Lenovoジャパン 二見恭平氏、NABLAS 川崎竜一氏、NECパーソナルコンピュータ 福島多聞氏、NABLAS 平野正徳氏、マスクド・アナライズ(著者)、Lenovoジャパン 横山欧十郎氏、Lenovoジャパン 隅博行氏(左上から順に)
AI人材育成は数年前から活発化しており、すでに多くの企業からトレーニングなどが提供されている。とくに、昨今のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進においては、社内システムなどの内製化を推進するためエンジニアのスキルアップとして注目されている印象だ。
今回は東京大学発ベンチャー企業、NABLAS株式会社が提供するAI人材育成サービス「iLect」を受講したLenovoとNECパーソナルコンピュータのITエンジニア4名より、受講におけるエンジニアとしての成長などについてインタビューした。
【取材対象者】
・Lenovoジャパン AIC Development & Cloud所属 横山欧十郎氏
役職:Staff Engineer, SW
担当業務:機械学習による異常検知などのPoCを担当している。
スキル:JDLA(※一般社団法人日本ディープラーニング協会)のE資格を保有しており、フレームワークを使用した開発経験がある。
受講目的:フレームワークによるAIの実装はできるものの、理論からコードに落とし込めず、ブラックボックス化する点が悩みだった。問題発生時の原因特定や精度向上を目指して受講した。
・NECパーソナルコンピュータ Solution Development Group 福島多聞氏
役職:Staff Engineer, SW
担当業務:自社製のPCにインストールされるソフトウェアの開発を担当している。
スキル:JDLAによるE資格を保有している。
受講目的:強化学習に興味があり、フルスクラッチによる開発を目標として受講。また、既存の学習済みモデルを利用するだけでなく、理論から学んで精度向上などに必要な知見を身に付けたくて受講した。
・Lenovoジャパン SW Solution & OS Support team 二見恭平氏
役職:Engineer
担当業務:IoTデバイスやLinuxを使用したデータ分析プロジェクトにおけるPoCを担当する。
スキル:学生時代に統計を学んでおり、ディープラーニングやPythonは教養程度に身につけている。
受講目的:IoTデバイスで収集したデータをディープラーニングで分析したくて受講した。
・Lenovoジャパン UX Software Development 隅博行氏
役職:Advisory Engineer, SW
担当業務:AIを用いたアプリケーション開発チームのリーダーを務める。
スキル:scikit-learnによる異常検知アプリの経験がある。
受講目的:ディープラーニングを含めたAIに付いて学び、スキルアップを目指して受講した。
受講者はそれぞれが異なるスキルや背景があるものの、ITエンジニアとしての経験があり、新たなスキルを習得するために受講した共通点がある。フレームワークは使えるものの、精度向上などの限界があるため理論から学びたいという悩みも伺える。
「受講する前はいかに未熟だったかを痛感した」
講座の画面イメージ
──AIに関する研修は多数ありますが、iLectを選ばれた理由は何でしょうか。
横山氏:ITエンジニア向け研修としてハイレベルな内容だったからです。既存のフレームワークを使った開発は経験しており、さらにスキルアップするためには理論から学ぶことが必要でした。
今回受講した「DL4E | Deep Learning基礎講座(E資格対応版)」は、論文を読みながら1からコードを書いて実装するところまで学べます。正直なところAIにおける研修で、ここまで高いレベルを目指すものは貴重です。ディープラーニング研究で実績のある東京大学と連携した講義にも説得力がありました。
──同期型のオンラインによる研修に不安はありませんでしたか。
横山氏:同期型の講座のため、講師とは別にオンライン上で講座メンター(TA)が待機してくれているので、わからない点はSlackで質問すればリアルタイムに1から丁寧に回答いただけます。オンラインによる受講形式がマイナスになった部分はほとんどありません。
