VUIは新たな市場を開放する。音声アシスタントAIによってもたらされる変化とは?

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2018年7月26日、レッジが主催する『THE AI 2nd』に、VUIを用いた新規事業開発支援をおこなう株式会社WHITE 小池祐介氏が登壇しました。

本記事では、小池氏の語ったVUIの普及によって起こる変化と、音声アシスタントAIによって起こる『破壊的創造』についてレポートします。

『THE AI』
株式会社レッジが「未来ではなく、今のAIを話そう。」というテーマで主催する、大型のAIビジネスカンファレンス。具体的すぎたり抽象的すぎる話ではなく、ビジネスにおいてどの程度のコストで、どこまで活用可能か? という視点で、AIのスペシャリストたちが語ります。
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小池 祐介
株式会社WHITE / 執行役員兼局長
2010年スパイスボックス入社。メディア、クリエイティブ、テクノロジー、データ、CRMなど、幅広い領域の知見を活かし統合コミュニケーションのプロデュース、プランニング担当する。現在はサービスデザイナーとして、新規事業担当者とともに新しい価値をつくるサービスを実現している。

VUIは3つの要素からユーザーを自由にする

『2020年には全検索の50%がVUIになる』と予測されるほど、急速に普及の進むVUI(音声ユーザーインターフェース)。VUIは、

  • 声によるインターフェースであること
  • 対話によってコンピュータを操作していること
  • 入出力の双方、その一方で活用されていること

の3つの条件を満たすもの。

小池氏はVUIは今までのUIでは必要不可欠だった3要素から、ユーザーを開放すると語りました。

――小池
「VUIの音による操作で、まず開放されるのは手

現在のデバイス操作ではキーボード入力や、スクリーンタッチなどの、手、指を使った操作が当たり前だと考えられていますが、VUIを介することで、GUIでは必要不可欠だった、手を使った操作が不要になります。」

VUIは、一つの発音に多くの意味合いがある日本語だと、思い通りの操作ができないことが多いのが現状です。しかし、頭に思い描く通りの意味合いで表示される確率が上がっていけば、VUIの普及が一気に進みそうです。

――小池
第二の開放は目です。

スマートフォンやPCなどのGUIを利用するとき、人はどうしても下を向くことになりますが、VUIは目線の固定は不必要。目で見て操作する必要がなくなります。

それはつまり、誰もが上を向いて歩ける世の中になるということです。」

GUIデバイスを使う生活が当たり前になっているということは、つまりうつむいたままの生活が当たり前になってしまっているということ。今後のVUIの進歩で、気づかないうちにうつむいてしまっている、ということが少なくなっていくのでしょうか。

――小池
「最後に、ユーザーは学習から解放されます。

フリック入力や、キーボード入力などの、デバイスの進化によって生まれた操作にはある程度の学習が必要不可欠ですが、元から会話できる人はVUIも元から使えるはずです。」

会話ができる人なら誰でも操作が可能なVUI。確かに特別な操作方法を覚える必要がないことは、アクセシビリティの観点で、大きな可能性を感じます。

これまでビジネスの対象として見られなかった市場も解放

VUIにより、今までインターネットの世界ではアクセスできなかった、ビジネスの対象として見られなかった市場を開放できる、と小池氏は語ります。

――小池
「VUIは利用が簡単なうえ、コンテンツに制限をかけやすいため、子どもとの相性がいい。また子どもは先入観なくVUIを使っていけるため、その後の普及にもつながる可能性が高いんです。」

子どもたちの好奇心はテクノロジーへの適応にもっとも必要な要素。デジタルネイティブという言葉もあるように、VUIネイティブとして、キーボードを知らない世代が生まれるのも、そう遠い未来の話ではないかもしれません。

