2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。
「AIで変わるデジタルトランスフォーメーション時代のビジネス生存戦略」と題して講演した日本マイクロソフトの西脇 資哲氏は、「人間の能力を超え始めたAIを用いてどんな課題解決ができるか」について、実際の事例を用いて語りました。
エバンジェリスト / 業務執行役員
マイクロソフトにて多くの製品・サービスを伝るエバンジェリスト。1990年代から企業システム、データベース、Java、インターネットのビジネスに関与し、1996年から約13年間オラクルにてエバンジェリストとして従事。その後、2009年にマイクロソフトにてエバンジェリスト活動を継続。
4つの分野で人間を超え始めたAI
西脇氏は、今日のAIが世の中で様々な課題を解決していることを前提に話しながら、「AIは画像認識、音声認識、文章読解、翻訳の4つの分野で人間に追いついた」と語ります。
「私たちが考えているAIの力は人間のレベルに追いついたという風に言われています。たとえば、物を見る能力は2年前からすでに人間の能力を超えていますし、音声を適切に認識する能力もわずか5.1%の誤認率に到達しています」
こうした技術的発展を背景に、身の回りの課題解決が進んでいます。たとえば以下のような事例。
- 機械翻訳:プレゼンの文字を起こし、他言語へリアルタイムに翻訳
- 文章読解:人間の指示を聞き取り、会議の日程調整を代わりに行う
- 画像認識:レシートから日付や金額、会社名といった項目を抜き出す
- 顔認識:人の顔を認識し、性別、年齢、感情などを分析。顧客ニーズの分析に活用
これらを人間が行おうとすると、完璧にこなすのは難しい一方、AIは疲れないことに加え、一定の精度を継続して維持します。
「文字起こしや日程調整、項目の抜き出しといった、私たちが業務の中で面倒と感じながらも何度も行っている単純作業を、AIで自動化したのがこれらの事例です。
ただ、『大企業しか使えないのでは』と思わないでください。AIに取り組めるかどうかは企業の大小は関係ありません。使うときはクラウドに問い合わせるだけですから」
日本マイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」を活用すれば、AI活用のための学習済みAIが誰でも利用できます。大量の学習用データを集める必要がないため、中小企業にもAIを使った課題解決のチャンスが存在します。
身の回りの課題を解決して売上アップ、働き方改革を実現
では、実際のビジネスではAIを活用してどんなことができるのでしょうか?
伊勢にある食堂、土産物店、屋台を営む老舗企業ゑびやでは、画像解析により顧客の属性を分析し、時間ごとの来店数予測に挑戦。
結果、需要予測的中率は精度90%超を叩き出し、無駄な作業が減り、別の作業に当てられるようになったことで、4年間で売り上げが4倍、利益率は10倍になったといいます。
「ポイントは、需要予測の的中率が90%という点です。つまり大きな企業がビッグデータをたくさん蓄えているからAIを使える、という世界ではなくて。どんな業種であっても課題を解決することができる技術がAIなんですね」
自分たちが抱えている課題に、AIをどのように活用できるかを考え実行したゑびやの姿勢は、AI活用を考える企業の教訓となりそうです。
ところで、ゑびやは、AI導入により売上が上がった結果、何をしたのでしょうか?
「上がった売り上げを従業員に還元しているそうです。給料の2割アップや、小売業という業態にも関わらず完全週休2日制を取り入れるなど、働き方改革を実現しています。AIで身近な課題を解決することで、社員がより幸せになれるストーリーが生まれたのです」
AIで地球規模の課題を解決
西脇氏は、AIは身近な課題だけではなく、地球規模の課題解決にも活用できる、と言います。
下の画像は、ドローンで撮影した写真をAIで分析することで、「過去と比較した森林の変化状況」を分析した例。 具体的には、
- 木の本数
- 森林の比率
- 荒れ地の比率
などを分析しています。
「地球の環境や生態生命の多様性といったスケールの大きな問題も、AIで対策を立てることができるようになりました」
ほかの事例として、物体認識の技術により、ジンベイザメの模様を識別し、個体の追跡が可能だそう。これにより、どの個体がどの個体と行動を共にしているのか、どこの海域に生息しているのかが把握できます。
世界中で起きている、地球温暖化や少子高齢化といった地球規模の問題。これらの問題解決にAIを活用することで、これからの時代に必要な企業として活躍していけるのかもしれません。
Microsoftが開発するFPGA
自動運転に使われる、画像解析のような素早い処理が求められる場合、クラウドでは処理速度が間に合いません。そこで、リアルタイムでの処理が可能なAIが求められています。
解決策は、AIが学習、推論する過程のうち、推論をデバイス上で可能にすること。Microsoftでは、マイクを搭載したカメラ上で推論の処理ができる「Vision AI Developer Kit」というデバイスを開発しています。
しかし、Vision AI Developer Kitでもリアルタイム性が求められる場面での使用には処理速度が足りないんだとか。そこで、MicrosoftはFPGAも開発しています。
当日は、地表の画像を使った森林分析に対して、CPUとGPU、FPGAの処理速度比較のデモが行われました。
「Microsoftは、今よりさらにリアルタイムで処理が可能なAIを機能させ、世の中のさまざまな問題を解決したいと考えています。
店舗でお客様対応を効率化する方法、企業がミーティングを効率化する方法、目や耳の不自由な方が支障なく生活できる方法、地球のさまざまな動物が生きながらえる方法。いろいろ考えを巡らせています」
目の前で実際に起きている課題解決にAIが活用され始めています。
自動運転を例に取ってみても、前に飛び出してきた人影を瞬時に認識することは必須。他の半導体よりも処理速度の早いFGPAは、AI開発の際の選択肢の一つになりそうです。
AIを正しく使うための基本原則
最後に西脇氏は、「AIは乱暴には使ってはいけない」と語りました。Microsoftは、AIを扱う際に注意すべき以下の6つの基本原則を提唱しています。
- 公平性
AIシステムはすべての人を公平に扱う必要があります - 透明性
AIシステムは理解しやすい必要があります - 包括性
AIシステムはあらゆる人に力を与え、人々を結びつける必要があります - プライバシーとセキュリティ
AIシステムは安全であり、プライバシーを尊重する必要があります - 信頼性と安全性
AIシステムには信頼でき、安全に実行する必要があります - 説明責任
AIシステムには説明責任が課せられる必要があります
「AIの学習や推論に必要なデータには、検索履歴や購買履歴、顔写真などの個人情報が含まれています。悪用されれば人の生活に悪影響をもたらす可能性も存在するため、基本原則を守ったAI活用が求められます」
AIを活用することによってビジネスプロセスにおける課題解決の方法が変わり、単純作業をAIに任せ他の仕事をすることができたり、人間だけでは不可能だったことを実現したりできるようになりました。企業がAIを正しく使い、顧客や従業員、社会を幸せにするためにも、基本原則は心に留めておくべきでしょう。
あらゆるビジネス分野・企業にAIが組み込まれ、リアルタイムに課題解決をしていく時代の到来を感じさせるセッションでした。
企業が市場の中で生き残るためには、波に取り残されることなくAIを活用し、生産性の向上やこれまで解決できなかった課題解決に取り組む必要がありそうです。
日本マイクロソフトの講演資料は下記からダウンロード可能
本講演の資料は、下記からダウンロード可能です。