「電卓のようにAIを使いこなせるメンバー」を増やす。チャレンジャーバンクセブン銀行の“AIファースト”戦略

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2018年7月26日、レッジが六本木アカデミーヒルズで開催した『THE AI 2nd』。この記事ではセブン銀行のセッション「セブン銀行チャレンジ AIによる事業高度化」を紹介します。

『THE AI』
株式会社レッジが「未来ではなく、今のAIを話そう。」というテーマで主催する、大型のAIビジネスカンファレンス。具体的すぎたり抽象的すぎる話ではなく、ビジネスにおいてどの程度のコストで、どこまで活用可能か? という視点で、AIのスペシャリストたちが語ります。
THE AI 2ndの詳細はこちら

ATMサービスを中心にユニークなサービスを提供し続けるセブン銀行。 AIにより事業高度化を進めるアプローチや、推進方法を紹介します。

松橋 正明
株式会社セブン銀行 専務執行役員
セブン銀行のサービス/システム企画・開発・運営をデザインするIT&ビジネスアーキテクトとして、ATM事業を推進。従来のATMをデジタルトランスフォーメーションし、現在の事業モデルを確立。現在はセブン・ラボを率い、全社イノベーションを推進する。

全社の事業をAIで再構成したらどうなるか。徹底した「AIファースト」戦略

セブン銀行は多くのスタートアップ企業と組み、新サービスを開発しています。2017年2月には「セブン銀行 アクセラレーター2017」12月には「新世代ATMオープンイノベーション」など継続的に、同社のリソースを活用し、スタートアップ企業が新たなサービスを産み出すプログラムを実施しています。

注目技術であるAIを使ったビジネス構築にも積極的です。その際、松橋氏は通常の事業構築とは違ったアプローチを取ったといいます。


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――松橋
「私たちは通常、社会課題に対してウォンツを探して、技術は後付けでサービスや製品を作り上げます。ですが、AIは第4次産業革命というだけあってポテンシャルが高いと思い、別のアプローチを取っています。」

そのアプローチというのは、技術をメインに事業を再構成する、というもの。2年半ほど前、全社の事業をAIで再構成したらどうなるのか、以下のステップで検討したといいます。

(1)業務リストと使えるデータを洗い出し
(2)AIで実現したい姿を描き
(3)PoCで試し
(4)必要なものはデータを再構成
*(1)から(4)を繰り返し

――松橋
「今から皆さんが新しい銀行を設立するなら、AIを全面的に導入しますよね。それと同じです。我々は自己変革企業なので、自ら再定義を進めています。」

正直、こうした「AIありき」のアプローチは、AI導入で失敗しがちな企業のパターンに似ているな、と思いました。しかし、ここまで徹底して「AIファースト」戦略を貫いたからこそ、スピーディーにAI企業へと変貌を遂げられたのでしょう。

――松橋
「単純に工程をすべてAIにするのはうまくいかないと途中でわかりました。オペレーションをリデザインしないと、現在の技術に適合しません。なんでもかんでもAIやITではなく、従来のいい部分も残しながらシステムを組んでいます。」

そうした教訓も得ながら、セブン銀行は現在、

(1)現金マネージメント
(2)保守最適化
(3)金融犯罪対策
(4)チャットボット

の4つの方向でAI化を進めているそうです。

本番導入可能なレベルに近づきつつある「現金需要予測」

現金マネージメントとは「入出金予測」、つまり「ATMにいくら現金を入れておくべきか」という判断を行うための時系列分析です。

ATMの現金入出金は、予測値に従って現金の手配、人の手配、車輌の手配など、さまざまなプロセスが動く重要な業務です。そこをAI化しようと2015年から進めているそうです。

――松橋
「ディープラーニングではなく、説明変数のわかる機械学習で、『NEC the WISE』というソリューションを使いました。パラメーターの距離と深さを仮説検証できるツールです。」

ディープラーニングは予測精度こそ高いものの、結果が出力されるまでの過程は、現在の技術ではブラックボックス化しています。そこで、それぞれの説明変数がどの程度結果に影響を及ぼしているのかがわかる機械学習を選んだそうです。

しかし、運用当初は当時の約ATM22,000台の5年分の取引データを使って学習させたものの、期待通りの精度が出なかったと松橋氏は振り返ります。

――松橋
「五十日(ごとおび)と週末に取引が増える傾向があるのですが、曜日と五十日の再現性が5年分では足りずに困りました。そこで給与日からの経過日などを考えて重み付けを変えたり、さまざまなトライアンドエラーを繰り返しながら、チューニングを続けました。」
五十日(ごとおび)
毎月5日・10日・15日・20日・25日と、30日または月末日のこと。

ほかにも天気、気温、イベント開催など、さまざまな変数が影響するうえ、松橋氏によれば、桜の開花時期なども影響があったそうです。

モデル作成を終えると、今度は本番環境と並行でで数カ月のテスト運用をおこない、予測値と運用時で差が出た場合には、「この差はなぜ出るのか」という人間のナレッジを入れて再度モデルを作ってテスト、を繰り返したとか。

その後、データサイエンティストにパラメーターのチューニングを依頼するなどして、少しずつ精度が向上。今では本番導入可能なレベルに近づきつつあり、最終的に全国のシステムに入れる検討をしているところだそうです。