むしろ、遠方の教室まで移動する手間が省けたり、講義後に共有される当日録画した講義動画を後で見直し復習できたり、メリットが大きいくらいです。自宅にある使い慣れたディスプレイやキーボードを使えるので、リラックスした環境で受講できたのも良かったですね。
──理論とコーディングについてはどのように学びましたか。
横山氏:最初に講義で理論を学んでから理論に沿ってコードを解説する流れ形だったので、説明が地続きでわかりやすかったです。受講する前はフレームワークを利用したり、既存のコードをベースに修正したりする程度だったので、いかに未熟だったかを痛感しました。講義を通じて理論から学べたことで、フレームワークの設計やコードにおける思想を把握できるようになりました。
フレームワークや既存のコードを転用する場合でも、どんなデータを集めてどんな処理をすべきかを論理的に考えられるようになり、精度や作業効率が向上しました。今回iLectを受講した目的は、理論を学んで1からコードに落とし込むことだったので、要望にすべて応えていただけました。
二見氏:私も受講する前の技術力は、ディープラーニングに関するチュートリアルを試したり、公開されているコードをそのまま利用したりする程度でした。同じようにiLectによって理論まで学べたことで、ほかの人が作ったコードがどのような意図で組まれているかを理解して、用途にあわせてカスタマイズできるようになりました。
ほかのコードを転用するのは簡単ですが、それでは問題があった場合に原因がわからず解決できません。問題の原因特定から解決まで自力でできるようになれました。
福島氏:受講前は深層強化学習について外部のセミナーや書籍を使って学んでいましたが、どうしても手探りになって良い精度が出せませんでした。受講後は理論に基づいて目的に応じてフルスクラッチで最適なコードを書けるようになりました。PyTorchなどのフレームワークを利用する場合でも状況に応じて細かくパラメータを設定できるようになったのも大きいです。
──やはり、フレームワークや既存コードの流用では限界がありますか。
隅氏:私はアプリケーション開発が主な担当業務ですが、以前は自力でモデル開発をするのが難しく、クラウドで提供されているサービスを使用していました。しかし、社内業務で利用する上で精度向上などの差別化が求められます。そのまま使うだけでは限界がありました。
iLectでディープランニングに関するさまざまな手法が学ぶことで、「これはできるかな?」と自分たちが抱える問題に対して「こうすれば良い」「こんなデータが必要だ」というディスカッションができるようになりました。その上で既存の手法のみならず、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら解決策を見つけられるスキルが身につきました。
「基本的な知識や技術力があれば問題ないと思う」
講座の画面イメージ
──理論から学ぶのは難しいと思われますが、講義の内容や講師のフォローはいかがでしたか。
横山氏:まず講座メンター(TA)による説明がわかりやすかったです。比喩を交えながら私が理解しているアルゴリズムでどこに相当するかなどを詳しく解説いただき、今まで曖昧だった部分の穴を埋めてくれました。講義終了後は質問に丁寧に回答いただけました。
講義のなかでとくに良かったのは、各講義が終了してから毎回コンペを開催してくれたことです。どうしても講義で習った内容を実務に反映させるにはハードルが高くなるので、実践的な課題としてコンペに取り組むことで理解度が高まりました。
コンペではほかの受講者とSlackで意見交換をすることで精度を上げる工夫が身につきますし、受講者それぞれの強みも見えてきます。こうした取り組みで学習におけるモチベーションを高めていき、コンペを通じて休日でもコードを書くようにもなりました。
──受講における費用対効果はいかがでしょう。
横山氏:質の高い内容や講義ごとに実施されるコンペに加えて、GPUを割り当てられた学習環境が提供されました。学習環境や受講後の成果を考えると、費用対効果が非常に高いカリキュラムだったと思います。今回の費用は会社持ちではありますが、自分で受講料を払っても良いと思える内容ですね。
