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近年、AI(人工知能)は新たな技術革新として、頻繁に話題にあがります。本稿では、人工知能研究の第一人者レイ・カーツワイル氏の人物像や研究、提唱する概念について解説します。
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レイ・カーツワイルとは?
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レイ・カーツワイル氏とは、アメリカ合衆国の発明家、実業家、未来学者です。人工知能研究の世界的権威であり、とくにシンギュラリティ(技術的特異点)に関する著述で知られています。
アメリカ合衆国の発明家であり未来学者
レイ・カーツワイル氏は、1948年アメリカ合衆国ニューヨーク市で生まれ、本名をレイモンド・カーツワイル(Raymond Kurzweil)といいます。
自然言語処理や機械学習を専門としており、AIについてのほか、健康やトランスヒューマニズム、シンギュラリティに関する著作があります。また、1999年にはアメリカの技術分野における最高の栄誉「アメリカ国家技術賞(National Medal of Technology and Innovation)」を受賞しています。
高校生のころ、統計分析が行えるソフトウェアやクラシック音楽を作曲するソフトウェアを開発し、当時のアメリカ大統領リンドン・ジョンソン氏から賞を授与されました。
20代では、印刷されている文字をデジタルデータ化するOCRソフトウェアやフラットベッドスキャナーを開発し、30代には、スティーヴィー・ワンダー氏とシンセサイザーの会社を設立しています。
1990年に発刊した『The Age of Intelligent Machines(知的機械の時代)』のなかでは、インターネットの普及やコンピューターがチェスで人間に勝つことなどさまざまな予測をしています。
レイ・カーツワイル氏の予言
レイ・カーツワイル氏は自身の著書でさまざまな予測を展開しています。
著書『The Age of Intelligent Machines』(1990)では、当時世界に2600万人ほどのインターネットユーザーしかいない時代に、「検索エンジン」の登場を予測しました。これは、1997年に「Google」が設立され実現しています。
また、「2000年までにコンピュータがチェスの世界王者に勝利する」と予測し、こちらも1997年にIBM社のスーパーコンピューター「Deep Blue」により実現しています。
ほかにも多くの予測を展開しており、未来学者としても知られています。
・ナノテクノロジーや強いAIが実現する
・AIがチューリングテストを突破する
・100nm以下のサイズのコンピューターが実現する
・現実と見間違うクオリティのVR技術が実現する
・精神をコンピューターにアップロードできるようになる
・ナノマシーンを脳に挿入することで、外部機械なしにVRを見たり、記憶など脳機能を著しく向上できる
・テレパシー的コミュニケーションが可能になる
出典:Ray Kurzweil「The Age of Intelligent Machines」(1990)
シンギュラリティ論(GNR論)とは?
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レイ・カーツワイル氏が、著書『The Singularity Is Near : When Humans Transcend Biology(邦題:ポスト・ヒューマン誕生)』(2005)で展開した理論が、シンギュラリティ論(GNR論)です。
同書でカーツワイル氏は、遺伝子学(Genome Science)、ナノテクノロジー(Nano-technology)、ロボット工学技術(Robotics)の3つの技術革命が融合することで、私たちが住む社会や人生観、世界観が根本から変化するシンギュラリティが起きると述べました。
シンギュラリティとは、AIなどの技術が、自ら人間より賢い知能を生み出すことが可能になる時点を指す言葉です。
世のなかを大きく変える3つの技術
シンギュラリティ論は、遺伝子学(Genome Science)とナノテクノロジー
(Nano-technology)、ロボット工学技術(Robotics)の頭文字をとってGNR論とも呼ばれます。これら3つの技術が飛躍的に進化し融合すると、人間の身体が根本的に進化する「人体2.0」が実現する可能性があると述べています。
生命が宿している遺伝子的な情報を理解することで、実質的に病気をなくし、人間の能力を著しく向上させ、寿命を大きく伸ばすように、生命を再設計することが可能である
私たちの体や脳など、私たちが関わる世界すべてを分子レベルで再現できるようなる
人間の知能に由来するが、人間の能力をはるかに超えられるように再設計された、人間レベルのロボットが実現する
人体2.0
レイ・カーツワイル氏は、著書『The Singularity Is Near : When Humans Transcend Biology』(2005)にて、3つの技術の発展により、人体のさまざまな器官、機能が再設計され、根本的に進化すると予測しています。
食事により栄養を取る必要がなくなります。血流にセンサーを搭載したナノロボットを挿入し、最適な健康状態に必要な栄養素を、ひとりひとりにあわせ直接投入できるようになります
赤血球を再設計することにより、人は酸素なしで数時間生存が可能になります。また、白血球の代替物として人工ナノマシーンを使用することで、あらゆる感染症を治療でき、癌にも効果を発揮します
自動運動性のナノロボット血球を挿入することで、心臓のポンプ機能なしで血液を自動的に流動させ、栄養を全体に届けることができるようになります
また、ナノロボットに酸素の供給と二酸化炭素の除去を任せることで、肺の機能を代替できるようになります。
その他さまざまな生体器官が代替されると予測しています。
この「人体2.0」が、実現するかは定かではありません。しかし3つの技術の発展により私達の生活が根本的に変化することは確かです。
「2045年問題」とは?
カーツワイル氏は、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)は2045年に来ると予測しています。技術的特異点を迎えることで、人工知能が人間の知能を上回り、2045年以降、人間の想像を超越して社会が進化していくと予測しています。
レイ・カーツワイルのAIの展望
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2018年に開催された会議「RAAD2018」で、レイ・カーツワイル氏はAIの進展状況や将来の展望を語りました。
彼は、2020年台後半に、家庭用の家事ロボットが完成し、2029年にはAIが人間並の知能をもつと述べています。
また、著書『The Singularity Is Near』(2005)発表時から、AIの進化に対する楽観的な考えに変化はなく、「起業家は科学技術に対して楽観的であるべきである」という持論を展開しています。
プライバシーの問題についても、「人々を管理するようなAIは今のところなく、ポケットのなかのスマートフォンにAIは搭載され、AIは分散化されている状態といえる。巨大企業がデータを独占しAIを利用する懸念はありますが、それと同時にテクノロジーが民主化する動き自体も活発化しているので、驚異にはならないだろう」と語っています。
現在のレイ・カーツワイル
レイ・カーツワイル氏は、2008年に『Abundance』の著者で実業家のピーター・ディアマンディス氏と共同で、「シンギュラリティ大学(Singularity University)」を創設しました。テクノロジーを利用し、全世界の英知を結集して世の中のあらゆる課題を解決し、豊かな未来を築くことを目的としています。
71歳(2019年)現在、グーグルで技術課長として、機械学習や自然言語処理技術を開発するチームの統率をしています。
最近では、Gmailアプリのモバイル機能「スマートリプライ」という、受信したメールをAIが自動解析し、ユーザーが返信の文章を作成しはじめると同時に、その後に続く文章をAIが自動で提案する機能を開発しました。現在もなお、人工知能研究の第一人者として、数々の研究にあたっています。
2045年にシンギュラリティが来る、人間が進化するなど、カーツワイル氏が展望する未来が起きるかどうかは定かではありません。しかし、現在でもさまざまな範囲で、AI(人工知能)は活躍しており、私たちも急速な技術革新に対応していかなくてなりません。