――小池
「子供たちとは対称的に、高齢者は年齢を重ねるにつれて手先が不自由になり、視力が落ちていく方が多いため、GUIの操作はハードルが高いわけです。

しかし、会話で操作することは手や目に不自由を抱えていてもできるため、操作のハードルが大きく下がると考えています。」

2025年までに、日本人の3人に1人が65歳以上になると言われている中で、高齢者層にアクセスできるようになることのビジネス的影響力は絶大といえます。

日本はVUIの利用率が先進国平均よりも低いと言われていますが、世代をまたいでほとんど誰でも操作が可能であるVUIを、もっとも必要としている国は日本なのかもしれません。

――小池
「また、手や目の不自由な人向けのサービスは、これまで市場が小さすぎると考えられていたため、通常のGUIの開発ではそれらのユーザーを後回しにしがちでした。

しかし、アメリカ人全体の2000万人は何らかの要因で手や目に不自由を抱えていると言われているように、骨折や白内障などの理由で一時的に身体の一部が不自由になっている人や、子育てや運転などで一時的に身体機能を固定しなければいけない状況を含めると、ターゲットとして十分な大きさの市場に変わるのです。」

インターネットが真に開かれた場所になるには、こうしたアクセシビシティの観点は必要不可欠です。VUIを通してサービスを展開することで、今までないがしろにされていた層がターゲット層に変わっていくというのは、社会全体としても望ましい変化ですね。

VUIから音声アシスタントAIへと変わる競争の主戦場

――小池
「GAFAに代表されるIT企業がVUIへの投資を続けている理由は、VUIによる変化よりも根源的な『音声アシスタントAIが起こす変化』にあると考えています。」

小池氏は上のように述べると、論点を音声アシスタントAIがもたらす変化へと移していきました。

――小池
「現状では、インターネットの入り口はサーチ、またはSNSが中心で、ユーザーに届けられる情報は、サーチ、SNSによってある程度選別されています。

なので、コンテンツホルダー側もサーチ、SNSに合わせて、どのようにユーザーに情報を届けるのか考えながらビジネスを展開することが当たり前になっています。」

――小池
「インターネットの入り口が音声アシスタントAIに変わると、情報選択のプロセスは音声アシスタントAIを介することになります。

そうするとビジネス展開も音声アシスタントAIに合わせた形に変わっていく。その結果、届けられる情報量が極端に減少していくと予想されています。」

SEOやリスティング広告に代表される、SEM(サーチエンジンマーケティング)市場は、拡大を続けています。しかし、音声アシスタントAIの台頭で、ユーザーに届けられる情報量が減っていくにつれて、SEMのあり方も大きく変わっていくかもしれません。

音声アシスタントAIが引き起こす『破壊と創造』

――小池
「情報爆発により選択肢が増加したことで、情報選択のコストは上昇しています。

その結果、選択コストと手に入る情報の質のバランスが崩れ、ユーザーの情報選択意欲、そして情報に対する満足度が下がっています。
これを“選択のパラドックス”と呼んでいます。」

『AI資産運用』『おまかせ定期便』『ズボラ旅』のような無思考型サービスが人気になっていることからも、ユーザ側の選択肢を、意図的に減らしたサービスが求められていることは明らかです。

――小池
「しかし、音声アシスタントAIへの信頼なしに、VUI検索は普及しません。つまり、大企業は音声アシスタントAIに信頼性を持たせるための投資を続けているということです。」

小池氏は、音声アシスタントAIの起こす変化と、その変化の裏付けをふまえて、音声アシスタントAIの強みを、『意欲前領域に対してのアプローチ』と表現しました。

検索プラットホーム上では難しかった“検索ワードを考える前の段階のユーザーに対するアプローチ”が、音声アシスタントAIでは可能になるといいます。

――小池
「音声アシスタントAIが、対話、会話によって、検索する前の意欲そのものを喚起し、高い精度で提案をする。そして、意思決定をサポートし、意思決定を代行していくようになる。その結果、『経験とアドバイス』がコアディスラプションの対象となります。」

これまで、会話によって意欲そのものを喚起していくことや、高い精度の情報を渡すことは専門家の領域でした。ですが小池氏の目には、音声アシスタントAIがそれらを代行していく未来がたしかに見えているようでした。

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