気になるのは最低参加人数が決まっているので、受講するハードルが高い点です。社内でも受講者を募集し、人数が集まってから受講する形になりました。
──今後受講される方へのアドバイスなどございますか。
二見氏:私は業務でのAI開発経験がなく、統計についても大学で習った程度なので、受講者のなかでは1番初心者に近い立場だと思います。それでも、わかりやすい講義のおかげで理解できたので、基本的な知識や技術力があれば問題ないと思います。受講前に不安がある方は講座で学ぶ内容に関する参考資料があるので、そちらを確認したうえで受講するかを見極めるのが良いと思います。
──最後に今回受講して身に付いたことや、成長した点は何でしょう。
横山氏:社内で挙げられる要望において、自分でPoCにおける実装や精度向上まで実装できるという自信がつきました。アイデアやPoCの段階から自分たちで実装することで、AI導入活用におけるハードルも下がりました。すでに社内で自然言語処理などの依頼が来ていますが、早く自分の実力を確かめたいと思っています。今後はさらなるスキルアップとして、特定分野でより高度な講座があれば受講したいですね。
福島氏:画像認識などはもちろん、深層強化学習などもフルスクラッチで実装できるようになったことですね。今回得られた知識を社内に共有することで、会社全体のAIに関するリテラシー向上に努めるとともに、社内のさまざまな業務をAIを使って効率化できないのか、考えるきっかけにしていきたいです。
二見氏:エンジニアとしてディープラーニングという新たな選択肢を習得できたことです。あわせて、これまでの担当していたIoTによるデータ分析において、ディープラーニングが最適解であるという根拠に沿って導入できるようになりました。今後も技術情報をアップデートしていきながら、自分のなかで伸ばしていきたいですね。
隅氏:もともと身に付いていたアプリケーション開発やフレームワークに加えて、新たにディープラーニングについて多くの知識を吸収できました。今後はより幅広い知識を身に付けるため、JDLAのE資格取得を目指していきます。
インタビューを終えて
そのほか、受講者4名からは改善点として、一般的なアルゴリズムだけでなく音声やBERTなど講義で紹介できなかった分野への掘り下げや、最新の事例や研究成果の紹介が挙げられた。
受講後の学習意欲の継続については、実務を通して学んだ技術を活用するだけでなく、MOOC(大学などが提供するオンライン学習サービス)などを定期的に受講しながら、最新の技術動向をアップデートするというアドバイスもあった。
DXにおいて、システム開発の内製化が重要視されている。背景には従来の外注委託による開発では、ビジネス環境の変化に対応できない問題がある。そこで新たなニーズに対応するため、継続的にスキルや知識を習得するリスキリングが注目されている。
今回受講した4名は、エンジニアとして新たにAI開発において理論から実践まで習得できた。こうした社内人材の育成にはDXプロジェクトにおいて、ドメイン知識が求められる点も影響している。技術力のみならず、社内事情や業務知識を把握しているエンジニアこそ、自社に最適なAIを開発できるからだ。
エンジニアは年齢や経験にかかわらず、新たな技術を学んで活用することに喜びを見いだせる職業である。今回受講した4名のように、新たな技術で会社を成長させる原動力となる人材育成の参考としてほしい。
【参考URL】
- レノボ・ジャパン合同会社
- NECパーソナルコンピュータ株式会社
- NABLAS株式会社
- AI人材育成プログラム「iLect」:AI総合研究所として活動する東京大学発ベンチャー企業NABLAS社が提供するAI人材育成講座。調査・設計・工夫・実験の経験を積むプログラムで、ビジネス課題の解決に特化した実践力の高いAI人材を育成する。
【標準付随サービス教材一式(講義資料、演習資料)】
- 講義配信動画
- iLect System(クラウド型 高性能GPU プログラミング環境)
- コンペティション形式の課題・採点、スコア情報の提供
- コンペティション上位者の解法共有・講座メンター(TA)によるフィードバック
- 講座メンター(TA)によるライブオンラインサポート
- オンラインディスカッションボードの提供・運営(Slackなどを利用)
- 見逃し動画配信
- 講座終了後、受講者ごとの成績レポートの提供