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2026/1/2 [FRI]
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基盤モデルとの融合はロボットに何をもたらすのか——現在地と未来への展望

:::box 2025年の年末から2026年の年始にかけて公開する参加費無料のLedge.ai 年末年始特集「['25 to '26]{target=“_blank”}」より、今回は特別にサイト内で掲載している一部コンテンツの全文を公開する。2025年のAI関連の重要トレンドや、2026年以降のAIの展望について知りたい方は、ぜひご一読を。 ::: :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: 人工知能の知性が宿る抽象的なデータ空間と、ロボットが動く物理的な現実世界。これまで別々の進化を遂げてきた二つの領域が今、急速に融合しようとしている。人間のように思考し、対話し、そして行動するロボット——そんなSFの世界が、いよいよ現実のものになるのではないかという期待が、社会全体を包み込んでいる。 しかし、この技術的変革の波の中で、何が現実で、何がまだ遠い夢なのだろうか。本記事では、ロボティクスとAI研究の第一線で活躍する河原塚健人氏を水先案内人として迎え、その鋭い洞察を紐解いていく。 ## ロボットの「知能」革命:基盤モデルはいかにしてロボットを変えたか 基盤モデルの登場は、単にロボットの性能を向上させただけではない。それはロボットの「知能」の構造そのものに、これまでの開発とは一線を画す根本的な変化をもたらした。この革命の本質を理解するために、まずはロボットが行動に至るまでのプロセスを見ていこう。 ロボットの行動は、大きく分けて以下の3つの段階で構成されている。 - **認識:** センサーを通じて周囲の状況を理解する。 - **計画:** 認識した状況に基づき、次に何をすべきかを決める。 - **制御:** 計画に従って、モーターなどを動かし、身体を具体的に動かす。 このプロセスの中で、基盤モデルは特に「認識」と「計画」の能力を飛躍的に進化させた。その最大の原動力となったのが、「言語」を扱えるようになったことだ。 従来、ロボットに「ドアが開いている」と認識させるには、深度センサーで取得した三次元の点群データを解析し、目の前にドアの形状が存在するかどうかをプログラムで判断させるなど、人間が地道にルールを記述する必要があった。 しかし、基盤モデルはインターネット上の膨大なテキストと画像のデータを学習することで、人間のような曖昧で高度な状況認識能力を獲得した。「ドアが半開きになっている」といった微妙な状態や、「玉ねぎがあめ色に炒まってきた」といった、感覚的で言語的な表現を理解できるようになったのだ。これは、ルールベースの手法では到底到達できなかった領域であり、まさしくパラダイムシフトと呼ぶにふさわしい。 ただ「制御」については、依然として基盤モデルが苦手とする領域だ。その理由は、後述する「なぜバク転は簡単で、ジャガイモの皮むきは難しいのか」という、一見パラドックスにも思えるような事実からも紐解ける「タスクの複雑性と相互作用」にある。ジャガイモの皮むきのようなタスクは、不揃いな対象物、力の加減、予測不可能な変形といった、環境との絶え間ない相互作用とフィードバックが必要となる。この現実世界との複雑なインタラクションこそが、「制御」の精度を上げるにあたって技術的なボトルネックとなっているのだ。 ## 特化型ロボットと汎用型ロボット 現在のロボット開発は二つの大きな潮流に分かれている。一つは「特定のタスク」を完璧にこなす特化型ロボット。もう一つは、人間のように「何でもこなす」ことを目指す汎用ロボットだ。現在のLLMによる「認識・計画」の進化は特化型ロボットの性能を飛躍的に向上させたが、人間のようになんでもこなせる真の汎用性の実現は、複雑な制御という壁により、依然として道の途中にある。 ### **特化型タスク:完成は「時間の問題」** 特定の作業に限定すれば、ロボット技術は驚異的な進歩を遂げている。河原塚氏は、強化学習や模倣学習といった技術と基盤モデルが組み合わさることで、「特定のタスクはほとんど何でもできるようになった」と評価する。 - **歩行・走行(ロコモーション):** 現代の四足歩行ロボットは、どんな悪路でも転ばず、高い壁を乗り越え、さらにはバク転さえもこなす。これは強化学習によって、あらゆる状況に対応できる頑健な制御能力を獲得した成果だ。 - **操作(マニピュレーション):** かつては非常に困難とされた「服をたたむ」といった複雑な作業も、人間がお手本を見せる模倣学習によって実現可能になった。ロボットはスポンジのようにデータを吸収し、教えられたタスクを高い精度で再現できる。 河原塚氏は、これらの特化型タスクの完成はもはや「時間の問題」であると考えているという。特定の作業を人間に代わって行うロボットは、着実に社会実装へと向かっている。 ### **汎用型タスク:「まだ全然解けていない」壮大な挑戦** 一方で、人間のようにあらゆるタスクに対応できる汎用ロボットへの道のりは遥かに険しい。この領域について、河原塚氏は「まだ全然解けていない」と率直に評価する。発表される華々しいデモンストレーションも、「まだまだ大きく課題は残っている、というのが正直なところです」との見方を示す。 その課題の本質は、現在のVLA(Vision-Language-Action)モデルの限界にある。これらのモデルは、膨大な学習データに含まれるタスクやそれに類似したタスクを再現することには長けている。しかし、完全に未知の状況への対応は難しい。 「ハサミを一度も使ったことがないロボットに『ハサミを使え』と言っても、絶対に使えるようにはならない」。現在の汎用ロボットは、あくまで学習データの範囲内で動いているに過ぎず、真の汎用性には程遠い。 では、この汎用性を実現するために、現代のロボットに決定的に欠けているものは一体何なのだろうか。 ## 現代のロボットに欠けている「人間らしさ」とは 汎用ロボットの実現を阻む壁は、単なるデータ量や計算能力の問題ではない。その根源には、より本質的な「学習能力」の欠如があると河原塚氏は指摘する。人間が当たり前のように持つ、しかし現代のAIにはない「人間らしさ」とも言える2つの能力が、その鍵を握っている。 ### **欠落要素1:動的に適応する能力** 現在の基盤モデルは、いわば「完成品」として提供される静的な存在だ。膨大なデータを一度学習したら、その後は一切進化しない。デプロイされた後に未知の状況に遭遇し、タスクに失敗しても、そこから学ぶことはできない。「できなかったら、できないまま」なのだ。 これに対し、人間は絶えず世界と相互作用しながら学び続ける。未知の状況に遭遇すれば、「とりあえずやってみて、失敗から学び、その知識を次に活かす」。この「動的な適応性」こそが、人間と現在のAIを分かつ決定的な違いだ。河原塚氏はこの動的な学習能力こそが、汎用ロボットが獲得すべき最も重要な力であると強調する。 ### **欠落要素2:自ら学ぶ好奇心** また、ただ未知の状況に対応するだけでは不十分だ。真の汎用性には、ロボット自身が能動的に学習しようとする姿勢が求められる。つまり、「自分に何ができないか」を自己認識し、それを克服するために積極的に情報を集めに行く、いわば「好奇心」のような存在が必要だ。 これは専門的には「アクティブラーニング」と呼ばれるアプローチに近い。指示されたタスクをこなすだけでなく、自らの知識の空白を埋めようと世界を探求する力。この内発的な動機がなければ、無限に広がる現実世界の複雑さに対応することは不可能だろう。 このような人間とロボットの根本的な能力の違いは、我々が直感的に感じる「タスクの難しさ」にも、大きな隔たりを生んでいる。 ## なぜバク転は簡単で、ジャガイモの皮むきは難しいのか この汎用性への挑戦の困難さを理解するには、まず我々人間が持つ「難しさ」の物差しを一旦脇に置く必要がある。河原塚氏が指摘するように、ロボットの世界では、我々の直感とは真逆の物理法則が支配しているのだ。この現象は「モラベックのパラドックス」として知られており、ロボット技術の現状を正しく把握する上で極めて重要な視点となる。 ### **バク転=人間には至難、ロボットには「めちゃくちゃ簡単」** ほとんどの人間にとって、バク転は習得困難な技のように感じられる。しかし、ロボットの視点から見ると、これは「めちゃくちゃ簡単な」なタイプに分類されるのだという。 その理由は、物理モデル化の容易さにある。ロボットが空中にいる間の身体の動きは、物理法則に従う「剛体の回転運動」に過ぎず、非常に正確にモデル化できる。そのため、「モデル予測制御」という手法を用いて、目標とする着地点から逆算し、手足の動きを精密にコントロールすることが可能なのだ。環境との相互作用が限定的であるため、計算上の問題として解きやすいのである。 ### **料理=人間には容易、ロボットには「とんでもなく難しい」** 対照的に、人間が日常的に行う料理、例えば「ジャガイモの皮をむく」といった作業は、ロボットにとっては「とんでもなく難しい」のだそうだ。 その理由は、前述したように環境との複雑で予測不能な相互作用にある。ロボットは、自分自身の身体(関節の角度やモーターの硬さなど)については完璧なモデルを持っている。しかし、外部環境については、ほぼ知識を持ち合わせていない。ジャガイモが硬いか柔らかいか、ツルツル滑るか否かは、実際に触ってみるまで分からない。皮むき器という道具をどう握り、どれくらいの力で、どの角度で当てればよいのか。これらの無数の変数は、事前にモデル化することが困難なのだ。 バク転よりもジャガイモの皮むきが難しいというこの現実こそが、ロボット開発における最も根源的な制約——すなわち『環境との相互作用』を浮き彫りにする。そしてこの制約こそが、来るべき汎用ロボットの『形』を必然的に規定していくことになる。 ## ヒューマノイドという必然:なぜ未来のロボットは「人間型」になるのか SF映画に登場するようなヒューマノイド(人間型)ロボット。