うのではなく、本来の業務(たとえば飲食店内での接客や調理といったお客様へのサービスなど)に集中できるような社会を実現するためのAI、という意図でそう呼んでいます。人々の生活に密着し、知らないうちに後ろから手を差し伸べるようなAIです。本当はすごい技術を使っているんだけど、自然に生活に溶け込んでいるような。そんなAIを目指しています」
コミュニケーションとAIで実現するLINEのこれから
これまで解説したように、数多くのサービスを生み出しつづけるLINEですが、LINEが生み出すこれらのすべてのサービスの軸は「コミュニケーション」にあります。
AI技術は、コミュニケーションの活躍の幅を大きく広げます。今後LINEはサービスにさらにAIを組み込み、より便利なサービスとして展開していくことで、より一層私たちの生活にあるコミュニケーションの場面に溶け込んでくることでしょう。ヤフーと共に「AIテックカンパニー」を目指すと宣言したLINEの今後の動向から、目が離せません。