「DXで日本のGDPは2倍になる」松尾豊氏が語る、AI後進国日本が逆転する3つのポイント

このエントリーをはてなブックマークに追加

東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授の松尾 豊氏が「もはや傍観者でいられない」の講演タイトルに込めた思いとは。

エヌビディア合同会社は6月23日と24日、オンラインイベント「NVIDIA AI DAYS 2022」を開催。同イベントはさまざまな企業・有識者が多く登壇し、松尾氏は23日に「もはや傍観者でいられない、加速するAI活用」というタイトルで講演した。

本稿では、その様子をお送りする。

イベント:NVIDIA AI DAYS 2022
講演タイトル:もはや傍観者でいられない、加速するAI活用
実施日:2022年6月23日 9:00-9:40
公式サイト:https://www.ai-days2022.com/

以下、投影資料の一部はソフトインフラレポート~DXの本質と産業変革に向けた提言~ | 調査研究レポート | 日本政策投資銀行(DBJ)として公開されている

AIへの投資が少ないアメリカと日本、どこで差がついた?

松尾氏はディープラーニングが重要だと言い続けるも、「国の支援リソースが必ずしも行き渡っているといえない」と苦言を呈した。

松尾「実は米国でも同様の状況になっているのですが、産業界が非常に大きなAI投資をしています。Appleは『今後5年間で約46兆円をAI等に投資する』と発表をしていますし、MicrosoftはOpenAIに11兆円の投資を計画するというように、桁が違うお金が投じられている。日本は全然、物量で負けているというような状況です」

今年3月に開催された新しい資本主義実現会議では、岸田総理が「ディープラーニングを重要分野として位置付ける」と述べるなど、「7〜8年遅い」が、ようやくディープラーニングが重要な技術だと理解してもらえたと語った。

しかし「AI単独で短期的に投資するのではなく、長期的な目線で研究の支援をしないといけない」と警鐘を鳴らした。

日本が逆転する3つのポイント

松尾氏は技術力で遅れをとっているからこそ、きちんと新しい技術を調べてキャッチアップし、実装していく”フォロワー戦略”をとるべきだと主張。

提供:NVIDIA AI DAYS2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

まずはフォロワー戦略を、ということだが、日本の勝ち筋はどこにあるのだろうか?松尾氏は「逆転のポイント」として、実践で逆転・融合領域で逆転・人材育成とスタートアップに投資、の3項目を挙げた。

提供:NVIDIA AI DAYS2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

早く実践・失敗し、仮説思考で行動せよ

松尾「ディープラーニングは実際にやってみないとわからないことがたくさんあります。試行錯誤を増やし、現場で通用するノウハウを積み重ねてはじめて、新たなイノベーションやサービスが生まれてきます。

だからこそ、ビジネスパーソンがAIやディープラーニングを使いこなせるようにしていく必要がある」

日本企業はDX推進率が4割にも届かず、IT人材がユーザー企業におらずベンダー側に寄っている……などのDXの現状をデータで俯瞰したうえで、松尾氏は「複利効果を得る」ことが、企業価値を高め、大きな成長を促すと語った。

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

複利効果を得た企業の例として、同氏が15年前にフェイスブック(現メタ)の日本法人の幹部から聞いた、というエピソードが紹介された。

本社内では開発版のFacebookが使われており、(当時)バージョンの数は38万。フェイスブックではサービスをリリース・ユーザーの反応を見る・改善する……というサイクルを早く大量に回すことで、よりサービス性能を高め、新しい価値をユーザーに提供し続けているとのことだ。

これはインターネットサービスなどデジタル分野の事業に限った話ではない。自動車メーカーのテスラも、販売店を持たずに口コミを中心に顧客を獲得し、ハードウェア製造も内製化、ソフトウェアで機能をアップデートするというように、製造業ながらサイクルを早く回す仕組みを作り上げているという。

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

松尾「慎重に検討して不安要素をなくすことを考えがちですが、まずは始めてみて、早く失敗をする『仮説思考』で行動する。良いアイディアを出すために挑戦や失敗に寛容である組織風土が非常に重要です」

AI単独で勝つことを考えずに、融合領域で逆転

松尾氏は、AI単独の技術力やインターネットビジネスではなく、ロボットや脳科学、物理や化学など日本が強い分野とAI・ディープラーニングを組み合わせた融合領域に勝ち目があると主張した。

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

松尾「ディープラーニングの技術は画像認識から空間認識、言語認識に進化しつつあります。

いま盛り上がりつつある空間認識(運動の習熟)技術は多額の投資が必要ですが、日本企業が強みを発揮しやすい分野ではないでしょうか。ディープラーニングに合わせて新しくハードウェアを組み替えるものほど、日本としては戦いやすいはずです。

ディープラーニングが進化をし、あらゆるものが制御できるようになってきたときには、大きなチャンスが生まれてきます」

提供:NVIDIA AI DAYS2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

講演では最新のAI動向にも触れ、「非常に大きなインパクトをもたらした」として自然言語処理モデルのGPT-3を、「専門家の先生が6年間溶けなかった問題を解いた」AlphaFold2、「競技プログラミング大会で上位54%に入るレベルのプログラムを書ける」AlphaCodeを紹介した。

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

高専生が評価額10億円の事業を生み出すDCONなど、実践を意識した人材育成

現在松尾氏は、累計3000人超が受講したディープラーニング講座、データサイエンス講座(GCI)のほか、学生起業家養成プログラムの「松尾研起業クエスト」や、日本ディープラーニング協会が開催する高専生向けコンテスト「高専DCON」といった人材育成分野に力を入れている。

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

松尾「大学でも基礎研究やスキルを教えるだけでなく、学生にとって武器になるもの、実践型の人材育成が必要です。教員は自分が教えられるものだけを教える、という構造になりがちですから『若い人が若い人に教える』ことが重要で、松尾研では学部生が教える側に回ることもあります」

DXが浸透すれば、日本のGDPも2倍以上になる

最後に「現代社会で活躍する人の仮説」として、1.仮説思考(PDCAの高速ループを回せる)ができ、2.デジタルスキルが高く、3.ゴールから逆算する目的志向、の3つの能力を兼ね備えていると今の社会で活躍できる、と語った。

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

松尾「プログラムが書けるなどのデジタルスキルを持っている人は仮説思考や目的志向を鍛えていき、すでにデジタルでない分野・領域で活躍されている経営者などはぜひ、デジタルを勉強してみてください。そうすると最強になれます。

日本の各業界には課題もチャンスもあります。個人が起点になって、企業を変えることも産業全体を変えていくことのどちらも大切です。現在、一部上場企業の一人あたりの利益は565万円ですが、DX企業では980万円にもなります。日本のGDPも2倍以上になるなど、大きく成長していけます」

※DX企業を除いて試算

提供:NVIDIA AI DAYS 2022(Day1:基調講演ダウンロード資料)

松尾「私も人材育成やAIの活用を頑張っていきます。皆さんも個人として、あるいは企業、産業全体でDXの取り組みを進めていってほしいです」