「データの質・量にこだわるべき」今学ぶべきAI導入の成功手法

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AIという言葉が浸透し、実際に現場に実装・活用している事例が多くでてきている一方、AI導入に独自の問題に直面し、実際の導入が思うように進んでいない企業も多い。総務省が公表している「令和3年版情報通信白書」によると、日本企業のAI導入率はわずか「24%」となっている。

AI導入において陥りやすい課題の観点として、「データの質」「データの量」「精度とコストのバランス」などがある。これらの課題は、これからAIを導入しようとする企業ごとに異なる状況ではありながらも、多くが共通している。

そこで、株式会社レッジでは11月22日、株式会社フツパー 関東支社長兼ビジネス開発本部マーケティング部長 萩原啓悟氏、FastLabel株式会社 代表取締役CEO 上田英介氏、菱洋エレクトロ株式会社 ソリューション事業本部 ソリューション第五ビジネスユニット 営業第四G 岡本亮志氏の3名を招いたウェビナーを開催。AI導入時の課題に対して、どのように3社がアプローチしているかについて話を聞いた。

AI導入がうまくいかない3つの課題

まず、レッジから議論の叩き台として、AI導入における3つの課題を挙げた。

  • データ品質が低く、機械学習に使えるレベルにない
  • 求める結果に対し、データ数が不足している
  • 導入後の精度とコストに課題

これらの課題に対して、登壇したフツパー、FastLabelの2社はこう所感を口にする。

株式会社フツパー 関東支社長兼ビジネス開発本部 マーケティング部長 萩原啓悟氏株式会社フツパー 関東支社長兼ビジネス開発本部 マーケティング部長 萩原啓悟氏

――萩原
「データの質と量はAI導入において非常に重要な観点ですね。よくあるのが、機材がないので一旦スマートフォンで撮影してみたようなケースで、環境にブレがある状態で撮影してしまうことです。一般的には、撮影環境にブレがある画像を教師データとして使用すると精度は落ちてしまいます」
――上田
「まさに弊社に相談いただくことが多い課題でもあります。萩原さんが仰るような撮像工程に加えて、アルゴリズムに与える教師データのアノテーションで間違いがあっても精度は落ちます。トマトの物体検出を行う場合のアノテーションを例に取ると、トマト一つを四角で囲うのか、重なっても囲っていいのか、何割重なっていれば囲って良しとするかといった基準を設けないと、精度が12%落ちてしまうというデータもあり、難しい課題です」

せっかくデータを苦労して収集しても、そもそも質と量が不足していて使えないのではたまったものではない。データを収集・作成するアノテーション段階である程度の制御が必要だと両社は口をそろえる。

FastLabel株式会社 代表取締役CEO 上田英介氏FastLabel株式会社 代表取締役CEO 上田英介氏

――上田
「撮像したデータをクラウドに上げると転送量を食いますし、どんどん蓄積していきます。そのため、学習させたいデータだけをどう抽出するかという課題があります。たとえば交通監視カメラでは大量の自動車の映像データが取れますが、雨の日の映像だけほしい、逆走など危険運転の映像だけ取り出したいケースなどがありますが、そもそも逆走ってめったにありませんよね。そういったデータでも一定量がなければAIが判断できないため、現在は労働集約的にデータ収集をしている部分がボトルネックになっているお客様は多いです」

また、製造現場においては、AIをエッジデバイスに載せて活用するケースが多い。同じく登壇した菱洋エレクトロの岡本氏は、現在のエッジへの需要をこう説明する。

菱洋エレクトロ株式会社 ソリューション事業本部 ソリューション第五ビジネスユニット 営業第四G 岡本亮志氏菱洋エレクトロ株式会社 ソリューション事業本部 ソリューション第五ビジネスユニット 営業第四G 岡本亮志氏

――岡本
「当社はIT商社で、主にハードウェアを取り扱っていますが、お客様が導入されたデバイスをどう活用したらいいのかというご相談をいただきます。特に製造業におけるAI開発では、クラウドで学習し、作成したモデルをエッジ側に実装するケースも多いため、当社としてもエッジデバイスには注力しています」

フツパーでは、目視検査の代わりとなる外観検査AIを提供しており、製造業ではエッジデバイスへ実装するニーズが高いという。

――萩原
「エッジデバイスが求められる背景には2点あると思っています。ひとつは処理速度の観点で、クラウドでAIの実装環境を作ると、回線的な問題で処理速度が落ちてしまうこと。当社では極力エッジに実装することで、製造業などで求められる処理速度に対応しています。もうひとつは後工程との連携です。AIで検知した後に結果をクラウドに戻して、それを後工程にフィードバックするとなると、製造業ではそもそもネットワークにつながっている機器が少なく難しいケースが多いです。エッジデバイスを使用することで、後工程との連携を深めることができます。一方で学習環境ではクラウドがほぼ必須ですし、適材適所でご提案させていただいていますね」

