学術&研究

1~13 / 603件

学術&研究
2025/12/28 [SUN]
ヒトラーも第一次世界大戦も知らないAI──チューリッヒ大学ら、1913年以前の知識だけで構築した「Ranke-4B」のサムネイル画像

ヒトラーも第一次世界大戦も知らないAI──チューリッヒ大学ら、1913年以前の知識だけで構築した「Ranke-4B」

チューリッヒ大学の研究者らは、1913年以前のタイムスタンプ付きテキストのみを用いて学習した大規模言語モデル(LLM)「[Ranke-4B]{target=“_blank”}」をリリースした。 同モデルは、現代的な知識や価値観を意図的に排除し、100年以上前の社会における知識や見解を表現できるAIの構築を目的とした「History-LLMs」プロジェクトの一環として開発されたという。 Ranke-4Bの最大の特徴は、学習データを第一次世界大戦前の1913年までに限定している点にある。これにより、同モデルはアドルフ・ヒトラーの登場や第一次世界大戦、その後の20世紀史を原理的に「知らない」状態で設計されている。研究チームは、こうした厳格な知識カットオフによって、現代の視点や後知恵が歴史的文脈に混入する問題を避けられるとしている。 History-LLMsプロジェクトでは、近年の大規模言語モデルが抱える課題として、過去を扱う際にも現代の知識や価値判断が無自覚に反映されてしまう、いわゆる「後知恵汚染」を指摘してきた。Ranke-4Bは、この問題に対し、特定の時点における社会の知識体系や一般的な見解を再現するための実験的なモデルとして位置づけられている **19世紀ドイツの歴史学者レオポルト・フォン・ランケの肖像:** Ranke-4Bは、史料に基づき当時の視点を重視する歴史学の方法論にちなんで命名された。画像は、History-LLMsプロジェクトの研究者である Joachim Voth 氏が、モデルの思想を説明する投稿の中で引用したもの ![leopold von ranke.jpg] :::small 画像の出典:[研究メンバーJoachim Voth氏のXアカウントより]{target=“_blank”} ::: モデル規模は約40億パラメータで、当時の政治体制や社会制度、科学的理解などを前提とした応答が可能だという。一方で、1914年以降の出来事や概念については意図的に情報が欠落しており、現代の利用者から見れば不完全な応答を返す場合もある。研究チームは、こうした制約こそが歴史特化モデルとしての本質だと説明している。 研究者らは、Ranke-4Bの活用例として、歴史研究や教育分野における思考実験、当時の視点に立った対話の再現などを挙げている。特定の出来事の「正解」を提示するのではなく、その時代の人々がどのような前提や認識のもとで世界を理解していたのかを検証するための道具としての利用が想定されている。 また、知識を特定の時点に固定したLLMは、モデル評価やAI安全研究においても有用な基盤になり得るという。現代の情報を知らない状態で、どのような推論や誤りが生じるのかを比較することで、言語モデルの振る舞いをより精密に分析できる可能性がある。 Ranke-4Bは、History-LLMsプロジェクトのGitHubリポジトリを通じて公開されており、研究目的での利用が想定されている。研究チームは今後も、異なる時代設定を持つモデルの開発を進め、時間軸を意識したAI研究を拡張していく方針だ。 :::box [関連記事:パナソニックHDとPHP研究所、松尾研と協力し「松下幸之助」再現AIを開発 パーソナライズドLLM技術の研究開発を推進] ::: :::box [関連記事:広島市、AIを被爆の語り部に AI活用の被爆証言応答装置を製作へ ハルシネーション防止のため生成AIは使用せず] ::: :::box [関連記事:〖AI歴史年表〗AIはダートマス会議から数えて来年で70周年!起源から生成AI革命までのAI全史を振り返る] ::: :::box [関連記事:AIとホログラム技術で蘇る偉人内閣を描く 映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』] ::: :::box [関連記事:Alibaba 音声データを与えると、1枚の人物画がリアルに喋り歌い出す 動画生成AI「EMO」を発表] :::

アクセスランキング
25to26_registration_rectangle_top_ai70th
FOLLOW US
各種SNSでも最新情報をお届けしております