ソフトバンクグループ、過去最大1兆7080億円の赤字 決算発表で見せた「孫正義さんらしくない“守り”」の姿勢

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ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義さん。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ウクライナカラーのポケットチーフを付けている。大赤字で孫正義さんが見せた「守り」の姿勢とは──。

ソフトバンクグループ株式会社は5月12日、2022年3月期 決算説明会のなかで、最終損失が1兆7080億円の赤字だったことを発表した。前期は純利益が4兆9879億円で「同社として過去最高」「日本企業として過去最高」と大々的に報じられたが、一転して同社として過去最大の赤字となった。

赤字になったのはAI(人工知能)企業への投資で知られる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の利益が悪化したことによる影響が大きい。地域別でのビジョン・ファンドの損益を見ると、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界的に利益が減少している。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義さんは「世界的にとくに今年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻で株式市場が大きく下落している。その影響をわれわれビジョン・ファンドも大きく受けた」と背景を語った。

前期の決算説明会より

純利益が4兆9879億円だった前期の決算説明会においては、孫正義さんが同社の利益について「5兆円や6兆円では満足する男ではない。10兆円でもまったく満足しない」と宣言したり、日本のDXの現状に対して「FAXでいまだにPCRの検査結果を伝えるなんて、何を考えているのか。恥ずかしくて話にならない」と怒りをあらわにしたりする、まさしく絶好調な姿が印象的だった。

一方で、今回語ったのは孫正義さんのイメージからかけ離れた「守り」の姿勢だ。孫正義さんは新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の感染拡大と、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭にこう話す。

「2年ほど前から始まった新型コロナによる世界の混沌(こんとん)とした状況、そして今年になって始まったロシアによるウクライナ侵攻。そういう状況を受けて、世界は混沌としている」

「世界各地でインフレが始まり、それを抑えるために金利が上昇している。当然のことながら、株式マーケットはさまざまな影響を受けるのだろうと思う。そのような状況でわれわれソフトバンクグループは何をなすべきなのか? 一言で言うと、『守り』だ」

孫正義さんが考える「守り」には、「継続的な資金化、手もとに現金を厚く積むこと」と「新しい投資については厳格な投資基準を持って実行すること」の2つがある。

孫正義さんは「このように世界の状況が混沌としているときにはできるだけ『守り』を固め、現金を厚く手もとに持つ(必要がある)。一部、売却した上場株などの資金は新たな投資にどんどん脳天気に回さず、手もとに現金をより厚く積み上げていく(必要がある)。自社株買いにも回している」と考えを示した。

「累計のビジョン・ファンドで投資している会社数は増えている。475社だ。会社数は増えているが、以前に比べれば一件当たりの投資額は最近減ってきている。よりこつぶな投資が増えた。われわれが投資したビジョン・ファンドの会社が株式公開するIPOの会社数はこの5年間、年々増えてきていた。私は2022年の1年間は新規公開の数も減るのであろうと保守的に見ている。そういう意味でも、より慎重な運営をしていきたい」

孫正義さんは「孫さんらしくない。ソフトバンクらしくない。『大丈夫か?』『そんなにしおらしくして良いのか?』と言われそうだが、われわれは『攻め』も忘れずにやっていく。なるべく新たなお金を使わずに今持っている持ち駒のなかで『攻め』を続けていく」と話し、Arm(アーム)の存在を挙げた。

「Armは一旦、NVIDIAに売却ということで忘れかけたが、政府の許認可が降りなかった。むしろこれ幸いとしてArmのこれからの爆発的な成長に自分自身の頭脳、勢力をかなり集中している」

イーロン・マスクさんのTwitter株取得「Twitterを大きく飛躍させる」

質疑応答のなかでは、孫正義さんが今後の世界市場の動向、イーロン・マスクさんによるTwitter株取得などに対して考えを明らかにした。

孫正義さんは今後の世界市場について「仮にロシアによるウクライナ侵攻が止まったとしても、経済的な制裁は当分続くのではないか。インフレ要因はしばらく続く。金利の上昇もしばらく続くのではないか。こういうふうに保守的に見ている。ただ、世界は新たな状況を踏まえた形でシェルオイルなどの供給を増やし、依存する部分をシフトしていくのではないか」と話した。

「これから1年〜3年かけて世界はオイルやガス、電力は徐々に新たな状況を前提とした形のロジスティクスやエコシステムにアダプトしていく。そうすると、だんだんと(インフレ要因や金利の上昇)は収まっていく。これまでもそうであったように、これからも人々の英知は新しい状況を前提とした形のロジスティクスやエコシステムに挑戦していくので、いつまでも悲観する必要はないが、短期的にすぐに解決するとも思っていない」

イーロン・マスクさんによるTwitter株取得については「彼は素晴らしい起業家だと思う。私のもっとも尊敬する起業家の1人だ。また奇想天外な打ち手でTwitterを大きく飛躍させるのではないかと思うが、現在われわれソフトバンクが直接投資に関わることは考えていない」と語った。