それは単なる創作上の産物や、人々の目を引くためのプロモーション戦略なのだろうかとも思いがちだが、そうではない。汎用ロボットが人間型になるのは、現代のAI開発が直面する課題から導き出される、極めて論理的で必然的な帰結なのだ。その理由は、大きく3つある。 ### **1. 圧倒的なデータ不足の問題** ロボットの知能、特にVLAモデルを学習させるには、膨大な量の「行動データ」が必要となる。しかし、ロボット自身が生み出したデータは、世界にほとんど存在しない。この絶望的なデータ不足を解決する最も現実的な方法が、インターネットの動画共有サイトなどに無限に存在する「人間の動画データ」の活用だ。人間が何かを操作したり、歩き回ったりする映像は、ロボットにとって最高の教科書となりうる。この人間のデータを最大限に活用するためには、ロボットの身体構造が人間に近い方が、学習の転移が圧倒的に容易になる。 ### **2. 人間中心に設計された環境の問題** 我々が暮らす世界のあらゆるものは、人間の身体に合わせて設計されている。階段の段差、ドアノブの高さ、ハサミやドライバーといった道具の形状。これら全てが、人間の身体を前提としている。この人間中心の環境で効率的に活動するためには、ロボットもまた人間と同じ身体構造を持つことが最も合理的なのである。車輪型ロボットが階段を上れないように、環境がハードウェアの形状を規定するのだ。 ### **3. 基盤モデルそのものが持つ人間中心性** 基盤モデルの知能もまた、人間中心に構築されている。LLMが扱う「右手」「左足」といった言語は、人間の身体性を前提とした概念だ。画像認識モデルが学習するデータも、その大半は人間の視点から撮影されたものである。「アリの視点」で撮影された画像データはほとんど存在しない。基盤モデルの性能を最大限に引き出すためには、モデルが学習した世界観の前提(=人間の身体)に近いハードウェア、すなわち人間型ロボットが不可欠となる。 つまり、未来のロボットが人間型になるのは、我々の模倣から学ぶ『ソフトウェア』、我々が作った世界で動く『ハードウェア』、そして我々の知性を拡張した『AI』という、三重の制約が導き出す必然なのである。 ただし、この「人間型への収斂」は、あくまで人間社会で活動する汎用ロボットに限った話である点には注意が必要だ。河原塚氏が指摘するように、人間が必ずしも最適ではない「災害救助」のような過酷な環境ではキャタピラ型が優れていたり、特定の製造ラインでは多関節アームが合理的であったりと、タスクに応じて最適なロボットの形態は多様であり続けるだろう。 ## 研究室からリビングへ:社会実装への険しく不確かな道のり 技術的なブレークスルーが達成されたとしても、ロボットが研究室から我々のリビングへとやってくるまでには、ビジネスモデル、コスト、そして社会受容性という、分厚く現実的な壁がいくつも立ちはだかっている。最近では、家庭用のヒューマノイド型ロボットの展開もリリースが発表されるなど、一般家庭にヒューマノイド型ロボットが徐々に入り込み始めている。たとえまだ求めるレベルに至っていなかったとしても、先行事例として実際の家庭環境に入ることで、研究開発に「圧倒的に不足している実世界のデータ」を収集できる可能性がある。それが次のブレークスルーの起爆剤になるかもしれないのだ。 この議論は、日本のロボット開発が置かれた状況にも繋がる。ハードウェア開発で世界に遅れをとっている日本だからこそ、「とにかく作って試してみるべきだ」と河原塚氏は提言する。研究開発の「火を絶やさない」こと。それこそが、深刻な人手不足という社会課題を抱える日本にとって、未来を切り拓くための極めて重要な戦略となる。 未来がどうなるか誰にも予測できないからこそ、多様な可能性を探求し続ける。その姿勢こそが、ロボット研究分野全体に、そしてこれからの社会を考える我々一人ひとりに求められているのかもしれない。 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} ::: ## おわりに ![25to26_thumb.png] Ledge.ai年末年始特集では、読者に向けて、2025年のAI関連の重要トレンドを振り返り、また2026年以降のAIの展望について発信している。新しい年へ動き出すための情報が詰まっているので、ぜひ以下ボタンより特集サイトをご覧いただきたい。 **【コンテンツ情報】** 無料登録を行うと、これらすべての記事を閲覧できるようになる。 ■ 特別インタビュー 京都賞受賞のAIのパイオニア甘利俊一先生をはじめ、量子コンピュータ/量子機械学習からロボット基盤モデル、話題の”PLURALITY”、NVIDIA、AMDなど、”いま読んでおくべき”インタビューが満載 ■ 2025年のAI動向総ざらい ■ 厳選注目記事49本 :::button [Ledge.ai年末年始特集サイトはこちら]{target=“_blank”} :::

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