データの質・量が確保できたとしても、AIと業務の適切な連携ができなければ変革には至らない。また、精度を継続的に上げていくための追加学習など、将来を踏まえた設計が必要である、とも萩原氏は語る。

――萩原
「精度は、ある程度きちんとデータの質・量を担保してアルゴリズムを回せれば比較的問題なく済みます。しかし、精度が出る、イコール求めている効果が出るとは限りません。製造現場であれば、AIで判定した後、人間がどのような行動を起こすのか、後工程まで設計することが重要です」

課題に対する三社三様のアプローチ

AI導入におけるこうした課題があるなか、3社はどのようにアプローチしているのか、プレゼンを行ってもらった。

フツパーは、「最新テクノロジーを確かな労働力に」というミッションのもと、製造業向けの画像認識AIを提供している。従来、製造業企業が形に個体差があるものや良不良の判断が難しいものへの外観検査をAIによる自動化を行おうとするものの、現場で安定した画像が撮影できず精度が出ない結果、投資対効果が悪いといった問題があったという。

――萩原
「この精度とコストの問題に対し、フツパーでは光学設計から最適なAIアルゴリズム構築まで一気通貫で行える現場力と、AI構築における工数削減を可能にする開発ノウハウとシステムによる技術力を武器にした『メキキバイト』というソリューションを提供しています」

出典:フツパー社資料より出典:フツパー社資料より
光学設計とは、撮像を行う際の光の当たり方やカメラの位置といった撮像に関する設計だ。画像認識系のタスクにおいては非常に重要となる。その光学設計のノウハウから、アルゴリズム開発、実装、継続的な管理まで行えるのがメキキバイトだという。

特徴的なのが料金体系だ。初年度の月額が298,000円で、2年目以降は98,000円になる。精度や効果に満足しなければいつでも解約可能というサブスクリプション方式だ。

――萩原
「法人であれば、AI活用に置いて投資回収の観点は切っても切り離せません。特に従来のAI導入プロジェクトにおいては3,000万〜1億円ほどかかることが一般的なため、サブスクリプションにすることで、リスクを極力低く抑え、『はやい・やすい・巧いAI』を実現いただけます」

続いてFastLabelのプレゼンがあった。FastLabelはAI開発におけるアノテーションツールを提供している企業だ。アノテーション実績が前年度比40倍に上ったという同社は、アノテーションの重要度が認知されはじめてきた背景についてこう分析する。

――上田
「当社のツールは現在100社以上に導入いただいていますが、アノテーションツールが支持を集める背景には、アルゴリズムのコモディティ化が背景にあると考えています。従来はAIの精度をコーディングを通して上げることが重要で、AIエンジニアが一定の価値を持っていましたが、現在はインターネット上に公開されているアルゴリズムを活用できるため、データ収集の重要性が相対的に増すというパラダイムシフトが起こったのです」

出典:FastLabel社資料より出典:FastLabel社資料より
データに関しては、AIエンジニアだけではなく、現場で働く人材のほうが詳しいことが多い。そうした現場人材がAI開発・運用に入ってきている一方で、データの作成プロセスにはAI開発の80%の時間が費やされているにも関わらずイノベーションが起こっていない。そのため、AIが学習するために必要なデータ品質の低下や、そもそもデータ数が不十分といった事態が発生しているという。

――上田
「当社では、こうしたデータの収集や生成、学習や評価といったプロセスをツール上で包括的にカバーするソリューションを提供しています。そもそもデータがない、といった場合でも、当社で可能な場合は収集をお手伝いしますし、最近では不良品データの不足から、不良品データの生成といったケースにも対応しています」

新しいデータを教師データに追加したい場合も自動化でき、継続的な精度改善が可能なツールなようだ。近年では企業が扱うデータもマルチモーダル化しており、さまざまな種類のデータのアノテーションに対応可能だという。

同じく登壇した菱洋エレクトロは、ハードウェアからクラウドまでトータルで扱うIT商社だ。同社の営業である岡本氏は、これまでハードウェアを提案する中で、顧客から「ハードはいいがソフトがわからない」という声を多く聞いていたという。

出典:菱洋エレクトロ社資料より出典:菱洋エレクトロ社資料より

――岡本
「そんな折にフツパー社、FastLabel社に出会いました。FastLabel社のアノテーションを行うにもマシンが必要ですし、フツパー社のソリューションでAIの学習を行う際にも当社が扱っている NVIDIAのGPUでの並列処理が行えれば効率的な学習が可能です。当社のハードウェアで2社の技術をつなげることで緊密に連携し、お客様に最適なソリューションを提供していければと考えています」

3社の連携によるAI開発・運用に興味を持った方は、ぜひ下記から問い合わせてみてはいかがだろうか。

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