常識破りの「点検しない運用」を可能にする「保守最適化」

次は、ATMの保守点検時期をAIで予測する保守最適化について。

「ATMの部品は定期的に摩耗するので、1年に1度点検」というのがこれまでの業界の常識だったそうです。しかし、松橋氏は毎年点検する必要はないのではないか、と考えて期間を少しずつ延ばし、現在では部品によって差がありますが、点検スパンを延ばして運用しているそう。さらには――。

――松橋
「AIを使えば一気に点検しない運用ができるのではと考えました。AIで故障の予兆を見て保守をする形で、影響の少ないATM数百台を使い、一切点検しない運用テストをおこなっていました。」

予測に使われるデータは、ATMに付けられたセンサー情報。ソフトウェアログ、メカ稼働時間、内部状況、故障処置状況などのデータを変数として、故障予測のモデルを作っているんだとか。

――松橋
「メーカーも1年に1度点検する運用しか経験がないので、保守しない場合のデータがありません。AIの時代、常識外の試みは、ユーザー自らデータを作らないと不可能です。」

データを作るには新たなセンサーの追加、内部の機械構造の変更などが必要になり、実装まで長期化するため、3年から5年というスパンで計画を進めていると松橋氏はいいます。

異常検知にはディープラーニングを活用

3つめの「金融犯罪対策」、つまり不審な取引予測は、ディープラーニングでテストをおこなっているそう。「入出金予測」では機械学習が用いられていましたが、こちらは結果の精度を重視した選択でしょう。

――松橋
「過去の正常・不正取引データから学習し、日々の取引をリアルタイムで解析して、正常な取引でなく、何らかの異常を検知した取引のみ人による確認、というプロセスを考えています。一定の効果が把握できているので、対応を検討中です。」

汎用機能は外部サービスを活用して導入

そして、最後のチャットボットは、AIを活用したチャットによる問い合わせ窓口のことで、スタートアップ企業のStudio Ousiaのシステムを採用しているそうです。

――松橋
「チャットボットのようなものは自社で一から作るより、ベンチャー企業のような専門企業と組んで、高速に進化する道を選んでいます。ディープラーニングベースのQ&Aシステムに期待し運用しています。」

たしかに、チャットボットのような技術的に確立した汎用機能は、自社ではなく外部サービスを採用したほうが早く導入でき、また、最初から技術的に高いレベルでスタートできるなど、多くのメリットがあると言えるでしょう。

熱意を持って作った人間が最後までやりきることが最大の工夫

AI時代の本格化に向けた、組織のあり方についても話がありました。

――松橋
「新しい挑戦は技術の変化にも柔軟に動けるよう、組織はアメーバのように形を決めずに活動しています。また、メンバーはダイバーシティを考えて組んでいます。私が何か提案すると6人中3人ぐらいが反対するのですが、逆に新たな気付きを得られて良いと感じています。」

特定業務を縦割りした組織の弊害がよく言われますが、アメーバのようなホラクラシー型組織はなかなか取り入れるのが難しそうです。松橋氏は組織管理に関してはこんなことも語っていました。

――松橋
「AIは開発途中で頻繁に方向転換やデータの再構築が必要ですので、『いつ成果が出るのか』という厳しい管理は適しません。そして、マネージメントは既存の基幹事業とは成功率が違うので、基幹事業とAIなどによる新規事業の両方のマインドセットを持って、きちっと切り替えなければなりません。」

「今までさまざまな開発を経験してきましたが、最初からばっちり成果が出た経験はそんなにないので、諦めないでやる、というのが大事ですね」と松橋氏。そのために必要なのは、ずばり、熱意だそうです。

――松橋
「面白そうだと興味を感じているメンバーにいかにやってもらうかが大事ですね。熱意を持って作った人間が最後までやりきる。これが完成させる最大の工夫です。」

クールな印象のあるAI開発も、最後はモチベーション、熱さが決め手となるのですね。

最後に、松橋氏がAI開発で最終的に目指す姿も紹介がありました。それは、「AI開発の内製化」だそうです。

――松橋
「AI開発はGroovenautsのMAGELLAN BLOCKS(マゼラン・ブロックス)など、比較的簡単なツール群を使いながら、社内のメンバーをAI化していこうと考えています。理想は、『電卓のようにAIを使いこなせるメンバー』を増やすことです。」

なかなか得難い存在とは思いますが、「電卓のようにAIを使いこなす」人、ぜひ見てみたいですね。

あえて難しいテーマを選び、四苦八苦しながらやりきる

チャレンジャーバンクを標榜するだけあり、セブン銀行は金融機関というよりはベンチャー企業のよう。新規ビジネス開拓にアグレッシブです。経営理念の1つに「社員一人一人が、技術革新の成果をスピーディーに取り入れ、自己変革に取り組んでいきます。」を掲げています。選ぶ社会課題の基準もチャレンジングです。

――松橋
「できるだけ難しくて成果が大きそうなテーマを選びます。そして実現したい世界を描いてから着手し、四苦八苦しながらやり抜きます。難しいものほど成果は大きいですし、他社もなかなかついてこられないと思いますから。」

そしてセブン銀行の次なるチャレンジテーマとして、松橋氏は「次世代ATM」を掲げます。

――松橋
「保守など運用面でAIを確実に実装しつつ、UI/UXへどう活用していくか、ポテンシャルを持たせるか検討中です。いずれにしても来年のどこかで、皆さんが『あっ』と驚くATMが登場すると思います。」

どんなATMが登場するのか、そしてAIがどのような使われ方をしているのか、続報を楽しみにしたいと思います。

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