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東京大学情報基盤センターの任軒正博氏、下川辺隆史氏と国立環境研究所の八代尚氏は2026年10月30日、AIコーディングエージェント「Claude Code」を用いて、全球大気モデル「NICAM」の約14万行のFortranコードをC++/Kokkosへ移植した研究論文を[公開]した。移植先のモデルコードはすべてClaude Codeが実装し、人間が方針の決定やレビュー、検証を担当した。NVIDIA GH200を用いた実験では、従来版に対して実行速度が1.71倍になったと報告している。 論文はarXivで公開されたプレプリントである。 ## 20年以上開発されてきた大気モデルを、異なるGPUで動くコードへ NICAMは、日本で開発されてきた地球全体の大気をシミュレーションするモデルだ。20年以上にわたって開発が続けられ、スーパーコンピュータ「富岳」などにも対応してきた。 今回の研究では、FortranとGPU向けの並列化技術OpenACCを使った実装を、C++と並列計算フレームワークKokkosを使う実装へ移した。Kokkosを利用することで、共通のコードからNVIDIAとAMDのGPUに対応できるようにした。 対象は、NICAMの選択した構成で使う大気の運動を計算する力学コアと、雲や放射、乱流、陸面などを扱う7つの物理過程である。約14万行を解析・移植し、移植先のモデルコードは約3万5000行になった。選択した構成以外の分岐は移植しておらず、NICAMの全機能を置き換えたものではない。 ## AIが実装とテストを進め、人間が段階ごとに確認 作業は、人間が目標や制約を示し、Claude Codeが移植計画を立てるところから始めた。計画の承認後、機能を構成するモジュールや物理過程ごとに、実装、ビルド、テスト、修正を繰り返した。 Claude Codeは元のFortran版の入出力と比較するテストを実行し、それまでに実装した部分のテストも再実行した。人間は結果やコードの構造を確認し、短いシミュレーションで機能同士の接続を検証してから、次の段階への進行を承認した。 **■ Claude Codeによる実装・テストと、人間によるレビューを組み合わせた移植手順** ![coding-agent-workflow.png] :::small 画像の出典:[研究論文] Figure 1 ::: 完成後は、元の実装と移植版で初期気温に微小な変化を加えた100通りずつのシミュレーションを行った。各実験はモデル上の10日間を計算し、エネルギーや質量、気温などに関する59の評価量を比較した。評価した条件と期間では、元の実装との統計的な整合性を確認したとしている。 一方、個別機能のテストを通過した後、機能を組み合わせた実行で地表面温度の初期化処理の欠落が見つかった例も報告している。研究チームは、個別テストに加え、人間によるレビューと統合した状態での実行が必要だったと説明している。 ## 実行速度は1.71倍、測定時間は81秒から47.3秒に 性能評価は、NVIDIA GH200を搭載する「Miyabi-G」と、AMD MI300Aを搭載する「Sirius」で実施した。 単一GPU・APUを用い、水平格子間隔約56km、鉛直78層の条件で120ステップを計算した実験では、入出力を除く実行時間が、GH200上の従来のFortran/OpenACC版で81秒、同じGH200上の移植版で47.3秒となった。実行速度は1.71倍で、掲載値から計算した実行時間の短縮率は約42%となる。 MI300A上の移植版は52.6秒で、GH200上の従来版に対して実行速度は1.54倍となった。これは、MI300A上で新旧の実装を比較した結果ではない。 **■ 120ステップの計算に要した実行時間。従来版はGH200上で81秒、移植版はGH200上で47.3秒、MI300A上で52.6秒だった。入出力は測定対象外** ![Application execution time over 120 time steps.jpg] :::small 画像の出典:[研究論文] Figure 3 ::: ## サブスクで作業、進行を制約したのは人間のレビューと利用上限 研究チームはClaude Codeをサブスクリプション契約で利用した。移植や検証、解析用スクリプトの生成などを含むトークン使用量をAPIの公開料金に換算すると、推計約5589ドルに相当する。ただし、これは実際に支払った利用料金ではない。 移植、コードのレビュー・修正、検証などに関するAIとの作業記録は23稼働日分ある。人間の作業時間は記録しておらず、人間のレビューや計算機上の作業だけを行った日はこの日数に含まれない。 研究チームは、進行を制約した主な要因として、人間によるレビューとサブスクリプションの5時間単位の利用上限を挙げた。AIによるコード生成の速さに人間の確認が追いつかず、数値計算のロジックや機能間の接続を確認するのに時間がかかった。また、利用上限に達して作業が繰り返し中断したという。 今後は、移植するNICAMの構成要素を増やすとともに、テストに用いる入力データの範囲を広げる方針である。 :::box [関連記事:OpenAI、COBOL・Fortranなどの開発能力向上を発表 GPT‑6.1 SolはCOBOL移行評価で正解率97.9%] ::: :::box [関連記事:Linux生みの親、Claude Codeでカーネル改善 特定の読み取りテストで約3倍の性能] ::: :::box [関連記事:Claude Codeは誰が何に使い、成果はどこで分かれるのか――Anthropicが利用データ40万件を分析] ::: :::box [関連記事:富士通、ClaudeやGPTなど複数AIでレガシーシステム刷新 移行期間を約40%短縮する新サービス] ::: :::box [関連記事:Claude CodeでAIエージェントをどう指示するか AnthropicがCLAUDE.md・スキル・サブエージェントなど7つの方法を解説] :::