2019年2月13日、株式会社レッジは日本最大級のビジネスAIカンファレンス『THE AI 3rd』を開催。「AI時代の適者生存 ── 生まれ変わるために“今”すべきこと」をテーマに、業種や産業を跨いだAI、ディープラーニングの活用事例が業界のトップランナーにより語られました。
「AI導入の工夫 ── コンビニ銀行の事業高度化アプローチは?」と題して講演したセブン銀行の松橋氏は、「業界の常識を疑うことが大事」と語りました。
セブン・ラボ / 専務執行役員
セブン銀行のサービス/システムをデザインするIT&ビジネスアーキテクト。コンビニATM事業を確立後、セブン・ラボを率い、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを推進する。全社横断でのAI・データ活用の複数プロジェクトも推進中。
AIは破壊的な技術。技術起点で事業を再構成する
講演冒頭、松橋氏は「直感でAIは破壊的な技術だと確信した」と切り出しました。
「AIに出会ったとき、これは破壊的な技術だと直感で確信しました。『AIを使えない企業は淘汰される』と感じましたね」
「セブン銀行では事業設計の際、どのような『社会課題を解決したいのか』というウォンツから始めます。しかし、AIに関しては当てはまらず、技術ありきで未来を考える必要がありました。その結果、AIを起点にビジネスを再構成することになりました」
技術を起点に事業を考える必要があるほどに、破壊的だったAIという技術。もともとエンジニア出身の松橋氏は、AIに魅せられることになります。
「『AIやろう』といっても、自社のどの業務に適用するのか? という疑問にぶつかりますが、費用対効果が大きそうなものを選ぶことが重要です。一見、技術的に難しそうだがストレッチすればできそうなものを選び、愚直にやりきることです」
セブン銀行社内で、最初にAI適用業務の候補として選ばれたのは以下の業務。
さまざまなチャレンジをするセブン銀行の事業の中でも、注目なのはやはりATMでしょう。講演では、ATMにおける現金マネージメントの効率化、保守の最適化について語られました。
ATMにおける現金マネージメントをAIで最適化
「技術と業務の相性を見極めることが大事です。なんでもかんでもディープラーニングではなく、目的に応じて使い分けるなど、ひとつずつ試しながら考えることです」
「AI導入は、AIに学習させるデータを作れるかどうかが成功の分岐点になります。これは頭を使わないとできません。ベンダーに提案要請をして終わりではなく、自ら考えることです」
セブン銀行が取り組んだのは、ATMにおける現金マネージメントのAIによる最適化でした。
松橋氏は、NEC the WISEの異種混合学習を活用し、あえてディープラーニングは使わなかったといいます。
「ATMの運用担当者が持っているロジックは、最初は数値化できません。そのため、どの変数が予測結果に影響を及ぼしているか把握しておく必要がありました。
何度も担当者にヒアリングを重ね、最初は5年分のデータを使ってパラメータの配分を変えるなどして、チューニングを繰り返しました」
トライアンドエラーによってデータの粒度を高度化していった結果、五十日(ごとおび…毎月5日・10日・15日・20日・25日と、30日のこと)だけでなく、大型上場や桜の開花時期には多くの現金需要があり、ATMの現金残数への影響が大きいことを発見したんだとか。
これらの知見をデータ化して再学習のプロセスを回し、現在は全国のATMへ需要予測のモデルを導入する時期を検討中だといいます。
ATMへのAI導入でセブン銀行が得た知見
ATMへのAI導入の経験から、松橋氏は以下の知見を得たといいます。
「一度取得したデータでも、定期的に再編し、学習を繰り返すことが重要です。
再編する前の、漫然と貯まっているデータはAIに最適化されておらず、使えないことが多いので、トライアンドエラーを繰り返して最適化していきました。少ないデータでスモールスタートし、仮説検証を繰り返すことが必要です」
「AIが未完成だったとしても、業務部門へのAI導入は有効です。一度導入すると人間の能力が可視化されるので、現状把握の手段としてとてもいい。
導入におけるポイントは、AI専任チームを作らないことです。「AIで何かやらなきゃ」と縛られてしまうので、長期に持続させるためにもチームは後付がいいです」
「活動が優先、チームは後付け」の方針は、アメーバ経営を行っているセブン銀行のカルチャー。境界を定めずに、有志を集め「とにかくやってみる」マインドセットが大切だといいます。
関連記事:AI本格導入に向け検討へ。セブン銀行に聞いたAI実証実験の進め方。秘訣は「悩まずしぶとく、やってみる」
「業界の常識を疑ってみてください。ATMの例で言えば、1年ごとの定期点検をやめることにもチャレンジ中ですが、業界の常識からすればとんでもないことで、そんなことしたら『壊れますよ?』と最初は言われました。
しかし、そこで引き下がらず試してみたら、うまくいきそうだということが分かりました。うまくいかなくても諦めず、『こういうことを実現したい』という未来像を共有しておくのが重要です」
データを集め、検証を繰り返すには数年かかることもあります。愚直に、気長に取り組む姿勢が肝要です。
次の一手は新型ATM。新技術の活用に終わりはない
「今後の展開として、2019年秋頃、新型ATMの投入を予定しています。モバイル決済連動の金融商品や、その他の新事業にも注力していきます」
社内での人材育成にも力を入れていくセブン銀行。従業員の半分がAIを使えるようにすることが目標だとうたいます。
最後に、松橋氏はこう言って講演を締めくくりました。
「『変われ変われと言うけど、自分が変わっていないじゃないか』と言われないよう、まずは自分が率先して変わるように心がけています。新技術の活用に終わりはありません。技術はどんどん出てくるので、引き続きトライアンドエラーしていきます」
結局、AIもシステムのひとつ。スムーズに導入できる企業もあれば、できない企業もあります。
その分かれ道は、自分が率先して変化を促しトライアンドエラーするという、当たり前の姿勢を持てるかどうかに懸かっていいるのもしれません。